第十八話 故郷の奇想曲 7
第十八話 故郷の奇想曲7
現実にて、私は目を開く。
頭を、下にして落下していた。
状況は理解している。体には、ほぼダメージがない。だが、魔力は見事にカラッポ近くだった。
(父上、これが・・・。)
本気の本気、父上でさえ知らない、この力を、今っ!!
「アトー・ギボール、ル、オーラム・アドゥナイィィィィー!!」
瞬間、金色の光が、爆発的な勢いでエリスへと収束し、やがて、破裂した様にエネルギーが溢れ出した。
天へと伸びた金色は、雲を、空を貫き、超長々とした光の柱を形成する。
「なっ・・・何いぃぃ、何だこれは!?」
神の元へと至る道の如く、圧倒的な存在感をもってそびえ立つ柱に、サタンは、恐怖という感情を突き付けられた気がした。
魔の王に、畏怖の念を抱かせる程のそれは、急速に縮んで行き、柱の発生源にて、一本の槍となる。
この行程を経て、完成してしまったのが、神殺槍・ロンギヌス。
神殺の名が示す通り、数多の神々を貫き、屠り続けた槍である。
その槍を手にした娘は、圧倒的な恐怖と、神気を纏い、光の中心より現れる。
手、足、体に、白銀に輝く鎧。
身体のラインに沿って、ピッタリとしており、エリスにしてみれば、鎧を身に着けているという感覚も、ほぼ、無きに等しいのではないだろうか。
背中からは、三対、六枚もの翼が生えていた。
だが、その翼は、この世界において、矛盾をしている。あり得ない事を、起こしていた。
何せ、闇色と光色、その両方が存在しているのだから。
黒と白が互いに絡み合い、編み込まれた、闇光混在の巨大な翼なのだから・・・。
体が軽い。槍は、元々自分の一部であった様に、しっくりしていた。
(もう、大丈夫。)
今の自分には、負ける要素など見当たらなかった。
自分は、勝てる。
「こざかしいわぁぁー、ダァークネスゥ・バークゥ!!」
サタンが我に帰り、攻撃を再開した。
深淵より召喚された、一見、巨大なミミズの様な魔獣が、うねりながら、彼女を目指す。
それに対し、エリスは左手をただ、スッと前に突き出す。
“〜〜〜〜〜!!!?”
たったそれだけの動作で、闇の上位魔獣は、鳴き声か悲鳴かも分からぬものだけを残し、完全に、消滅してしまった。
この世に、魔獣の存在していた痕跡は、何一つ残っていなかった・・・。
「きっ、強制解呪だとぉぉー!?」
「行きます。」
ドンッ・・・という爆音だけを残し、エリスの姿が消失する。
「おぉのれぇぃ!!」
サタンもまた、エアロ・ブーストを使用、姿を眩ませる。
エアロ・ブーストは、消える、もしくはワープする類の技ではない。
背中の、翼の付け根付近に、魔力を集め爆破、瞬間的に超加速を得る、そういう技なのだ。
だからこそ、この技の主な使用用途は、相手の予想だにしない場所に移動したい時や、間合いを狂わせたい時等になる。
しかし、サタンもエリスも、常に、超加速状態だった。
それだけ、二人の魔力が、桁違いという訳だ。
「おぉぉ、エェンシェント・ブラスタァー!!」
もう、さっきまでの、生ぬるい攻撃ではない。
追尾性に長けた熱線が、エアロ・ブーストの速度をも上回り、エリスを追撃する。
爆破、爆破、爆破。
魔力の爆裂音が、断続的に鳴り響く。
左方へ、下へ、直角に方向を、強制的に変更。
なおも、追いすがるレーザービームに、
「解呪!!」
熱線が、消失。
「そこかぁぁぁぁー!!」
位置がバレ、再び、サタンの両手より、地獄の業火が放たれる。
それは、超高速状態のエリスを正確に捉え、包み、喰らう。
「・・・・・・。」
「終わりだろう?今度こそ・・・。」
やがて、業火が引く。しかし、
「バッ・・・馬鹿なっ・・・。」
彼は、驚愕した。
完全に炎が引いた後には、闇と光色の、繭の様なものが、そこにあった。
間もなく、翼の繭が開き、羽化の如く、無傷の本体が中より現れた。
「“流石です、父上・・・、いやサタン。”しかしっ!!」
槍を構え、相手を睨み付けると、空気を、フッ、と蹴り、加速。
「スピアァァ・テンペストォ!!」
エリスが、七人丁度に、バラバラの方向、位置に分身する。
「その手はもう喰わぬわぁぁぁぁー!!」
彼の、周囲の大気が硬化を始める。
初っぱなのエリスの一撃を、防いだ壁だ。しかし、それはあまりに、単純で早計であった。
「エレクトリカル・ボルテージ。」
「スピア・サイクロン。」
「プロミネンス・アルドルダ。」
「何いぃっ!!」
彼は、即座に回避運動へ移行、突きを、電撃を避け、火炎を拳で叩き落とす。
あり得ない・・・。
「F・メールシュトローム。」
「エンシェント・ブラスター。」
「エア・グラビトン。」
(チィィ!!)
エアロ・ブーストを連発し、この時ばかりは回避に徹する。
しかし・・・本当にあり得ない事が起こっている。
分身体が、別々の、違う動きをするなど・・・。
「あり得るかぁぁ!!」
「ソート・レ・・・。」
「ふぬぅぅぅあぁ!!」
分身体の内、一体を殴り飛ばし消去。
さらに、サタンの腰部に、光のリングが発生する。
「アルカディィア・ソルヴァン!!」
リングがほどけ、全周囲に、ビーム状となり、発射。
ビームは、分身体を、全て薙払い、さらにはエリス本体をも狙う。
「・・・。」
槍で、難なくビームをかき消し、次の手を・・・。
「エリィィィィースティシウゥゥゥゥスー!!」
「!!」
間合いが、近く、近く。
「神指掌ォォ!!」
「光指掌。」
炎を燃やす手と、光輝く手。
互いのエネルギーが衝突し、ぶつかり、相殺。
両者の指が、あらぬ方向へとねじ曲がる。
エアロ・ブースト、サタンは間合いを確保するが、エリスは、その場から動かない。
(わ、我が手を・・・。)
指が、それぞれ別の方向を向き、気持ちプラプラしている。
手に、こんな怪我を負ったのは、初めての事だ。
(これ程の力を、持っているとは・・・。)
「父上・・・。」
突如、エリスが眼前に出現する。
殺意とは、かけ離れて。
「これ以上は無意味です。私が煽った戦いですが、これ以上は、魔王の立場にも支障が出ましょう。」
エリスの、この発言は、常に、暗殺や、離反といった危険にさらされている、魔王という立場を考え、言っているのだ。
そう、最後の、娘の部分でもあった。
だが当然、魔王はその様な言葉を聞く気はない。
「我はまだ、ウォーミングアップの、ツモリダ・・・。」
「そう、ですか。ザンネンデス・・・。」
父と、娘が消えた。
姿が、ではない。
消えたのだ。
二人の距離が、離れて行く。
二人が、遠くなる。
何かに、とりつかれた様に、二人は、スペルを唱え始める。
静かに、力弱く・・・。
「魔の底に・・・滾る・・・。」
「天の上に・・・滾る・・・。」
二人は弱かった。
弱々しかった。
いくら肥大化する魔力があっても、それは、変わらない。
静止する二人。
法陣を描きつつ、静止する。
「最も激しく過酷なる・・・闇。」
「最も激しく苛烈なる・・・光。」
紫電が、ほとばしる。
それは、弱々しいものに対する、僅かなアクセントに過ぎない。
「黒く・・・深淵の如き黒く・・・。」
「白く・・・天上の如き白く・・・。」
増加してゆく法陣。
それぞれ、互いの陣は、計六つとなった。
「ラシャー・ハ・ペギィアー・ラシャー・カムール・ペゲィリ・カィール・・・。」
「エロハ・アドゥナイ・ツァバオト・エルヒム・ツァバオト・・・。」
闇が宿る。
光が宿る。
スペルが進行するにつれ、法陣は、命を宿す。
広がってゆく。
「リシャオース・シャリト・ハ・シェオル・・・。」
「シャダイ・エル・カイ・アドゥナイ・メレク・・・。」
六つ、全ての陣に灯が灯る。
スペルが停止。
互いの精神が、神々にまで、至る。
闇の陣、右手に。
光の陣、左手に。
「アグナスティナ・ベリュアルードォォォォー!!」
「ガブルフェルン・メティリパージィィィィー!!」
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