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青空と白月の下に
作:海裡



02:Peaceful days


眠い座学からやっと開放されて、いま僕は空にいる。
 息を軽く吸い込むと、乾燥したエアが肺に染み渡る。ボンベが錆びない様に水気が全部飛ばされているのだ。
 いつものもやもやとした倦怠感も空では無くなり、全てが純粋に見える。
 空は、澄んでいるのだ。
 軽く、操縦桿を横に当てる。
 トーネードとは比べ物にならないくらい早く、つい最近まで乗ってたF−2とも違った不安定感から来る素早いロール。
 ついつい無駄にロールしてしまう。
 今は、完熟飛行の最後。
 通常有り得ない自由飛行の時間だ。
 こっちの教官はなかなかに柔軟な人である。
 スロットルアップ。スティックを、引き寄せる。
 パワフルなエンジンが唸りを上げ、機体が震えながら上昇軌道を取る。
 まるで喜びに打ち震えるよう。
 空は、寒い。
 キャノピーのガラスに手を押し付ける。冷たい。
 少しだけ声を上げて笑う。
 青空だけが目の前。
 操縦桿を横に倒せば、風車のようにくるくると。本当によく回る。
 地面に向かって機首を引き上げる。
 空に上も下も無い。あるのは空。そう空だ。
 重力の縛りさえもいとおしい。
 ミリタリーのスロットルでさえ、この機体は音速にも至れる。
 武装の無い今なら、なおさらだ。 
 一瞬で目の前に地面。そしてひしゃげた十字架。滑走路だ。
 空に向かって、機首を引き上げる。
 一回、二回。バンクを振る。
 地上に挨拶だ。
 訓練が終わればまた日本に戻って、任務。自由に飛ぶなんて今しか出来ない。
「ここ以上に良い場所なんて、結局無い」
 嘯いてみる。何で皆そんな簡単な事に気付かなかったのか。
 少し、冷えてきた。空は寒い。
 酸素も、水も、温度も重いものは空には余り無い。
 少し地上のコーヒーが恋しくなってきた。
 日本と違ってここでは一寸歩けば美味しいコーヒーにありつける。
 だって、平和だし。
 いらない思考を切って、今は空を駆けよう。
 楽しく、楽しく。
 
           ※

 肩を、大きな反動が叩く。
 土のにおい。それをかき消すほどの硝煙の匂い。
 頬には木のストックの感触。
 64式7,62ミリ小銃。
 関東軍の主力小銃。
 今は、二脚を開いて、伏射姿勢である。
 4キロもするこれを、導入期間、入ってすぐは持って延々走らされたものだ。
 両手を使わなければ変えられないセレクタだとか、すぐ倒れる照星、照門だとか文句を言えばキリは無いけれど。
 如何ともしがたいのはジャム。排莢不良。スライドの間に薬莢が詰まること。
 他を撃ったことが無いのでなんともいいがたいが、固体によってはレにするたびに一回はジャムる。これは一寸多くは無いか。
 60年代の製造の方が品質がいいとか言う伝説もあったり。
 3点規正を二度繰り返して、10発撃つ。悪くは無い点数。
 なんだかんだ言っても当たりやすいと言えば当たりやすいのが64のいいところ。
 横にいる監督役と共に薬室が空な事を確認して立ち上がる。
 ここは旧自衛隊と同じでいっち、にーと教練動作。
 取り合えず撃てれば良い。と言うことで、射撃訓練は少ない。
 まぁ、弾が無いというのが本音のところらしいけれど。
 実際問題、管制官が銃持って外に出るときにはもう色々終わっている頃だろう。
 射場には7,62の減装弾の音が響く。
 EUから供与された銃の中にはG3だとか同じ7,62を使う銃もあるが、大概同じく供与された常装弾を使っている。
 前線部隊は大概ロクヨンも常装用になっているが。
 幹部相当の生徒が左手を腰に当てて拳銃を構える。
 右片手の射撃スタイル。9ミリ拳銃に入り混じる結構な種類の拳銃。
 USPとかP239とか、雑誌で位しか見ない銃のオンパレード。
 人気があるのはやはり今はヨーロッパに居るメーディアも持っているシルバーのP230だ。
 皆の憧れだものね。
 射撃訓練を終えて、汗を拭い。射場を出る。
 とりあえず、今日はこれで終わりだ。

           ※

 基地からでて、街を歩く。
 日本とは空気も違う。さっぱりとしている。とでも言おうか。
 ものの5分もあるけば、行き付けのカフェに着く。
 コーヒーといってもなかなか通じない。
 こっちではカフェでいいらしい。
 英語は一応話すけれども、日本よりは喋れる人が多いけれど、今度はこっちが喋れる語彙が少なすぎたりする。
 でも今では珍しい日本の若い観光客に、ふくよかなマスターがにこやかに対応してくる。
 行きつけになっているから、今となっては注文をしなくてもコーヒーが出てくる。
 ジャーマンローストのコーヒーの匂いに少し嬉しくなって微笑むと、向こうも笑って、一杯ずつネルでドリップしているコーヒーを出してくれる。
 ダンケ。と少ない語彙からこっちのお礼の言葉を捻り出す。
 いいよ、いいよと手を振ってマスターが次の客の応対に行く。
 暗い店内。外を見ると、昼の明るい日の光に木が葉を揺らしていた。
 木の種類さえもあっちとは違うのだなぁ、と当たり前のことを考えつつ。
 これが只の観光だったらなんと良かったものかと、思ってしまう。
 
 腰のホルスターが少々重いのだ。

 一つため息。アイスクリームってこっちでは何て言うのだっけ、と考えつつ外を眺めた。

           ※

 疲れ果てて、食堂に着く。
 本日のメニューは白身魚の黒酢あんかけがメイン。
 絶対に一度煮立たせているだろうと言いたくなるようなしょっぱい味噌汁。
 量炊いているから美味いとは言いがたい飯から麦飯を取る。
 小鉢に水を注いで、席に座る。
 もう、これは生徒の宿命。少しでも自由時間を増やそうと皆凄い勢いで頬張ってる。
 そんなことはする気にならないから一人ゆっくりと食事を取る。
 不味い訳では無いけど、味気ない。
 ひさびさに甘い物が食べたいなと思いつつ、水の御替りを取りにいく。
 体が水分を欲しているのだ。
 お腹が空いていると何でも食べれるものである。
 自然早くなってくる箸に食事を終えて、無愛想なキッチンポリスの居る食器返却所に食器を放り込む。
 さて、帰ったら洗濯物が溜まっている。














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