01:ordinary days
ライターを出して、煙草に火をつける。
大きく息を吸い込み、吐き出す。
煙が吐き出され、すぐに風に流される。
黒ずくめの服。年季の入った白銀の腕時計。
襟に届かないぎりぎりの長さまで伸びた髪。
しばらく、ぼんやりと煙草を吸う。
ほかに何もすることがない。と言うように。
頭上を機体が飛び去る。
轟音。
「836…二機編隊長の試験か」
ぼそりとつぶやく声。
男は少し長い前髪をかきあげて、歩き出す。
握った手を、少し広げる。
小さなロケットが、手の中にあった。
少し離れたところから少女が駆けてくる。
長い髪を翻し、赤いワンピースのすそをはためかせ。
歳は、まだ幼い。10かそこらだろう。
男は、少し少女に微笑むと前を見て、歩き出す。
酷く、鋭い目だった。
第一回目の武力衝突から、いくらか時間がたった。
陸上戦力の小競り合いを除けば、戦闘は停戦状態が続いている。
つまり、海上、航空両自衛隊はアラートを除き、闘争前のような状況となっていた。
自衛隊なんて名ばかりだ。独立戦線側と旧日本国−つまり自分たちだ。
との勢力に別れ、独立側は戦力の不足分を子供たちで補っている。
機体の不足もEUからの機体供与を受けている。
ただ数が足りない分を機種変更でさらに減らすわけにいかず、EUからの機体に新しいパイロット、つまり資質のある子供たちを乗せている状況だ。
自衛とは名ばかりに、自国で潰しあっている。
闘争時には機動隊、レンジャーなどが投入され、前線の町等では随分と酷い有様になった。
1ヶ月続いたあの衝突の最後は、あの空戦だった。
お互いに知った人間、知った機体が潰しあったあの空戦。
彼らが言う独立はつまり、平等社会の成立が根幹だ。
後は枝葉、飾りに過ぎない。
とっくの昔に無くなったと思っていた思想。
しかし、突発的に起きたこの国での戦争。
うろたえる国会。
頼りにならない政治家、動かない自衛隊。
それが火付けになって国家の転覆へと一部の大人が走った。
扇動された、多くの子供も。
戦争をなくすための戦争。
矛盾ではないか。
国を完全に復興して、それから“正しい”手段で国を変えればよかったではないか。
命を捨ててまで、それは行わなければならないことなのか。
俺には、そうは思えない。
左手にロケットを握り、右手に真那の手を握る。
これが、自分が子供たちと戦う理由だ。
かつての記憶と、今の生命。
子供を守るために子供と戦う。
これもまた矛盾ではないか。
自嘲の笑いをもらす俺に真那が首をかしげる。
今度は苦笑して首を振る。なんでもない。と。
旧日本を勝たせたほうが、最後の被害は小さいだろう。
自分は、この国を衛るものとしてそう考える。
打算に満ちた大人の考え。国のためなど詭弁だ。
最近随分と大きくなった真那を抱き上げて、俺は歩き出す。
この子と、生まれてくる子供たちのために。 |