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あたしは、猫。 作者:山本 風碧

第二章 花嫁がやって来た

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13 『作戦その二』、今夜決行


『とにかくね、あの王も、姫も何か企んでるのは明らかなんだもの。証拠をつかみたいの。そのためには向こうに主導権を握られるのは嫌なのよねぇ。リュシアンがローズ姫に惚れるなんて言うのは一番まずいの。そうねぇ、手始めにあの女狐の化けの皮をはいでやるわ。あの手の女はね、手に入らないと燃えるのよぅ。だから、アリスにはちょっと頑張ってもらわなきゃ』
 昨夜、そんなやり取りの後、シャルルとあたしは作戦会議を開いたのだ。そしてさっそく作戦通りにローズ姫がリュシアンに手を出さないように見張ってるのだけど――なんだか無性に腹が立って仕方がない。
 なによ、あの真っ赤な顔!
 ギリッという自分の歯ぎしりの音で、はっと我に返る。
 駄目よ駄目駄目、部屋の空気のようにしてないと! 姫を油断させなきゃいけないんだから!
 あたしは深呼吸をすると、壁にかかった絵のように、表情を取り繕う。応接間に飾ってあるその大きな絵には一人の女の人が描かれていた。それはローズ姫のような派手な美しさではなく、優しげな微笑みを浮かべている雰囲気がとても暖かい、そういう美人だった。
 真似をして口角を上げて見る。きっとこれなら優しげに見えるはず。
(アリス、アリスったら、目が笑ってないわよぅ。怖いわよぅ)
 シャルルがポケットの中から少し顔をのぞかせると、あたしがようやく聞き取れるくらいの小声でそう訴える。だけど、そんなはずはないわ。
 あたしがシャルルを無視してリュシアンを見つめていると、シャルルはぽつりと呟いた。
(まぁ……期待はしてなかったけどねぇ)
 目の前のローズ姫は、手元の布からは興味を失った様子で、なぜか難しい顔をしてリュシアンの胸元をじっと見つめている。
 ……なにかしら? 確か布が見たいって、付いて来たはずなのに。おかしいわね。
 不審に思ってじっと見つめていると、彼女はその視線に気がついたのか、はっとしたように窓辺を見つめた。つられて窓を見ると、外では音もなく雨が降り出していた。


「アリス。ちょっといいかしら」
 夕食の給仕をしようと、エプロンを身に着けていると、シャルルが足下に走り寄って来た。
「なあに?」
「ええと、昨日言った『作戦その二』だけど。今夜決行よ」
「え? もう?」
 昨夜の話だと、そのうち、ってことだったのに。
「さっきのローズ姫、見たでしょう。あれは何かやらかす顔よぅ? 今夜にでも仕掛けてくるかもしれないわ」
「何をするっていうのかしら」
「私は書斎を張るわ。だから、あなたはリュシアンの部屋に行って、作戦通りに、ね?」
「分かったわ……でも……リュシアン、怒らないかしら?」
 それはちょっと不安だった。だってリュシアンって怒ったら怖いんだもの。あたしは、一人で人食い退治に来た時のことを思い出す。初めて怒鳴られてすごくびっくりしちゃったのよね。
「グフフ、本当は喜んでるんだから、大丈夫よぅ」
 シャルルは不気味に笑ったかと思うと、ふと首を傾げて天井を眺める。
「でも……リュシアンもなんであんな無理してるんだか。……謎よねぇ。そろそろ別の表情も見てみたいんだけど、あの分じゃしばらくはあの憂い顔のままなのかしら」
「……?」
 シャルルは一人ぶつぶつ言うと、さっさと自分の分の夕食をジョアンに貰って、がつがつと食べ出す。そうなると他のことは目に入らなくなるみたいで、あたしが説明を求めても、もうまったく反応しなくなってしまった。

「ホントに大丈夫かしら」
 そんなことを言いながら、食事をワゴンに乗せて食堂へと運ぶ。今日のメインは七面鳥の丸焼きだった。切り分けて配ることになってるけど……途中で自分の口に運んでしまいそうなくらいおいしそう。生唾を飲み込んでかぶりつきたいのをぐっと我慢する。
 居間の前を通り過ぎようとした時、ふと耳に微かな声が届いた。
 あれ?
 耳を澄ますと、それは王と姫の声だった。
『もう、嫌になっちゃう。こんな何もない田舎、暇でどうにかなりそうよ。今日だってすごく退屈だったんだもの。畑しか無いのよ? もう帰りたいのに、落ちそうで落ちないんだもの。あれってどういうこと? 今までこんなこと一度もなかったのよ? もしかして――あの女のせい?』
『まあまあ。お前が美しすぎるだけだ。気後れしているだけだよ。例のあれを手に入れればここにも用はない。すぐに帰れる。邪魔をする者は――そうだな、私が受け持とう。お前は焦らず自分の仕事をしてくれれば良いのだ』
『ちゃんと手配はしてくれてるのでしょうね? いやよ私、あんな――』
『分かっておる、その辺は抜かりない。大事な娘を危ない目に遭わせるわけが無いだろう? あいつらにしっかり護衛を任せておる』
『それなら良いけれど……』
『ほら、そんな顔をするでない。せっかくの美貌が台無しではないか――』
 これって……どういうこと?
 ローズ姫は別人のようにわがままな口調だし、王もひどく冷たい口調だった。
 よく分からないけど、なんだかとても嫌な感じがした。
「――アリス?」
 大好きなその声であたしははっと我に返る。
「駄目だよ、それは。お客様に出すものなんだからね」
「……」
 あたしはどうやらじっと七面鳥とにらめっこしていたらしい。
 ――失礼ね、いくら何でも分かってるわよっ。この間だって、リュシアンのケーキしか狙わなかったんだから!
 あたしはリュシアンを睨んだけれど、直後気を取り直す。そうよ、そんな場合じゃない!
「リュシアン……あのね」
 リュシアンは、信じてくれるかしら。
 しかし、そのとき、リュシアンの声で人の気配に気がついたのか、扉が大きく開いた。
 ギイッと軋んだ音があたしとリュシアンの間を通り過ぎる。
「ああ、侯爵殿。……おや、今日もおいしそうな料理ですな」
 王はそう言うと、ちらりとあたしを探るように見る。そして髭の中に埋もれた、乾いてひび割れた唇を舐めた。
 あたしはその王の濁った瞳をじっと見つめ返す。
 ――さっきの話は……どういうこと? もし、リュシアンを傷つけるようなことだったら、あたし、許さない。
 王も観察するようにあたしをじっと見つめ続けていた。ふとそのごつごつの手に撫でられているような気分になり、寒気を感じる。
 それでも怯まずにじっと睨み合っていると、リュシアンがなぜか慌てたように間に入り込み、あたしを背に庇う。
「もう夕食です。さあ、こちらへ。ご案内いたします」
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