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第三審  偽者注意報
 須統嵐……? 矢野嵐じゃないの?

 その髪の毛と瞳の色。嵐という名前。
 雰囲気が変わったからさっきはわからなかったけど、今こうしてみるとやっぱり似てる。
 さっき校門で会った時に嵐はあたしに気付いたんじゃないの?
 だから呼び止めたんでしょ?
 なんで教えてくれないの?

「席は空いてるあそこね。篠原、立花、よろしく頼むね」

 浅井先生の声で、はっと我に返る。
 確かに名前も外見も似てる。けど、名字が違うし、他人の空似ってやつかも。
 だってあまりにも雰囲気が違いすぎる。

 嵐はもっと……。もっと――。


「あ、それから立花は遅刻した罰として今日から一週間、放課後に教室前の階段掃除するように」

 何!? 一週間階段の掃除とな!?
 慌てて教壇の方へ視線を向ける。
 浅井先生は後ろで纏めた髪の毛を結びなおしながら、付け加えるように続けた。

「須統、お前も遅刻だったから立花と一緒に階段掃除ね。転入生だからって大目に見たりしないよ」 

 あたしを貧乳呼ばわりしたこの嵐らしき男と!? 気まずい。気まずすぎる。
 今更『小学校で一緒だった矢野嵐だよね』と聞いたところで『違げーよ貧乳』とか『生まれてからずっと須統です』とか言われるかもしんないし、そもそもさっきのはホントになんでもなくて向こうはあたしの事なんて覚えてないのかも知れないし……。


「じゃ、朝のHR終わりー。この後は始業式だから時間までに体育館へ移動するように。ちゃんとトイレにも行っとけよー」

 そう言うと、パンプスの音をカツカツ鳴らしながら教室から出て行く浅井先生。
 待ってー! 行かないでぇー!!


 須統嵐が座った席からは、甘い香水の匂いがしていた。

 教師が出て行った後の教室では、転入生への質問攻めが始まっていた。と言っても、主に女の子達が騒いでるんだけど。
 群がる女子の気迫に負けて、あたしは席を譲るように小松兄妹の方へと避難する。

 さて、どこから説明するべきか。
 



「じゃ、あの転入生は千里の幼馴染ってこと?」
 事のあらましを聞いた夏帆は、須統嵐とあたしを見比べながら眉をひそめる。宗佑の机にイスを寄せ合ったあたしたち3人は、なるべく小声で会話できるように小さくまとまっていた。

「うーん……、かもしれないってとこかな」
「その矢野君が転校しちゃったのが小5でしょ? 男はそれくらいから急に背が伸びたり声変わりしたりするからなぁー。千里がわからなかったのも無理ないよ」
 すかさずフォローしてくれたのは宗佑。

「うん。そうなんだけど……。なんか雰囲気も変わっちゃってて別人のような気もするんだよね」
 だって、お金持ってそうなお姉様とキスしてたし。

 あたしを貧乳呼ばわりしたし!

「校門で会った時も何にも言わなかったし」
「もう5年も経ってるんだから、向こうも千里に気付かなかったんじゃないの?」
 夏帆の言葉に、宗佑もうんうんと首を縦に振る。
 
「とにかく、あんたたち二人は放課後の掃除があるんだからその時ゆっくり話すればいいじゃない。今はあの通り、話ができる状態じゃないしさ」

 取り囲んだ女の子の一人が携帯を取り出すと、それを合図にみんなが携帯を開いて須統嵐の方へ向けていた。セキガイセンツウシンってやつか。
 須統嵐もにこやかな笑顔でそれに応え、ポケットから携帯を取り出す。

 本っ当軽い男! 今朝のことをみんなにバラしたらどんな反応するんだろ。

 
 あ、思い出したらまたムカムカしてきた。

「そういうことだ、千里。そろそろ時間だから体育館に移動しようぜ」
 あたしの頭を、ポンポンと叩きながら宗佑が言う。

 思い立ったらすぐ行動、楽しいことが大好きで常に何かを探しているような夏帆に比べ、宗佑はおっとりしていてじっくり周りを見るタイプ。なんか、熊みたいで癒される。
 仲の良い小松兄妹を見ていたら少し羨ましくなることもある。あたしにもきょうだいがいたら良かったのにな。

 


 始業式の間中、あたしの頭の中は須統嵐……矢野嵐のことでいっぱいだった。
 小学校に入学してからずっと、同じクラスだった嵐。
 

 嵐、嵐はあたしのヒーローだったんだよ。
 

 あなたは本当にあの嵐なの?
 
ちょこっとだけ、お気持ち聞かせていただけたら嬉しいです。


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