第二審 嵐、来襲
初日から最低最悪男に出会ってしまった。が、ここからがまた最悪だった。
急いで4階まで上がったものの、クラス分けを見るのも忘れたあたしは自分がどのクラスなのかも知らないという孤独な状況。
今更、下まで降りてクラス編成を見に行くわけにもいかないし……。
仕方がないから順番に教室へ入り、その時の反応で判断してみようというわけなのだ。
うちの学年8クラスあるんですけどね!
半場やけくそになりながら、ひとつひとつ教室を開けていく。
その時の冷ややかな反応といったらもう……。『カラオケで間違って違う部屋を開けた時の気まずい空気』を一生分味わっております。
またひとつ、冷たい空気が流れた教室の扉を閉める。
これで6回目。残る教室はあと2つ。あたしは7組か8組ってことか。
順番でいくと7組を開けることになるけど、ここへきて急にあたしの第六感が8組だと主張している。
よし。確率は2分の1。自分のカンを信じよう。
後ろのドアを、音を立てないようにゆっくりと引いて開ける。
担任の顔を確認っと……げっ! 浅井のなっちゃんだ。
しかも目が合っちゃったよー!
頼む! 『何やってんの? 自分のクラスへ帰りな』と言っておくれ!
「何やってんの? 早く自分の席に着きな。立花千里! 初日から遅刻とはいい度胸だ」
ほらね、第六感大当たり。
こういう嫌な予感ってなぜかよく当たるよね。
なっちゃん、もとい浅井なつみ先生に促され教室に入る。
うぅ……クラス中の視線が痛い。
ご丁寧にフルネームで紹介までしてくれてアリガトウゴザイマス。
教室内には縦にふたつ空席が並んでいた。黒板に書き出された席順からするとあたしの席は後ろの方らしい。
これ以上担任教師の機嫌を損ねないよう、素早く席に着く。
浅井先生は眉間にシワを寄せたまま、出席簿に書き込みをしている。立花遅刻、とか書いてるんだろうなー。あーぁ。
クラス内を見渡すと前列でこっちを見ながら笑っている小松宗佑、夏帆の双子の姿を確認。
同じクラスなのは嬉しいけど、笑ってないでフォローしてよ……。
ふと前の席に視線を戻す。空席ってことはお休み、かな?
そのひとつ前は……篠原君だ!
篠原渉。頭脳明晰、眉目秀麗。その上生徒からも先生からも頼られる人格者。
短髪黒髪の清潔感漂う容姿、きちっと着込んだ制服からは育ちのよさが伺える。
篠原君はあたしの理想の塊みたいな人だ。恋愛感情と言うよりは、一種の憧れみたいなもんだけど。
後姿だけでも神々しくて拝んでしまいそう。
どうか、おっぱいがおおきくなりますように。
で、あたしと篠原君の間に立ちはだかる邪魔者はいったいどこのどいつなわけ?
立花の文字の前に書かれた名前。
『須統』……ん? スベル? ストウ? 何て読むの?
名字だけだから男か女かもわからない。すっごい可愛い子だったらどうしよう……。
しかも超巨乳の! その豊満な肉体を武器に篠原君を誘惑なんかしたりしたら……。いや! すっごく小さくて守ってあげたくなるタイプの子かも! いやいや、ツンデレなクールビューティかも……。
あたしの妄想が猫耳メイドの萌え系美少女まで突入したちょうどその時。
「というわけで、転入生だから。色々教えてあげるように」
教壇から発せられたその一言で、あたしを含め、それまで密かに好きなことを楽しんでいた人たちも前方に注目する。
扉の影から、ゆっくりと近付いてくる足音。
その人物の姿が確認できると、あちこちから色めきたった声が聞こえてきた。
琥珀色の、髪の毛。
均整の取れた身体にすらりと伸びた足。
小さな顔にはひとつひとつ丁寧に作られたパーツが、バランスよく納まっている。
あたしは、やっぱりこの琥珀色を知っている。
心臓が、音をたてるように軋む。
なんで? どうして?
どうしてここにいるの?
クラス中の視線を浴びながら、転入生は一呼吸置いた後、口を開いた。
「……須統嵐です。よろしく」
ちょこっとだけ、お気持ち聞かせていただけたら嬉しいです。
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