第一審 最低最悪破廉恥男
「明日、楽しみだね」
そう言って別れたきり、もう会うことはなかった。
キミは今、幸せですか?
◇◆◇◆◇◆◇◆
最近の若者はてんでなっちゃいない。
男も女も下着丸見えの服を着て堂々と練り歩き、見られたら見られたで痴漢だの変態だの大騒ぎ。
携帯を持てば所構わず大声で延々とおしゃべりを続け、メールをすれば返ってくる解読不能な記号や無意味な小文字。
電車だろうと地面だろうと平気で座り込んで、ゴミを放置していくのは犬猫の縄張り意識と同じなのだろうか?
硬派な男はもはや絶滅寸前。重力に対抗して髪の毛を逆立て、耳に穴まで空けたあげく装飾品をジャラジャラと身につけている男がチヤホヤされてカッコイイともてはやされるなんて間違ってる!
その無駄な装備の数々は何だ!? 修行か? 修行してるのか!? ならば丸坊主にして出家するがいい!
スプレーでバリバリに固めた頭を見るとぐしゃぐしゃとかき乱したくなる。
度を越えた腰パンなんかはそのままズリ下げてやりたい。
短い足をさらに短くするな。立てた髪の毛で身長誤魔化すな。
あたしはきっと、一生こういう人種を受け入れられないと思う。
そう、校門前に高級車で乗りつけた運転席のお姉さまとキスしているそこの茶髪男!
お前みたいな男が一番嫌いだ!
何がどうなってこうなったら人前でキスするという選択肢に至るのだろうか?
貞操概念って言葉知ってる?
こんな破廉恥男が同じ学校に居たとは……。
あーやだやだやだ!
どこのどいつかしらないけど、金輪際あたしの視界に入ってきませんように。
バカップルができるだけ視界に入らないように、あたしは全力疾走で校舎を目指す。
単純に、不愉快だからさっさと立ち去りたいのと、新学期第一日目から遅刻という危機的状況に立たされているから。これ、かなり重要。
4月7日。今日からめでたく高校2年生。新しい担任に新しいクラス。
遅刻して変に注目を浴びるのだけは絶対嫌だ。
が、残念なことに、超人的能力でも目覚めない限り、あと3分で4階の教室まで辿り付くという難関はクリアできそうもない。
あぁーもうだめだ。ちょっと走っただけで横っ腹痛いし。『きょうの海水魚』とかのんきに見てる場合じゃなかった。30分前の自分をぶん殴ってやりたい。
「ねぇ、アンタさぁ……」
ふいに聞こえてきた声に思わず足を止める。
へ? あたし?
周りを見渡して確認したけど、この場にはあたししかいない。
呼び止めたのは、さっきの破廉恥男。
茶髪だと思った髪の色は、明るいところで見ると綺麗な琥珀色をしていた。
形の良い奥二重の涼しげな目元。透き通るような瞳もまた髪の毛と同じ琥珀色。
この琥珀色知ってる……。
「な、何ですか?」
突然のことで上手く声が出せない。
「あー……いや、何でもねーわ」
なんでもないとか言いながらこっちに近付いてくるのはなぜだ!?
男が一歩近付く度に、あたしは少しずつ後退していく。
ジリジリと距離を取っていることに気付いた男は、素早く詰め寄るとあたしの顔を覗き込むようにして小さく笑った。
微かに香る甘い匂い。
「そんなに緊張しなくても、アンタみたいな貧乳には興味ないから。安心しろよ」
はぁっ!?
「マジで何にもないから。呼び止めて悪かったな」
しれっとした顔で言うと、男は校舎の中へと入っていった。
はぁーーーっ!?
何アイツ信じらんない!
貧乳って言った! 今アイツ貧乳って言った! 1番触れてはいけないことに触れやがった!
「あたしは貧乳じゃない! 発達がゆっくりなだけじゃー!!」
叫んだ時にはもう男の姿は見えなくなっていて、代わりに1日の始まりを告げるチャイムの音があたしに答えてくれた。
お前、遅刻だよ。と。
ちょこっとだけ、お気持ち聞かせていただけたら嬉しいです。
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