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滅びの王 下巻
作:P琢磨



29頁 神門練磨の書18 ――『進路希望』――


「――湖太郎(こたろう)くん、疲れてたね」
「ああ……できれば休ませてやりたいんだけど、今はそんな事も言ってられないからな。……今度、何か(おご)ってやりたいな」
「湖太郎くんはね、狗尾草(ねこじゃらし)鯖缶(さばかん)が好きなんだよっ♪」
 目覚めて居間に下りてくると、いつの間にか来ていた崇華(すうか)と、そんな話を始めた。
 現在、八月八日午前九時前後。
 今頃、向こうの世界では、湖太郎が終始走りっ放しの状態で、オレと崇華は背中で就寝タイム満喫(まんきつ)中だ。……何か、すげーダメな気がするけど、今の内に寝ておかないと明日大変だし、……って、言い訳だな。眠いから寝ました。済みません。
 取り()えずこの件が終わったら、湖太郎にたんまりと鯖缶を食べさせてやるとして、オレは今日中に宿題を済ませようと奮闘していた。
 テーブルの上には宿題の山! 一部は終わったので、隅に追いやってある。
「ねえ練磨(れんま)ぁ。これってどう解くの〜?」
「……あのな崇華。さっきからやってるの、それ全部、中一の問題だぞ?」
 向こうの世界の知識は十二分に持ってるくせに、基礎知識が足りないのかこいつは!?
 それでも教えてやらねば、崇華はアホのままだ。仕方なく色々と教える破目になるんだけど…… 
「だから、こうやると、こうなるだろ?」
「ああ〜! ナルホドナルホドぉ〜。やっぱり練磨は頭いいねぇ〜♪」
「……だからこれ、中一の問題なんだって……」
 解けないと不味まずいんだって、崇華…… 
 そんな先が見えない勉強会を続ける事、二時間。
「ふにゃ〜〜〜。もう疲れたよぅ〜〜〜」
 崇華がダウン。
 ()く言うオレも、ヘトヘトで、ちょっと小休憩を挟む事にした。
 この間は午後中宿題をやり続けられたのに、今日は気分が乗らないのか、それとも残っている宿題が難し過ぎるのか、一向に進む気配が無いのだ。
 冷蔵庫から果汁百パーセントのオレンジジュースを持ち出して、コップにナミナミ(そそ)ぐ。
「かんぱーい!」
 と、何が乾杯なのか分からない乾杯をして、ジュースを(あお)る。
「くぅー! うめー!」
 キンキンに冷えたオレンジジュースが頭にキて、妙にハイになる。
 その後もずぅ〜〜〜っと宿題をやり続け、午後も三時になって、ようやく終わりが見えてきた。
「……ふにゃあ、疲れたよう、練磨ぁ……」
「ああ……オレももう限界だ……頭を酷使(こくし)し過ぎたぜ……」
 思いつつ、最後の宿題に取り掛かり、時刻は四時を回った。
「終わった―――ッッ!」
 全ての宿題(ステージ)消化(クリア)し、ようやくエンディングが流れるところまでやってきた!
 またジュースで祝杯を挙げると、崇華と二人で横になった。
「……そう言えば崇華。おまえは進路希望、何て書いた?」ぼんやりと尋ねるオレ。
「わたし? えとえと……言ったら、練磨も教えてくれる?」ちょっと期待(あふ)れる崇華。
「えっとな……実を言うとオレ、まだ決めてねえんだよ。だから、崇華の聴きたいな、と思ってよ」苦笑混じりにオレ。
「え? 練磨、決めてないの?」
 少し意外そうな崇華の声に、オレは逆にそれを意外に感じた。
「オレが決めてるとでも思ってたのか?」
「うん。……あ、でもでも、違ってた。ごめん、取り消し取り消し」慌てて訂正する崇華。
「……何だよ、気になるだろ? オレを何にさせるつもりだったんだ? 言え言えー」乗り気になるオレ。
「えとえと……言っても、怒らない?」すご躊躇(ちゅうちょ)する崇華。
「……オレが怒るような事を言うつもりなのか?」
 どんな職業だ、それは。
 思ってると、崇華がもじもじと、どもりながら、
「……《滅びの王》……かな?」ポツリと告げる。
「…………………………ほあ!? オレが、《滅びの王》になる!? つか職業じゃねえし! それにこっちの世界じゃ、なれねえだろぉーがァァァァ!」怒鳴り口調でオレ。
「ふゃあ! やっぱり怒った〜!」
 体を丸めて(うずくま)る崇華に、オレは呆れと共に徒労(とろう)感を覚えずにいられなかった。
 犬のような耳が在れば、きっと垂れているだろう、半泣き顔でオレを見上げる崇華は、素直に言うと可愛い。
「……でもでも、練磨は《滅びの王》にならないんでしょ……?」
「そりゃあ……まあな」
 厳密に言えば、《滅びの王》にならないんじゃなくて、世界を滅ぼさないってだけで、すでにオレは《滅びの王》なんだと思う……。もう準備は整ってる状態で、オレはいつだって世界を滅ぼせる立場にいるんだろう。
 それでもオレは世界を滅ぼすなんて事はしない。世界を滅ぼす事になれば、崇華との約束は破棄されたも同然だ。そんなの、男が(すた)るってもんだ! 絶対に破るもんか!
「じゃあじゃあ、将来は何になるの? 《滅びの王》にならないなら、何になるの?」
 崇華が瞳を輝かせて問う。
「だから今、それを考えてんだよ……つか、こっちの世界じゃまず、《滅びの王》にすらなれねーだろが」
「えぅ? そうなの?」
「……おいおい、無理に決まってるだろ? こっちの世界で《滅びの王》なんて……」
 と、考えていたけれど、絶対に無理、って訳じゃないんじゃないか、って思い始めてきた。
 現実として考えれば、無理な話ではあるけれど、試した事も無いのに(はな)から無理だって(あきら)めるのも、何だか嫌な感じだ。
 絶対に無理なんて、無いんだ。人間、やれば何でもできるモノだ。()せば()る、だ。
「……とにかく、なる気はねえな。世界を滅ぼしちまうんだよ。そんな事していいと思ってるのか、おまえは?」
「ダメだよぅ! 世界を滅ぼすなんて……絶対に、ダメっ」
「だろ? なら、なっても意味ねえっての」
 そぉかぁ、と変に納得してる崇華。……きっと、こいつの脳内細胞は死滅してるんだな。期待したら悲しい事になりそうだから、あまり深くは追求しないでおこう。
「……練磨、何だかわたしを(おとしい)れようとしてる……」
「ンな訳ねーっつの」
 心眼を持ってるのか貴様はッ!?
 それはさておき、
「オレはともかく、崇華は何になりたいんだよ?」
「えぅ? えとえと……は、恥ずかしいなっ」(ほお)を桜色に染める崇華。
今更(いまさら)何言ってんだよ? オレの前で隠し事なんてできると思ってんのかー?」軽めだけど、ちょい凄みを利かせてオレ。
「練磨が怖いよぅ……」オレを見て妙に(おび)え顔の崇華。
「へっへっへ。さぁ、とっとと吐いて、楽になっちまいな!」ちょっとノリノリのオレ。
「えとえと……練磨の、お(よめ)さん、……かなっ?」
 オレンジジュースが鼻から噴き出した。
「あー! 練磨、笑った! (ひど)いよぅ!」オレを見て()ねたような顔をする崇華。
「ごほっ、げほッ、がはぁっ……なんっ……はぁ!? 何だそのファンタスティックな夢は!? ドリームワールドか!?」半狂乱気味にオレ。
「支離滅裂だよ……意味分からないよ……大丈夫ぅ、練磨ぁ?」オレを上目遣いに見つめる崇華。
「てめえが意味分からねえよ、だッ! ……ま、まあいいや。今のは聴かなかった事にしよう。崇華も、そんな幻想に(とら)われず、前向きに生きていきなさい」(さと)すようにオレ。
「……わたし、現実的な事、言ったのに……」やっぱり拗ねた感じの崇華。
「じゃあ、どうするかな……オレの進路希望調査、何て書きゃいいんだよ……」本気で悩むオレ。
「えとえと、立候補したいなっ」手を挙げて崇華。
「何をだよっ? 何を立候補するつもりなんだおまえはッ!?」思わず突っ込むオレ。
「練磨は、わたしのお婿(むこ)さんになるのっ♪」輝かしい笑顔の崇華。
「はいストォォォォオップ! ダメだって言ってんだろ!? そういう事を考えるには、あんたはまだ早過ぎますッ。もう少し大人になったら、考えなさいッ」ちょっと頬が熱いオレ。
「……わたし、もう充分大人になったつもりなんだけどなっ……」
 崇華が(うる)んだ瞳でオレを見据え、にじり寄ってくる。
 ……崇華は、ちゃんと出るべき所は出ているし、女らしい体をしてると、思う……。女の子らしい、そんな空気も身に(まと)ってる……。正直、可愛いとも思う……。――だけどッ、オレにはまだ早過ぎるんだッ……!
「――なーんちゃって♪」
「へ?」
「冗談だよ練磨♪ ――そうだ練磨。おやつ、食べよう? もう、三時過ぎちゃったけど」
 崇華が立ち上がり、戸棚の方へ駆けていく。
 ……冗談?
 本当に、冗談だったのか? ……何か、それはそれで、ちょっと寂しい気もするけど……ま、コレでいいか。コレで……。
「――って、おいおい! ここはオレん()だぞ!? 何故におまえがオレん家のおやつの
()()を知っている!?」
 慌てて飛び上がるオレだった。

「じゃあ、もう帰るねっ」
 五時を過ぎた頃。崇華が自分の分の宿題をバッグに詰めて、玄関へと向かうのを見かね、慌てて追いかける。
「今日は見送りいいよぅ」振り返って、はにかむ崇華。
「へ? いやいや、何でだ?」思わず問いかけるオレ。
「……また、わたしの部屋に来たいの?」
 わたしは、それでもいいけど? という顔をする崇華。
「……なら、気を付けて帰れよ? 何か()ったら、すぐに叫べよ?」食い下がるのを断念するオレ。
「そしたら、練磨が助けに来てくれる……?」
 ちょっと自信が無かったけれど…… 
「――ああ。任せとけ!」
「……うんっ♪」
 それじゃ、と崇華は玄関を後にし、オレは居間に戻った。
 台所で母さんが晩飯の準備をしている間、オレは寝転がって物思いに(ふけ)った。
 ……進路希望もそうだけど、鷹定(たかさだ)の件も考えないと、だよなぁ……。
 鷹定からは結局〈風の便り〉が届かないまま昨日は眠っちまったから、今日返信が来てる事を祈るしかない。
 ……鷹定の目的……《滅びの王》の力を使ってまでしたかった事。それが……《贄巫女(にえみこ)》という儀式(ぎしき)を止めるためで、そして、それこそが王国と敵対する理由……。
 鷹定に拒絶されたら、オレはそれ以上の事はできない。それでも見放す事なんてできない。鷹定は、オレの仲間なんだ。オレの一方的な考えかも知れないけど、……オレは信じていたい。もし、鷹定がオレの力を欲したなら、オレは王国と……《贄巫女》の儀式を阻止するために、敵対するだろう。
 ……不謹慎かも知れないけど、正直すげーワクワクしてる。
 王国と敵対するってのは、オレが一人で日本と戦争起こすようなもんだろうけど、それでも仲間のため、友達を守るためなら、オレは国と敵対したって、構わないと思ってる。
 オレは決めたんだ。鷹定……仲間のためなら、国とも戦うって。
「ただいま〜。……お? 練磨、もうおねんねの時間か?」
「お帰り、父さん。……まだ寝ねーけどよ。でも、早寝するつもりだぜっ」
 そうじゃないと、向こうの世界で寝坊する事になっちまうからな。
 父さんは背広姿のまま脱衣所へ向かっていく。
「母さ〜ん。風呂は()いてるのかーい?」声が遠ざかりつつ父さん。
「バッチリ沸いてるわよ〜♪ 六〇度くらいに」ニッコリと母さん。
「父さ〜んッ、入っちゃダメだァァァァッッ!!」慌てて叫びまくるオレ。
「ん〜、心配するな練磨。父さん、身を粉にする位に疲れてるんだ、浸からせてくれ」疲れ声の父さん。
「身が粉から液になる! 液になっちゃうよ父さん!」叫びながら立ち上がるオレ。
「練磨!」父さんの怒声。
「はえッ!?」オレの頓狂(とんきょう)な声。
「……男には、行かねばならない時が在るんだ……」妙に超越的な父さん。
「それが今なのッ!? 違うだろ!?」裏返ったままのオレの声。
「練磨……父さんの骨は、煎餅(せんべい)にして食べてもいい……」それきり聴こえなくなる父さんの声。
「……どんな納骨だよ……」もう疲れて声が出ないオレ。
 十秒後、父さんの絶叫が家中に木霊(こだま)した。

「母さん、あの風呂は、いったいなんだね!? 父さん、火傷(やけど)しちゃったぞぅ?」
 風呂上りの父さんと、料理を並び終えた母さんと、そして並べるのを手伝ったオレと、三人で食卓に着き、料理を次々に口に運んでいた。
「うふふ♪ あれは母さんの、父さんへの愛の温度よっ♪」
 ――(むせ)る咽る。
 ()き込みながら、どう突っ込むべきか悩んでると、父さんが照れて頭を()き始めた。
「そ、そっかぁ! 父さん、母さんの愛で火傷しちゃったよ♪」
「……」
 咽返っていると、その間に気分が悪くなってきて、青褪(あおざ)めサメサメ。
「……ま、(おぼ)れなくて好かったよ」
 どんな突っ込みだよ! と自分で自分に突っ込んどいた。心の中で。
「――そうだ練磨。崇華ちゃんとはどうだ? いつ、孫の顔は見られそうだ?」
「べほっ!」
 かなり間抜けな声でご飯を噴き出し、母さんが「あらあら」と言いつつお手拭を持ってくる。
 自ら(みじ)めな感じで辺りを拭き終えてから、父さんを見据えて一言。
「何言ってんだてめェェェェ!」オレの怒鳴り声。
「何言ってんだと言われてもな。父さん、こう見えて、気になりっ子だから、気になり放題なんだよ」
「どんな表現だよそれ?! 気になりっ子って何!? こう見えてって、どう見えたら気になりっ子じゃないんだよ!? 放題の使い方もきっと違う!」叫び放題のオレ。
「うんうん、練磨も突っ込み方が昔の父さんに似てきたな。やっぱり母さんの子だ」満足気に父さん。
「何で父さんの子って言わないの!? 父さんに似て来たら母さんの子なの!? オレ、誰の子なの!?」
「心配するな練磨。……母さん、あの話は止めておこう。今は練磨の成長を待って……」
「何? 何の話!? 何をこそこそと話してるのそこォォォォ!?」
「練磨、食事中にそんなにはしゃいだら行儀が悪いわよ?」母さんがニコニコとオレを見やる。
「く……っ、色々突っ込みたい所は山積みだけど、ここは()えて退()こうじゃないか……ッ!」
 という訳で、静かな食卓へ戻る事に。
「それで練磨。孫の件だが……」
「てめえがはしゃがせてんだろォォォォがァァァァ!」
 すかさず父さんの頭にチョップをお見舞いし、沈黙させる。
 静かな食卓には、父さんの声が一切無い、平和な空気が漂っていた…… 

「じゃ、おやすみ〜」
 風呂に入り、歯磨きも済ませ、宿題も全部終えた日の夜の清々(すがすが)しい事!
 こんな日がいつも続けばいいのに……と思ったりもするけど、これは昼間の猛勉強の功労(こうろう)によるモノだ。できればあんな目には二度と()いたくないから、まあ、いつもは続いてほしくないかな。
 部屋に入ると、――ドッと疲れが出て、眠気のために軽い眩暈(めまい)がした。
「やべ……向こうで起こされてるのか……?」
 足下がふらつき、急いでベッドへと向かう。
 ベッドに辿り着いた瞬間――ヒューズが飛ぶように、意識が暗転した…… 


ここまでお読み頂き、誠にありがとうございます_(._.)_
今回は一頁限りの現実世界編と相成りました。
ここより現実世界編は無くなり、異世界編をぶっちぎりでお送り致します。
次頁をお楽しみに♪











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