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滅びの王 下巻
作:P琢磨



18頁 神門練磨の書15 ――『滅びの王の力』――


「あんた、――やっぱり《滅びの王》に間違いないわ」
「―――」
 一瞬、言ってる意味が理解できなくて、頭が白紙に戻された。
 白紙に戻った脳味噌に文字が書き込まれる。『あんた、――やっぱり《滅びの王》に間違いないわ』。
《滅びの王》? オレが? やっぱり?
「《滅びの王》としての力は、地味だけど、超絶無比には違いないわ」
「えっ? えっ? オレの力が、《滅びの王》としての力が、分かっちまったのか?」
「今、確認してみるわ。――ちょうどいい塩梅(あんばい)に〈器石うつわいし〉が落ちてるわね。拾って」
「コレか?」
 指差された石――蟹頃かにころのネックレスに付いていた石を拾い上げると、咲希さきの指示を待った。
「念じなさい。あんたが欲しい力を」
「念じるだけでいいのか?」
「多分」
「多分って……」
「いいからやりなさいよ! じれったいわね! あんたも男なら言われたとおりやりなさいよ!」
 男は関係ねえだろ……と突っ込み掛けたけれど、咲希の殺意さえ感じられる眼光を向けられ、黙って念じる事にした。
 オレが欲しい力……それはやっぱり、あの大鬼をぶっ飛ばせるだけの力。何の小細工も要らない、ただ、〈ぶっ飛ばせる〉だけでいい……!
 オレは、あの大鬼を〈ぶっ飛ばす〉力が欲しい……!
「――……後は、その石を握り締めて、使いたい力を使えばいいわ」
「マジかよ……そんな簡単に使えていいもんなのか、これ?」
「い・い・か・ら・使ってこいィィィィ!」
「はいィィィィ!」
 その時、八宵やよいやりはじかれた瞬間に遭遇そうぐうした! 棍棒を使って、突き出されたばかりの槍を下から()ち上げ、そのまますきだらけの八宵に棍棒の魔手が伸びると――八宵の体を大きく吹き飛ばした!
「ガハぅっ」
 遺跡の一部を破壊して、八宵は瓦礫がれきの中に倒れ込んだ。
 瞬間、オレの頭の中のスイッチが入った。
 思考はクリアになり、「あのバカをぶっ飛ばす」という単純な目的だけが念頭に置かれ、他の雑念は全て抹消された。
 蟹頃が振り向く直前――オレは眼前で立ち止まり、こちらに向くまで待ってやった。そして、完全に振り向いた瞬間、オレは顔面に石を握り締めた拳を叩き込んでやった!
「ぶっ飛べクソヤロォォォォオオオオ!」
「ぶげらァァァァ!」
 蟹頃は遺跡を破壊しながらぶっ飛ばされていき、八宵と同じく、瓦礫に埋もれて止まった。
 オレが全力で殴ったにしては威力がおかしい事に気づいて、手に握り込まれた〈器石〉を凝視する。
 ――果たして、オレの手に握り込まれていたのは、〈器石〉ではなく、〈ぶっ飛ばし〉の刻印が刻まれた〈附石(ふせき)〉だった。
「……中々、重てぇ拳を持ってんじゃねえか……!」
「い……!?」
 蟹頃が瓦礫から起き上がり、血走った瞳でオレをにらみ据えた!
 オレは思わず〈附石〉を握り締めると、体が勝手にファイティングポーズを取る。あいつ、ダメージは受けてるけど……何か、まだまだ無事そうだぞ!?
 思いつつ、蟹頃の顔面を観察する。(ほお)()れていたが、特に損傷は無いようだった。……ただ、ダメージは期待できるみたいで、足が少し覚束無(おぼつかな)い。
「このオレ様を誰だと思ってやがる……? 大鬼の蟹頃黄一郎きいちろう様だぞ!? それを……人間のガキの分際でェェェェ!」
 ――動きを止める程じゃなかったか!
 瞬時に距離を縮めて来た蟹頃に向かって、オレは本能的に拳を突き出し、――それが偶然(ぐうぜん)にも蟹頃の突き出した右ストレートとぶつかり合う!
 ――壮絶(そうぜつ)な暴力が衝撃波を(ともな)って弾け合い、オレは右腕が壊れそうな錯覚を感じて、思いっきり顔を(しか)め、足だけは威力を殺しきれずに地面を滑っていく……! が、地面から足が離れる事は無く、おかげで倒れる事は無かったけど、地面にはオレの足が滑った軌跡が刻まれていた。その長さが、蟹頃の素の一撃がどれ程のものかを物語ってた。
 オレが正面を見据え直すと、……蟹頃も吹き飛ばされてて、同じく右腕を押さえて(うめ)いていた。オレの右腕と同じ状態で、痺れているように小刻みに震えて、上手く動かないようだった。
「ざッけんな! 何でてめえとオレ様の力が同等なんだよッ!? あり得ねえだろ!? オレは大鬼――」
「うっせえな! ンなこた百も承知だ! ……分かったなら、もう止めてくれよ? おまえが悪さをしないって約束してくれたら、こんな事、する必要なんて……」
「まだ、ンな戯言(ざれごと)をォ……ッ! ……そうだな。てめえは、認めてやる。このオレ様が認めてやるんだ、光栄に思え。だからてめえは、ここで完膚(かんぷ)なきまでに、――ぶっ殺す」
 凄絶(せいぜつ)な笑みを浮かべて、蟹頃は宣言した。
 おいおい……マジであいつとやり合わなくちゃならねえのかよ……シャレになってねえよ……!
 オレは〈附石〉を握り直すと、……呼吸を整える。
 視線を右腕に下ろすと、蟹頃の一撃で既に瀕死(ひんし)の重傷を負っているのが分かった。……蟹頃の右腕と同じで、麻痺したように小刻みに震え、指先が思うように動かせない状態になっている。……それでも、オレは握り拳を作って、蟹頃を見据え直す。
 ……ごめん、オレの右腕。おまえには、――犠牲になってもらうぞ。
 右腕が、オレの意志に呼応するように微動する。……いくらオレの体だからって、傷つくのは嫌だ。何より痛いし、傷ついた体を誰かに見られたいとも思わない。……でも、あの蟹頃を倒すには、それ位の犠牲は必要なんだ……!
 人が犠牲になるのは嫌なのに、自分が犠牲になるのは何とも思わないオレは、やっぱり変な奴なのかも知れないな。
「……逝く覚悟はできたか、クソガキ? オレ様は心が広いんだ、何なら祈るまで待ってやってもいいぜ?」
「……もう止められないんだろ? なら、――来いよ。オレも、全力で相手してやる」
 オレは蟹頃を睨み据え、両手を持ち上げて、ファイティングポーズを取る。
「クソガキ……ッ!」
 蟹頃は完全に我を忘れ、――尋常ならざる速度を(もっ)てして接近した!
 だけど、当初のそれじゃない! 少なからずオレの二回の打撃が効いてるんだろう、走り寄る速度は落ちていたし、気迫も先程の比じゃない!
 オレは右手をまたも突き出し、――今度は蟹頃の右手の点に合わせるように、拳を砕かんと突き刺す!
「死ねェェェェ!」
「――――ッッ」
 蟹頃の拳と、オレの拳が激突し、―――― 
 ――オレの拳が弾かれたッ!
 その現象を、蟹頃は異常な眼で見据えていた。……それもそうだろう。何故なら、オレの右手には力なんて込められていなかった。もっと言うなら、〈附石〉が握られていなかった。
「――てめえがぶっ飛べェェェェッッ!」
 右手をぶっ壊してでも、オレは決めなければならなかったんだ。この――左手に握り直した〈ぶっ飛ばし〉の〈附石〉で!
「クソガキの分際でェェェェ――――――――――ッッ!」
 ――左手は蟹頃の顔面に吸い込まれるように突っ込み、――次の瞬間には、完全に顔面を打ち砕いていた!
 鈍い破砕音が響いて、オレは拳を振り切り、蟹頃が瓦礫に突っ込む瞬間、オレもぶっ倒れてた。
 その後、遺跡に音が聴こえなくなって、……オレはようやく起き上がって、終わった事を悟った。
 終わったんだ……オレが、終わらせたんだ…… 
「れん、ま……」
 瓦礫の中から八宵の呻き声が聴こえて、オレは我に返って走り出した。
 瓦礫の中に埋もれていた八宵を引っ張り出すと、ようやくそこで安堵できた。
「その分じゃ、大丈夫そうだな?」
「まあね……骨にも異常は無いみたいだし。――それより、大鬼は?」
「ああ。オレがぶっ飛ばした」
「……」
 信じられない、といった顔をしていたが、その顔にはどこか分かっていると暗黙の内に言ってるような空気を(はら)ませていた。
「見てたよ……あんた、あの力はいったい……」
「……」
《滅びの王》の力。
 それは、今の所、咲希の言うとおりだとしたら……奇抜な力じゃない。(むし)ろ、地味な部類に入るだろう。地味に強い。そして、単純なだけに、色んな効果が見込める。
 オレはやっぱり、認めたくないけれど、……《滅びの王》なんだな。
「……ウチには、話せないのかい?」
「……」
「……そっか。残念だよ、練磨れんま
 八宵が背中に手を回すのが分かった。そこに在るのは、彼女がいつもぶらげている武器―― 
 ――小太刀こだちが、オレに向かって振り抜かれた。












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