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1頁  神門練磨の書12 ――『生きたい』―― 
「――どういうつもりだ、スイカ?」
「……?」
 目覚めた……つまり現実世界ではオレは眠りに就いて、夢の世界……『向こうの世界』にやって来たという感覚を味わって、――それから、やっと今の事態に気づいた。
「……ミャリ? おまえ……何やってんだ?」
 オレは布団から起き上がって、視界に映る異状を認めた。
 僧侶(そうりょ)姿の少女が、起き抜けに違いない少年が握っている(さや)に向かって錫杖(しゃくじょう)を振り下ろし、武器と武器がぶつかって、拮抗(きっこう)していた。
 少女は――一瞬分からなかったけど、紛れも無く、さっきまで現実世界で話していた崇華(すうか)だった。
 崇華が、ミャリに攻撃を加えてる。何故? 何でこいつは、ミャリに喧嘩(ケンカ)を売ってるんだ?
「見て分かるだろー? 奇襲に遭った」
「奇襲って……そいつ、崇華だろ!? 何で……戦ってんだ!?」
 ミャリの話では、崇華は仲間だったはずだ。オレがこの世界に来て始めて見る崇華の顔は、やけに焦燥で彩られていた。何か、焦って事を急かしてるような、そんな表情をしてる。
 こんな崇華を、初めて見る。
「えとえと……練磨(れんま)は、動かないでっ!」
「崇華……?」
「練磨は、この世界を敵に回しちゃったんだよ? えとえと……悪しき力が、練磨を悪い方に持ってっちゃうんだよ!」
 崇華の、いつものよく分からない言葉の羅列が、今だけは何と無く悟れた。
 オレの……《滅びの王》としての力が、オレ自身を悪い方へと持っていく……? それはつまり……
「オレは……これから悪くなるのか?」
「うんっ、そうだよっ!」
「なるかァァァァ!」
 即座に突っ込むと、崇華はビクッと身震いして、ミャリの長刀から錫杖を引っ込ませた。
「えっ? えっえっ、練磨……?」
「確かに、オレは《滅びの王》だとか言われてるけどな、オレには世界を滅ぼすつもりなんざねーんだよ! だから、悪くなるつもりも、滅ぼすつもりも、これっぽっちも無い! それとも、崇華。おまえは、オレがそんな事をする奴に見えるか?」
「うん」
「即答かよ……」
 それはそれで(ひど)い。つか、すっげー傷ついた……
 突っ込みながらも、ちょっと立ち直れない感が漂っていると、崇華が錫杖をブンブン振り回して、
「練磨は悪い事をしない人だって、わたし知ってる!」
「じゃあ……?」
「でもでもっ、《滅びの王》は、世界を滅ぼしちゃうんだよぅ? そんな力を持った人は、絶対におかしくなっちゃうよ!」
 ……崇華の言いたい事は、分からないでもない。
 人間、生きていく上で必要な力以上の強大な力を手にした時、精神がマトモではなくなる。つい使ってみたくなったり、試してみたくなったりするモノだ。それによって弱き者を(いじ)める事だって、力を持たない者に対する脅しに使う事だって在るかも知れない。それが、人間の愚かしい所だ。
 オレは絶対にそんな奴じゃない! ……なんて偉そうな事は言えない。きっとオレにもそういう部分が在って、どこかで歯止めが利かなくなる力を放出する事だって在るだろう。力……それは人を魅了(みりょう)し、堕落(だらく)させる。
 オレだって、《滅びの王》の力を知ってしまったら、もしかしたらという事だって、充分に考え得るんだ。
「……オレは、そんな事はしねえ。そんな……おかしくなんてならねえよ」
「えとえと、……無理だよ、練磨……。《滅びの王》の力は、絶対に世界を滅ぼしちゃうもん!」
「崇華は、オレが信じられないのか?」
 えとえと、と口ごもって、それ以上言葉が続かない崇華。
 でも……きっとそれは良心だ。オレを信じる信じないではなく、信じなければ嫌われるとか、そういう感情が働いているんだと思う。だから、『《滅びの王》をこのままにしておけば世界は滅ぶ』という考えと、『練磨に嫌われたくない』という考えが拮抗しているんだ。……オレと世界を天秤(てんびん)に掛ける辺り、崇華らしいと思うが。
「えとえと……。……わたしだって、練磨を信じたいよぅ? でも、《滅びの王》の力は……」
「なら、こうしないか? もし、オレが力を見せたら、その時は崇華の好きにすればいい。焼くなり煮るなり倒すなり。でも、今はまだ見ていてくれねえか? オレにはまだ、やる事が在るんだ」
「……」
 崇華が、錫杖を両手で握り締めて黙りこくる。
 ……ここで崇華が取引を呑まなければ最悪、戦闘も余儀無いだろうと、オレは推測していた。できる事なら崇華と敵対したくない。この世界でも仲好くやっていきたい。それは叶わぬ望みだろうか? 
「……じゃ、じゃあじゃあ、……何でも、していいんだね……?」
「ああ、男に二言は無いッ」
「……う、うん、分かったよぅ。それなら……いいよぅ……」
 そう言いつつ、崇華の顔が真っ赤に染まりつつあるのは何故だろう? あいつは、オレが《滅びの王》の力を使ったら何をする気なんだろう!?
 ちょっとした恐怖に駆られながらも、オレはどこかで安堵していた。やっぱり、崇華だ……
「……わたしも、仲間になっていいの、かな……っ?」
 ミャリが面倒臭そうに布団に寝転びながら、オレに視線を向ける。……やっぱり、決定権はオレに回って来るらしい。
 オレは当然の答を口にした。
「当ったり前だろ? 崇華は、オレの仲間だぜっ!」
「う……うんっ♪」
「じゃあオレはスイカの先輩だな。今度からミャリ先輩と呼べ」
「はい、ミャリ先輩!」
「いや、そこはいいから……」
 何はともあれ、これでオレはようやく、現実世界と夢世界が(つな)がったと確信した。
 崇華が仲間になった! ……なんて、ちょっとゲーム風に。
ここまでお読み頂き、誠にありがとうございます_(._.)_
お待たせしました、【滅びの王 下巻】の始まりです。
【上巻】よりも幾分か長い物語ですが、最後までお付き合い下さい、宜しくお願いします_(._.)_


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