杜月が見ていた光景
黒塗りの車両が一台、また検問に入っていった。
俺はちょっと一息つこうと中を窺ったが、スモークガラスで覆われた窓からは内部が見えない。
もしかしてVIPとか乗ってたりして、と発想が横道に逸れると共に、そういう存在ならノーチェックで通るのかな、と興味を持った。
「杜月様、ですから今回の検問での不手際については・・・」
路上にて四半時間、俺はこの五十絡みのポリ公から説得を受けている。これに関しては俺から言い出したことなので何も言いようが無いし、引き上げる機も失っている気はするが、文句は言うまい。
しかし、茅野だ。アイツは何でこんな役回りを俺に押し付けたんだ? パトカーから出られたんだから最初に指示された通りにコンビニに向かえるチャンスもあったじゃないか。
と、すると、やはりキーマンはこの必死になっているオッサンなんだろうな。そのくらいは予測できるが、しかし分からん。水口は、こんな愛想いかにも作ってますみたいに人を舐めてかかる人物に何振り回されているんだろうか・・・。
黒塗りはやはり一旦、停止させられる。そこからだ、おかしかったのは。
車両確認を担当した奴が顔を強張らせて敬礼をした。凄い速さで。
俺の予想がもしかしたら当たったのかもしれない、と中の人物が気になった。
運転席が開き、燕尾に黒の蝶ネクタイ、白い手袋をした白髪の初老男性が下りてきた。いかにも執事か何かの様なそんな出で立ちの男は恭しく後部座席のドアを開ける。
中から出てきた人物は、正直見たことも無い人物であった。恰幅の良い爺様だ。
爺様は何やらポリ公に尋ねると、こっちを向いた。何故かは知らないがポリ公がこっちを指差したのだ。
他の車が立ち往生する隙間を縫って爺様がこちらに向かってくる。俺は何でこちらに向かってくるのかが疑問になり、とりあえず尋ねる。
「すみません、桧山さん。あの老人はお知り合いですか?」
指差し確認は礼儀作法に反する、と口うるさく水口に仕込まれた甲斐もあって、手の平掲げて爺様を指し示す。難儀そうに振り向いた桧山の表情が凍ったのは、確かに思える。
「・・・あ、れは、この県の県警本部長です。・・・余り状況が良くない」
「状況?」
「いえ、すみません。こちらの話です。あと、大変恐縮なのですが、これから内部の話が始まると考えられますので、少し場所を移して戴けませんか?」
こちらも向かずに桧山が言った。これが水口の言う「いい歳こいて礼を失した生きる時間の無駄遣いさん」か。確かに実際されると腹立たしい思いにはなるな。
「分かりました。そちらの誠意も伝わってきましたので苦情の申し立ては無しにします。では、失礼」
と、そうは言ったがまるで反応が無い。こちらの言葉を聞いていないようだ。
まぁ状況が変わったことを伝えとこう。水口、は、俺の状況を知らないわけだし、仕方が無いし気も進まないが、こちらから茅野に連絡を取らざるを得ないようだな。
本当に常々巻き込まれの振り回されっぱなしだ、あいつ等に。
あー、その前に愛しの、なのか元愛しの、なのかは分からんが、彼女に連絡をさせていただきましょうか。それ位の時間はまぁ、取っても構わないだろうから。
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