女の子の好きな人の友人達の活躍 その3
闇雲に逃げ続けたところで埒が明かない。対策を練るのは僕よりも大局を眺めているだろう彼女に任せるべきだろうな、と思った。それに、いつまでもこの女の子を背負って市街地を逃げるのも、不審だろうしな。
近場の奥まった(決して民家敷地内では無い)場所に入り、
とりあえず担いだままの女の子を投げ捨てる。
ふぅわっ! と非常に間の抜けた声を出して受身も無く着地する。腰でも打ったのか背中を撫でながら体勢を直すと同時に僕に向かって頬を膨らませる。
「その表情の根拠は分からないでもないが、それよりもまず僕に対するお礼の百や千くらいあっても良いんじゃないのか?」
「・・・ぅぅ〜、いたいけど、ありがとうございました。でももっとやさしくでもいいじゃないですかぁ。」
「不満か。ほぅ。この状況で扱いにまで気を遣えと、その口はそう言うんだな」
僕は少し口調を強めて言ってみる。彼女は、予想していた反応ではあったがうつむいてしまい、二の句を接がない。
「わーかった、分かった。善処はする。次はもうちょっとだけ気を遣うよ・・」
「つぎですか!」
「しっ、静かにしろ!」
こいつは感情の起伏が起きると状況を忘れる癖があるな。心得ておかないと。
そうでした、と周囲を怯えた様子で見回した後、まだ安全と思ったのか、ため息を吐いた。
すると狙い済ませたかのように携帯電話がポケットで鳴り始める。いや、どうせ全てを見て狙い済ませていたのだろうが。
『はい、もしもし』
『汗だくね、随分と。息も大きく乱れているわよ。これはこれで魅力的な会話になりそう』
『そうか、それは良かった。で、まずどうなっている?』
『そうね、何が聞きたい?』
無駄の無い彼女にしては、珍しく焦らす。
『時間を使わせるなよ、ゆず未』
『あら、冷たいわね。投げ下ろされるより痛いわ。・・・では状況ね。あのポリは離れていったけど、帰るまでに難点ができたわ』
『難点?』
『検問が張られた。ちなみに杜月くんはそこで捕まっちゃったわ。追われているポリとは対象が違いそうだけど』
『あのバカ』
確かに辰巳ならやり得ないのだが。全く、人選を誤ったか。こんなことなら己に頼んでおけば良かったか。
『そうだけど、妙手といえば妙手よ。ま、こちらで対処しておくわ。貴方達は現在、目的地から離れているわ。漫画喫茶にでも逃げ込むのが無難なのだけれど?』
『そういう解決策があったか』
すごく、一般的だが悪くは無い。
『ちなみに漫画喫茶にも喫茶店にも、ともかく留まれそうな場所はあのポリの同僚か何かが廻っているのだけれどもね』
『おい、ゆず未!』
語尾に力が入る。目を配せると女の子はどうして良いか所在無げに辺りを見回している。最も恐怖しているのも、恐怖が続くのもこの子なのだ。今回くらいはどうにか安心できる場所に置いてやって考える時間を与えてやりたいのだ。
『イヤね、冗談じゃないのよ』
確かに、彼女は常に有言実行且つ不言実行。無駄な言は出来る限り紡がない。
『おい、おねいさんや』
『・・・名前で呼ばない。そういうこと。・・・成程、少し辛いわね。呼び方よりも口調が、身を切るわ。・・・・・・分かったわよ、貴方達は大通りに出なさい』
『最も危険だろう、それが』
反省の無い人間、過去を尊ばない、過去から学ばない人間を僕は肯定しない。それが数少ない頼れる人種だろうが何だろうが、差別も区別もしない。これは、教訓だ。
『そうでも、無いわ。あのポリは路地から路地へ動いてるもの。そもそも検問だってどういう基準で張っているかは分からないけれど、どうせ女子高生と大学生を対象にしているだけの筈だし』
『何でそんなことが、そうか、情報量か』
『そ。顔写真は無いのよ』
『だが、僕のはともかく女の子のは・・・』
分かっていないわけが無いではないか。下手したら持ち歩いているとかいう存在もいる。そんな奴はこうも女の子を怯えさせるようなことはしないのだろうが。しかし良識、常識の枠に生きていないとはいえ、手は打ってくるのではないか? あるいは同僚が既に顔を知っているなどという可能性も否定は出来ない。
『その辺の根拠は孤絵さんに聞きなさい』
『・・・名前』
『誰を頼りにしたの、貴方は』
『 I see 』
『そう言うことよ。まずは大通りに出なさい。そこからの方が誘導しやすい。そしてすぐに電話に対応できるようにしていなさい。電話し続けるのは、色々支障が出るわ』
『盗聴だとか何とかか?』
相手は警察だしな。こちらの枠に嵌めて考えること自体が失態か。
『違うわ。貴方の声を聞き続けていると私が変な気分になってきちゃうのよ』
『・・・・・・・・・・・・・・・そうか。』
『そ。じゃ、まずはそこを出なさい。すぐに近辺に済んでいるのか機嫌の悪そうな大学生が通るわ。絡まれるわよ』
『それは厄介だな。畏まった。じゃあまた頼む、ゆず未』
『貴方に名前を呼ばせ続ける難しさ、初めて意識したわ』
ゆず未はそう言い残して電話を切った。最後、呆れたような声になっていた気がするが、あまり彼女の口調は変化しない。とにかく、次の手は、盤上に示された。駒が動かないわけにはいかないだろう。ゆず未には今、そういう勝負に挑んでもらっているのだ。それに見合うだけの報酬もなしで。
僕は女の子の手をしっかりと握って立ち上がらせる。
「これで文句は無いだろ。これから、走るぞ」
「・・・」
女の子は握られている手をじっ、と見たまま硬直している。
「返事は」
「っ・・・はい。」
「よし、良い返事だ」
二人とも前を見据えて動き出す。引いている右手が重さを感じる。久しぶりに実感として人間を感じている気がする。
女の子の表情は伺わず、そのまま走り出した。自分の表情が、どうなっているか不安だった・・・。
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