不安定な女の子と不安定な現状。
この路地裏に停滞しているのも悪くは無いのかもしれないが、指示があった時にすぐに動けるように、せめて表道路の近くに移動しといた方が良いのではないか、とふと思った。
迂闊に動くことは明らかにマイナスである。確かにそうではあるが、先程こちらに近付いて遠ざかったパトカーのサイレンを聞いたのだ。それ以降、女の子は僕にしがみ付いて離れようとしない。
いざとなっても飛び出せない状況なのだ。
移動前に一応ゆず未に伝達をしようと、先程から電話を鳴らしているのだが、電波の届かないところにある、と携帯会社が無情に伝えるのみである。
困った。
大体の試算で言うなら、あと5分程度でコンビニに辰巳が着くはずである。だが、パトカーがこの近辺を巡るサイクルが早くなってきている。捜索範囲を狭めて動いているようだが、この女の子の父親は迷惑なことに勘が良いらしい。
5分、保つか?
「・・・水口さん、怖い、です」
「かもな」
「音が、近いんです」
「だな」
むしろ居場所の発見よりも、この子の精神の方が保たなくなってきているような感がある。
「お前、僕に見せた本性。こういう時にこそ発揮させてくれよ」
「でも、身体がふるえるんですよぅ・・・。近くにせまってると思うだけで・・・」
「あー、えーと、何だ。あれは僕たちの居場所に気付いてるわけではない。勘が良いだけだ。・・・そうだ、あのオッサンは勘とか良かったか?」
一緒に住んでたなら、そこそこ分からないことも無いんじゃないか、とか思った。
「わたしの部屋につけたナンバー付きのカギをあっさりとやぶっていたくらいには、勘がいいです」
その辺に売ってる4桁のだとしても、10,000通りを破るのかよ。
「・・・6ケタのだったのに。高かったのに・・・」
化けモンじゃねえか。100万通りあるぞ、一応。
「ちなみに、番号は」
「010318、です。お父さんイヤ。」
うっわ、直接的。破ったのは、果たして勘だったのだろうか。
「心理戦に勝ったのかどうなのかも不明だが、何にせよ厄介だな。実際」
しかし、音を聞いている限り確実に近付いてきている。
「ぅっぅ」
「泣くな、今だけ己の限界に挑戦しとけ。こんなところで泣いてたら確実に負けるだけだろ」
泣いて、励まし、泣かれて、あやし、泣きつかれて、脅し、そして、
「な、何をやっているの、あなたたち」
背中に背負っていた窓が急に開く。ここは、確かに民家の裏手の位置である。夕食の良い匂いが漂ってきたが、当然それをご馳走するために開いた窓じゃあ、無いよなあ。
「え、いや、その。ちょっと、待ってくださいます?」
「お父さん! 警察! 警察呼んで。誰かいる!!」
「ちょっと待て! うっわ、ざっけんな! 話くらい聞けええええ!!」
僕は女の子を背負ってコンクリの塀を乗り越えて脱走する。それだけで相当に体力を消費した。マジで最悪だ。自分で動こうと思う前に動かされることになるなんて、想像も付かなかった。
これだから経験の無い行動をするのは嫌なんだ。何ていう厄介ごとなんだよ。
僕は、偶然を構成している訳の分からない圧倒的な神とかがいるんなら今すぐこの場で全力で殺してやりたくなるくらいに、テンパって焦っていた。
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