女の子が考えている隣で。
電話の内容は簡潔だった。
『お前はさ、友人が困っているときに助けようとしないくらいに不道徳な奴じゃなかったと記憶しているんだが、実のところどうだ?』
第一声がこれだ。絶対に手伝わされると思った。何をかは知らないが。
『そうだね、そこまで道理をわきまえないのは俺の今の会話相手くらいだと思うよ』
『お前、キャッチホン入ってるの?』
どこか不思議そうに聞き返してくる。わりに声に余裕がない感じから、あまり遊んでいる時間もないかとは思うが、それでもからかってしまおうと思うのは俺の困った性分だ。
『ごめん、ちょっとくらい日本語が通じるんじゃないかな、と思った俺がバカだった』
『そうか、己を省みるのは大事なことだと思うが、ところで今は、暇?』
『多分すんごく暇じゃない』
もう出かける準備も済ませて、いざ部屋を出ようか、といったところの電話だ。
暇なわけがあるか。
『予定があるわけ?』
何の意外そうでもなく、聞く。
『うん、彼女とデートだ。羨ましいだろ』
『わかった、では素晴らしいデートスポットを紹介してやろう』
そう言ってアイツは住所をスラスラと言いはじめた。一度も噛まない、ってことは暗記してるわけだ。つくづく無駄に脳細胞を使っているな、アイツ。
『ま、待てっ。メモる準備くらいさせろ。何、水口四丁目の、うん。あぁ、俺の昔のバイト先じゃん。ん、なんでそんなに嬉しそうになるんだよ。都合が良いとか呟くな! 思いッきし聞こえてるから。まぁいいや。とにかく何なの、言ってみなよ』
俺にそんな脳細胞の無駄遣いをあっさりするほどの芸当は不可能である。デスクの上からメモ帳を引っ張り出す。嵐の後のようになってしまった。
メモを取りながら、とりあえず何のための住所記録なのか追求する。こいつは人を散々働かせる割に真意を教えず、とんでもないことをした過去がある。見守り派としては手放しで野放しはいけないのだ。
『ああ、気にするな。デート中にゆず未から電話が入ることになるだけだから。その指示に従ってくれればそれでいい』
『ゆず未〜? お前。まだアイツと付き合いがあったのかよ。縁を切れって俺たちがあれ程、ん? いや、おい、頼む、ってマジで懇願されても。どうしたんだよ、国の三つや四つでも相手取る気じゃないだろ』
コイツならやりかねん。無駄に無謀だし、危険を冒さないとか言いながら一番、火薬庫の中で遊ぶ奴だ。煙草吸いながら。
『まぁな。そんな甲斐性があれば僕は今頃、革命の英雄じゃないか。買いかぶり。とは言え、相手は国家権力だな、一応』
『そんなんに友人巻き込むな・・・はい、本当に切羽詰ってんのな。畏まった、分かった、分かったよ。下手に動かなきゃなくなるとキツイしなデートは辞めにします』
俺の彼女、美佐は怒りやすい人種である。そろそろ別れることも覚悟しなければ。
そう思ったが、思ったより悲しみが湧いてこない。実感が無いというより、巻き込まれた今回に胸が躍っていてそれどころではないのか・・・。
・・・いい加減、俺も最低だな。
『すまん』
『お前と縁を持ったら諦めの許容量は誰でも上がるっての、あん時だって』
『それはとにかく』
話を変えやがった。自分に都合の悪い話題が大嫌いだからな。
『分かった、言わない。まあ協力しますとも。だが有償だかんな。何か後で奢れよ』
『おう、頼んだ』
一方的な依頼の電話は一方的に終わった。
頼んだ、ね。アイツに言われたことって、今回を除いて何回あるだろうかなぁ。
自分のことで頼ろうとしないからな。また何かの面倒見ているんだろうけどさ。
ったく、馬鹿な奴。
じゃ、彼女に謝罪の電話でもしますか。移動しながら、ついでに。
アイツと美佐じゃあ、優先順位が違うからな。
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