追われる女の子 その2
「で、何でこんな路地裏の裏みたいな場所に潜むことになっているんだろうな」
目下の疑問を口にしてみた。隣では未だ息を通常の様子に戻せていない女の子がいる。
ここがどこかは正直、自分でも分からない。思いっきりあのオッサンを轢いてしまったが、あれは思い込みだったのではないか、という思いが今更になって襲ってきた。
女の子を発見するためにわざわざ自分が来るまいと思っていた水口という地名の地域に来てしまったのだから、土地勘はゼロだ。しかも煙草を吸いたいが為だけに看板ばかりを見続けていたせいで道は気にしていなかった。
そして、女の子を発見したら、追いかけっこに大参戦。予測できるか、こんな展開。
「ちょっと説明が必要だ。何であの警察から逃げんきゃならん訳?・・・まぁ、何で」
割かし物分り良さそうなオッサンだったんだが、と継ごうと思っていたんだが彼女の様子を見て、自分の推測を思って、止めた。この女の子を追いかけていた様子を見た限り、まともで無い人種である。関係は予測出来るのだが、推測のみで動くと後に何が待っているか分からない。
息が乱れているだけならまだしも、顔面蒼白状態にある女の子。厄介ごとの渦中に飛び込んでしまったわけだ。あれだけ言って、あれだけ自分に制約課しながら、僕は。
「あれ、あの男。私のお父さん」
だろうな、やっぱり。
「この辺りの交番に、勤務していたりしているの。頻繁に異動する職業なんだけど、まだ、異動はしてないみたい。駅前の交番にいる。パトカー乗ってた。人がいる所だと、無茶しない人。そうじゃないと、怖い人。私・・・、わたし・・・」
とりあえず、女の子の頭を抱きかかえる。泣かれるのは、やはり好ましくない。しかも、震えが大きい。恐怖が震えの正体。それは、一両日中に取り除くなんて出来る事でも無い。さぁて、まずは家にでも戻れると楽なんだが。
「取り敢えず、避難だな。あのオッサンがどこで張ってるのか分からないこと。お前は当然ながら僕も顔が知られていること。そして何より、現在地と帰り道が不明なこと。問題点は山盛りだが、何か打開策は・・・お前に聞いても仕方ないよな。悪い」
未だ止まらぬすすり泣き、その中から小さく声がする。
「何、どうした? ここはまぁ、パトカーからは大分離れたはずだから見つからないと思うけど、不安か?」
「・・・ぅぅん。名前、孤絵。コノエ、です。・・・おまえじゃ、な、い」
喋り方が、出会った当初に戻っていた。何がきっかけかは不明だが、幼児返りに近いものなのだろうか。なら、まずはやはり安心させてやりたいところだが。
「あ〜、泣きながら、しかもこんな切羽詰ってきてる中どうもありがとうよ」
頭を軽く撫でる。震えは止まらないが、呼吸は少しずつ戻ってきていた。
「だけどな、名前を呼ぶというのは心理学的に愛着が涌いてしまうらしいんだ。僕は呼ばない。よろしく。それよりも、今は乗り切れても結局は学校にも行かなきゃならんのだし、これからも生きていくわけだし、あのオッサンと関わらなくちゃいけないんだ。こんな場面で追い討ちかけるのも難だけど、とにかく覚悟はしとけよ」
震えが、また大きくなった。タイミングを考えたが、忘れない内に伝えないといけないことだ。僕にとってはアクシデントなアンリアルでも、この子にとっての避けられないリアルだ。
どこかで保護が受けられると助かるんだけど。
警察という組織にその問題がいる時点で大方の制約が生まれる。思い当たる節が無い自分を少し嫌悪したが、そこまで介入すべきでも無い気がするな、と結論付けた。
これは、逃げかもしれない。
車の音に一々怯える彼女の髪を撫でてやりながら、僕はどうにか良策を考えようとしていた。
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