女の子の父 ニアミス
「あぁ、ったく! マジでもうちょっと分かり易いとこに居やがれ!」
ここまでやっているのが、いい加減バカらしく思えてならなかった。一時間は僕の人生の中で無駄にして良い時間じゃない。てか見つかりたくないのか、本気で、アイツは。
彼女の徒歩の一時間は自転車全力疾走一時間に匹敵するのだろうか。むしろ凌駕するのだろうか。
いや、おかしいだろ。
何かヒントは無いのか、何か・・・。
駄目だ。都合よく落ちていたりはしない。そもそもアイツ自体が落ちてたクセに。どうにか出来ないのか、この状況。
目の前には交番があった。だが、あっただけだ。道を聞こうと情報を聞こうと、そもそもがアイツ自身が公共機関に行きたくないとせがんだのが始まりだ。
ヒントは無い。そう思った。
駅前の、どこにでもある交番。
その交番で外を眺めていた刑事がいた。名前を、桧山隆。ヒヤマコノエ、漢字変換すると桧山孤絵の父親である。
さて、ここで物事を整理してみよう。
1.何故、孤絵がこの地域にいたのか。それは父親に呼び出されたからである。
2.孤絵が下着を着用していなかったのは何故か。この父親に剥奪されたからである。
3.雨の中に傘を差していなかったのは何故か。桧山隆から逃げる際にそんな事を気にしている余裕が無かったからである。
4.では、熱を帯びて倒れていたのは? 雨に構わず、走り続けたからだ。
何故、
何故、逃げなければならなかったのか。
それは、孤絵自身が語っていた。
辛く醜く、卑しくも腹立たしい事由である。
この時点で水口の知る由の無い話である。
「迷子になったら、自分の現在位置を確かめることが大事です」
自分に言い聞かせるつもりで、そう言った。すぐ隣を通り過ぎたおじさんに、じっ、と見られた時は何か間違ったことを言ったかと思ったけれど、大丈夫。間違ってはいないみたいだ。
近くの信号機の表示を見た。交差点の名前を知ろうと思ったからだ。
『水口一丁目』
「嫌がらせだ。これは・・・ただの嫌がらせでしかない」
あの人の名前がこんな所まで付き纏わなくっても良いじゃないか。本人は付き纏うどころか関心一つ示してくれなかったんだ。そういえば、ミツグチじゃなくてミズグチなんだな、とか今更ながら思い当たった。でも、その人に逢うことはもう、叶わないだろうし。
気を取り直して路上に設置されているはずの地図を探す。
探している内に、更に裏通りに辿り着いてしまったんだけれど、これは、愛嬌といって良いのかな。
ほんっとうに泣きたくなってきた。
落ち込み歩いて、顔を上げたその先には大通りの交差点。
『水口三丁目』
「あ〜〜〜〜、もう!!」
私は一人で、街中で、叫んでしまっていた。
周囲の視線が集まって、もう、うずくまってしまいたい・・・そう思った。
|