とんだ横川さん! その3
「そうか。では私の誤解だったわけですね。これはお恥ずかしい。それでは職務に戻るとしましょう。いや年甲斐も無く、一生分叫んでしまった気がします。失礼」
おじさんは急に居住まいを正して引き上げようとしている。
「え〜と、もう、いいんですか?」
思わず引き止めてしまう様子になってしまったのは、この、何というか消化不良の感覚からである。確かにこの辺りで止めておかないと5話くらい絶叫勘違いで引きずってしまうな、とか言う天の声も聞こえなかったわけでは無いが、こうも簡単に撤退されるのは、そう、轢き逃げを食らった感覚である。
「宜しいのでは無いでしょうかね。はい」
僕は女の子に向けて視線を送る。照れたように頬に手を添えて顔を背けたが、求めた反応はそんなベタで場違いなものでは無い。
「それでは、はい、失礼致します。今回の件は特例として申請しておきますので」
制帽を傾けて一礼し、そのままエレベータに入っていきそうな警備員のおじさん。
・・・ちょっと待て。
「今回の件、と言うのは、この騒動の責任の所在とか訳の分からないものの事を指しているわけでは無いですよね」
「はい。彼女との同居ですよ。この可愛らしい女の子。名前は何と言うのかな? そうか、ヒヤマコノエさん、ね。このノエさんとの。え、違う。コノエで切るんですか。はい。わかってらっしゃるんでしょう? いや、本当は同居というものは認められていない住居なのですが、私から話を通しておくのでお気になさらないで下さい。それはきっと正しいことだ」
・・・だから、ちょっと待て!
「い、いや。そんな決定事項みたく語らないでください。ね、え、ねぇ。うっわぁ良い顔して降ってくな! 待て〜い!!」
く、降りていってしまった。すっごい晴れやかな表情で手まで振られてしまった。
ありえねぇー。本当にどこの轢き逃げ犯だよ。僕が昔遭ったアレはあの人だったのか、って感じだよ。
取り残されてしまった。
突如としていなくなられると、それはそれで悲しいものだという人間のわけのわかんない感覚。いやぁとっとと退いてもらいたい気は満々だったんだけど。
取り残されたのは僕と女の子。
人間は名前を呼ぶと、それに愛着が涌くらしい。
僕は、女の子と呼び続けようと決めた。
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