200文字 舌打ち 作者: 囘囘靑 今から二十年前、冬の夜、ダサい県に住む私はやや帰りが遅くなっていた。 エレベータを降り、マンションの玄関まで続く長い廊下を歩く私。初老の女性がこちらから私の方角へ歩いてくる。 「こんばんはー」 私は声をかけ、そのときに気付いた。冬だというのに女性はワンピース姿、裸足。腹部だけが異様なほど、それこそゴム鞠のようにせり出している。 「チッ」 確かに女は舌打ちした。 あれ以来、マンションで彼女とはすれ違っていない。