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短編集

暦式

作者:天界
トビーの人ととんこつに書けって脅されたので涙ながらに書きました。
色々とアレなのはご愛嬌。
苦情はトビーの人かとんこつの人にお願いします。

 先行するストリーマ上をなぞるように駆ける実体を伴う幻。
 そのアギトに食いちぎられる最後の1匹は断末魔すらあげることができずに死に至った。


「ふぅ……またつまらないものを食べさせてしまって……ごめんね」

「ぐるるぅ」


 体毛を覆う計測不能な電流は触れるものを全て消し炭にする。
 彼に触れることは叶わない。だがそれでいい。私は労いの言葉をかけて彼を元の世界へと還す。


「やっぱり金の子は出す必要なかったかな……でもこれでこの依頼は完了ね。
 バルログなんて出てきた時には驚いたけど……思ったほどでもなかったな」


 依頼を無事完了したのはいいが、聞いていた魔物とはまったく格が違う魔物が出てきた時は詐欺だと思った。
 だが私に……いや私が召還するあの子達にかかれば最上位の炎の悪魔であるバルログでさえサル山のサルに過ぎない。


「おサルさんは毛づくろいでもしてればいいのに……。
 さぁ帰って宿で1杯やることにしよっと」


 この数年ですっかり癖になってしまった独り言がまた零れる。
 もう直そうとも思わない。こういうのはいったん癖になってしまうとなかなかどうしてあとを引く。
 最上位の炎の悪魔数匹を倒したにしてはまったく疲労のない足取りで元来た道を引き返していく。


 今日も宿屋に併設された酒場は大繁盛だ。
 この娯楽の少ない世界では剣闘や簡単な賭け事以外では酒を飲んで馬鹿騒ぎをするくらいしかやることはない。まぁ他にもあるけど……こんなところでまだ黄昏時にも早い時間から飲んでるようなやつらには縁が無いことだ。


「マスターいつもの」

「はいよ、コヨミちゃん。今日は例の墓地に行ってきたのかい?」

「はい、ちょっと予想外の魔物がいましたけど、概ね順調に終わりましたよ」

「ハハッ! さすがは稀代の召還術師だな! その調子で頼むよ!」

「はい、任せてください」


 酒場のマスターとは顔見知りだ。
 いつもので通じるくらいにここに足を運び、そして同じものを頼む。
 私の1日の労いはこの " いつもの " だ。


「おい、聞いたか? 例の大橋の上に現れる霧の竜の話」

「あぁ聞いた聞いた。なんでも攻撃がまったく通じねぇんだとよ。そろそろAランクの依頼になるって話だ」

「竜の時点で何を悠長にって感じだよな。最初っからAにしろってんだよ。まったくギルドのやつらはがめついったらありゃしねぇ」

「まったくだ。一体何人死んだと思ってやがるんだ。
 安い報酬でこき使いやがってよ!」


 喧騒に混じって聞こえてくるちょっとした話。この酒場を愛用しているのはこういった話が聞けるからだ。
 耳を傾ければそこかしこから色々な話が聞こえる。
 だがやはり今日の収穫は霧の竜だろう。

 Aランク依頼。
 これが決め手だ。
 Bランク依頼とAランク依頼では成功報酬の桁が2つも違う。
 私の目的のためにも報酬は高くあってもらわなければならない。

 酒場では誰も頼まないマスターの裏メニューの緑茶を啜りながら柿の種を1つ食べる。
 ピーナッツはなしだ。

 明日は忙しくなりそうだ。



 立ち込める霧。
 普段はこの大橋はかなりの交通量を誇る要所でもある。
 だが今は見渡す限り白しろシロ。

 5m先も見えないほどの濃霧とそこに現れる竜の話に交通量もゼロだ。


「もうすぐ橋の真ん中だけど……出てこないわね、竜」


 独り言も白い景色に飲まれていくが、お目当ての竜は出てこない。
 今朝早くさっそくギルドで請け負ってきた大橋の霧の竜退治。酒場での話通りにAランク依頼に格上げされていた。
 すでに一般人の死者の数は50名を超え、請け負った6パーティ総勢48名も加算すれば3桁に届くのも時間の問題といわれるほどの高難易度依頼。

 だが私にとっては美味しい美味しい依頼だ。
 この程度ならいくらでも請け負ってきた。


 耳を劈く大音量の鳴き声に咄嗟に耳を両手で覆うと霧が一部に集まっていくのが見える。
 どうやらお目当ての相手が現れたようだ。


「小娘が1匹か……。今日はついておらぬ」

「あら、人を見た目で判断すると痛い目をみますよ?」

「……我を見ても恐れぬか……ならばよかろう、望みどおりに食い殺してくれる!」


 再度の咆哮。ギルドでの情報通りに知能が高い。
 だがそれでも私の有利は変わらない。


「食い殺されるのはどっちかしら。【コヨミ式次元干渉:なんの発売日でもない微妙なアイツ】!」


 霧の竜の巨大なアギトが私の召還した者により受け止められる。
 力比べでは拮抗。
 さすがは知能が高い竜といったところか。
 一番弱い火の子だけど、それでも単体で街くらいなら簡単に叩き潰せるほどの力を持っている。


「ぐおおおおお!! 我と同等の膂力だと!?」

「あなた結構強いのね。仕方ない……【コヨミ式次元干渉:基本的にゲームの発売日だけど、この日の雑誌も好きなアイツ】!」

「ゴアアアアア!」


 次に召還された者により横殴りに殴られて吹き飛ばされる霧の竜。
 やっぱりこの子の攻撃はちゃんと当たるみたいね。
 木の子は他の子と比べても干渉系に特別強い。
 この霧の竜は干渉系の魔法で実体を隠しているにすぎない。だからまずはその魔法を打ち破る。
 まぁ火の子に止められてる段階でお察しレベルではあるけれど。


「馬鹿なッ!? 私を傷つけるだと!?」

「あら、何を驚いているの? あなた程度なら問題は何もないわよ?」

「黙れ小娘がぁッ!」


 三度目の咆哮。
 霧状だった体が実体を伴い迫力が俄然ましている。ここからが本番ってわけね。


「しぃぃいいねえええぇぇッ!」

「火、木。やっちゃいなさい!」


 私の指示と共に2人の召還獣が迎撃を始める。
 激しい轟音と肉を叩く音。
 竜のブレスと尻尾の叩きつけの連続攻撃。
 爪と竜族特有の凶悪な魔法。
 打撃や斬撃を火の子が。ブレスや魔法を木の子が防ぐ。


「あら……意外とやるわね。2人掛かりで防戦一方?」


 戦況はあまりよくない。実体を伴い本気となった霧の竜はAランク依頼の域をすでに超えていたからだ。


「まいったわね。もう少し放って置けばAAAランクくらいまでなら上がったかも……。ちぇ……失敗ね」


 2人を相手に対等に戦っている竜の評価を上げるとマスターに貰ったお茶を飲み終える。


「さて、休憩も終わりっと。【コヨミ式次元干渉: 今日は2冊も好きな雑誌が発売されるアイツ】!」


 召還された3人目は透き通るような水の子。


「ちょっと苦戦してるわ。ぱぱっとやっちゃって」


 私の言葉に首肯して返した水の子は両手を前に突き出し、瞬時に構築された魔方陣を竜に向ける。


「こざかしい!」


 尻尾の一撃で火の子を弾き飛ばした竜が水の子の魔法陣が完成する前に潰そうと迫るが……遅い。

 放たれるは一閃。
 正確にコントロールされた一閃は竜の首を跳ね飛ばす……はずだった。


「避けた!?」

「ぐおおおぉぉぉッ!?」


 首を跳ね飛ばす軌道を無理やり身を捩ってかわし、代わりに腕を切り飛ばされた竜の咆哮と左の爪の斬撃が水の子を飲み込む。


「クっ!」

「ぐるああぁぁああッ!!」

「やっば!」


 完全に怒り狂って我を忘れたように暴れ始めた竜の圧力がこちらにも及びそうだ。


「この! 【コヨミ式次元干渉:あぁ働きたくない! 働きたくないでござるのアイツ】!」


 私の声と共に1組の布団が目の前に出現する。
 その布団を引っぺがすと現れる大きな尻を思い切り蹴飛ばす。


「なぎ払え!」


 瞬間、眩い光の奔流が竜を貫く。


「ゴ……ガッ」


 貫かれた箇所を見る前に竜の体は穴が空いた箇所から内側に一瞬で収縮し、後には何も残らなかった。
 辺りを静寂が包み、風により徐々に霧が霧散し始める。


「あああ!? しまったー! 月の子の威力高すぎて討伐証明が残ってないじゃないのー!」


 私の嘆きの叫びを聞いた月の子がいそいそと布団を被り消えていく。にげんじゃねぇ!
 がっくりと項垂れる私。
 討伐証明の部位、この竜の場合だと角か尻尾が必要だけど残っていそうにない。
 月の子の爆縮砲はそんな物を残すほど生易しいものじゃないからだ。


「マスター、コレヲ」

「火の子……? あ、それって!」

「コウイウコトモアロウカト、サイシュシテオキマシタ」

「ありがとう! さすがは一番召還率が高い子なだけあるわ!」

「ソレホドデモ。デハマタアイマショウ」

「うん! ありがとうね! 水の子もご苦労様。帰っていいわよ!」


 火の子と水の子が慇懃に頭を下げて消える。
 火の子は私が召還する子の中でも一番弱いけれど、頭の回るすごくいい子だ。本当に今回は助かった。

 火の子から受け取った霧の竜の角を鞄に仕舞い大橋を後にする私の足は軽い。
 また少し目標に近づいた。


「待っててね、おばあちゃん! 私……必ず転送費用を溜めて元の世界に帰るから!」


 私は異世界に迷い込んだ召還師、暦可憐(コヨミ・カレン)

 小さい頃におばあちゃんに習ったコヨミ式次元干渉を武器に、元の世界に戻るための転送費用を稼ぐ冒険者だ。

 目標達成まであと67億3589万12ギル。



のーこめんつ!

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