FILE.08:試合後……
「トモ、大丈夫かな……半分泣いてたように見えたけど……」
試合が終わり、静かになったグラウンドを見下ろしながら、絵里子がつぶやいた。
「わからないけど、しばらくは引きずるかもね。いつもはあっけらかんとしてるけど、今回ばかりは、ねえ……」
有希もその横でフェンスにもたれかかって智美を心配するようにつぶやいた。
「……試合終わったし、帰ろうか?」
しばらく静寂が続いたあと、絵里子が有希にたずねた。
「そうだね。トモに結果を教えてあげないといけないし」
有希も同意し、屋上から降りて帰ろうとした、そのとき。
「あっ、エリ、ユキ! トモに聞きたいことがあって探してるんだけど、知らない?」
智美や有希のクラスメートで久保のファンのひとりが階段を上がってきていて、絵里子たちを見つけると開口一番にそうたずねてきた。
「トモなら試合が終わる間際に帰ったわよ。急用ができたから、あとで結果をメールして、って言い残して。そんなに慌ててどうしたのよ、カノ。なんかトモに話があるんなら伝えるよ?」
絵里子が智美はいないと答えると、
「そう……ねえ、あのとき何があったのか、エリたちは知らない? 最後の得点シーンの珍プレーのことなんだけど、何人かが、あのとき屋上でトモが不思議な光を発してるのが見えたって言ってたの。で、屋上にいたトモ自身や近くにいたエリたちなら何か知ってるんじゃないかと思ったんだけど……」
ファンの女の子――カノこと佳乃子は、絵里子たちに事情を話した。
「うーん、正直何が起こったのかはわからないのよね。たしかにトモの体が光って何かが起こったみたいなんだけど……私たちの口から話せるのはそれだけよ。でも、しばらくはトモ自身にその話はしないであげて。帰るとき、少し泣いてたように見えたから……」
絵里子は佳乃子にそう頼むと、有希とともに帰路についた。
その後絵里子や有希は何度も智美にメールしたが、返事が返ってきたのは最初の一回――試合の結果に関することだけだった。あとの智美を心配するメールはことごとく返事のないまま、週明けの月曜を迎えた。
「トモ、おはようっ! もう大丈夫?」
登校してきた智美を見つけて、先に来て話をしていた絵里子と有希が駆け寄った。
「うん、もう大丈夫。メール返さなくてゴメンね」
智美は軽く舌を出して謝った。と、
「トモー、あんたに客だよー」
別のクラスメートがそう言って智美を呼んだ。
「あたし? わかった、今行くねー」
智美はそう言いながら教室の入り口に行くと、隣のクラスの“久保ファンクラブ”の女子たちがいた。だが、智美が来ても何も切り出さないでいたので、
「あたしに何か用なの?」
智美から単刀直入にたずねると、
「……五十嵐さん、こないだのアメフト部の試合が勝てたのはあなたのおかげらしいですね。そのお礼を言いにきたの」
数人の女子で構成された中のひとりがそう言って軽く頭を下げた。
「え? え? なんのこと?」
いきなり礼を言われるとは思わなかった智美は戸惑いの声を上げる。
「試合の最後のほうで起きた謎の珍プレー、あれは五十嵐さんの不思議な力によるものらしいじゃないですか。それで勝てたんだから、久保くんの、ひいてはアメフト部のファンクラブとして礼を言わせてください」
別のひとりが智美に言って、そこにいた全員が一斉に頭を下げた。
「……帰って。こんなチカラのことでお礼を言われても嬉しくないし、結果的にズルしたことになるのよ。あたしも久保くんを応援してるから、勝ってほしかったけど、こんな形で勝って、本当に満足なの? ましてや、こんな形で負けた雨東の選手の気持ちはどうなるの? いくら三位決定戦で勝てば同じ関東に行けるとはいえ……」
智美は再び泣きそうになりながらファンクラブの女子たちに帰れと言った後、彼女たちに問いかけ、答えを待たずに自分の席に戻っていった。と、そこに……
「君たちこんなところで何やってるの? 教室に入る人が通れないよ」
久保が登校してきて、ファンクラブに苦言を呈した。
「ご、ゴメン……」
すぐさま道を開け、久保を教室に入れた。と、智美の席の近くに行くと、
「話があるから、昼休み屋上に来てくれないか?」
久保はそう智美に耳打ちした。智美は突然の呼び出しに驚いて声も出せず、ただ頷くだけしかできないのだった。 |