FILE.07:ハプニング発生〜決着
最終第4クォーターに入り、両チームとも1つずつタッチダウンを積み重ね、21-14と雲西高校がリードしていた。
「やむを得ん、最終作戦実行だ」
雨東の監督はタイムアウトを取って選手を呼び戻すと、その一言だけ告げた。
「わかりました」
それに対し返事をしたのは、高杉ただ1人だった。
「なにっ!? 高杉がオフェンスにも出張ってきやがった! しかもRBってことは、雨東め、高杉の破壊力に任せて点を取りにきたな」
雲西の監督は、高杉の守備面での破壊力を知ってるだけに、敵の攻撃力アップを不安視していた。
「あれっ? 高杉さんが攻撃にも入ってきたよ? トモ、なんでかわかる?」
絵里子と有希は今まで守備にしか出てこなかった高杉が攻撃にも出てきた理由がわからず、智美にたずねた。
「うーん、推測だけど、雨東が本気で勝ちにきたのかも。高杉さんは守備で抜群の力があるけど、足も速いから、それを攻撃に生かして点を取りに来たとしたら……ウチが負けるかも」
智美は推測を述べた上で、このままじゃまずいとの見方を示した。
「ふーん、どっちにしろ、このままだとウチはまずいことになるってことね」
絵里子がそう呟きながら再び眼下のグラウンドに視線を落とした。
雲西の監督、そして智美が危惧したことは現実になってしまった。高杉が駿足を活かして2つ連続でタッチダウンを奪い、21-27と逆転したのだ。ボーナスゲームのキックを一度外してしまったので1点少なくて済んだのだが、残り時間は約3分。逆転するにはもう一刻の猶予もなかった。
「こうなったら最後の手段だ。コバ、WRはできるか?」
タイムアウトを取った雲西は、久保がコバにポジションチェンジを打診していた。
「ええ、できます」
コバは簡潔にそう答えた。
「よし、じゃあ次の攻撃からWRに入ってくれ。攻撃の内容はそのときの作戦会議で伝える」
久保はタイムアウトが終わるとの審判からの通告を受けて、手短に話を切り上げてグラウンドに出て行った。今はまだ雲西の守備、ここで雨東の攻撃を抑えないと逆転は不可能になる。
「ここ一本、止めるぞ!」
「オオッ!」
気合の雄たけびを上げて、選手たちが守備についた。
「まずいよ……高杉さんやっぱ強いよ。このままじゃウチが負けちゃう……」
智美はだんだん落ち着きがなくなり、あっちへうろうろ、こっちへうろうろし始めた。
「トモ、少し落ち着きなって。高杉さんがラインバッカーのトップクラスなら、久保くんは現役高校生のトップクラスQBなんだから、頭の回転も速いし、何か対策考えてるって」
この試合を見ている間に少しは覚えたのか、絵里子がそう言って智美を励ますのだった。
どうにか雨東の攻撃を防ぎきり、雲西の攻撃。残り時間はおよそ2分。ここでしくじればもう後がない。
「それじゃあ、さっきのとおり、コバはWRに、ショットガンフォーメーションで敵を撹乱してくれ。ラインの皆、すまないが5秒持たせてくれ。コバはストレート、他のキャッチ要員は各々好きなコースを走れ。向こうにコバへの決め撃ちを悟られるな」
久保はチームメートに素早く指示を飛ばすと、攻撃ポジションについた。
「Set、Hut!」
久保のコールとともにボールがライン中央のポジションから放り投げられ、プレーが始まった。
「残り時間少ないからきっと久保くんは勝負かけてくると思うのよね。あっ、12番がレシーバーでまっすぐ走った! パスで一気にタッチダウン取るの!?」
智美が興奮してはしゃぎ、絵里子と有希は冷静に試合の流れを眺めていた。グラウンドの端っこにいる久保ファンの応援団は黄色い声援を送り続けている。近くにいるスカウトマンたちは、それを見てよく声が枯れないな、と感心してる人もいた。
「よし、行くぞ! 受け取れーーーーー!」
久保は絶叫とともにコバに向けて豪速球パスを投げた。素早く高杉が反応して止めようと腕を伸ばしたが、かすっただけでボールの勢いは衰えず、ボールはコバに向かって一直線に飛んでいく。だが、コバとの間に何かが立ちふさがった。
「え?」
捕球体勢に入ったコバは、いきなり目の前に現れた大きな影に視界をふさがれ、ボールを見失った。
「もらった!」
コバの視界を塞いだ大きな影は、雨東のFS、大貫だった。彼は高杉が弾いて少しスピードが落ちる間にボールとコバの間に滑り込み、インターセプトの体勢を作り上げた。
「ああっ、ボールが取られちゃう! せっかくのパスがーー!」
絵里子と有希が大慌てしている中、今まで騒いでいた智美が静かなことに有希が気づいた。
「トモ、どうしたの? ピンチなのに、ずいぶん静かじゃない?」
有希がたずねると、智美の身体がガクッとうなだれた。
「トモ!? どうしたの? 大丈夫!?」
慌てて身体を支えてやり、肩を叩いて起こそうとするが、智美はそのまま倒れこんできた。どうにもならないと様子を見始めた、そのとき。智美の身体が淡く光り、それと同時にグラウンドでどよめきが起こった。
何事かと智美を支えながら絵里子と有希がフェンス際へ駆け寄り、そこからグラウンドを見下ろすと、さっきまでボールの捕球体勢に入っていた大貫が立ち尽くし、コバがボールをキャッチしてタッチダウンを挙げていた。
審判団もなにが起こったのかわからず、ただタッチダウンを挙げたことを知らせるホイッスルだけを鳴らした。と、そのとき智美が目を覚ました。
「今のは……あたしがやったことかも……ボールが敵に捕られると思った瞬間に気が遠くなって……完璧には覚えてないけど、なんとなくあたしな気がする……あたしのせいで試合がめちゃくちゃになっちゃった……」
智美は自分の足で立ち上がると、ボソッとつぶやいた。
「トモ……? とりあえず、落ち着きなよ。いま、ユッキーが下の出来事を耳を済ませて聞き取ろうとしてるから」
絵里子がひとりで自分を責め続ける智美を制止していると、
「状況がわかったわ。今のは、大貫っていう、さっき12番のコバ選手の前に立ちふさがってボールを奪おうとした選手が捕ろうとしたときに、急にボールの軌道が変わってコバ選手の手の中に落ちてきたそうよ」
有希が聞き取った内容を2人に伝えると、
「やっぱあたしのせいだ……あたしの中のこのチカラが試合を壊したんだ。これ以上見てるとさらに変なことしそうだから、あたし帰る。結果はあとでメールでもしてくれる?」
智美は絵里子と有希にそうまくし立てると、振り向いて屋上から駆け下りていった。
結局、いまのタッチダウンは審判団の協議の末、正当なものと認められ、雲西高校フェニックスが28-27で雨東高校ブループラネッツを下し、決勝進出、および関東大会進出も決めたのだった。 |