FILE.05:アメフト部、戦場へ
その夜、智美は自室で何を浮かせられるかいろいろ頑張っていた。
「ふう、あんまり重いものは動かないわね。今のあたしで浮くのはせいぜい辞書くらいまでか。しかも重さによって浮かせられる高さも違うのね。軽いノートやペンならあまり疲れずに結構自在に浮かすだけじゃなくて動かしたりできるようになってるのかな」
額に軽く汗をかいたのを拭きながらひとりでうんうんと納得して、智美の夜は更けていった。
翌日のHRの時間。担任が隆文を前に呼び出し、智美たち生徒の前で、
「明日は久保が主将をしているアメフト部が関東大会出場をかけて雨東高校と準決勝をやるそうだ。勝てば文句なしの関東大会進出。負けたとしても3位決定戦に勝てば関東大会に行けるそうだ。会場はうちのグラウンドだから、なるべく応援に来てやるように」
と言った。
「俺からもお願いします。俺たちはみんなの声援が力になると信じてここまで来たから、明日も負けるわけにはいかないんだ。ましてや相手は宿敵の雨東、これは事実上の決勝戦なんです」
隆文もそう付け加え、軽く頭を下げた。
「トモ、もちろん行くっしょ?」
HR終了後、有希が智美にたずねた。
「え? うん、もちろん行くよ。なんで?」
智美は平然と答え、逆に問いかける。
「いや、私らも行くんだけど、あそこでキャーキャー言ってるだけのとは一緒にされたくないな、って思ったから、3人で少し離れた場所から見ないかって聞こうと思ったの」
有希が言いながら指した先には、隆文のファンの女子たちが隆文を取り囲んでキャーキャー騒いでいた。
「そうだね。たぶん彼女たちはグラウンドのよく見える場所を確保してキャーキャー騒ぐんだろうし、あたしらは屋上にでも行きますか。上からだと試合が見やすいって聞いたことあるしね」
智美は苦笑しながら有希にそう話した。
「さっすがトモ、アメフトのことを調べてるね〜」
第3の声に智美が振り向くと、いつの間にか絵里子が智美の横にいた。
「エリ! いつの間に来てたの?」
智美が驚いた表情でたずねると、
「んー? 今だよ。うちのHR長くてね。話の内容はこっちと変わらないはずなんだけど、なんで時間かかるかな〜?」
絵里子は苦笑しながら首を傾げたのだった。
そして、次の日。試合当日。
天気に恵まれた雲西高校グラウンドには、高校アメフトの試合にしてはずいぶん観客が多かった。とは言っても、大半が雲西高校の生徒による応援団なのだが、中にはスーツを着こみ、双眼鏡やビデオカメラを首から下げた人物も数人ほど来ていた。
「ねートモ、あれってやっぱりスカウトとかそういうのかな?」
屋上に陣取った智美たち。上からグラウンドを見下ろした絵里子がそのスーツ姿の人物を指して智美にたずねた。
「たぶんそうじゃない? 高校にスゴい選手がいるなら大学や社会人チームは争奪戦を繰り広げてでも獲りたいだろうし。今回の目的はたぶんうちのチームの久保くんか、雨東のLB、高杉さんじゃないかしら?」
智美はスーツ姿の人たちをスカウトとほぼ見抜き、目的となる選手まで予測をつけた。
「らいんばっかー? 高杉? どの選手?」
ポジションの名前を言われてもちんぷんかんぷんな絵里子は智美に聞き返す。
「ラインバッカーは守備の要で、全ての攻撃を止めることを要求される砦みたいなものね。高杉選手の背番号は40番。ほら、あそこよ」
そう言って智美が指差した先に、ウォーミングアップをしている高杉の姿があった。
「へえ、スゴい体格してるのね。アメフトって防具がゴツいからあまり体格良くなくてもマッチョに見えるけど、ありゃ本物だわ」
有希がそれを眺めてため息をついた。
「そういえば、久保くんは何番? ヘルメットかぶってるとわからないのよね」
絵里子が久保を探してキョロキョロしだした。
「久保くんは背番号1。エースQBだから、あそこでキャッチボールしてるよ」
今度はグラウンドの反対サイドを智美は指差した。
ユニフォームの色は、ホームチームの雲西高校フェニックスが赤色、ビジターチームの雨東高校ブループラネッツが白地に青の文字だった。本来なら青色のユニフォームなのだが、ホームチームが色付きを着るのでこうなっている。
両校は過去に計20回、この都大会の準決勝または決勝でぶつかり合い、10勝10敗という全くの互角であった。
「行くぞお前ら! 我ら不死鳥のごとく何度でも舞い上がる! 邪魔する奴は……『焼き尽くす』!」
雲西高校のフィールドからフェニックスのチーム名から考えられた気合いの雄叫びがグラウンドに響けば、
「蒼き星は水の惑星。その水の力で敵の闘志の炎を消し去るんだ! 我ら『ブループラネッツ』!」
対する雨東高校側も上手いこと考えたと思われる気合いの雄叫びを挙げていた。
――いま、関東大会を賭けた試合が始まった。 |