最終話 なつみの独白、マリアの独白
【なつみの独白】
マリアの子供を見て私は驚いた。だって、あんまりあの人に似ていたから。最初は気のせいと思った。でも、あの子の作る色んな表情を観察していたら、時おりあの人の表情がきれいに重なった。こんなことってアリ? なんでマリアの子が優に似ているワケ? あいつ、私の友達にまで手を出したの? 証拠は何もない。でも、絶対にあの子の父親はマリアの旦那じゃない。写真の顔と全然違ったもん。それに……マリアの動揺ぶりも尋常じゃなかった。図星だったからよ。
胸が苦しかった。優に対する愛情はもう微塵も残ってなんかない。私の胸が苦しかったのは、なぜマリアが? という怒りに似た感情の所為。優とマリア、一体どこに接点があったのだろう。直接会ったことはなかったはずだ。マリアから届いた私あての年賀状? 学生時代のアルバム?
優の方がマリアに近づいたと想像することは不可能ではない。でも、マリアがそれに応じるというのは考えにくい。
もしもあの子が優とマリアの子だとすると、マリアは二股かけてたってことになる。マリアにそんなことができるだろうか? 結婚したことでさえ私には驚きだったのに。おかしい。どうなっているのか全然わからない。
私にとってマリアとマリアの子に会ったことは衝撃以外の何物でもなかった。でも、もう忘れようと思っている。優とは離婚したのだ。もう私には関係ない。あいつのことで、これ以上心をかき乱されるのは沢山。当面はマリアとも距離を置く。あの子の顔を見たくないから。
【向田優の独白】
なつみは嫉妬深い女だった。そのくせ、子供はまだいらないと言った。もともと俺は女に困ったことがない。結婚だって、別になつみじゃなきゃ駄目だってワケでもなかった。何か騙された気分だった。なんでこんな奴と結婚したんだろうって。後の祭りだった。
浮気浮気って、なつみの奴、根拠もないのにしょっちゅう逆上してた。やってらんないんだよ。一度、酒飲み友達と危ないところまでいったことは告白する。だけど驚いたね。まさか、探偵に尾行されてるなんて思いもしなかった。どんだけ金を払ったか知らんが、誰の金使ってそんなマネしてんだよ。プロの撮影と思われる写真突きつけられた時、ああ、もう終わりだと思ったね。女房に雁字搦めにされて、でも子供は作りません、挙句の果て、他の女とお茶飲んだだけで逆上される、どこにそんな生活に耐えられる男がいる?
情けなかった。俺という男が、世間の目から見た俺と言う男が、どんだけ価値があるのか無性に知りたくなった。なつみへのあてつけという意味もあった。精子バンクに登録しようと思ったのは、離婚を決心した頃だった。
俺の精子は高い値段がついた。ざまあみろと思った。なつみに見せ付けてやりたい気分だった。結局、実現しなかったが。実際に登録されるまで半年以上が必要で、値段がついた時には、すでにあいつとは離婚していたからだ。何だろう、あの頃は妙に清々しい気分だったね。何て馬鹿な女だ、こんだけ価値のある男をとことん傷つけやがってと、復讐に成功した気分だった。
俺の精子は一ヶ月ほどで売り切れた。誰が購入したのか俺は知らない。知ろうとも思わない。親父は誰だと将来捜されることになったら厄介だけどな。
この前、大地の噂を聞いた。驚いたな。まさかあいつが結婚するなんて。しかも、子供を作ってから結婚したらしい。あいつらしくないよな。あの堅物男が、先に子供を作って結婚だと。世の中想像できないことが起きるもんだな。
高校の頃から、あいつとはライバルのようなもんだった。断っておくがライバルというのは『成績』という意味のみでね。総合評価で行くと、俺の方がずっと上さ。あいつはちょっと変わった野郎だった。女にはもてなかったな。
俺は、学生時代から沢山のゲームソフトを開発してきた。その一つが大ヒットした。あの頃は、不思議なくらい女にもてた。なつみもその一人だ。あの頃は俺自身、ゲームに勝利し続けてた。なつみと結婚してからだ、急に負けが続くようになったのは。なーに、これからだ。大逆転が待ってるさ。
それにしても、いつか、大地の子供を見てみたいもんだな。あいつに似て、ぱっとしない子供なんだろうよ。
【マリアの独白】
大地のお母さんは、知的で優しそうだった。でも、目がちょっとだけ怖かった。今になって思うと、花が大地に似てないから不審に思っておられたのかもしれない。あの頃、私は、自分の間違いに気づいていなかった。だから、花のことを「大地さんの子」と言った。だって、本当にそう思っていたのだから。でも、結果的に私はウソをついたことになる。正直言って気が滅入る。いつか説明しなくちゃいけないのよね。
母親は、最近妙に優しい。以前は、花の顔や髪の毛の特徴をよく口にしてたのに、最近は全然言わなくなった。大地に似てるとか似てないとか、そういうこと一切。かえって不気味なくらい。言っても仕方のないことだと思っているのかもしれない。
なつみからはあれから全然連絡が来ない。忙しいのかな。優さんと結婚した当初はとても幸せそうだったのに、すぐに上手くいかなくなった。結婚式は海外で挙げて、私は出席しなかったから、とうとう旦那さんの顔も知らずに終わった。そのうち会う機会があると思っていたのに。頭が良くて、イケメンだと聞いていた。だけど、ちょっと自己愛の強い人みたいで、話を聞いてて、ちょっとやだなと思ったことを覚えている。別れて正解だったのよ。早くなつみに次の幸せが来ますように。
時々、花のことを考えると落ち込むことがある。だけど、私は一人じゃない。一つ一つ解決していけばいいこと。大地がいてくれるから。彼と協力してこれから二人で色んなこと乗り越えていく。
= 完 =
読者の皆様、長い間、どうもありがとうございました。
非常にデリケートな問題をテーマにしましたので、常に悩みながら話を進めてきました。私自身、少々消化不良の感があります。
しばらくお休みを頂いて、また、全然違うタイプの物を提供したいと考えています。 GFJ
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