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今回は第一護衛艦隊旗艦、つまりは司令長官になった輝龍が初登場します。
さらに久遠達の登場で理宇を取り巻く環境も少しずつ変わっていきます。
永遠の動き、そしてそれを見て輝龍が思う事とは……
少女達のそれぞれの想いがゆっくりと動き出します。
それでは本編の方をどうぞッ!
第八章 第一護衛艦隊 動き出したそれぞれの想い
 第七水雷戦隊が合流した翌日、連合艦隊司令部から艦隊編成命令が下った。予定計画に変更はなく、旗艦を『輝龍』として隷下に第七水雷戦隊を加えた第一護衛艦隊が編成される事となった。編成は以下の通りである。

第一護衛艦隊:旗艦 護衛巡洋艦『輝龍』
 第一護衛戦隊:護衛巡洋艦『輝龍』
 第二護衛戦隊:軽巡洋艦『綾瀬』
  第一護衛隊:駆逐艦『久遠』『永遠』
  第二護衛隊:駆逐艦『悠久』『刹那』
  第三護衛隊:駆逐艦『彼方』『此方』

 現在は護衛巡洋艦一隻、軽巡洋艦一隻、駆逐艦六隻という編成だが、今後は新鋭空母と残る久遠型駆逐艦二隻や補助艦艇として潜水艦や掃海艇などが加わる予定になっている。
 現在、第一護衛艦隊司令長官は決まっていない。正確には人選は終わっているのだが、司令部要員が決まっていないのでその編成を行っている状態。その為、臨時司令長官として旧第七水雷戦隊こと第二護衛戦隊司令官、香取かとり祥一しょういち少将が就任した。
 新司令長官着任までの間、香取司令が第一護衛艦隊を指揮する事になる。現在は香取以下第二護衛戦隊司令部と『輝龍』艦長の富嶽、各護衛隊司令達が『輝龍』の第一会議室で今後についての会議を行っている。
 そして、第一護衛艦隊司令部が話し合う第一会議室の隣、第二会議室では第一護衛艦隊の艦魂達が初めての会議を行っていた。
 上座に座るのは第一護衛艦隊旗艦に就任した輝龍。その隣には第二護衛戦隊旗艦にして第一護衛艦隊艦魂司令部参謀長を兼任する綾瀬が座っている。そして、長テーブルを囲むように座るのは久遠達。総勢八人の新司令部が発足し、今回はその第一回定例会議であった。
「……だ、第一護衛艦隊旗艦に就任した護衛巡洋艦『輝龍』艦魂です。改めてよろしくお願いします」
 司令長官となった輝龍は真新しい士官服を身に纏って緊張した様子でペコリと頭を下げた。通常巡洋艦や軽空母の艦魂は下士官となるのだが、例外的に司令長官や司令職になると士官に格上げされる事がある。輝龍はその異例人事の対象であった。新しい軍服はしっかりと彼女の小柄な体を包み込んでいる。今回はしっかりとサイズの合った軍帽を被っている。
 そんな礼儀正しく頭を下げた輝龍に対して、永遠の拍手を引き金に久遠達も一斉に新司令を歓迎するかのように拍手する。鳴り続ける拍手に輝龍は照れたように小さくはにかむと、そっと席に戻った。そんな輝龍を見て悶える久遠を悠久がさりげなく止めていたりする。
 司令職から参謀に地位を変えた綾瀬は新たに肩に参謀飾緒と呼ばれる金色の縄状の飾り紐を肩に掛けている。第二護衛戦隊司令官には変わりないが、第一護衛艦隊参謀長という役職の方が重要視される。しかし、本人は相変わらず本を読書中だ。
「……え、えっと、綾瀬参謀長?」
「ご心配なさらず。一見すると聞いていないように見えて、司令――ではなく参謀長はちゃんと聞いていますから」
 長年とは言えないまでも、これまでずっと綾瀬の傍で副官として働いてきた永遠。綾瀬の指揮官としての有能さは身をもって知っている。
「……そ、そうですか」
 恥ずかしそうに頬を赤らめて小さくなる輝龍を見て、永遠もフッと口元に笑みを浮かべた。正直司令官としては頼りないが、何だか新しい妹ができたみたいな気分で悪くはなかった。もちろん上官相手の敬語は忘れないが。
 一方、そんな輝龍を別の観点から見詰める少女が一人……
「あぁ〜ん、お姉さん萌え萌えしちゃうわぁ〜ッ」
「……頼むから姉さん、軍法会議沙汰はやめてくれよ?」
 輝龍のかわいらしい姿に身悶えする久遠。頬はほんのりと赤く染まり、熱を帯びた瞳で輝龍を見詰める。そんな姉を見詰め、疲れたようにため息する悠久。少し離れた場所では彼方と此方が目を瞑ったまま無言でいる刹那の陰に隠れて暴走し掛けている姉に警戒心を抱いていた。
「輝龍長官」
「……は、はいッ」
 まだ慣れない長官という呼ばれ方に、慌てて返事をする輝龍。《長官》という自分には重過ぎる役職。でも、それが自分に与えられた使命だというなら、全力でがんばるつもりでいた。
「会議を始めますが、進行は私がやってもよろしいでしょうか? 失礼ながら、長官は説明などが苦手と思われるので、私が代行したいのですが」
 永遠の問いに、輝龍はコクッとうなずいた。彼女の言うとおり、自分は何かを命令したり説明するのが苦手だ。そもそも、誰かと話す事自体が苦手なのだ。それなのに友達がほしいと願ってしまうなんて、無茶苦茶だなぁと内心苦笑した。
 輝龍の許可を得た所で、永遠が今後の事について話を始めた。どうやらこのスタイルが彼女達の議会スタイルらしい。皆慣れたように永遠の説明に聞き入っている。約一名、本を読んでいるがこれでちゃんと聞いているのだからすごい。そして何より永遠は説明がとても丁寧で上手だった。しかも、さすが姉妹と言ったところか。誰かが説明の意味がわからなくなってくると、合図も何もないのに適切な補足説明をしてくれる。おかげで輝龍自身もとても聞きやすかった。
 永遠を中心に会議を進め、重要な決定事項などを自分や綾瀬に確認や許可を求める。会議と聞いて緊張しっぱなしだった輝龍としては荷が軽くなって内心ほっとしていた。
 会議は順調に進んだ。あらかじめ永遠が議題内容を決めたり会議進行のスケジュールなどを緻密ちみつに作ってくれていたおかげだ。
「――では、当面の目標は輝龍航空隊の充実、及び我々第一護衛艦隊各艦の錬度上昇とする。期日は不明だが、第一護衛艦隊司令長官も近いうちにやって来る。新司令長官を落胆させぬよう、各員気合を入れて訓練に励むように。お主達の気合次第で兵の育成状況が変わる事を忘れるな。以上だ」
 そう言い終えて永遠はクルッと振り返って輝龍を見た。突然視線を向けられた輝龍は慌ててしまう。一体何だというのだろうか。
「……解散命令」
 隣に座ってずっと本を読む綾瀬がボソッとつぶやいた。その言葉の意味を理解した輝龍は慌てて立ち上がった。転びそうになったが、何とか耐えた。
「……で、では解散します」

 訓練飛行を終えて着艦した朱雀隊。風防を空けて一時間ぶりに新鮮な空気を吸った理宇は慣れた手つきでコックピットから主翼に降り、主翼から甲板へと降りた。愛機を青葉達整備兵に任せて艦内に向かう。すると、艦内に続く扉が向こう側から開いた。驚いた事に現れたのは輝龍であった。
「お、輝龍ただいま」
「……あ、お帰りなさい天城一曹」
 理宇に声を掛けられた輝龍は疲れた顔を一変させて小さく笑みを浮かべた。身を包むのは第一護衛艦隊旗艦に昇級した為に着る事を許された士官服。士官になった事は告げていたが、士官服姿は初めてであった。
「士官服も似合うじゃん」
「……ありがとうございます」
 彼のいつもと変わらない態度に、内心ほっとした輝龍。士官になったからといって彼が自分と距離を持つようにならないかと不安だったのだが、どうやらそれは杞憂だったようだ。
「どうだった初の会議は?」
「……疲れました」
「ははは、そうか。僕もラバウルの頃は作戦会議に呼ばれた事が何度かあったけど、退屈だったなぁ。ついに居眠りする所だったよ」
「……居眠りはダメですよぉ」
 おかしそうに笑う輝龍に、理宇も安心したように笑みを浮かべた。あまり人前に出るのが得意ではない彼女がいきなり艦隊司令長官という荷が重過ぎる職になった事に、理宇は嬉しさと同時に心配もあった。だが、その心配もあまり深刻ではなかったようだ。
「どうだ? 新しい友達は?」
 すると輝龍はフルフルと首を横に振った。
「……友達って、難しいです」
「まだ友達って言えるほど、お互いの事はわかってないのか?」
 理宇がそう問うと、輝龍はコクリとうなずいた。
 まぁ、そう簡単に仲良くなれる訳がないのだ。それに輝龍と久遠達とでは階級の違いも存在する。彼女の言う《友達》という絆で結ばれるには、まだもう少し時間が必要だろう。
「まぁ、彼女達が友達になるまでは僕がいるし、焦らずゆっくり仲良くなればいいさ」
 そう元気付けると、輝龍は嬉しそうな笑みを浮かべてコクリとうなずいた。その小さくも天使のような笑顔を見ていると、疲れも癒される。
 しばらくすると、輝龍はしきりに理宇に質問を始めた。空の上の事から好きな料理の話までその内容は様々だ。輝龍にとって、最も緊張しないで心から話せる相手は今の所理宇しかいない。だからこそ、この時が楽しいのだ。
 理宇の冗談に小さくも笑みを浮かべる輝龍。改めて見てもやっぱり普通の女の子に見えた。しかし、見た目はそうでも彼女は軍艦の魂。艦魂である。戦う為に生まれて来た、生まれながらの戦姫――しかし、彼女はきっと違うと言うだろう。
 自分は戦う存在ではなく、守る存在だと。
 輸送船団を敵から守る為に生まれた護衛巡洋艦『輝龍』。彼女は自分の役目はそんな輸送船団を守る事だと自覚し、誇りを持っている。そして、自分の役目はそんな彼女を敵機から守る事。
 守るという決意で結ばれた二人の絆。その絆は固く、決して解ける事はないだろう。互いを信頼し合っているからこそ、笑い合える。二人はそんな関係であった。
 時間が経つのも忘れて話し込む二人。一時間か、それ以上話していたのか――実際は十分ほどであったが、突然二人の前で艦魂が現れる際の光がまばゆく迸り、会話が止まった。
 神々しい光が破裂した刹那、現れたのは左サイドテールを風に靡かせた生真面目な少女――永遠。
「……永遠さん?」
「永遠? どうしたんだ?」
 理宇の存在が予想外だったのか、永遠は「えっ」と言ったかと思うと、頬をはっきりと赤らめて生真面目そうな鋭い瞳がはっきりと動揺して泳いだ。
「あ、天城一曹もご一緒でしたか」
「うん。どうしたんだ? 輝龍に用でも?」
「あ、はい。早急に長官の許可印をいただきたい書類があったので、印を押してもらいたく参上した訳ですが――お取り込み中でしたか?」
 なぜか、《お取り込み中でしたか》という部分になった途端、永遠の表情が暗くなった気がしたが、気のせいだろうか。
「いや、別に問題ないと思うけど。なぁ輝龍?」
「……え? あ、はい」
「で、ではこの書類なのですが」
 永遠は手に持っていた書類を輝龍に手渡す。その際、一瞬チラッと永遠は理宇を見た。その視線に理宇は小さく苦笑する。
「あぁ、重要な書類だったら僕は席を外した方がいいみたいだね」
「え? い、いえそんな事は……」
「輝龍、また後でな。永遠もまたね」
 永遠や輝龍の返事を待たずして理宇は早々に別れの言葉をを言うと、艦内に消えていってしまった。彼が入って行ったドアを無言で見詰めていた二人だが、すぐに書類に関しての事務的な会話が始まる。輝龍は永遠の説明にうなずきながら、最終的に印を押した。これで終わりだ。
「では、私はこれで」
 そう言って立ち去ろうとした永遠。だが、突然振り向き驚く輝龍に向かって静かに対峙する。その途端、二人の間に何とも言えない緊張感が漂った。
「輝龍長官、一つおうかがいしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
 輝龍がコクリとうなずくと、「では……」と言ってから一回小さく咳払いする永遠。一体何を訊かれるのかと身構える輝龍に向かって、永遠は訊いた。
「――天城一曹とは、一体どのようなご関係ですか?」
「……へ?」
 何を訊かれるか身構えていた輝龍は永遠の予想外の質問に軽く拍子抜けした。だがじっとこちらを見詰めてくる永遠の瞳に真剣さを感じ、自然と輝龍の表情も引き締まる。
「どうなんですか?」
 無言でいる輝龍に催促するような永遠の言葉。輝龍は彼女の質問に違和感を感じつつも正直に答えた。
「……友達です」
「友達?」
 コクリとうなずく輝龍の真っ直ぐな瞳を永遠はその真意を探るようにじっと見詰める。
「ただのご友人、という事ですか?」
 永遠の確認するかのような問いに、輝龍はコクリとうなずいた。
 理宇と輝龍の関係は《友達》だ。あの煌く星空の下、二人が結んだ大切な絆。ずっと一人だった自分に、初めて心から優しく接してくれたのが彼だった。
 露天船渠で建造中だった頃の自分の楽しみといえば、たまに会いに来てくれる駆逐艦や海防艦の子が持ってきてくれる本だった。どうやら建造中の艦の艦魂に対して本などの娯楽品を与えるのは、日本艦魂界の慣わしらしい。
 だが例え風習や命令であったとしても、彼女達から本をもらった時は本当に嬉しかった。そして、その本が退屈であった建造期間で自分を唯一楽しませくれたものだった。
 そんな本の中にあった《友達》という存在。いつの間にか自分はその存在に憧れを感じていた。どんな時も隣にいて、どんな逆境の中であっても支えてくれる。そして、自分もまた相手を支えられる。そんな互いを信じ合える存在。外の世界を何も知らなかった自分にとって、本の中に描かれた《友達》という存在はとても新鮮で、魅力を感じた。
 だから、竣工して外の世界に出る事ができた自分は、本の中でしか知らなかった友達を求めた。
 しかし、現実はそんなに甘くなかった。
 自分本来の口数の少なさや感情表現が苦手な所に加え、階級の差、護衛巡洋艦という異形の存在などが加わり、輝龍と親しく接してくれた艦魂はいなかった。皆、一度か二度しか会った事のない子達ばかり。本の中での存在しか知らないとはいえ、輝龍はわかっていた――これは友達とは言えない、と。
 自分が理想とする友達は、もしかしたら一生現れないんじゃないか。そんな不安さえあったし、諦めすらも生まれていた。
 ――そんな時、彼が空からやって来た。
 彼と出会えたおかげで、自分は今こうして幸せでいられる。友達という存在となってくれた彼には、いくら感謝してもし切れない。
 自分と理宇を結ぶ絆。それは《友達》という、彼女がずっと憧れ求めていた理想の姿であった。
 輝龍の言葉に対し、永遠はしばし腕を組んで考え込んだ。何を考えているのかはわからないが、今度は輝龍が彼女に対して問い掛けてみた。
「……なぜ、そのような事を訊かれるのですか?」
 輝龍は彼女の問いに対して思っていた疑問をぶつけてみた。なぜそんな事を訊いてくるのか、不思議で仕方がなかった。
「え? あ、いえその……ッ」
 すると、輝龍の問いに対して永遠は突然慌て始めた。「あの……」とか「その……」とかとを繰り返す。心なしか、その頬は赤くなっているように見える。
「あ、いや、長官と天城一曹があまりに親しいような関係に見えたので」
 永遠の言葉に、輝龍はわずかに頬を綻ばせた。だが、その内心は嬉しさが満ち溢れていた。
 自分と理宇は、そんなにも親しく見えるのだろうか。それはつまり、自分と理宇がとても仲がいいという事。周りから見てそう思われているという事は、自分達は本当に仲がいい友達なのだ。
 自分達の絆をほめられた気がして、輝龍は嬉しかった。
 だが、永遠はコホンと一回咳払いして仕切り直した。そして、再び真剣な、しかし頬を赤らめたままの顔で輝龍を見詰める。
「では、長官と天城一曹は別に恋人のような関係ではないと。そういう事ですね?」
「……ふぇッ!?」
 今度は輝龍が顔を真っ赤にする番だった。
 もちろん恋人という存在は知っている。本の中での知識ではあったが、永遠の愛を誓った男女が結ぶ、友達以上に固く神聖な絆の事だ。
 輝龍は真っ赤になった顔を隠すようにうつむいてしまう。
 確かに自分と理宇はとても仲がいい(と思う)男女だ。でもそれは友達という絆で結ばれた関係であって、彼女の言う恋人とは違う。
「……ち、違いますよッ。わ、私達はそんな……ッ」
 頬を赤らめて慌てる輝龍。そんな彼女の反応を見て永遠はほっとしたようにため息を吐くと、小さく笑みを浮かべた。
「そうですか、良くわかりました。変な事を訊いてしまい申し訳ありませんでした」
 永遠はうやうやしく礼すると、そのまま光に包まれて消えてしまった。
 頬を撫でる程度の海風にその長い黒髪を靡かせながら、一人ポツンと残された輝龍はそっと蒼穹の空を仰いだ。涼しい海風が、火照った頬を撫でるのが心地良い。
「……恋人、か」
 興味がない訳ではない。むしろ興味が《ある》か《ない》かと訊かれれば、《ある》と答えるだろう。人間ではない艦の魂である艦魂であるとはいえ、年頃の女の子には変わりない。
 だが、まだ生まれて間もない自分には愛とか恋というのが何なのか、そんな事もわからなかった。男の人を愛する気持ち、男の人に恋する気持ち。それがどんなものなのか、そればっかりは本からでは得られない。そもそも、自分が恋をする姿など想像も出来なかった。
 ふと、一般的に見て男性に好かれる容姿をしている久遠の姿を思い浮かべた。まず恋とか愛というのは彼女のような魅力的な、女である自分から見てもきれいだと思える女性がするものに感じられた。
 本で読んだ事がある。男性というのは胸の大きな女性を好むものだと。確かに彼女の胸は大きくて、柔らかかった。女性として魅力は、確かに胸にあると言えるだろう。
 それに対して自分はどうだろうか。下を見てもほとんど苦労せずに真下を見る事ができる。彼女が山だとするなら、自分は小さな丘といった所だろうか。ないとまではいかなくても限りなく小さな自分の胸に、そっと手を置いてみた。
 これでは世の殿方は魅力を感じないだろう。戦う前から勝敗が決している。胸の大きさが戦力の決定的な違いなのだ。
(……天城一曹は、私の事を《女の子》として見てくれているのだろうか)
 ふとそんな疑問が思い浮かんだ。だが、途端に輝龍は顔を真っ赤にしてその考えを頭から追い出した。
 何を考えているのだろうか自分は。別に自分は理宇に対して色仕掛けをする必要性なんかない。彼との関係は友達であって恋人ではないのだから。
 そう言い切った時、胸の奥がチクリと痛んだ。不思議に思ってそっと手を載せるが、伝わるのは少し早い心臓の鼓動だけ。
 不思議そうに首を傾げるも、一瞬だけの胸の痛みの答えはわからなかった。
 そう、自分と理宇の関係は《友達》。決して恋人ではないのだから……
 そうやって自分に言い聞かせるように《友達》という言葉を心の中で何度も繰り返す。
 ――でも、心の中でそう繰り返すたびにチクリとするこの痛みは、一体何なのだろうか……

「うまうまだぜぇ〜♪」
 廊下を歩きながら幸せそうに顔を綻ばせて悠久が頬張るのはプリッとした純白の白身に程良いとろけ方をした宝石のような黄身がマッチした絶品の半熟ゆで卵。これに塩を軽く掛けて味付けしたシンプルな食べ方が一番おいしい。悠久の大好物であった。
 両手で包むようにゆで卵を持ちながら、うまうまと笑顔で食べる彼女は常の男らしさは身を潜めてかわいらしい女の子の姿に変身させる。
「あぁ、あたし今めちゃくちゃ幸せだぜぇ〜ッ――って、んあ?」
 最後に塩をもう一度掛けて底の部分を思いっきり食べようとしていた悠久の前に現れたのは永遠であった。だが、ちょっと様子がおかしい――何というか、すごく嬉しそう。例えるならそう、ゆで卵を頬張っている時の自分のようだ。
「おい姉さん。何か楽しい事でもあったのか?」
「んなッ!? は、悠久ッ!?」
 どうやら自分の存在に気づいていなかったらしいうっかりな姉に、悠久は苦笑しながら近寄る。もちろん手には至福のゆで卵を構えて。
「よッ姉さん。何だなんだ〜? すげぇ楽しそうじゃねぇか」
「ば、バカを申すなッ! 私は別に平常心そのものだッ」
「へぇ〜、その割にはすごく嬉しそうな表情だったし、軽くスキップもしてなかったか?」
「何とッ!? そ、そんな事は断じてないぞ! そ、それはお主の見間違いだ!」
「一体どうしたってんだ? いつもの姉さんらしくないぞ」
 そう言って永遠の顔を覗き込もうとすると、永遠はプイッと背を向けてしまった。だが一瞬見えただけだったが、彼女の顔は真っ赤に染まっていた。
「どうしたんだ姉さん? 顔真っ赤だぜ?」
「う、うるさいうるさいうるさいッ!」
 顔を真っ赤にしてなぜか怒る永遠は悠久の横を通り過ぎてズンズンと通路の向こうに行ってしまった。残された悠久は「何だってんだ一体……」と姉の異変に首を傾げつつも、すぐにゆで卵を頬張る。すると、当然のように頬は綻び、単純な性格をしている彼女の思考はすぐにゆで卵の幸せ空間を展開し、先程の永遠の異変なんかコロッと忘れてしまう。
「うまうまだぜぇ〜♪」
 おいしそうに半熟ゆで卵を頬張る悠久は幸せそうな笑みを浮かべ、ピョコピョコとやんちゃなポニーテールを揺らしながら永遠とは反対方向の通路の向こうへ消えていった。
大和「艦魂年代史 on the radioォ〜ッ!」

挿入歌:《艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜》イメージソング、『flower of bravery』

大和「日本を考える夏にしよう。今年の総選挙は熱いですねぇ。どうも、戦艦『大和』艦魂、大和です」
長門「どうしたの一体。あなたが政治の話をするなんて」
大和「いえ、今年の総選挙は熱いじゃないですか。自民党の逆風とか民主党の躍進とか」
榛名「まぁ、あれだけ不祥事を起こせば自民党は大ピンチだよな。対する民主党はかなり有利らしいが」
陸奥「作者さんの住む埼玉も全選挙区のうち半数が民主党優勢だそうで、現在は自民党が必死に追撃をしているそうです。対して自民党が優勢なのは二選挙区程度らしいですよ」
伊勢「埼玉は東京の基盤のような場所やからな。両軍共に埼玉決戦は捨てられないはずやけど、なかなか自民党はんは大変やなぁ」
榛名「けどよ、この二大巨党のせいで他の党は与野党関係なく劣勢らしいな」
翔輝「今回の選挙で自民・民主以外で議席を伸ばしそうなのは公明・共産くらいという意見もあるからね」
伊勢「作者はんの地区も自民・公明党は世論の絶大な影響を受ける民主党が相手やからね。大変やなぁ」
武蔵「……作者の周りは、次第に民主党支持者が増え始めている」
大和「そういえば、作者さんはどの政党を支持されているんですか? まだ選挙権は持っていませんけど」
翔輝「作者さんは自民党だよ」
榛名「へぇ、よくもまぁあんな組織に期待できるな」
翔輝「作者さん曰く、「民主党は経験がない上に理想論過ぎて信用できない。民主党は自民党の調整剤という地位が一番適している」だってさ」
長門「それって典型的な《民主党は信用できない》って人達の言い分よね」
大和「まぁ、実際問題民主党は予算を本当に捻出できるんでしょうか? そりゃ無駄を削るのは大切でしょうが、実際の内閣の予算を牛耳っているのは自民党ですから、真実を知らない民主党が寄せ集めの資料でそんな事言っても全然信用性がありませんね」
翔輝「まぁ、だから中には一度民主党に政権を持たせてお手並み拝見って人もいるみたいだけど、この不景気の中でそんな大博打をされてもね」
武蔵「……無茶な事を」
長門「でも、世間的には民主党が圧倒的と言っていいくらいに優勢なのよね。実際、今回の総選挙は民主党が勝つっていう見方が多いらしいしね」
榛名「このままじゃ、本当に民主党が勝っちまうかもな」
伊勢「悪い事はするけど経験豊富な自民党か、いつまでも夢を追い求める民主党か。今年の夏は日本の明暗を分ける戦い、まさに永田町の関ヶ原って訳やな」
長門「ともかく、今年の夏は選挙権のある人はみんな投票所に行きましょう。作者さんも親に自民党に票を入れるように言っておいたらしいし」
陸奥「次回更新の頃には、選挙結果が出ているでしょうね」
大和「さて、一応これで今日のテーマは終わりましたね。では続いては恒例の本編の感想です」
長門「ついに永遠が本格的に動き出したわね。何だか、懐かしい感じがしない?」
陸奥「ま、まぁ最初の頃の私と大和ちゃんの構図に似てなくもないですけど……」
伊勢「初々しいわなぁ」
陸奥「ほんとね。永遠、すっごくかわいいじゃない」
大和「そ、それを言うなら輝龍だって乙女チックでかわいいですよ」
陸奥「そうかしら? 私は永遠を支持するわよ?」
大和「わ、私は輝龍を応援しますッ!」
長門「あらあら、何だか代理戦争みたいな感じになってるわね。お互い、自分と重ねてるのかしら?」
伊勢「翔輝はん? さっきから黙って何してんの?」
翔輝「いや、ここは僕は口を出さない方がいいかなぁって……」
榛名「まぁ、その方が安全かもな」
長門「それにしても、久遠姉妹は本当に色々な子がいるわね。最後に登場した悠久なんか、ゆで卵を本当に幸せそうに食べるのね」
伊勢「いつも男っぽい女の子が時折見せる女の子らしさって、ベタやけど威力あるからな。なぁ榛名」
榛名「なぜそこで俺に話を振るんだ?」
大和「とにかく、次第に私達の時のようなドタバタに向かって輝龍編は進む訳ですね」
翔輝「では、今回はここまでとさせていただきます。さて、ここで皆さんに報告があります。実は九月から作者さんはまだ夏休み中とはいえ忙しくなります。一応ストックがありますが、このラジオはその場の即興で書いていますので、ラジオが書けなくて更新が遅れるという可能性もある事は先に言っておきます」
大和「ストックのないモンハンの方はかなりの確率で遅れる可能性が出ているそうですね」
翔輝「まぁ、とりあえず忙しくても作品自体は続いていきますので、これかもよろしくお願いします。では皆さん、また次回お会いしましょう」
大和「さようなら〜」

武蔵「……今回、出番少なかった」
伊勢「そういう事もあるもんや。気ぃ落とすなや」


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