またしても一ヶ月後の更新ですみません。
今回は艦魂年代史ではお馴染みである宴会編です。意外と伊勢が活躍しますので、彼女に注目しながら読んでください。
では、どうぞ!
第十九章 第三艦隊 優しき先輩達に囲まれて
その夜、新米であり客人でもある輝龍を祝う為、空母『瑞鶴』の会議室で歓迎会が開かれる事となった。
会議室は旗艦である瑞鶴自らデコレーションを施し、ちょっとしたパーティー会場のようになっていた。そこへ第三艦隊本隊の艦魂が勢ぞろいし、皆楽しそうに盛り上がっている。
先程何とか演説を終えた輝龍は緊張の糸が切れたように部屋の隅で待っていてくれた理宇の所を駆け寄ると、甘えるように抱きついた。
「……つ、疲れました」
「お疲れ様。ジュースでも飲む?」
「……じゃあ、ラムネがいいです」
「輝龍は本当にラムネが好きなんだね」
そう言うと、輝龍は頬を赤らめて「……だ、だって、ラムネは天城一曹に初めてもらった頂き物ですから」と小さな小さな声で言った。必死に勇気を振り絞って出した声だったが、どうやら理宇には聞こえていなかったらしい。
「はい、ラムネ」
理宇からラムネを受け取ると、恥ずかし過ぎる空回りに大きなため息を漏らした。
一方、輝龍にさりげなく大打撃を与えた理宇は改めて集まった艦魂達を見回す。集まった艦魂は輝龍達第一護衛艦隊の艦魂の倍近い。これだけ多くの艦魂を一度に見た事がない理宇は珍しい光景に内心少し驚いていた。普通に考えれば、日本海軍だけで何百、何千の艦魂がいてもおかしくないのだが、頭ではわかっていてもやはり軍隊という環境の中でこれだけの女性と接するなんて想像もしていなかっただけあって驚きは隠せない。
「こないな所にいたんか」
そんな所へ掛けられた声に振り向くと、そこには柔和な笑みを浮かべた長髪の美少女――伊勢が立っていた。輝龍は慌てて姿勢を正し、理宇もやはり相手が士官服を着ているだけあって少しだけ緊張する。すると、伊勢はそれをすぐさま見抜き、屈託のない笑みを浮かべた。
「そないに緊張せんでええよ。今日は無礼講やし、ウチは士官服着ててもそないに偉い立場やないしな。仲良くやろうやないの」
「……そ、そういう訳には」
「戦艦『伊勢』といったら、僕よりも年上ですし」
「……天城はん言うたか? あんまり女性に歳の事は話題にしたらあかんで」
笑顔は変わらないが、確実にその瞳は全く笑っていない事に気づき、理宇と輝龍は顔を真っ青にしてコクコクと激しくうなずく。それを見て伊勢は「わかればええんや」と今度こそ本当の笑顔を浮かべた。それを見て、二人はこっそりほっと胸を撫で下ろした。
「ほんで、隣ええか?」
「あ、はい。どうぞ」
「おおきに」
伊勢はにっこりと笑いながら理宇の隣にそっと腰を下ろした。手に持っているの枡には酒が入っているのだろうか、伊勢はそれを両手で包むようにしながら口に傾けてゆっくりと飲む。その飲み方はとても上品だ。
理宇が今まで会って来た女性の中で、伊勢はまさに大和撫子という言葉がぴったりな女性であった。艦齢がずっと上だけあって瑞鶴よりも大人っぽい。均整のとれたプロポーションに心内から出る輝き、真っ白な肌、柔和な笑み、今は軍服だがきっと和服がとても似合うだろう。まさに、大和撫子そのものであった。
瑞鶴もずば抜けた美少女であったが、伊勢もまた彼女に負けないくらいに美しい女性であった。髪をそっとかき上げるその仕草もまた艶っぽい。
これだけの美少女だ、つい理宇が見惚れてしまうのも無理はない。むしろ顔全体でデレデレを出さないだけ彼は偉い方だ。だが、世の中にはそんな言い訳が何の意味も持たない場合がある。それは――嫉妬心だ。
「……」
ぷくぅと頬を膨らませて理宇を睨むのは輝龍。せっかく二人っきりで楽しんでいたというのに、逆らえない立場である伊勢が現れ、何と理宇の隣に座ってしまった。何より、理宇はさっきから伊勢を見てばかり。確かに伊勢は抜群の美少女ではあるが、自分だってそんじょそこらの娘よりかはかわいい女の子……だと思う。
何か、永遠や久遠から始まり今では瑞鶴に伊勢と他を圧倒する美少女が次々に現れ、次第に輝龍は自信をなくし始めていた。本当に自分は、かわいいのだろうか?
理宇が自分以外の女の人に見惚れているのが、何よりの証拠なのだろうか。
だとしても、やっぱり理宇が他の女性に見惚れるのは、とっても嫌だった。
「……」
「うん? 輝龍、どうしたの?」
突然服の裾を引っ張られて理宇は引っ張って来た輝龍に話し掛けるが、輝龍はぷくぅと頬を膨らませて裾を引っ張ってばかり。目が合うと、今度はプイッとそっぽを向かれてしまった。そんな輝龍の態度に、理宇は困惑する。
すると、そんな二人の様子に気づいた伊勢が屈託のない笑みを浮かべた。
「何や、輝龍。やきもち焼いてるんか?」
伊勢の問いは輝龍の本心を見事に貫くものであった。輝龍はボンッと顔を真っ赤に染めると慌てたようにおろおろとし始まる。そんな後輩を見て、伊勢は柔和な笑みを浮かべる。
「安心してぇな。ウチは別に天城はんを取ろうなんて考えてへんから」
「……い、伊勢さんッ!」
「――それに、ウチにはもう心に決めた人がいるんや。その人以外に浮気なんて絶対にせぇへんよ」
その言葉に、輝龍は驚いたように伊勢を見た。まるで自分が見る事がわかっていたかのように伊勢はこちらをじっと笑顔で見詰めていた。その瞳には、自分と同じ炎を見た気がした。
「伊勢さん、彼氏とかいるんですか?」
理宇が問うと、伊勢は「そうやで」と胸を張って自信満々に言った。そんな伊勢に、理宇はちょっとだけショックを受けたり。やっぱり美人に彼氏がいるとわかれば少なからずショックを受けるのは男の本能的反射であろう。
「――と、断言したいんやけどなぁ」
先程までの自信とは打って変わって、伊勢は突然しょんぼりと肩を落としてため息を吐いた。
「ど、どうしたんですか?」
「彼氏って言えたらどれだけ楽か。ウチとその人はまだそんな関係やないんや」
伊勢の力ない言葉に、理宇は何となく彼女と彼女が言っているその人の関係を理解した。どうやら、まだ恋人という関係には発展していないらしい。それも、結構ハードルが多そうな。
「その人、すでに彼女持ちなんですか?」
何気なく訊いたつもりだった。だが、それは伊勢にとってはS-マイン地雷原に竹槍で突っ込むような無謀な突撃であった。
「確かにうちと長谷川はんは付き合うてないけど、だからと言って大和と付き合ってるなんて事は絶対にあらへんッ!」
突然伊勢は怒号を放つと、バンッと床に枡を叩き付けた。その瞬間、中に入っていた酒が飛び散った。その怒号は周りでわいわいと騒いでいた艦魂達を一瞬で沈黙させ、向けられた理宇は恐怖で固まり、他の艦魂よりもずっと近い場所にいた輝龍に至っては涙目になってしまった。
ハァハァと肩を激しく上下にさせて荒い息を繰り返していた伊勢だが、すぐに平静を取り戻すと周りの反応と自分の行動に顔を真っ赤にさせて激しく慌てる。
「か、堪忍してぇな! ちょっと興奮し過ぎただけで、別にあんたを怒った訳やのうて、そのぉ……ッ」
「伊勢さん。気持ちはわかりますがあまり騒がないでください。酔っ払ってるんですか?」
そんな大人な対応で近づいてきたのは第三艦隊旗艦である瑞鶴。伊勢よりもずっと年下で、ギリギリ戦前生まれという海軍では比較的新人の部類に入るはずなのに、やはり司令長官ともなると風格が違うらしい。
瑞鶴に軽く怒られ、伊勢は「そないに酔ってはないんやけどなぁ」と笑って誤魔化す。そんな先輩を見て瑞鶴は小さくため息すると、駆逐艦の子に水を頼む。すぐに駆逐艦が水を持って来て、瑞鶴はそれを伊勢に渡す。
「あまり乱れないでくださいね。あなたは我が第三艦隊最古参の艦魂だという事を忘れないでください」
「……事実やけど、そないに年寄り扱いせぇへんでくれへんか?」
最古参という言葉に、伊勢は激しく落ち込む。女性にとって、《若い》というのは掛け替えのない宝物なのだ。だから、歳の事は決して女性に言ってはいけない。これは古今東西共通の掟だ。
瑞鶴も自分の失言に気づき、先程までの指揮官としての風格が消えて慌て始める。そんな彼女を置いて、伊勢は「ウチに足りんのは若さなんか? 軍艦の二〇代は、人間で言う還暦なんかぁ?」と言い出す始末。
落ち込む伊勢を見て、理宇は慌てて励ます。
「そんな事ありませんよ! 伊勢さんはとてもきれいで魅力的な方ですからッ!」
その言葉にうつむいていた伊勢は顔を上げ、少し涙に濡れた瞳でじっと理宇を見詰める。その妙に色っぽい視線に、理宇はドキッとする。
「ほんまかぁ? ウチ、お婆ちゃんやないんか?」
「そんな事ありません! 伊勢さんは本当に美人です! きっとその人も、いつか伊勢さんの魅力に惹かれる時が来ますよッ!」
理宇の言葉に、伊勢は嬉しそうに顔を綻ばせた。その笑顔は、まだまだ乙女心全開の伊勢が浮かべた少女の部分での、心からの笑みだったのかもしれない。
「おおきに。あんたのおかげでまた自信が持てたで」
「そんな、僕は別に……」
「危ない危ない。長谷川はんより先にあんたに会ってたら、ウチきっと惚れてしまってたで?」
「伊勢さんだったら大歓迎ですよ」
「あんた、ほんまおもしろいなぁ。そや、杯でも交わそうや」
そう言って伊勢は酒瓶と空いているコップを手に取ると、なみなみと日本酒を注いで理宇に渡す。理宇はあまり酒は得意ではなかったが、美人のお酌を無碍にする事はできない。それが日本男児というものだ。
「ほな、ウチらの出会いに乾杯や!」
「乾杯です」
コップと枡がぶつかり、きれいな音を立てる。そして、二人はなみなみと注がれた酒をグイッと飲む。だが、やはり酒が得意ではない理宇は一気飲みはできず、伊勢も半分くらいしか飲めなかった。それでも、二人は笑顔を浮かべる。
瑞鶴はそんな二人を見て優しく微笑んだ。ふと、そういえば理宇の後ろに隠れていた輝龍の方へ視線を向けると……一人で寂しくラムネを飲んでいた。いつの間にか涙目なっている瞳が見詰めるのは、楽しそうに伊勢と話している理宇。それを見て、瑞鶴は小さく苦笑した。
「……天城一曹。あなたのお姫様がふて腐れてますよ」
その言葉に理宇が振り向くと、輝龍はプイッとそっぽを向いてしまう。どうやらかなりご機嫌が斜めらしい。伊勢はそれを見て全てを悟ったのか、小さく笑みを浮かべると「ほんじゃ、ウチらは他の艦魂の激励に向かうで。邪魔したな」と言って瑞鶴と共に去った。それが彼女なりの配慮だと気づける者は、今のここにはいない。
二人がいなくなり、理宇は自然と輝龍の方へ近づく。だが、輝龍はプイッとそっぽを向いたまま一切こちらを向いて来ない。どうやら完全にふて腐れてしまったらしい。理宇は困ったように頬を掻く。
「どうしたんだよ輝龍。何をそんなに怒ってるのさ」
「……怒ってなんかいません」
「怒ってるじゃん」
「……怒ってません」
輝龍はそこで初めて理宇を見た。その瞳が薄っすらと濡れている事には、さすがの理宇だって気づく。理宇は特に何を言うでもなく輝龍の隣に座ると、再びそっぽを向いてしまった輝龍の頭をそっと撫でる。輝龍はそれを振り払う事も文句を言う事もなく、黙って受け続ける。
嫌がられる事も覚悟していたが、輝龍が受け入れてくれた事に理宇はほっと胸を撫で下ろす。どうやらこうしている限りは機嫌は直ってくれるかもしれない。
一方、輝龍もまた理宇からは見えない位置でほんのりと頬を赤らめて嬉しそうに微笑んでいた。どうやらすでにすっかり機嫌は直ったらしい。何とも純粋無垢な子だ。
そんな二人を遠くから見守っていた瑞鶴と伊勢は互いに顔を見合わせると、そっと笑みを浮かべ合った。
「瑞鶴長官」
その声に振り返ると、癖のない長髪に知的な細メガネを掛けた士官服の少女が立っていた。瑞鶴は少女を見ると柔和な笑みを浮かべる。
「どうしたの、大淀?」
大淀と呼ばれた少女は大淀型軽巡洋艦一番艦、軽巡洋艦『大淀』の艦魂。潜水艦部隊を率いる事を目的にした特異な巡洋艦であり、戦前の艦隊決戦思想では重要な位置にいた艦である。しかしいざ始まってみると戦争は航空機が主力となり、艦隊決戦は夢と消えた。
目的を失い、対空兵装の少なさから艦隊から浮いていた『大淀』。そんな『大淀』を一躍有名にしたのが指揮艦としての優れた通信能力の高さからマリアナ沖海戦前から約五ヶ月間という短い間ながらも連合艦隊期間に就任した事だ。巡洋艦が連合艦隊旗艦になるのは日清戦争時の防護巡洋艦『松島』以来の事であり、就任した当時多くの巡洋艦が仲間の大出世に狂喜乱舞したものだ。
その後、連合艦隊司令部はより通信機能の整った陸地へと移動。『大淀』は連合艦隊旗艦の任を解かれた。
軽巡洋艦『大淀』は日清戦争以来初連合艦隊旗艦となった巡洋艦という栄誉を与えられたと同時に、最後の連合艦隊旗艦という悲しき責務を負う事となった。
そんな『大淀』の艦魂は元々事務仕事を得意とする補佐に優れた艦魂であり、実はあまり指揮官向きではない。現在は第三艦隊艦魂司令部の参謀として瑞鶴の補佐を行っている。
巡洋艦は下士官なのだが、大淀は一度短い期間とはいえ連合艦隊旗艦となった経歴を持つ為今も士官服を着る事が特例として許されている。
「すみません、お話がありまして。司令部の方へ戻ってほしいのですが」
「わかったわ。すぐ行く」
そう言うと、瑞鶴は伊勢に向き直る。伊勢は「あとは任しとき」と言ってニパッと笑った。その笑顔に瑞鶴も笑顔で敬礼すると、大淀と共に消えた。それを見て、伊勢は小さく苦笑する。
「ほんま、指揮官ってのは大変やなぁ」
その頃、輝龍と理宇はようやく仲直りができたらしくラムネを片手に話し込んでいた。
やっと理宇と二人っきりで話す事ができ、輝龍はとても上機嫌。あまり人前で笑顔を見せない彼女にしては珍しく嬉しそうに笑みを浮かべ続ける。そんな輝龍を見て理宇もまた自然と笑みを浮かべ、二人は周りから見てとてもいい感じに見える。
周りの駆逐艦などの艦魂も、最初こそ珍しい自分達が見える理宇に近づこうと頃合を見計らっていたが、輝龍の幸せそうな笑顔を見ているうちにそんな野暮な事はやめようと暗黙の了解で手出ししない事にしていた。第三艦隊の駆逐艦は、皆とても仲間想いの強い子達なのだ。
だが、世の中にはその暗黙の了解を理解できていない子。つまり空気の読めない子というのがいる訳であって……
「あまりゃぁんッ!」
「うわッ!?」
突然後ろから誰かに抱きつかれ、驚く理宇。振り返ると、そこには見知らぬ少女が抱きついていた。外見は彼方と同じくらいで柔らかな髪をやんちゃなツインテールに整えたかわいらしい少女だ。
「ねぇねぇ、一緒に遊ぼあまりゃん!」
「あ、あまりゃん?」
「こ、こら霜月! 天城一曹に何て無礼を!」
霜月と呼ばれた少女はその声にぷくぅと頬を膨らませながら振り返ると、そこには慌てた様子の長髪の少女が立っていた。年の頃は瑞鶴と同じくらいだろうか。
「申し訳ありません、妹が迷惑をお掛けして」
「えっと……」
「申し遅れました。私は秋月型駆逐艦一番艦、駆逐艦『秋月』の艦魂です。そして、今一曹の背中に抱きついているのは私の妹、七番艦『霜月』艦魂、霜月です」
「霜月で~す!」
霜月は理宇に抱きつきながら元気良く答えた。そんな霜月を見て秋月は呆れたようにため息する。
「霜月。天城一曹に迷惑を掛けてはいけません。すぐ離れなさい」
「ヤダぁッ!」
「霜月ッ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ。そんなに怒らなくても……」
「そういう訳にはいきません。天城一曹は我らの大切な客人、無礼は決して許されません」
秋月は断固として曲がる気はないようだ。その堅物さは、どこか永遠に似ている気がする。ふと、永遠達の事を思い出した時、ある事に気づいた。
「秋月って、確か防空駆逐艦だっけ?」
「え、えぇ。長十cm砲を四基搭載している事からそう呼ばれる事もありますが」
突然の問いに秋月は不思議そうに首を傾げる。そんな彼女を見詰めながら、理宇はフッと笑みを浮かべた。初めて会った時からどことなく初めて会った感じがしないと思ったら、こういう事だったのだ。
「って事は、永遠達とは親戚のようなものか」
「永遠、ですか?」
「知らない? 久遠型駆逐艦っていう君達秋月型駆逐艦の強化発展拡大型の駆逐艦なんだけど」
「……名前だけなら。直接の面識はありませんが」
「永遠達も長十cm砲を四基搭載した防空駆逐艦なんだ。まぁ、対艦能力は秋月型以上、対潜能力は日本海軍随一の能力を持ってる……って、前に永遠が豪語してたけど」
「確かに、久遠型駆逐艦は私達秋月型駆逐艦の親戚のような関係です。ですが、会った事のない方々となると親戚と言われてもピンと来ませんが」
「まぁ、そうだろうけど。おかげで何だか初めて会った気がしないんだよね、秋月と霜月って」
「そ、そうですか」
「あまりゃんすご~い! 堅物な秋月お姉ちゃんを丸め込んじゃったッ!」
「ッ!? そ、そういう事だったのですかッ!?」
「いや、違うから」
理宇は呆れながらツッコミを入れながらも、やっぱりどこか永遠達に似ているなぁと心の中で思っていた。別段特に長い間離れている訳ではないが、今まで毎日のように顔を合わせていただけあって、いざ離れてみるとなかなか寂しいものだ。
「というか、あまりゃんって何?」
「す、すみません。このダメ妹はどうも人の名前をおちょくる癖がありまして」
「おちょくってなんかないもん! かわいい名前をつけているだけだもん!」
未だに理宇に抱きつきながら霜月はプンプンと怒る。何となく、この子は彼方と此方を足して二で割った感じの子だなぁと内心思う理宇。こういうタイプの子は初めてだ。
「と、とにかく天城一曹に対して失礼です。即刻姿勢を正してお詫びを申し上げなさい」
「だが断る!」
「し、霜月~ッ!」
「ま、まぁ落ち着いてよ秋月。僕は気にしてないからさ」
「し、しかしッ」
「えへへ~、あまりゃんかっこいいッ!」
そう言って霜月は甘えるように理宇により一層強く抱きついた。
艦魂達にとって自分達が見える人間というのは本当に数少ない。それこそ三桁もいないだろうと言われている程に少ないのだ。艦魂の中には自分達が見える人間と出会わずに艦生を終える者も少なくない。その為、いざ会えると本能的に大喜びしてしまう者が大半なのだ。
霜月達の艦隊には剣がいる。だが、剣は瑞鳳と千歳の強い警護がある為に下っ端である駆逐艦などはなかなか触れ合える事が少ない。そこへ理宇がポンと無防備に現れたのだから、構いたくなるのも当然の反応だ。先程から遠巻きに駆逐艦達が理宇の事を興味深そうに見詰めたり、どこか熱っぽい視線を向けているのはそれが原因だ。
秋月は疲れたようにため息を吐くと「天城一曹がそこまで言うなら……。霜月、一曹に迷惑を掛ける事だけは絶対にしてはなりませんよ」と折れた。
「は~いッ」
「本当にわかってるのかしらこの子……」
「あ、あははは……」
秋月は諦めたように「それでは天城一曹。妹をよろしくお願いします」と言って他の妹達が待つ駆逐艦の輪の中に戻って行った。それを見て霜月はより一曹理宇に甘え始めた。
「私こうやって人間と話すの初めてなんだぁ」
「大空中尉とは話した事ないの?」
「無理だよぉ。瑞鳳と千歳の防衛線はマジノ戦線よりも強固なんだもん」
「そりゃまた難攻不落そうだね」
「一度ドイツに倣って電撃戦をしてみたんだけど、失敗しちゃったし」
「電撃戦? 突撃でもしたの?」
「ううん。高圧電流銃」
「そっちの意味の電撃なんだね……」
「だから人間と話す事なんて夢のまた夢って諦めてたんだぁ。だからあまりゃんが来てくれて夢が叶っちゃった!」
そう言って霜月は無邪気に笑った。その笑顔は本当にかわいらしい、見た目の年齢に合った少女のそれであった。
秋月型は量産型駆逐艦である松型駆逐艦と実験艦である『島風』をを除けば駆逐艦最後の艦級。そこから派生したのが工期短縮で一部簡略化された冬月型、そして日本海軍駆逐艦史上最強と謳われる久遠型である。
いずれも戦中生まれであり、平和だった頃の日本を知らない子ばかりだ。生まれてすぐに戦場に投入され、先輩などから教えられた祖国を守る為に日夜鬼畜米英と激しい戦闘を繰り広げている。
戦いの中で生まれ、戦いの中で命を落とす彼女達。そんな運命にあるというのに、霜月はそんな辛い宿命を感じさせないほどに無邪気だった。しかしそれが生まれたばかりだから戦争が普通の日常と思っているからなどと思うと、心苦しい。
せめてもの救いは、彼女が戦争以外で見つけた夢というのを自分が少しでも叶えられた事だろう。この笑顔は、本当に幸せを感じている時にしかできない本物の笑顔だ。
霜月や輝龍を見ていると、時々ふと思ってしまう。
なぜ艦魂は皆若い乙女ばかりなのだろうか。戦う軍艦なのだから男というのが本来の筋だろう。なのに、なぜ戦いには巻き込んではいけない女、それも子供が多いのだろうか。
同型艦を姉妹艦と呼ぶのは、艦魂の存在が影響したものなのか。それとも姉妹艦というのが艦魂を女性にしたものか、よくはわからない。
神とか仏とかがそんな事を決めたというなら、一度会って顔面をぶっ飛ばしてやりたくなる。「戦争に女子供を巻き込むなッ! 銃を持って戦うのは僕達男で十分だ!」そう怒鳴ってやりたい。
周りを見渡せば、多くの艦魂達が楽しそうに談笑している。姉妹や仲間を失っている者は決して少なくないだろう。彼女達を戦争に巻き込み、悲しみと憎しみに染めていく――艦魂とは、一体何なのだろう。
「あまりゃん?」
その声にハッとなって現実に戻った理宇。声のした方を見ると腕にしがみ付いている霜月が怪訝そうな顔をしていた。どうやらまた変に考え込んでしまったらしい。最近、こんな事ばかり気になってしまう――どんな運命であれ輝龍達との絆は変わらないというのに。
「大丈夫? 気分悪いなら衛生兵を呼ぼうか?」
「いや、平気だよ。ちょっと考え事があってね」
「むぅ、私を無視して考え事をするなんてあまりゃんひど~い!」
「ご、ごめん」
プンプンと怒る霜月だったが、すぐにニパァと明るく無邪気な笑みを取り戻すと理宇の腕にギューっとさらに強くしがみ付いた。ほんと、喜怒哀楽が豊富な子だ。
「頭撫で撫でしてくれたら許してあげるぅ~。撫でて撫でて~」
「それくらいなら」
理宇は特に気にした様子もなく頭を近づけてくる霜月の頭を撫でた。理宇に優しく頭を撫でられる霜月は頬を赤らめながらとても幸せそうな笑みを浮かべている。そんな愛らしい霜月の姿に、理宇もまた嬉しくなる。
周りの駆逐艦の子達もそんな二人の姿をとても幸せそうに見詰めていた。さっきはあんなに色々と言っていた秋月も妹の幸せそうな笑みを見ると自身もまた嬉しそうに笑みを浮かべている。
そんなまるで兄妹のような二人を駆逐艦や巡洋艦達は見守るように見詰めている。そんな中、周りとは対照的に二人の姿を見詰めている者がいた――輝龍だ。
至近距離で仲のいい兄妹のように接している二人の姿に、輝龍は胸が苦しくなった。
瑞鶴や伊勢はスタイルもいいし美人だから仕方ないと言えば仕方ない(それでも嫌だが)が、霜月は自分よりも幼い。胸だって自分よりペッタンコだし、何より言動も行動も子供っぽい。負ける要素なんて絶対にないはずなのに、自分以上に理宇とあんなにもくっ付いている。その現実に、輝龍は泣きそうになった。
第三艦隊へ来てすばらしい先輩艦魂に会えた嬉しさと、ずっと理宇を取られてばかりの悲しさ。相反する想いに右往左往しながら、輝龍は再び拗ねてしまった。
霜月の頭を撫でて二人して笑顔を咲かせている理宇と霜月、そんな二人に背を向けてわかりやすいくらい唇を尖らせて拗ねている輝龍。そんな三人を見て伊勢は小さく苦笑を浮かべた。
「ほんま、よぉ似とるなぁ」
どこの世界でも艦魂と人間の関係はこんな感じなのだろう。何というか、拗ねている輝龍が自分に似ているようでつい応援したくなってしまう。
後輩にいい格好を見せる為にも、今度彼に会ったら直球勝負をしようと心に決める伊勢。
「待っとってな長谷川はん。ウチだっていつまでも大和や武蔵には遅れは取らんでぇ」
一人気合を入れる伊勢を、妹の日向が微笑ましく見詰めていた。
ちょっと行動がやり過ぎだという事で霜月は秋月に首根っこを掴まれて連行され、再び理宇と輝龍は二人っきり。だが先程の霜月の乱入ですっかり輝龍はふて腐れてしまい、理宇がいくら声を掛けても輝龍は無視するばかり。まぁ、頭を撫でろと言わんばかりに顔をすり寄らせて来る所を見ると然程深刻にはふて腐れてないのだろう。
理宇は輝龍の頭を撫でながら、楽しげに話したり笑ったり、中には歌い出す艦魂達を見詰める。ほんと、平和というものはこういうのを言うのだろうと改めて思う。
「おぉ、やってるかぁ」
そんな部屋の中に一人の男が瑞鶴と共に現れた。第三種軍装を纏いながら現れた男は満足げに辺りを見回し、理宇の姿を見つけると瑞鶴と何事か話した後、近づいてきた。
明らかに自分よりも階級が上の男に、理宇は慌てて立ち上がって敬礼した。その時すっかり身を任せていた輝龍が突然支えを失ってころんと転がった。突然離れた理宇を恨めしげに見詰めた後、彼女も瑞鶴の姿を見て慌てて立ち上がって敬礼する。
そんな二人を見て瑞鶴はくすくすと笑う。二人は恥ずかしくて顔をカァッと赤らめる。
「くつろいでた所ごめんなさいね。どうしても紹介しておきたい人がいたから」
そう言って瑞鶴は自分よりずっと背丈の高い男を見て微笑んだ。
「紹介するわ。この人は私の艦長を務めてくださっている貝塚武男大佐よ」
「貝塚だ。瑞鶴から話は聞いている、一護艦のエースパイロットと聞いていたが、まだまだ子供だな」
突然自分よりずっと上の階級である大佐の登場に、理宇は慌てふためく。
「だ、第一護衛艦隊旗艦輝龍航空隊所属、天城理宇一等飛行兵曹です!」
緊張しまくる理宇を見て、貝塚は「技術は一人前でも、軍人としては半人前だな」と言って笑った。何となくバカにされているような気がしないでもないが、今の理宇はそれどころではないのだ。
「艦長、こっちの子が彼の乗る護衛巡洋艦『輝龍』の艦魂よ」
「……第一護衛艦隊旗艦、護衛巡洋艦『輝龍』艦魂、輝龍です」
その点輝龍は一応人間で言えば大将なだけあって平常心を保っている――ように見えるが、実際は狼狽する事も忘れてしまうほど慌てふためいているのだ。
「ほぉ、一護艦の旗艦はずいぶんしっかりしているようだな」
フリーズしているのを余裕の表れだといい意味で勘違いし、「どこかのお転婆娘とは大違いだな」と笑いながら瑞鶴をからかう貝塚。その言葉に瑞鶴は唇を尖らせる。
「すみませんねぇ、いつまで経っても子供っぽくて」
「冗談だ。そんなに怒るなよ、それこそ子供っぽいだろ」
「知りませんよそんな事」
すっかりふて腐れてしまった瑞鶴に貝塚は困ったように苦笑を浮かべながら頭を掻いた。そんな二人を見て、理宇と輝龍は少し驚いていた。あんなにも大人な雰囲気を纏っていた瑞鶴が貝塚の前だと見た目の年相応の女の子みたいな反応をしている。何というか、裏表が結構あるタイプらしい。
自分をじっと見詰めている二人の視線に気づいた瑞鶴は頬を赤らめたままコホンと咳払い。その動作に笑った貝塚の脇腹に肘を突き入れ、真剣な顔で対峙する。
「これで私が紹介しなくてはならない第三艦隊の主だった面々は終了したわ。これからよろしくね、輝龍長官」
「……は、はい」
瑞鶴の圧倒的な指揮官としての風格にすっかり呑まれてしまっている二人。だが、思い出してほしい。理宇はともかく輝龍は一応名目上は瑞鶴よりも階級は上である。なのに、これではまるで逆であった。
しかし、まさか艦魂が見える艦長にまで会えるとは。第三艦隊はすごい所だと改めて驚く二人。新米ばかりで編成されている上に規模も小さな第一護衛艦隊にはこれを上回るような隠し玉など――あった。
「……あ、あの」
自信なさげに手を上げた輝龍。その声に瑞鶴をからかっていた貝塚が振り向いた。
「どうした?」
「……我が艦隊にも、あと一人艦魂が見える方がいます」
「そうなの?」
貝塚と瑞鶴は驚いたような表情を浮かべるが、輝龍の突然の発言に一番驚いているのは彼女の隣にいた理宇であった。そんな事初耳である。
「僕以外に艦魂が見える人が『輝龍』にいるの?」
「何だ、君も知らなかったのか?」
「……天城一曹にはまだ教えていませんでした。その点に関しては申し訳ありません。ですが、相手が相手故になかなか紹介する機会がなかったのです」
理宇に隠し事をしていた事はとても罪悪感を感じるが、そもそもわざわざ彼に言う事ではないし、なかなか紹介する機会がなかったというのも事実だ。
「それで、どんな人なの?」
「……待っててください、今呼んで来ますので」
そう言って輝龍はペコリと頭を垂れると、光に包まれて消えた。
小沢との話し合いも終わり、一人長官室に戻った鷲は窓を開けて海風に当たりながらラムネを飲んでいた。とりあえず艦載機の目処は立ったので、久しぶりにゆっくりとできるのだ。
今日は満月。この月は世界中どこで見上げても決して変わらない。きっと、横須賀にいるあいつも見上げているだろう。そんな事を思いながら、鷲はラムネを飲む。こういう時は日本酒とかの方が絵になるのだが、どうも酒は舌に合わない。おかげでよく海軍のお偉いさんとの宴会なんかでは苦労したものだ。
やっぱりラムネが一番。そんな事を思いながら月見しつつラムネを飲んでいると、部屋のドアがノックされた。こんな時間に誰だと思いながら、鷲は「入れ」と短く声を掛ける。
ドアがゆっくり少しだけ開くと、そこからピョコという具合に見知った少女の顔が飛び出て来た。それを見て鷲の口元に自然と笑みが浮かんだ。
「やぁ、君か」
「……夜分遅くにすみません」
「構わんよ。入ってくれ」
鷲に部屋に招き入れられた輝龍はドアを閉めるとペコリと頭を垂れた。そんな彼女の律儀な態度に鷲は笑みを浮かべると余っていたラムネを手に取る。
「どうだ? この老いぼれに一杯付き合ってはくれんか?」
「……ご冗談を。鶴鷺長官はまだまだ若いです」
「そう言ってもらえると助かるよ。最近すっかり体力も落ちていたからな」
鷲はそう言いながら笑うと、窓から離れてソファに腰掛けた。ずっと立っているのも疲れるようになった所なんかは、年取った証拠だろう。若い頃はこのくらいなんて事なかったのに。改めて年は取りたくないと思う。
ソファに腰掛けた鷲はいつまでもずっと立ちっ放しでいる輝龍を見て首を傾げた。いつもならこちらが言わなくても勝手に「……失礼します」と言って座るのに。最初の頃はこっちが座るよう言わなければずっと立ちっ放しであったが、今では時々一緒にお茶をしたりするせいかそういうのが習慣になっていたのだが、これではまるでその頃に戻ってしまったかのようだ。
「どうした?」
「……あの、今日は鶴鷺長官にお願いがあって参りました」
「お願い? 何だ?」
「……今、第三艦隊旗艦『瑞鶴』の一室で私と天城一曹の歓迎会を瑞鶴さん達が開いてくださっています」
「まったく、今も昔も艦魂と言うのは宴会好きなのだな」
鷲は遠い昔に自身もまた同じように仲間達と一緒にバカやりながら徹夜宴会をした事を思い出す。あれからもう何十年も経っていて、軍艦の燃料も石炭から石油に代わり、軍艦の形状も戦い方も変わった現代でもそのバカ騒ぎは変わらないのだと思うと笑ってしまう。
「……そこで、ぜひ鶴鷺長官にも来ていただきたいのです」
「俺がか?」
輝龍の突然の誘いの言葉に、鷲は飲んでいたラムネを一端テーブルの上に置いた。そんな彼の動作に輝龍はビクッと怯えたように震えると、慌てて言葉を続ける。
「……せっかくの宴会です。長官にもぜひ来ていただきたいと思い、参上した次第です」
「そうか。わざわざすまなかったな。だが悪い、俺はやめておくよ」
「……な、なぜですか?」
当然来てもらえるものと思っていた輝龍は驚いたように鷲を見詰める。その視線に対し、鷲はフゥとため息を吐いて小さく首を横に振った。
「俺は二〇年近く艦魂達とは接して来ていない。今更現代を生きる彼女達に会う必要はないし、迷惑になるだけだろう」
「……そんな事ありません。皆、きっと長官の事を歓迎してくれます」
「ありがとう。だが俺はもう過去の人間だ。日露戦争と今の大東亜戦争が全く違うように、今を生きる艦魂達も俺の知っている昔の連中とは違う。そんな過去の存在が今更誰も知らない中に飛び込んでも浮くだけさ」
「……しかし」
「いいんだ。それに、俺にはお前や永遠といった第一護衛艦隊の艦魂達がいる。それだけで十分さ」
「……鶴鷺長官」
そう。もう二〇年だ。二〇年もの間自分は艦隊勤務を離れていた。それはつまり二〇年もの間艦魂達とは全く接していなかったという事だ。正確に言えばその期間の中で何度か艦に乗る機会はありその時には艦魂達と会ったりはしたが、そんなの数に入らない程度に長い間自分は海を離れていた。
軍艦だって日露戦争の頃と今とではずいぶんと世代交代をしてしまっている。今の海軍の艦魂達は自分の知らない者達ばかり。今更、自分のような過去の存在が出る必要なんて――
「――過去か。せやけど、過去から今までずっと現役の軍艦やっているんやで?」
その突然の声に驚く二人が振り返ると、ドアの前に眩い光が収束するのが見えた。光の粒子が集まり、人の形を形成する。そして、パンという具合に光が破裂すると、そこには美しき黒髪を流した大和撫子――伊勢が立っていた。
伊勢は少し乱れた髪を手で軽く直すと、驚く鷲を見てニッコリと微笑んだ。
「久しぶりやな、鶴鷺はん」
「伊勢か……」
突然の伊勢の登場に戸惑う輝龍に対し、伊勢の姿を見た鷲は昔の友人に久しぶりに会ったように懐かしそうな笑みを浮かべた。それもそのはず、伊勢と鷲は知り合いなのだから。
空母や巡洋艦、駆逐艦などと違い戦艦は比較的長い年月現役として生きる。特に二度に渡る軍縮条約の影響で新鋭艦を建造できなかった日本海軍は他の欧米列強よりも旧式戦艦を何度も改造してその時々の最新設備を増築して近代化し続けている。それはつまり、他の軍艦よりもずっと長い年月を生きる事にもなる。
他の艦がすっかり世代交代していても、戦艦である彼女は変わらずに今も現役。そして鷲と伊勢、共に若い頃はよく一緒に笑ったり飲んだりして日本の行く末を語り合った仲であった。
「三笠元帥は今も元気にしてはるか?」
「あぁ。二ヶ月前に会った時は四〇歳を超えた婆さんにしては元気にしてたぞ」
「そないな事言ってええんか? 元帥に怒られるでぇ?」
「良くわかったな。実際に言ったら鬼神に変貌してボコボコにされたぞ」
「アホかッ! 恋する乙女になんて繊細さの欠片もない発言しとんねんッ! あんたほんま相変わらずやなぁ」
「お前も相変わらずって感じだな。昔と全然変わってない――いや、少し大人っぽくなったか」
「ウチかて日々成長しとるんやから当然や――ただ、最近はもうこれ以上成長しなくていいと思ってるけどな」
そう言って伊勢は自虐的な笑みを浮かべた。女の子に年の話はしてはいけないという先程の彼女の発言を覚えている輝龍はあわあわと慌てるばかりだ。
「……そうか。第三艦隊にはお前がいたんだな」
「ウチだけやないで。日向や多摩、五十鈴もおるで」
「あいつらもいるのか」
伊勢が名を上げた多摩と五十鈴はどちらも大正生まれの旧式軽巡洋艦であるが、現在も新鋭軽巡洋艦の少なさから現役として活躍している艦であり、鷲とも短い期間ではあったが親交のあった二人だ。
第三艦隊だけで鷲の知り合いは四人いた。日本海軍全体なら、もっとたくさん彼を知っている人がいるだろう。確かに彼の言うとおり世代交代で多くの艦魂が彼を知らないし、彼もまたその大勢の艦魂を知らない。でも中には伊勢のように彼を覚えている艦魂だって大勢いるのだ。その事実に、輝龍は小さく微笑んだ。
「……長官は決して過去の存在なんかじゃありません。今も私達の掛け替えのない仲間です」
「せやで。一緒に杯を交し合った仲やないか、今更水臭いっての」
そう言って伊勢もまた優しく微笑んだ。そんな二人の笑顔に、鷲もまたフッと口元に小さな笑みを浮かべる。何というか、この純真無垢さが艦魂のいい所であり、懐かしい所だ。この二〇年、様々な思惑が渦巻く権力者と言う名の人間達とばかり相手にしてきた鷲にとって、ただ仲間の為だけに一生懸命になれる輝龍や伊勢のような艦魂達はすっかり眩しい存在に変わっていた。昔はきっと自分もあんな眩しさがあったのだと思うと、自分もずいぶん染まってしまったらしい。だが、だからこそ懐かしいと思えるのだ。
「ほな、さっさと行くで。いつまでも待たしとったらあかんしなぁ」
そう言うと伊勢は鷲に近寄って彼の手をグイッと引っ張った。艦魂は人間以上に力を持っているので大の大人くらい簡単に引っ張れる。一方急に引っ張られた鷲は勢い余って少しよろけてしまった。それを見て、伊勢は苦笑を浮かべる。
「ほんま、二〇年は長かったな。あんたもすっかり老いたな」
「そういう意味では艦魂が羨ましいよ」
「そうか? ウチは人間の方が羨ましいで。どこにでも行けて、たくさんのものを見れて、知れて、自分の行くべき道を決められる――何より、自分で死に場所を選べるやないか」
「伊勢……」
「そないな顔するなや。ウチはまだまだ死ぬ気はさらさらないで。ほら、さっさと行くで」
「ちょっと待て。俺はまだ行くと決めた訳じゃ――」
「何言っとんねん。男なら一度決めた事は死んでも突き通せや」
「いや、だからそもそも決めた訳じゃ――」
「ほな、一名様ごあんな~い」
「お、おいッ――」
半ば強制的に鷲を連行して彼と共に伊勢は消えた。一人残された輝龍は自身もまた戻ろうとした時、テーブルの上に置かれた英雄王三笠の写真が目に入った。
凛とした雰囲気を纏いながら、全てを見据えているかのような真っ直ぐな瞳。本当の英雄というのは、やはり彼女のような偉大な者の事を指し示すのだろう。
「……三笠様、あなたの愛した鶴鷺長官は私達が御守りします」
輝龍はそう言うと三笠の写真に向かって見事な敬礼をする。そして、自身もまた転移の光に身を包み、『輝龍』の長官室を後にした。
月明かりに照らされる長官室。テーブルの上に置かれた三笠の写真は月光に照らされてどこか幻想的に輝いていた……
【第十八章 第三艦隊 優しき先輩達に囲まれて/登場人物紹介】
《伊勢》
伊勢型戦艦一番艦――航空戦艦『伊勢』
出身 川崎重工業神戸造船所(兵庫県)
身長 162cm
髪型 長髪
実年齢(1944年9月現在)26歳
外見年齢 17、8歳
誕生日 12月1日
家族構成 義姉・扶桑・山城 妹・日向
大和編から登場した最初の戦艦艦魂。扶桑型の強化発展型である伊勢型戦艦一番艦・戦艦『伊勢』の艦魂。黒く艶やかな長髪にどこかおっとりとした性格をした大和撫子という言葉がぴったりな美少女。神戸出身という事でなんちゃって関西弁を使う独特な存在。欠陥の多かった扶桑型戦艦を改良して誕生したものの、主力艦の長門型や大和型、汎用性が高い金剛型と違って攻撃力・防御力・速力・燃費など使い勝手が悪い扶桑型と伊勢型は常に浮いた形となっていたが、ミッドウェー海戦で主力空母を損失した事から空母化が計画されるも、工期短縮と資材節約の為に戦艦としての能力は残しながら空母としての能力を加えた航空戦艦として復活。護衛巡洋艦『輝龍』の先駆けとなった艦でもある。現在は第三艦隊の護衛艦として所属しているものの、飛行機不足から航空機は搭載しておらず、せっかくの航空戦艦なのに戦艦としての役目を務める結果になっている。輝龍の事を瑞鶴と同じく妹のように感じているのか、時折彼女を助けるような行動や言動をしており、理宇に対してもお姉さん的立場から助言する事もある。戦艦『大和』に乗るとある少年航海士に恋しているが、恋敵が多くて苦戦している。自分に足りないものは若さであると思っている節があり、年齢の話をするとキレたり落ち込んだりする面もある。輝龍編では瑞鶴と並んで重要なキャラの一人に位置づけられている。
《日向》
伊勢型戦艦二番艦――航空戦艦『日向』
出身 三菱重工業長崎造船所(長崎県)
身長 156cm
髪型 ツインテール
実年齢(1944年9月現在)26歳
外見年齢 14、5歳
誕生日 4月30日
家族構成 姉・伊勢 義姉・扶桑・山城
伊勢と共に大和編から登場した戦艦キャラ。伊勢の妹で実年齢は20歳を超えているのに、見た目も中身も完全に子供という全キャラの中で最もギャップがあるキャラ。艦魂社会は艦種によって階級があり、通常士官艦魂と下士官・水兵艦魂との繋がりはほとんどない中、日向はそんな事気にせず駆逐艦や潜水艦の艦魂などと仲がいい。特に他の水上艦と距離を置いている潜水艦とも親交があるのは歴代士官艦魂において彼女しかいない。水兵達に最も信頼されている士官艦魂で、誰にでも笑顔で接せられる彼女だからこそである。第三艦隊ではムードメーカーとして瑞鶴や伊勢のような士官と駆逐艦や巡洋艦との間を取り持っている。大和本編と同じく戦艦キャラなのに出番は少なめ。
《秋月》
秋月型駆逐艦一番艦――駆逐艦『秋月』
出身 舞鶴海軍工廠(京都府)
身長 158cm
髪型 長髪
実年齢(1944年9月現在)2歳
外見年齢 15、6歳
誕生日 6月11日
家族構成 妹7人(戦死2人)
第三艦隊編に登場する新キャラ。久遠型の前身の原型である秋月型防空駆逐艦の一番艦であり、秋月型は日本初必殺の六五口径九八式十cm連装高角砲(通称:長十cm高角砲)四基を主砲として搭載しており、その防空能力の高さは米軍をも恐怖させた程で米軍は作戦行動中に秋月型には不用意に近づくなという指令が出ていたとも言われる。そんな秋月型の一番艦の艦魂は比較的個性的なキャラの多い姉妹を統括する為に日夜奮闘している。生真面目な性格をしており、軍規を何よりも重視している新入りにしては堅物。防空駆逐艦として機動部隊の空母を守る事を誇りに思っており、空母を守る為なら命を捨てても構わないと公言しているほど。霜月がすっかり懐いた理宇の事はいい印象を持っている。大和編に登場した十勇士のうち『涼月』『冬月』の姉に当たる。
《霜月》
秋月型駆逐艦七番艦――駆逐艦『霜月』
出身 三菱重工業長崎造船所(長崎県)
身長 152cm
髪型 ツインテール
実年齢(1944年9月現在)0歳
外見年齢 13、4歳
誕生日 3月31日
家族構成 姉6人(戦死2人)、妹1人
第三艦隊編新キャラ。秋月型駆逐艦の七番艦であり秋月の妹。天真爛漫な性格をしており、好奇心旺盛。真っ直ぐ過ぎる性格故に周りの空気を読まずに一人で猪突猛進する事もしばしば。人間と話す事が夢であったが、剣は瑞鳳と千歳のガードが固く、貝塚は忙しい上にさりげなく瑞鶴がガードしているので手出しできずに我慢していたが、そこへ無防備に現れた理宇にすっかり懐いてしまった。子供っぽいキャラではあるが戦いになれば姉や仲間の仇とアメリカ軍機を容赦なく撃ち落とす勇ましい軍人らしい面もある。第三艦隊のマスコット的存在。
大和「艦魂年代史 on the radioォ~ッ!」
挿入歌:《新艦魂年代史 ~輝く龍の絆†永遠の愛を誓いし蒼海の戦姫~》イメージソング、『闘艶結義 ~トウエンノチカイ~』
大和「皆さんお久しぶりです。まずはまたしてもバカ作者が一ヶ月も更新しなかった事に対して謝罪します。申し訳ありませんでした」
長門「もうこれじゃ月一更新作品って感じよね」
榛名「けどよぉ、モンハンは基本的に週一更新だろ? この差は何だよ」
伊勢「せやなぁ、まぁぶっちゃければ読者数の違いやないか? 10倍くらいの差があるし」
榛名「だからって更新を疎かにしてどうするよ。元々はこっち側の作者だったろあいつ」
陸奥「まぁ、見る影もありませんが」
長門「まあまあ、読者数の違いが作者のやる気に繋がるんだから、ある意味当然の結果よ。一ヶ月に一回の更新でもちゃんとしてるだけまだマシじゃない」
榛名「……何というか、もう月一更新が定着したせいで怒る気も起きねぇな」
隼鷹「でもその間に全く関係のない短編が投稿されたよ? ばれんたいん企画とかで」
大和「もうツッコミを入れる気も起きませんよ……」
武蔵「……とりあえず、さっき作者を《段階五 裁きの光》で撃ち抜いた」
大和「また直訳したのね」
長門「もう悲観してても仕方ないわよ。それより作品についての話をしましょうよ」
大和「そうですね。今回は宴会編という事ですが、何というか伊勢さんが大活躍してますね」
伊勢「照れるなぁ」
榛名「何か、ムカつくな」
伊勢「何でやッ!? ウチが活躍したらアカン言うんかッ!?」
長門「何ていうか、あなたって本編でも大和や武蔵、榛名に私って強烈なキャラに囲まれてるからどうしても目立たない存在なのよね。だから、そのあなたが目立つと何か違和感があるというか……」
伊勢「長門、それ地味にひどいで?」
大和「それと新キャラクターの秋月と霜月も登場ですね。メインキャラだけでも多いのに、こんな所でサブキャラなんて作って大丈夫なんでしょうか?」
陸奥「まぁ、第三艦隊限定のキャラだから大丈夫じゃない? これが終わればほぼ次の登場はないんだし」
長門「秋月と霜月はレイテ沖海戦編で第三艦隊の主力キャラとして登場する予定だから、その伏線として登場させた意味合いが強いのよ。あくまで今回のメインは伊勢の活躍にあるのよ」
伊勢「本編では影が薄かったウチやけど、輝龍編じゃごっさ活躍させてもらうでぇ」
長門「まぁ、それも第三艦隊編までだけどね」
榛名「それで、次回も宴会の続きか?」
大和「相変わらず予定不明です。次回更新も不明。ほんと、ウチの作者はやる気がないとしか思えません」
武蔵「……万死に値知る」
長門「仕方ないわよ。輝龍編はあくまでサブ作品なんだから。メインのモンハンが優先されるのは当然よ。でも、そんな状況でも読んでくれる読者がいるって事を作者君も少しはわかってほしいわ」
武蔵「……輝龍編より大和編の方が今も読者数が多いのは隠れた成績」
榛名「まぁ、それを見ると更新するのがバカらしくなる気もわかるがよ。一応読者がいるんだからがんばってくれねぇと困るぜ」
陸奥「でもさ、やっぱり架空戦記って難しいんですよね。作者さんは今だってどんな感じに展開させればいいか悩んでいる状態ですし」
伊勢「そういう意味では素直に短編をちょくちょく出してた方が良かったかもしれへんな」
長門「後悔しても仕方がないわよ。とにかく今は輝龍編をちゃんと進める事が大事よ」
大和「では今回はこの辺で。次回は未定ですが、バカ作者を強制労働させてでも書かせますので、次回もよろしくお願いします。それでは~」
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