前回で発表した日時より更新が遅れてしまってすみませんでした。
まもなく前期の授業が終わるので試験勉強やレポートの提出などが波のように押し寄せているので、そちらを優先していたので遅れてしまいました。
さて、今回からついに《新艦魂年代史 〜輝く龍の絆†永遠の愛を誓いし蒼海の戦姫〜》は本格始動です。
主人公とその仲間達、そして『輝龍』の艦魂とはッ!?
では記念すべき第一章、どうか最後までご覧ください。
第一章 運命の出会い 全ての物語の始まり
日本最大の軍港である呉湾。その一角である三子島沖に『輝龍』は錨を下ろして停泊した。
現在この軍港には『輝龍』以上の大型艦はほとんど存在しない。大部分は現在フィリピンの周りに布陣して敵の侵攻を食い止めている。
この時期、日本海軍は最大の危機を迎えようとしていた。
この年の六月、日本が戦争継続の為に死守すると決めた絶対国防圏の要であるマリアナ諸島に米軍が襲来。その大拠点であるサイパン島に上陸を開始し、日本の国防が脅かされる事となった。
この米軍の侵攻に対し日本軍は基地航空隊と機動部隊の連携による一大反撃作戦、あ号作戦を発動して戦艦を中心とする第二艦隊と空母を中心とする第三艦隊が合同した第一機動艦隊を出撃。米機動部隊に決戦を挑んだのであった。
しかし事前の米軍の攻撃によって基地航空隊は壊滅的打撃を受け、結局機動部隊のみで強大な米機動部隊及びその護衛をする大艦隊、上陸する陸上戦力及び大輸送船団を相手にする事となった。
そして六月十九日、ついに日米機動部隊が激突。マリアナ沖にて激しい攻防戦が繰り広げられる事となった。しかし国力を遥かに上回るレベルの長期戦となったこの戦争で、日本の航空機搭乗員の練度は壊滅的に低下しており、今海戦では米軍の圧倒的な物量と技術力の前に一矢すら報う事もできず、逆に真珠湾からの歴戦空母である『翔鶴』、第一機動艦隊旗艦にして竣工わずか三ヶ月の最新鋭空母『大鳳』、二等空母ながら主力空母として今まで奮戦して来た『飛鷹』の三空母が沈没し、この決戦の為に掻き集めた艦載機も大部分を損出してしまった。
このマリアナ沖海戦と呼ばれた日本海軍が米海軍に挑む最後の決戦となった戦いは、歴史上稀に見る大完敗という結果に終わってしまった。
この戦いで日本機動部隊は事実上の壊滅。海軍の援護も受けられなくなったサイパン島の守備隊は圧倒的な米軍の前に潰され続け、サイパン島守備隊は玉砕してしまった。
サイパン島の陥落はマリアナ諸島の陥落と同義であり、日本が死守提唱した絶対国防圏の崩壊を意味していた。
後に米軍はこのマリアナ諸島を拠点に日本への本土爆撃を開始。マリアナ沖海戦の敗北は日本海軍及び日本の壊滅の序章となってしまった。
あれから二ヶ月。米軍はマリアナ諸島だけでなく戦争初期に奪われ、現在も日本の大補給線の要となっているフィリピンを目指して侵攻を続けている。日本海軍の大多数の艦艇はそんなフィリピンを守る為にタウイタウイ泊地やリンガ泊地などで決戦の時を待っている。その為本土である呉には主力艦艇はほとんどなく、あるのは局地防衛の為の海防艦や旧式駆逐艦などだ。
例外として『輝龍』が停泊する呉軍港から少し離れた広島湾の柱島ではマリアナ沖海戦で生き残った機動部隊の残存空母が再建を目指して必死に訓練を行っている。だが再建などもはや不可能な状態である事は誰が見ても明らかであった。
そんな最悪の状態に陥っている日本海軍に新たに加わる事となった『輝龍』では、こちらも乗組員の質向上や一日でも早く艦に慣れる為に訓練を行っていた。
――『輝龍』が竣工してから一週間後、乗組員達が待ち望んでいた時がついに来た――
ゴオオオォォォ……とけたたましくプロペラが激しく回転する音を響かせながら速力二〇ノットで直進する『輝龍』に後方から接近するのは機体を濃緑迷彩色に塗った三機の新型戦闘機。『輝龍』に配置される輝龍航空隊の第一陣であった。
マリアナ沖海戦で失った艦載機の数は激しく、現在の日本海軍は機動部隊本隊の空母にすら満足に艦載機が回らない状態であった。その為に主力空母ではない『輝龍』には配備が大幅に遅れ、ようやく今日基地航空隊からの分遣隊として三機ながらも配置される事となったのだ。しかも零戦などの即戦力機は機動部隊本隊に回されてしまったので、今回育成途中の新型戦闘機が回されたのだ。
新型艦上戦闘機《朱雀》。
現在の主力戦闘機である零式艦上戦闘機の後継機の一つとして開発された海軍最新式の戦闘機。その姿は今までの戦闘機とは大きく変わっていた。通常の航空機はエンジンを前に積んだ前翼が主翼、後翼が補助翼という牽引式と呼ばれるタイプであるが、朱雀はそれと全く異なる前翼が補助翼、後翼が主翼という前翼型と呼ばれる特殊な形をした機体に推進式と呼ばれる後ろにエンジンを積んだ航空機。エンテ型主翼は若干逆ガル翼となって発艦の際に後部プロペラを甲板にぶつけないように配慮されている。
推進式は牽引式よりも高速で飛行できる上に三枚ブレードのプロペラ二組がそれぞれ逆回転する二重反転プロペラを採用した結果、朱雀は最高速度七六〇キロという日本軍最速の高速戦闘機となった。
日本海軍では開戦以来ずっと改良を加えながらも零式艦上戦闘機が主力戦闘機となっている。しかし時代の変化と共に零戦自慢の格闘戦が零戦の旧式化や搭乗員の練度不足、米軍戦闘機の一撃離脱戦法などで不可能となり、格闘戦重視の軽量な機体は防御力が低く、連日の戦闘で次々に撃墜されていた。
そんな中、日本海軍は多少の格闘戦能力低下を覚悟して高馬力エンジンによる高速戦、及び高速の利点を生かした重武装による一撃離脱戦法を目指した新型艦上戦闘機の生産に着手した。
海軍航空技術廠は元より牽引式の航空機の限界を感じ、推進式の航空機を研究していた。それらの技術者と零戦などの数々の航空機を生み出して来た経験豊富な三菱重工業の技術者が共同開発する事となった。それが一九四三年の終わりの事。後に同じ思想で半年以上遅れて対B‐29迎撃用として九州飛行機で開発が始まったのが、史実では試作で終わった《震電》である。
ただし、この朱雀は零戦の後継機として開発はされたが、純粋な後継機とは違っている。
先にも述べたように零戦は機体の軽快さで格闘戦に持ち込む戦闘機であるが、朱雀は一撃離脱戦法を元に考えられている為に軽快さの代わりに重装備と高速を主軸に置いている。重装備の恩恵は武装だけでなく防御面にも生かされており、防御板や防弾ガラスなど零戦のように搭乗員軽視という事はなく、防御板や防弾ガラス、防火装置なども備えられて生存性をできる限り高める工夫もされている。
さらに重装備の機体に軽快さを加える為、最新式の自動空戦フラップも備えられている。
まさに日本海軍が生み出した零戦の再来とも言うべき最強の戦闘機。それが朱雀であった。
しかしそのあまりの高性能さ故に作業工程が複雑過ぎて生産性は極めて低く、二重反転プロペラ専用の改造をされた誉七一型エンジンの稼働率の低さ、そして何より牽引式と違ったかなり癖のある操縦が必要な為に専門の搭乗員を育成しないとならないなどの点から大量生産型に適さないとして主力戦闘機の座を失った悲しき機体。現在は少数精鋭部隊を目指して神奈川県厚木基地で搭乗員育成を行っていたのだが、今回はそこから三機が『輝龍』に回されたのだ。
甲板の上に整備兵の怒号が響き渡る。彼らにとっても『輝龍』に乗ってから初めて飛行機をメンテナンスする為、気合は十分なくらいだ。
多くの兵達が見守る中、《彼女》もまた艦の右側に聳える艦橋の屋上部分から、防空指揮所でフラップを限界まで下ろし、主翼の下から車輪と着艦フックを出して着艦体勢に入った朱雀隊を見詰めていた。
三機の朱雀は見事な三角陣形を組んで『輝龍』の右横を通過。そしてまず一番機が隊列から離れて左に直角旋回し、三〇秒後に二番機が、さらに三〇秒後に三番機が左旋回してタイミングをずらして飛ぶ。三機は絶妙な間隔で場周飛行を行い、まず一番機が『輝龍』の後方一〇〇〇メートルで高度を一五〇メートル程度に降下。降下角六度という絶妙な角度で接近。失速手前の約時速一五〇キロで『輝龍』に追従する。
そして一番機はゆっくりと滑らかに『輝龍』の飛行甲板の上にキュキュゥッというタイヤが甲板に擦れる音と共に降り立ち、機体下部の着艦フックをきれいに制動策に引っ掛けて急停止。見事な着艦をしてみせた。それは周りで見守っていた兵達を歓喜させるのには十分過ぎるほどに美しい着艦であった。
続いて二番機、三番機と同じように見事な着艦をしてみせて三機の朱雀は無事に『輝龍』に着艦できた。
飛行甲板に並ぶ三機の朱雀に整備兵だけでなく通常兵までもが駆け寄って来る。まず一番機のコックピットが開き、中から三〇代前半くらいの男が出て来た。彼がこの小隊の小隊長である。
続いて二番機から二〇代前半くらい長身の青年が甲板にスタッと降り立った。目を細めて太陽を見上げる仕草は彼のきれいに整った顔立ちをよりかっこ良く見せる。
最後に三番機から出て来たのは十代後半くらいの少年兵であった。飛行ゴーグルを取るとまだ幼さが残る顔が露になる。見事な着艦をしてみせたのに、主翼から甲板に降りるのはちょっとぎこちない。波に揺れる甲板に慣れていないのか、降り立つとフラフラとする。中年の整備員が「大丈夫か?」と声を掛けると、少年は「だ、大丈夫です」と照れ隠しに小さく笑った。
「おいッ、いつまでも遊んでないで早く来いッ」
小隊長の言葉に少年は「は、はいッ!」と慌てて長身の青年と共にいる彼の下に走る。青年はそんな少年に「疲れたか?」と気遣うような言葉を掛ける。少年は「大丈夫です」と答えた。
そんな三人に向かって艦橋の方から一人の上級士官の軍服を着た男が歩み寄って来た。四〇代後半くらい、優しげなお父さんという感じの男は三人の前に立った。
「敬礼ッ!」
隊長の言葉に青年と少年もバッと見事な敬礼をする。士官の男はニッコリと微笑むとゆっくりと敬礼し手を下ろす。それを確認してから三人も一斉に敬礼を解いた。
「初瀬浩平海軍大尉、赤城優斗海軍少尉、天城理宇海軍一等兵曹。昭和十九年八月二〇日をもって、輝龍航空隊所属を命じられ、ただ今着任いたしましたッ。敬礼ッ!」
小隊長――初瀬浩平大尉の号令に青年――赤城優斗少尉、少年――天城理宇一等兵曹は一斉に敬礼した。士官の男はゆっくりと答礼し、わざわざ『輝龍』にまでやって来てくれた三人の飛行兵にあいさつする。
「遠路はるばるご苦労。私がこの護巡『輝龍』艦長、富嶽和輝海軍大佐だ。何かわからない事、困った事があったら遠慮なく私に言ってくれ」
上級士官の男――富嶽和輝艦長はそう言って初瀬、赤城、理宇の三人一人ひとりと握手する。富嶽は何とも士官らしい威張った態度とは無縁な寛大な心の持ち主だ。
その後、富嶽と初瀬が今後の事についてやり取りをする事になり、赤城と理宇は水兵に案内されて艦内に入った。赤城は士官という事で広い個室へ、理宇は下士官という事もあって狭いながらも一応個人部屋に通された。
赤城と別れて理宇が入ったのはそれはベッドと小さな机しかない本当に必要最低限の備品だけ置かれた部屋であった。これでもハンモックで雑魚寝しなくてはならない水兵に比べれば断然マシなのだが、陸の上で暮らしていた理宇にとってはかなり狭苦しく感じた。
海軍軍人と名乗っているが、実際は基地航空隊の戦闘機乗りの為軍艦に乗った事は一度もない。初瀬と赤城はそれぞれ別の母艦搭乗員だったらしいが、その空母が沈んでしまい基地航空隊に転属されたそうだ。それに対して自分は予科練で優秀だったという理由から異例の繰り上げ卒業をされ、十六歳でラバウルの前線基地に送られた。連日の激しい戦いを気合と根性で生き抜き、その後は戦局の悪化からトラック島へ後退。フィリピンを経由して本土の防空隊に配置された。
本来なら自分はこんな地位にいる軍人ではない。確かに空中戦では彼は隊の中では最強の腕前を持つエースパイロットだ。しかし軍隊に正式に入隊してからわずか二年半、十八歳で下士官にまで上り詰めるのは異例中の異例だ。
理由は簡単である。連日の激戦で次々に上官が戦死して行き、有能な自分が次々に繰り上がり昇級したのだ。飛行兵という軍種は実力が物を言うので士官とはいえ叩き上げの者が大多数だ。下士官なんてそれこそ普通にゴロゴロ存在する。戦時だからこその大昇級。それが彼をここまで成長させたのだ。
理宇はふぅとため息を吐くとアタッシュケースを机に置いてベッドに寝転んだ。とりあえず今は何の命令もないので待機するしかない。
ベッドに寝ながらも感じる陸ではありえない揺れが、ここが母艦の中という事を示していた。それも、護衛巡洋艦という特別な艦である。
「護衛巡洋艦、『輝龍』か」
トラック島にいた時、泊地に浮かぶ連合艦隊の姿を見た。子供の頃に憧れた戦艦『長門』やその『長門』よりももっと大きな見た事もない戦艦、歴戦の機動部隊など多くの連合艦隊の艦艇を見る事ができた。しかし、この『輝龍』はそれらとはまるで違った外見をしている。
着艦しようとした時に初めて見た『輝龍』は、本当に不思議な形であった。空母の飛行甲板を背負った巡洋艦、そんな感じの艦だ。上から見ると『輝龍』は幅に合わない程大きな飛行甲板を背負っているせいか艦首を頂点に三角形の艦体をしている。
今まで見て来たどの艦よりも不思議で、でもその不思議な形にかっこ良さを感じた。
これからは、『輝龍』が自分の新しい戦場なのだ。
そう思うと、じっとしてなんかいられなかった。幸い今日は早速の訓練はないらしい。どうやら整備兵の訓練に自分達の朱雀が回されるかららしいが、ちょっと不安だ。
理宇はベッドから起き上がると簡単な荷物だけ取り出して部屋を出た。向かうのは格納庫だ。やっぱり愛機が心配だ。
今まで地上にいただけあって、艦内という構造がまるでわからない。仕方なく理宇は通りすがりの水兵に格納庫までの案内を頼んだ。その水兵は自分よりも年上だったのだが、自分の方が階級が上なので敬語で接してくれた。未だにこの違和感は慣れないものだ。先日、同じ予科練の同期と会ったのだが、彼は上等水兵で自分は一等兵曹。敬語で接せられた時はさすがにキツかった。まぁ、その後の飲み会では普通に接してくれたが。
『輝龍』の格納庫はやはり小さなものであった。まぁ、全艦載機が二四機というのだから仕方がない。心なしか広めに感じるのは、その肝心の艦載機が今はわずか三機しかいないからだろう。
そんな格納庫では整備長の怒号が飛び交っていた。必死に走り回っている整備兵の中には自分と大して年齢の変わらない者も多い。海軍特別年少兵に指定された少年兵だ。
「三機でこの状態で、大丈夫なのか?」
理宇はすごく不安であった。空の上では故障なんてされたらそれこそ命に直結する。頼むから整備だけはちゃんとしてほしかった。
しばし整備を見ていたが、整備長がしっかりしているからか整備は思ったよりも順調であった。少年兵達も慣れてしまえば作業も早い。
理宇は邪魔しちゃ悪いとその場を後にする。
続いて彼が向かったのは飛行兵にとってはまさに花形とも言うべき飛行甲板だ。機銃や高角砲を担当する水兵達が必死に甲板を雑巾がけしていた。新鋭艦だからきれいというのもあるが、こうした彼らの努力がこの美しい艦を守っているのだろう。
理宇はそんな彼らを邪魔しないように飛行甲板の上を散歩してみる。と言っても、飛行甲板の長さは一五〇メートル程度。短いものだ。
艦橋の前には艦橋を守るようにして艦側面に備えられたのと同じ六五口径九八式十cm連装高角砲が一基設置されている。
通常小型空母は飛行甲板の幅の短さから艦橋は艦内にあるのだが、この『輝龍』は空母と同時に巡洋艦でもあるので艦橋が飛行甲板前部の右舷に置かれている。その大きさは大型空母の代表格である翔鶴級以上。これも巡洋艦の役目を担っている為に大型化されているのだ。
艦橋の上には測距儀が置かれ、艦橋の後ろには信号旗が掲げられるマストがあり、その上には逆探が置かれている。そのさらに後ろには回転式の対空電探も備えられており、この艦は一隻で一個艦隊クラスの電探が備え付けられている事がわかる。
対空電探の後ろには煙突が右傾斜で設置されており、その後ろに軍艦旗が翻るクレーンと一体化したメインマストがある。そしてその下には盾付きの二五mm三連装機銃三基が設置されている。その後ろには日本海軍の秘密兵器の一つである四〇mm連装機銃が一基備えられている。大戦初期に鹵獲した連合軍のボフォース40mm機関砲を参考にしたもので、従来の日本海軍の艦載機銃の代表格とも言える二五mm機銃よりも圧倒的に性能が良い。しかし製造に手間取り十分な生産が行われるようになったのはこの頃から。その為多くの主力艦艇は未だに二五mm機銃を備えており、『輝龍』もこの一基しか装備されていない。
右舷にはクレーン一体型のメインマストとマストが一本、反対の左舷には二本マストがあり、どれも戦闘時(対空戦闘)には倒れるという空母のようなマストである。
艦の前部に行くと、短い飛行甲板で艦載機を飛ばす為の工夫として、先端部分を多少上向きに傾斜させたスキージャンプが備えられている。その向こうに、巡洋艦として二〇.三cm連装砲が二基備えられている。駆逐艦と違って巡洋艦の艦載砲なので艦艇対空砲である三式通常弾も使用可能。まさに対空能力に関しては日本海軍でも最強クラスの巡洋艦及び空母である。乗組員が中型空母並みに多いのはこのような対空兵器の多さが原因であり、水兵達は例外なく皆ハンモックで寝起きをしている。ベッドを与えられるのは下士官からだ。
理宇はそんな『輝龍』の装備を興味深そうに見回しながら飛行甲板を歩く。ふと、何気なく艦橋を見上げた時――彼女はそこにいた。
「――え?」
艦橋の上、対空戦闘の際には艦長がそこに立って操艦するのが日本海軍の伝統となっている防空指揮所。少女はそこにポツンと立ってどこまでも蒼く澄んだ空を見上げていた。
腰まで伸びた美しい黒髪にどこか遠くを見詰める黒く澄んだ瞳。小柄な体格で大人の女性のような魅力的な美しさではない、まるで人形のような全てきれいに整った完璧に近い美しさを持つ少女。年の頃は十六歳前後くらい。理宇より少し年下くらいの美少女は、無言でじっと空を見上げ続ける。服装は下士官用の黒い第一種軍装の上着に同色の、太ももほどしかないこの時代の日本ではありえない長さのスカート。ブカブカの軍帽を無理やり被っているその姿は、どこか物語の中に出て来るお姫様という感じの少女にはあまりにも不釣合いであった――だが、その不釣り合いさが彼女を神秘的な存在に思わせ、美しく輝かせる。
理宇は、そんな少女の姿にしばし見惚れていたが、すぐに頭を切り替える。
――そもそも、軍艦に女性。それも少女が乗っている訳がない。
理宇はスッと表情を引き締め、軍人の顔になる。
「そこの娘ッ! そこで何をしているッ!?」
あまりこういう高圧的な言い方は好きではないのだが、こっちは軍人である。ある程度は威厳というものがなくては格好がつかない。
理宇の声に少女はビクッと体を小さく震わせ、ゆっくりと振り返った。ガラス玉のように美しい瞳が、理宇を捉える。
少女は無表情ながらキョロキョロと辺りを見回し、そして理宇の視線が自分を見詰めている事に気づき、指を自分に向けて「私の事?」と言いたげな瞳を向けて来た。
「そうだ。貴様以外に誰がいるのだ」
少女はそこで初めて驚いたような表情を浮かべた。しかしすぐに消えて再び無表情に戻る。その時、少女の横に水兵が現れた。どうやら見張りの当直らしい。
「そこの君ッ! ちょっと用を頼みたい事があるのだがッ!」
明らかに自分よりも年上だが、こっちは下士官だ。威厳は大事である。振り返った水兵は理宇を見て一瞬眉をしかめたが、すぐに下士官だと気づいて「何でありましょうッ!?」と敬礼して答えた。だが、その返答に理宇は呆れる。
「何でありましょうじゃない。さっさとそこの娘を捕らえないか」
「は? 娘、ですか?」
水兵はキョロキョロと辺りを見回す。だが、少女は彼の目の前に立っている。バカにされていると思い、理宇は憤慨する。
「貴様ッ! 私が年少だという事でバカにしているのかッ!」
「い、いえ。本当に何の事だか……」
真剣なのに理不尽に上官、それも年下に怒鳴られる水兵は困ったような表情を浮かべる。理宇は「もういいッ!」と叫び、仕方なく自ら出向く事にした。その時、一陣の風が甲板を吹き抜けた。一瞬の出来事だったが、その一瞬、理宇は目を瞑ってしまい彼女の姿を見失った。そして次の瞬間、再び開けた時には――少女の姿はどこにもなかった。
「え? あ、あれ……?」
理宇は慌てて少女の姿を探すが、どこにもいない。もう一度水兵に問うと「そんな娘は見ておりません」と返されてしまった。
混乱する理宇は水兵に迷惑を掛けたと謝ってから艦内に戻った。
「つ、疲れてるのかな……?」
長時間飛行でこの『輝龍』まで来たのだ。きっと疲れているのだろう。だから少女の幻覚なんて見たのだと自分を納得させた。
どうせ今日は何もないのだ。部屋に戻って一眠りすればきっと治る。そんな事を思いながら理宇は部屋に入ると、ベッドに横になった。そしてゆっくりと目を閉じ、眠りについた。
――少女はスッと瞳を開いた。
ずるずると頭に被っていた毛布を取る。
人形のような無表情は変わらず――いや、わずかに薄い唇の線が緩んでいる。
「……初めての……《人》……」
小さく呟いた声は……わずかに……本当にわずかに――弾んでいた。
「……天城理宇一曹」
少女は先程自分に声を掛けてきた少年の名を口ずさんだ。彼の名前は富嶽に言っている時にしっかりと聞いていたので覚えている――忘れられない、大切な名前。
「……優しそうな人」
ゆっくりと満足のうなずきを何度もしながら、少女はころんとベッドに横になった。
「……良かった……本当に、良かった」
何度も呟きながら、少女は何度もベッドの上で寝返りを打つ。
自分でも驚きだが、興奮して寝付けないなんて事は本当にあるのだ。する事もない日々の繰り返しの中で習慣づいた昼寝なのに、今は全く眠れない。
少女は結局寝るのを諦めて白く細い足をベッドの端からぶら下げ、ペタンと裸足で冷たい床を踏む。
ワイシャツと純白のパンティーだけという無防備な姿から、壁に掛けてある上着にゆっくりと袖を通し、少し短いとは自覚するもこれが現在の日本艦魂の標準装備だというのだから仕方がないスカートを穿き、軍靴にその細い足を通す。
最後にサイズが合っておらずちょっとブカブカの軍帽を被り、鏡の前に立って埃が付いていないか、シワができていないか、ちゃんと着れているかを念入りに確認する――今まで、こんなにも服装に気を掛けた事なんて一度もなかった。
「……良し」
ちゃんと着れたと確信し、少女はとてとてとドアへ向かい――
「……ッ!?」
ビタンッ!
見事にスッ転んだ。
「……うぅ」
強打した鼻を押さえながら、ブカブカ故に脱げてしまった軍帽を引っ掴みもう一度鏡の前へ。どうやら鼻血は出ていないようだ――今日は運が良かった。
もう一度軍帽を被り直し、再び入念に服のチェック。それを終えると今度こそ少女はドアを開けて部屋を出た。
少女は暗闇の中、迷いもせずに慣れたようにとてとてを通路の向こうへ消えていった。
――遠くから再びビタンッという転倒音が聞こえたのは、聞こえなかった事にしよう。
【第一章 運命の出会い 全ての物語の始まり/登場人物紹介】
《天城理宇》
役職 帝国海軍軍人・護衛巡洋艦『輝龍』航空隊(戦闘機)
階級 一等兵曹
出身 神奈川県横須賀市
身長 164cm
年齢(1944年8月現在)18歳
誕生日 3月3日
家族構成 父(戦死) 母(死亡) 姉・理恵
今作の主人公で艦魂が見える珍しい能力の持ち主。護衛巡洋艦『輝龍』の戦闘機乗り。戦時体制という事もあって予科練(海軍飛行予科練習生)で優秀な成績だった為に繰り上げ卒業し、ラバウル海軍航空隊に派遣された。戦闘機乗りとしては天才的な才能を持ち、特に巴戦を得意とし、その実力から《黒翼の荒鷲》という異名を持つ。その技量や運なども加わり激戦地ラバウルを生き抜くも、戦局の悪化からトラック諸島、フィリピンと後退を続け、神奈川県厚木基地で新型戦闘機《朱雀》の搭乗員として訓練を受けていた所を『輝龍』への異動となった。そしてそこで、『輝龍』の艦魂である輝龍を出会う。優しく穏やかな性格で困っている人を放っておく事ができないお人好しでもあり、結果的にその性格が彼の周りに様々な波乱を巻き起こす事になっている。輝龍やその他の艦魂達に好意を寄せられているが、本人は気づいていない。しかし女の子としては意識している部分があり、彼女達の無茶にいつも振り回されて顔を真っ赤にしている純粋な少年。しかし一度空に飛び立てば敵兵に一切の容赦をせずに撃ち落とす空の戦士としての一面も持つ。艦内の少年兵達からは同年代で下士官にまで上り詰めた彼は憧れの存在。唯一の肉親にしてブラコンの姉・理恵とは仲が良く、横須賀と呉という遠距離ながら今でも手紙でのやり取りが続いている。
《赤城優斗》
役職 帝国海軍軍人・護衛巡洋艦『輝龍』航空隊副長(戦闘機)
階級 少尉
出身 埼玉県川越市
身長 178cm
年齢(1944年8月現在)24歳
誕生日 5月15日
家族構成 父 母 妹
輝龍航空隊の副長にして理宇の戦友。太平洋戦争開戦時は第一航空艦隊所属、空母『赤城』の戦闘機乗りとして真珠湾攻撃にも参加した歴戦の空の戦士。だが同艦はミッドウェー海戦で戦没し、彼はその後ラバウル航空隊に転属になった。ラバウル時代にまだ子供だった理宇を色々と気遣ってくれ、空の上でも共同撃墜などを多数上げている。中でも当時零戦の難敵とされていたB-17の共同撃墜は有名。理宇とは戦友であると共に兄と弟のような関係でもあり、互いの事を何でも相談し合える仲。支給されるお金のほとんどを田舎の両親に送る堅実な性格。小学生の妹とは手紙のやり取りを続けており、空に飛ぶ時はその手紙をお守り代わりに持って行くのが習慣。彼自身は艦魂は見えないが、理宇と艦魂達が不協和音になったりすると彼にアドバイスなどをしてくれる頼れる存在。ちなみに長身で美形なので女性にはモテる。
《初瀬浩平》
役職 帝国海軍軍人・護衛巡洋艦『輝龍』航空隊隊長(戦闘機)
階級 大尉
出身 栃木県宇都宮市
身長 175cm
年齢(1944年8月現在)32歳
誕生日 10月12日
家族構成 妻 娘
輝龍航空隊隊長にして理宇の直属の上官。真珠湾攻撃時は空母『加賀』の戦闘機隊の小隊長として参加。ミッドウェー海戦で同艦沈没後は各地を転々とし、理宇達とは厚着基地で出会い、同じ隊に所属する事になった。死地をいくつも潜り抜けている歴戦の空の戦士。訓練には厳しく、厚木基地時代二人は彼にかなり鍛えられた。後に輝龍航空隊の飛行隊長として空中戦での指揮全般を担う事になる。実力もさる事ながら、搭乗員達と良く会話をするので部下達からの信頼も厚い優秀な指揮官。
《富嶽和輝》
役職 帝国海軍軍人・護衛巡洋艦『輝龍』艦長
階級 大佐
出身 愛媛県松山市
身長 176cm
年齢(1944年8月現在)48歳
誕生日 9月22日
家族構成 妻 息子(2人) 娘
護衛巡洋艦『輝龍』艦長。元々は砲術科出身の海軍軍人で、大艦巨砲主義時代全盛期には当時花形とされた戦艦『比叡』の第二主砲長を務めていた事もある。本来なら戦艦や巡洋艦の艦長に抜擢されていてもおかしくない軍人なのだが、何の因果か純粋な巡洋艦とは違う『輝龍』の艦長として選ばれた。訓練には一切の妥協を許さない鬼艦長。しかし厳しい時は厳しくも優しく人柄も良い男で、少年兵達からは父親のように思われている。厳しい訓練も自分達の為だとわかっているので部下達からの人望や信頼は厚い。頻繁に妻と手紙のやり取りをしており、休みで陸に上がれば真っ直ぐ家に帰る愛妻家でもある。
【登場架空兵器紹介】
《新型艦上戦闘機『朱雀一一型』》
全長:十.五二メートル
全幅:十一.二〇メートル
全高:三.五八メートル
翼面積:二〇.七平方メートル
自重:三六二五キロ
正規全備重量:四二五〇キロ
発動機:誉七一型(二二〇〇馬力)
最高速度:七六〇キロ(高度八七〇〇メートル)
実用上昇限度:一万三〇〇〇メートル
航続距離:一九八〇キロ(正規)/二四八〇キロ(増槽有)
武装:翼内二〇ミリ機銃四挺(各二〇〇発)
機首十三.二ミリ機銃二挺(各三〇〇発)
爆装:二五〇キロ爆弾×二発(両翼下)
その他:前翼型・推進式の機体
試作局地戦闘機《震電》とは別
二重反転プロペラ
逆ガル翼
推力式単排気管
自動空戦フラップ
大和「艦魂年代史 on the radioォ〜ッ!」
挿入歌:《艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜》イメージソング、『flower of bravery』
大和「皆さんこんにちは。史上最大最強戦艦、戦艦『大和』艦魂、大和です」
武蔵「……大和型戦艦二番艦、戦艦『武蔵』艦魂、武蔵」
長門「帝国国民の永遠のアイドル、戦艦『長門』艦魂、長門よぉ」
榛名「はッ、よく言うぜ」
陸奥「あ、アイドルかどうかはわからないけど……」
伊勢「何言ってんねん。あんたは長門よりも人気者やったやないか」
翔鶴「そうなのか?」
陸奥「ち、違うわよ〜ッ!」
大和「さて、今回はついに《新艦魂年代史 〜輝く龍の絆†永遠の愛を誓いし蒼海の戦姫〜》の主人公、天城理宇一等兵曹とそれを囲む人々、そして護衛巡洋艦『輝龍』の艦魂が登場しましたね」
陸奥「まぁ、彼女の場合はハッキリと本文で明記された訳じゃないけどね」
長門「これからこの二人を中心に輝龍編の物語が始まるのね」
伊勢「せやなぁ。やっとこれで本格的な発進、みたいな感じやなぁ」
榛名「しっかし、あの天城って奴。どことなく長谷川に似てねぇか?」
長門「まぁ、長谷川君は作者君が一番扱いやすい主人公タイプのキャラだものね。どうしても似ちゃうのよ」
大和「でも、翔輝さんの方がずっとずっとずぅっとかっこいいですよぉだ」
武蔵「……同感」
伊勢「ま、それはそうかもしれへんけど……あんまり言うと輝龍に怒られるで?」
翔鶴「そういえば、輝龍はどことなく大鳳に似ている気がするんだが」
伊勢「うーん、せやなぁ。語頭に《……》が付く所や感情表現が少ない所、どことなく子犬を思い出させる雰囲気、大鳳そっくりやなぁ――まぁ、大鳳はあないにドジはなかったけどな」
榛名「どうせ奴が大鳳の人気にあやかっただけだろ」
長門「そうかもしれないわね。まぁでも、この物語はマリアナ沖海戦の後が舞台だからね。もう大鳳はいないものね」
翔鶴「まぁ、私もいないがな……」
陸奥「私もよ……」
伊勢「そ、そないに落ち込むなや。人生は辛い事ばかりやないんやで?」
榛名「しっかし、架空艦である『輝龍』の次は架空戦闘機。こんなに架空兵器を出して大丈夫なのか? このバカ作者、軍事知識が人並みはずれてある訳じゃないだろ?」
長門「そうねぇ。むしろ作者君は自分で言ってたけど他の艦魂作者よりも軍事知識は浅はかだそうよ。すでに読者から手厳しい意見が届いてるし」
陸奥「まぁ、仕方ないといえば仕方ないよ。元々は史実通りに物語を作ってたから、軍事関係で自分で考える事はほとんどなかっただろうし」
大和「よくそんな状態で架空戦記なんて書こうと思いましたね」
武蔵「……同感」
長門「まあまあ、おかげでこうして日の目を見る事ができたんだしいいじゃない」
伊勢「せやなぁ。まぁ、作者はんもがんばってるみたいやし、今は応援してようや」
大和「まぁ、作者さんにがんばってもらわないと物語は進みませんし、不本意ながらも応援しましょう」
長門「はいはい。向こうで大和の言葉に感動して泣き崩れる作者君は放っておいて、そろそろラジオっぽい事をしないとね。一応ラジオとか名乗ってるんだし」
大和「それには同感ですが、一体何をしましょうか?」
陸奥「一応戦記なんだし、ここは軍事系の話題でいいんじゃない?」
長門「そうね。でも、何がいいかしら?」
榛名「マリアナ沖海戦が出たんだし、その話でいいんじゃないのか?」
翔鶴「……私に死ねと?」
伊勢「まあまあ、落ち着いてぇな翔鶴」
武蔵「……マリアナ沖海戦は、日本を救った戦い」
大和「へ? な、何よ突然」
武蔵「……別に」
大和「気になるじゃない」
伊勢「せやで。そないに中途半端な事言われるとめっちゃ気になるやん」
武蔵「……知らない」
長門「まあまあ、ほら武蔵。あなたは私達で一番知識があるんだから、少しは引っ張ってよ。私もその話聞いてみたいし」
武蔵「……面倒」
長門「そんな事言わないで。お礼に、今度長谷川君とのデートをバックアップしてあげるから」
武蔵「……ほんと?」
長門「今回だけよ。だからお願い」
武蔵「……わかった」
大和「二人で何を話しているんですか?」
長門「べ、別に何でもないわよ〜」
陸奥「お姉様?」
武蔵「……マリアナ沖海戦の敗北。しかしそれは日本の未来を救った戦いでもある」
榛名「うおッ、何か突然始まったぞ」
大和「ま、まぁいいけど。武蔵、それはどういう意味なの?」
武蔵「……戦争後期、日に日に敗色が濃くなる中、連合国との講和を求める和平派が現れた。ひとくちに和平派と言っても陸海軍内、政界、宮中それぞれに様々なグループがあった。その中には当然穏健派から過激派まで様々であった。海軍内部では海軍教育局長の高木惣吉少将を中心とする和平派が存在した」
陸奥「高木少将、あまり聞かない名前ですね」
伊勢「んまぁ、後方支援のような所の人やからね。普通は知らんって」
武蔵「……和平派の最大の障害、それは聖戦貫徹を叫ぶ東条英機内閣であった」
榛名「あのドイツ贔屓のヒゲか」
陸奥「大東亜戦争の張本人ですね」
長門「でも、相手は総理大臣兼陸軍大臣兼参謀総長って化け物でしょ? 憲兵隊を掌握する東条内閣打倒は難しいんじゃない?」
武蔵「……当然の事。だからこそ陸軍での反乱計画や東条英機暗殺計画は実行の前に発見されてしまった。しかし、海軍は違う」
大和「まさか、本当にそんな計画が?」
武蔵「……高木少将率いる和平派はあくまでも政治運動での打倒を考えていた。だが、過激派の代表格とも言うべき神重徳大佐は暗殺計画を推進していた」
翔鶴「神か。大和の沖縄特攻の発案者としても有名だが、ドイツ贔屓としても有名な男だな」
武蔵「……神の執拗な進言に折れたのは高木少将。東条英機暗殺計画は着実に進む事になった。この計画での驚くべき点は和平派と右翼という妙な同盟関係が生まれた事。これは国体護持を訴える右翼にとっても講和は重要な鍵だったから」
大和「戦後の日本は国体護持に対しては必死にアメリカに食い下がっていたそうですからね。余程重要なんでしょう」
長門「そりゃそうよ。天皇陛下の運命が決まる国家レベルの重要問題だからね」
武蔵「……計画は順調に進み、昭和十九年の七月中旬に東条総理の乗る車を交差点で交通事故を装い銃殺する事と決まった。脱出した実行犯は作中にも出た厚木基地の司令官である小園安名大佐の計らいでフィリピンや台湾へ高飛びする手はずになっていた」
長門「でも小園司令って徹底抗戦派の人でしょ? 戦後だって玉音放送を無視して厚木基地で反乱軍となってまで抵抗を続けた人だし」
榛名「どうせあのヒゲのやり方が気に入らなかったんだろ。海軍と陸軍の不仲は有名だからな」
武蔵「……この頃には海軍内部は主戦派、和平派、皇族などを含めて海軍の主要メンバーが反東条で結託していた」
大和「本当に嫌われてたんですね、あの人」
武蔵「……しかしマリアナ沖海戦に敗北し、絶対国防圏が崩壊してしまった為に国内で反東条運動が加速。結果、東条内閣は倒れて暗殺計画は闇に消える事になった」
長門「なるほどね。でもそれが何でマリアナ沖海戦が日本を救った事になるの?」
翔鶴「単純な話さ。仮に計画が実行されていれば陸海軍の仲は決定的に崩れ、終戦工作などが史実以上に相当な困難となっただろう。そういう意味では、マリアナ沖の敗北は終戦工作を守ったとなるな」
榛名「まぁ、そういう意味で見ればあの敗北も無駄じゃなかったって事か。良かったな翔鶴」
翔鶴「敗北は敗北だ。どんなに言い直しても負けた事は変わらないさ」
榛名「お前らしいな」
長門「今回は結構ためになったわね。武蔵、ありがとう」
武蔵「……約束、ちゃんと守って」
長門「あら、忘れてたわ」
武蔵「……き、貴様ッ!」
長門「冗談よ。ほら、これ遊園地のチケット。ペア券だからこれで長谷川君でも誘いなさいな」
武蔵「……おぉ、感謝するッ」
長門「いいのよ。楽しんでいらっしゃい」
武蔵「……(コクリ)」
大和「なぜか、すごく、ものすごく嫌な予感がするんですが」
陸奥「私も、何か寒気がする。何なのかしらこれ」
伊勢「あんたもか陸奥? うちも何か変な気分や。うちの軍人として培ってきた鋭い勘が危険信号をバンバン鳴らしてるんや」
榛名「嫌な気分っていうか、ものすごく不快というか……ッ!」
翔鶴「殺意を覚える」
長門「あ、あらあら〜。そういえばここにいる子達ってみんな長谷川君大好きッ子ばっかりだったわね。どうしましょう――あ、じゃあ今日はここまでにするわね。また次回をお楽しみに〜」
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