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青空の下の嘘つき女

作者: 若槻風亜


 小さい頃から、よく現れる女がいる。


 はじめて会ったのは家で叱られて外に逃げ出した時。それから外に出るたびにその女は俺に声をかけてくるようになった。


 その女はとにかく嘘つきだ。


 名を訊けば有名人の名前を答える。


 年を訊けば何年経っても24歳だという。


 家はと訊けば全くの他人が住んでいる豪邸を差す。


 恋人はと訊けば世界中にいると自慢する。


 何を訊いてもその女は嘘しか返さない。


 怪我の理由を訊いても大冒険をしてきたと答える。本当は俺の家の使用人に俺に近付くなと殴られたことを俺は知っているのに。


 ちゃんと食べているのかと訊いても美味しいものをたくさんねと答える。本当は大通りの店々に頭を下げて残飯をもらっていることを俺は知っているのに。


 体調が悪いのかと訊いても滅茶苦茶元気と答える。本当は今にも倒れそうなほど体が弱っていることを俺は知っているのに。


 薬を買う金がないのかと訊いても買う必要がないものと答える。本当はすぐにでも必要なのにうまく体が動かなくて仕事が出来ないから買えないのを俺は知っているのに。


 差し入れを持っていくといらないから持ち帰れと言う。本当は全部全部必要なものなのを俺は知っているのに。


 日差しが暑いある夏の日。その女はいつもの場所に来なかった。昔跡をつけて突き止めたアイツの家に訪れたら、ベッドの上でか細い呼吸を繰り返すアイツがいた。


 大丈夫かと訊けば大丈夫だから帰れと答える。手はしっかりと俺の手を握っているのに。


 俺のことが好きかと訊けば大嫌いだと答える。俺の手を握る力を強くしたくせに。


 起こして抱き締めると放せという。泣きながら抱きしめ返してくるくせに。


 少ししてアイツは俺の名を呼んで息を引き取った。少しずつ冷たくなる体をベッドに寝かせ直し、胸の前で手を組ませてやる。見下ろした顔が安らかで、涙が浮かんだ。


「……おやすみ、母さん」


 青空の下の嘘つき親子。アイツも俺も結局名乗り合わなかった。お互い親子だって分かっていたのに。


 青空の下の嘘つき親子。俺たちホントによく似てる。



短編~中編くらいで別のタイプで考えていた

タイトルですがこちらで。

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