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とある一家の夕食風景

作者: 久郎太

★妻と夫の二視点+α(文中妻と夫では料理の表現を故意変えてあります)

 ※※※※※※side:妻


 頼もしい夫がいて、優しい三人の息子と可愛い娘が一人。

 今日も、何事もなくこのときを迎えられたのが何よりも嬉しい。


 あともう少しで、王都勤務の夫と長男が帰ってくる。

 遠話器と呼ばれるこちらで言えば携帯の様な魔道具で先程連絡が入った。

 三男も士官学校の長期休暇に入り一時帰宅しているため、今夜は、久々に家族全員がそろう。

 普段は、私のお手伝いのために残ってくれた次男と末娘の三人だけ。

 久々に賑やかな夕飯になりそう。


 家族六人が、座るとちょっと窮屈なこの辺では珍しい円の食卓。

 中央にでん!と、お手製キルトの鍋敷きの上に構える大鍋にはクツクツと煮えている家族みんなが好物なミルクシチュー。

 鶏がらと野菜を煮込んだスープをベースに塩と胡椒で味を整え、メインの鳥の腿肉、根菜をちょっと濃厚な牛乳で煮込み、隠し味にチーズを溶かし入れて作るの。

 木製のボウルに、家庭菜園で作った葉野菜と生で食べられる根菜を食べやすいように切って盛り付け、お手製の粗挽き黒胡椒入りのマヨネーズドレッシングをかける。

 できたものを頼まなくともすっと持ち上げ食卓にセッティングしてくれる次男。

 無口で無愛想なところは夫とそっくり。

 でも、とても優しくて気の利く子自慢の息子の一人。

 三男とまだ五歳の末娘も自分たちにできる範囲でちゃんとお手伝いをしてくれている。

 三男が食卓の上に食器を並べて、末娘がその後を軽い木製の器をもってチョコチョコ付いている姿は微笑ましい。

 そうしているうちに薪オーブンから良い香りが漂ってくる。 

 オーブン専用のミトンを付けてそっと鉄の扉を開いてみると、ちょうどよく焼けたパンの香ばしい匂いが広がる。

 パン・ド・カンパーニュの様な直径15cm程の丸いパンが五つこんがり焼けていた。

 ピザピールの様な道具でパンを取り出し食べやすいように均等に切りパン用のバスケットに入れ空いている食卓の上に配置する。

 夕食後に多分夫や上の息子二人は、ささやかな酒宴をするだろうから、夕飯の量としてはこれで十分。

 あとは、もうすぐそこまで来ているだろう夫と長男の到着を待つばかり。



 ※※※※※※side:夫


 戸を開けた先に広がる至福の世界


 寒気で冷えた体を優しく包む居心地よく温められた部屋。

 空腹の腹を刺激する、食卓に並べられたえも言われぬふくよかな香りを放つ暖かい食事。

 「おかえりなさい」と、にこやかに俺を出迎えてくれる愛しいと心底思う妻と子供達。


 食卓に並ぶ、久しぶりに食べる妻の手料理。

 食事前の祈りを捧げたあと軽い食前酒で喉を潤す。

 器から湯気立つアツアツのシチューは、寒期で冷える体を芯から温めてくれる。

 具だくさんで濃厚な味のシチュー。

 食べ応えがあり、尚かつ食べやすい大きさの鳥の肉塊と根菜が入っている。

 大きめな木の器に盛られた少し酸味のあるまろやかなソースがかかった、シャキシャキの生野菜がこってりとしたシチューを飲んだあとの口内を爽やかにしてくれる。

 主食のパンは、外はカリッとしてなかはふっくらと柔らかいシチューとよく合うこの地方では一般的なパンだ。

 俺と食べ盛りの三人の息子がいるために見る見ぬうちに食卓の料理が減っていく。

 我が家で、料理が残ることは皆無だ。

 長男と三男は競うようにシチューを掻き込み、次男は、右隣に座る末娘の食事の世話をしながら淡々とだが、それでも長男三男と同等の量を胃の腑に収めている。

 肉より根菜を好む末娘の口に、時折次男が自分の器の中のシチューの具を放りこんでいた。

 末娘がハグハグと、一生懸命咀嚼しながらシチューを美味しそうに食べる姿はとても愛らしい。

 うまい料理に舌鼓をうちながら、各々の近況を話したり、休日の間何をするか計画立てたりと賑やかな声が家の中に響き渡る。

 家族団欒。

 かけがえのない至福のひと時。



 ※※※※※※おまけ


 三男と末娘が眠った後に、夫と上二人の息子は食後のささやかな酒宴をはじめる。

 今日の肴は、胡瓜の酢漬け、腸詰めの燻製、スライスしたパンにチーズを乗せてて炙った物。

 お酒は、夫が好むこの地方の地酒と息子たちが好む自家製の果実酒。

 片付けの終わった食卓にそれらが並べられ、木製の酒盃ゴブレットに並々と酒を注いでいる。

 卓に着いている三人は各々の杯を掲げて一杯目の酒を飲み干す。

 これは、この国の伝統で酒宴の始まりを表す作法らしい。

 この後は、男三人で酒を飲み肴を啄みながらいろんな話をし始める。

 妻の私でも入り込めない、空間。

 ちょっぴり疎外感があるけれどお酒が飲めない上、聞いてはいけない話もするので酒宴の始まりを確認してから私はそっと席を外す。

 夜着に着替えて、すやすやと眠る末娘の寝床に滑り込む。

 子供特有の高い体温が、天然の湯たんぽ替わりで直ぐに睡魔に囚われそのまま眠りにつくのはいつものこと。

 久しぶりに家族全員が揃う家で眠るのはとても安堵を与えてくれる。


 明日の朝ごはんなににしようかな?


 と、考え、幸せにほっこりしながら私の意識はすっと眠りの淵に沈んていった。


 


※一部修正

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