I miss you.
「マスター!マスター!」
足音がリズムを刻み、わたしを呼ぶ声と共に、階段を駆け上がり近付いてくる。わたしは万年筆をノートの上に放り投げ、後ろを振り返った。
「マスター!」
扉が開いて、10歳くらいの子供が飛び込んでくる。
男の子か女の子か判断し難い中性的な見た目。この子は実際、男の子でも女の子でもない。ロボット、機械人形、人造人間、アンドロイド。呼び方は様々あるだろう。要は「そういう」存在だ。
「どうした?」
上体を屈め、まぁるい瞳を覗き込む様にして尋ねる。
「あのね、あのね」
わたしの視線に促され、足音に近付いてきた。
「お外で遊んでたら、急にマスターに会いたくなったの!」
「ほぉ」
シャツの胸ポッケからペンライトを取り出した。小さな頭に手を乗せ、ライトの光を左目に当てる。
小さな体は一瞬で硬直した。このライトはリモコンみたいなものだ。3秒ほど当てると、おもむろに桜色の小さな唇が開いた。
《メイン回路、異常無し。メモリ、異常無し―――》
機械的な音声が「体調」を自己申告してくれる。どこかに異常があった場合、自動的にわたしのところに来るようにこの子にプログラムしてあった。
すべての報告を聞き終えた。
バッテリー残量10%以下。いわゆる「電池切れ」だ。ほっとしてライトを切り、ポッケにしまう。
と、人差し指が小さな両手に包み込まれた。
「マスター、マスター!」
制御された強さで、きゅっと握りしめられる。
「これが「ヒト」の「さみしさ」なんでしょう?!」
ぴょんぴょん跳び跳ねて。頬を紅潮させて。
「―――」
空いていた左手を、再び小さな球体に乗せる。
緩やかにウェーブを描く髪は、絹のような肌触り。透き通るように白い肌はマシュマロのように柔らかく、赤ん坊のような香りがする。わたしよりも温かな身体。
みんなみんな、作り物だ。
そして。
「・・・・・・ああ、そうだな」
わたしも、作り物の笑みを顔に貼り付けた。