銀色の包装に納まった小さな粒。
「ハルシオン」
今、私の手の中にある。
昔から、私は寝つきが悪い。
それでも薬は抵抗があった私は、ぬるめのお湯につかったり、寝しなにホットミルクもしくはお酒を飲んだりと、眠るための努力をしていた。
にしても最近、夜中に最低1回は目が覚め、熟睡できない日々が続く。
これでは、翌日の仕事にも差し支えるから、自分の事ばかりではなく、人様に迷惑を掛ける事にもなりかねない。
適切な治療が必要と、遅まきながらようやく私も思い始めた。
先日、風邪っぽかったので、かかりつけの内科に行った。
帰り際、眠れない事を口にしてみた。
先生は、仕方ないねぇ…。何か病名をつけなくてはと、カルテに『不眠症』と書き、この薬を処方してくれた。
名前だけは、よく聞く。
眠れない人々の間にあっては、ありふれた薬なのだろう。
その夜は、「ハルシオン」を飲んで眠りにつき、朝まで目覚めなかった。
爽快だった。
「ハルシオン」を手にした私は、使うのが勿体無いと言う思いと、癖になっては困ると言う思いから、極力使用せず保管していた。
ある時、疑問が湧いた。
この薬はどんな風に効くのだろう?
先日、服用した時は、飲んですぐにベッドに入った。
そうしたら、知らない間に朝まで眠っていた。
私は「ハルシオン」を飲むと、すぐには横にならずに、テレビを見たり、片づけをして普通に過ごした。
きっと、そのうち眠くて瞼が下がってきて、起きていられなくなるのだと思っていた。
でも、眠くはならなかった。
その代わりに、筋肉が弛緩しているのか、体の自由が次第に利かなくなってきた。
歩くとふらつくのである。
(こんな風に効くのか!)
私は、確信すると、そのままベッドに横になり、朝まで眠った。
そして私は、この薬の効き方を知った。
これを投薬すると、まず体から来て、最後に脳に来るのだ。
おお!なんといかがわしいことか。
きっとこれを飲み物にぽとりと落とし、人に勧めると、きっとその人は体の自由を奪われ、最後に寝てしまうのだ。
これで、私は私の眠りだけでなく、耐性がない限り、他人の眠りをも自由に出来るのだ。
(ふ。あははははは……)
薬を手に私は、高笑いしたい気持ちになる。
……悪用しないけど。 |