むかしむかし、あるところに、仲の良いお爺さんとお婆さんが、二人きりで暮らしていました。お爺さんとお婆さんは、毎日毎日笠をつくり、週に一度それを町まで売りにいくことで、どうにかやりくりしていました。決して裕福な暮らしとはいえませんでしたが、二人は充分に幸せな日々を送っていました。
ある冬の寒い日のことです。お婆さんは、たくさんたまった笠を紐でくくると、お爺さんにいいました。
「お爺さん、お爺さん。最近は雪が降ってばかりで、もう三週間も笠を売りにいっていません。今日も雪は降っていますが、もうすぐお正月ですし、そろそろ、売りにいってきてくださいな」
お爺さんは、快くうなずきました。
「儂も、そろそろ売りにいかなくてはならんなあと思っておったところじゃ。今日、町まで行くとしよう」
こうしてお爺さんは、笠を売り、そのお金でお正月用の食料を買うために、町まで出かけることにしたのです。
しんしんと雪の降るなかを、お爺さんはゆっくりと歩いていました。ずいぶん積もった雪に足を沈めながら、一面真っ白な景色のなかを町に向かって進んでゆきます。村はずれまで来て、山の間の道を進んでいく頃には、静かに降っていた雪は大雪に変わり、お爺さんは足を速めました。
「こりゃあ、たいそう、降ってきたぞ」
思わずつぶやいて、笠をくくった紐をしっかりと持ちなおしたときでした。野道の端っこで、お地蔵さまが立っているのが目に留まりました。
「こりゃあ、こりゃあ、お気の毒に」
お爺さんは、思わず立ち止まりました。
道ゆく人をいつも見守ってくれているお地蔵様は、雪をたくさんかぶり、それでもいつもと同じ優しい顔で立っていました。お爺さんは、最初のお地蔵様の雪を丁寧に手で払いました。
「お地蔵さまも、これじゃあ、寒かろう」
今度はその隣のお地蔵さまの雪を、そうして次はさらにその隣のお地蔵さまの雪をと、お爺さんは順番に雪を払っていきました。そうしているうちに、ふと振り向くと、最初のお地蔵さまにはもう雪が積もってしまっていることに気がつきました。
「こりゃあ、やってもやってもきりがない」
お爺さんは、途方に暮れてしまいました。このまま放っておくわけにもいきません。
しばらく考えて、お爺さんは、良いことを思いつきました。
「そうじゃ。笠がある」
お爺さんは背負っていた笠をおろすと、くくっていた紐をとりました。そうして最初のお地蔵様のところまで戻り、もう一度雪を払うと、そっと笠をかぶせました。
「ようし、これで寒くないじゃろう」
お爺さんは順番に、お地蔵様の雪を払っては笠をかぶせてゆきました。しかし、最後のお地蔵様さまの雪を払い除けて、笠をかぶせようとしたとき、もう笠はなくなってしまっていることに気がつきました。少しだけ考えましたが、お爺さんは自分のかぶっていた笠をとると、最後のお地蔵さまにかぶせました。
「これで、よし」
そうしてお爺さんは、来た道を戻り始めました。
家に帰り着いたお爺さんを見て、お婆さんはびっくりしてしまいました。
「まあ、まあ、お爺さん、どうしたんですか。そんなに雪をかぶって、風邪をひいてしまいますよ。それに、お正月の食べ物は、どうしたんですか」
お爺さんは、すまなそうに、途中でお地蔵さまに笠を全部あげてしまったことを話しました。お婆さんは、驚きましたが、すぐに笑っていいました。
「それは、良いことをしましたね。お地蔵様も、暖かいお正月を迎えることができますね。そういうことなら、わたしたちは、すこうし、我慢しましょうか」
こうして二人は、その日は何も食べずに、もう寝てしまうことにしました。
その日の夜のことでした。
外から、なにか音が聞こえてくる気がして、お婆さんは目を覚ましました。
「お爺さん、お爺さん、なんでしょう。こんな時間に、お客さまでしょうか」
お爺さんも、目を覚ましました。
「まさか。まだ雪は降っているというのに、人など来るはずがない」
二人は顔を見合わせましたが、思い切って扉を開けてみることにしました。
扉を開けてみましたが、そこには誰もいませんでした。その代わり、米俵がひとつ、置いてありました。
「お婆さん、お米があるぞ」
「ええ、ええ、いったい誰が……」
二人が困っていると、どこからともなく、声が聞こえてきました。
お爺さん、お爺さん、笠をどうもありがとう、どうもありがとう
それは、歌っているような、ささやいているような、不思議な声でした。
「そうじゃ、お地蔵さまが、笠のお礼にくださったんじゃ。そうに違いない」
「これで、お正月を過ごせますね。お地蔵さまに感謝しなくてはなりませんね」
二人は、大喜びです。
その次の日も、その次の日も、毎晩毎晩扉の外には食料や小判が置かれるようになりました。しかも、その量は日に日に多くなっていきます。それは、お爺さんとお婆さんが暮らしている小さな家には入り切らないほどの量でした。
「お爺さん、お地蔵さまに、もう充分ですといいにいきましょう。こんなにいただいてしまって、かえって罰が当たります」
「そうじゃなあ。明日あたり、お地蔵さまのところまで行くとしようか」
そうして二人は、お地蔵さまに会いにいくことにしました。
その翌日は、雪は降っていませんでした。お爺さんとお婆さんは、朝早くから、二人で家を出発しました。
お地蔵さまのところまで辿り着くと、今日は晴れているからか、お地蔵さまはみな笠をかぶっておらず、笠は右の手に引っ掛けてありました。
「お地蔵さま、お地蔵さま、たくさんの食べ物やお金を、どうもありがとうございました」
お婆さんが、お地蔵さま一人一人にそういいました。
「お地蔵さま、お地蔵さま、もう充分でございます、本当にどうもありがとうございました」
お爺さんも、お地蔵さま一人一人にそういいました。
二人はそれで満足しましたが、せっかくなので、山のふもとの町まで久しぶりにいってみることにしました。
「今日は雪も降っていないし、町までいってみるか」
「そうですね、そうしましょう」
二人は、ゆっくりと歩き始めました。
町に辿り着き、二人は言葉を失いました。
活気に溢れているはずの町は、すっかりさびれ、人々は虚ろな目をして、道の端で座り込んでいました。
「これは、いったい、どうしたことだろう」
わけもわからず、二人がすっかり困惑していると、町の人間がひとり、お爺さんとお婆さんのもとまで歩み寄ってきました。
やつれ果てたその男は、二人に、こういいました。
「お願いだ。何でもいい、もし持っているなら、食料をわけてくれ。この町の食料と財産は、すべてお地蔵さまが持っていってしまったんだ」
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