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成れの果て

作者:キュウ
 あるところの海の上。ポツンと、周囲には何も寄せ付けずに、絶え間なく打ち付けてくる波を遥か昔より流し返してきた、小さな島が在った。
 長い間、燦々と降り注ぐ日の光にも、荒々しく激しい嵐にも当てられて長い歴史を辿ってきたその島には、人間などは全くと言っていいほど居なかった。居るのは、ごく少ない種類の動物や虫たち、そして島全体を覆う植物のみ。その島は、いわゆる無人島というものであった。
 ところが数十年ばかり前に、一人の男が現れた。
 突如として、何かを叫んだり高々と笑ったりしながら、悪魔のように現れたわけではない。身に纏うさもしい衣服だけでなく、指先から足の先まで身体中をボロボロにして、彼はある日晴れ渡る空の下、岸辺に倒れていた。どこから来たのか、いやどこから流れて来たのか、なぜ流れることになったのか。当然、島の「住民達」には、そんなことを知る由もなく、草原の隙間から顔を覗かせ、ただひたすら男を遠巻きに眺めるばかりだった。
 男は、流木のように動かないまま二日ほど倒れ込んでいたが、やがて震える手足を突きながらむっくりと起き上がり、しばらくきょろきょろと周りを見渡した後、ゆらゆらと島の中へ入って行った。彼は木漏れ日も軽薄な森の中に消えて、それからひところは日のもとへ姿を見せなかった。人間の目が行き届く外界からは完全に世界を隔絶し、男は数ある歴史のどの舞台にも、その名前すらおくびにも出さず、長い年月を経ていった。
 島の「住民達」は、男が島でどうしていたか、歴史の裏側を全て知っていた。何もかも、それこそ、男が寝ている間も起きている間も、常に監視していたから……監視せざるを得なかったものだから、彼の行動は一挙手一投足余すことなく全て知っていた。
 それだから「住民達」にとって、男はにっくき敵であった。
 男は無遠慮に動物たちを狩り、植物を伐採し、火を起こして、虫を殺した。さもそれが当然であるかのように彼等の住処を野蛮なその腕で、草分けのつもりなのか無心なのか判らないが、彼等にとって男の気が振れているとしか思えないような振る舞いで、無慈悲に残酷に冷徹に、島を気勢とともに蹂躙していった。まるで埒外のその行為は、悪魔の所業そのものだった。
 それでも、皆を殺す男の、その恐ろしく不気味な姿を視ていた「住民達」は、彼を襲撃することをひどく躊躇った。そんなことをすれば、勇気は無謀と嘲笑われ、見たことも無い武器を一閃振り下ろし、あっさりと返り討ちに遭ってしまう。それが、悔しくもすぐさま解ってしまった。
 憎くて、とても、憎くて、いくら殺したくとも、殺しに行けない。それなのに、殺さず放っておくと、男は容赦なく迫り来て、咽び泣く暇も祈る猶予も与えずあっさりと殺していく。まるで死神のように色の無い目で睨み付け、冷たい刃でもって斬り裂き、貪る。
 そんな地獄のような日々が、何年も、何十年も続いた。

 ――ある日のことだった。
 男は煩雑に伸びた白髪を潮風になびかせながら、島の西にある海岸までやって来ていた。眼前でみるみるうちに海原の果てへ吸い込まれていく眩いばかりの夕日を観ながら、石造のようにじっと動かずに、足元に打ちつける波も全く気にせず、ただ、座っていた。
 腕が、脚が、全身が皺にまみれて、もはや、若き頃の力は磨り減り、あとは、短過ぎる余生を指折り数えるのみの日々だった。男はもはや、かつて血のよく巡った瞳も曇らせ、毎日のようにそこへ来ているのだった。
 一頭の子熊が、そんな彼のもとへ忍び寄っていた。こんな有様の男ならば、今度こそ殺せるに違いない。そう思って、先日殺されてしまった親の顔を思い浮かべながら、憎しみに囚われた暗い瞳で男の背中を睨んでいた。
 そして遂に、意を決して襲い掛かろうと思い立って、勢いよく両腕を振り上げた、その時だった。
「おお、母よ……」
 男が、初めて口を開いた。その、低くて乾いた声にビクリとし、子熊は動きを止めた。男はさらに言った。
「母よ。私はもはや、人間などではないようです。ただただ無心に殺戮を繰り返す、命を奪うことしかできなくなった、悪魔か死神と名乗る方がずっと納得できます。悪魔がこのような場所に居るのは、なんとも恥ずべき所業でしょう。じきに、本当の死神に成り果てるでしょう……」
 子熊は、トテトテと男に歩み寄り、その表情を伺った。そして、子熊は、目をひん剝いて慄いた。
 男の頬には、肉と呼べるものがほとんど無く、その鍾乳洞のようにかたどられた肌の隙間から、白い骨が無惨にも剥き出しになっていた。彼はこっちを向いて、もはや表情を失った顔を不気味に歪ませて、「今まで、本当にごめんよ……」とだけ言うと「何か」から罰を享けるように、みるみる肉が削がれていっていた。
 やがて……、男の手から血まみれの「ナイフ」も落ちて、その潮と冷たい風ばかりが訪れる海岸には、骨とわずかな肉だけが残った。
 子熊は、一斉にそこへとびかかったハエ達を見下ろしながら、彼自身自覚しないまま、こっそりと泣いた。
お疲れさまでした♪
ほんとは海を登場させたいという意思のもとで書き始めたというのは
今や僕自身信じがたい発想の原点・・・
なぜこうなった・・・!
というのは、僕が一番思っていることでして、皆様のその思いは僕が全て貰い受けるので、
どうかご自分の手で、貴方自身のカタルシスを見出してください。

HP(→http://kyunote.blog.fc2.com/)にて
コメントや編集後記、ほかのお話のまとめも掲載しておりますので
ぜひこちらにもどうぞ

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