一応次回で短いエピローグ的なものをはさむ予定です。
もうちょっと日常依頼を描きたいものです。
拙作ではありますが、楽しんでいただける方がいれば幸いです。
「何、してるの」
静寂を破ったのは、気を取り戻した女の声だった。
俺は答えず、血の付いたままのショートソード、そこらで売っているような程度の
数打ち品を手に、こちらを見たままの女の前に立つ。
着替えてはいるが、街中で話していた女に間違いはない。
「なんで俺なんかを襲った? 別に金持ちでも前線を張る冒険者でもないはずだ」
素直に言うとは思っていないが、とりあえずは聞くのが流れだろう。
鬱屈した気持ちを振り払うようにできるだけ冷たく言葉をつむぐ。
月明かりが刃に反射し、いやな輝き方をするのが目に入る。
「あんたのみたいな遺物が欲しいって奴がいるのよ」
縛られたままで、あっさりと答えてきた女の言葉に俺は逆に驚きの視線を向ける。
そんな視線に気がついたのか、女は窮屈だろう姿勢のままで
器用に苦笑してみせた。
「私はもう家族もいないから。達成できればよし、出来なければそれまで。
そんな使い捨てのヒラなのよ。最後ぐらい好きにするわ」
疲れた様子の声に、俺は黙ったまま剣を背中に戻し、消し去る。
女からは背中に刺しなおしたように見える形だ。
「だから、喋るのか?」
「別に、だからってわけじゃないけどね。疲れちゃった。
訓練だからって毎日仲間内で本気でやり合うし、さ。
終わったと思ったらあっちこっちにつれまわされるし」
その後のことがぽつりぽつりと、女の口から語られる。
国を広げようとするどこぞの王。
そして賛同する貴族たち。
既にいくつかの小国は外交という戦争で吸収されているらしい。
圧力に必要なのは圧倒的な戦力、そしてその供給だ。
そのために自分達の国の優位性は保ちたい。
そんなときには戦力と、それが使う武具の質が物を言う。
ただ職人を囲うだけでは満足しなかったその国が目をつけたのは遺物。
遺物さえあれば後は改めて使える人間を捜せばいいだけの話、らしい。
「モンスターもいるってのに。おめでたい話だな」
「まったくよ。ねえ、戻っても、まともには生かしてくれないからさ。
やっちゃってくれないかな?」
女の声には諦めがある。
無防備に自分の喉を晒している。
「冗談じゃない。俺はそんなことまで背負えないよ」
俺は即座に首を振る。
女が正しいことを言っている保証はないが、
こういった組織が失敗した人間や、裏切り者に冷たいのはどこの世界も変わらない。
伝えることまでが作戦でもない限り、女は無事にはすまないだろう。
思い立ち、腰に下げたままのナイフの1本を手にして歩み寄る。
俺の気が変わったのかと思ったのか、ぎゅっと目を閉じた女の期待を裏切る形で
俺は縛っていたロープの結び目の1つを少し切り、拘束を解く。
「? どういうつもり?」
「別に、このままにしておいても後味が悪いだけだ。
街から逃げるなり、戻るなり、好きにしろ」
相手が武器を持っていないことは拘束の際に確認している。
俺は男が飛び出した窓に近づきながら、周囲をうかがう。
本当は一度戻って体勢を整えるか、ジェームズらに支援を頼むべきなのだが、
時間がたつほど相手に準備の時間を与えてしまう。
次はそれこそ対処できない形での襲撃もありえるだろう。
出来る事なら潜伏先の1つでも見つけておきたい。
と、そのとき。
「西側よ。今は使われていない、没落した成金の屋敷があるわ」
「……復讐でもしたいのか?」
俺は背中にかかった声に、振り返らずに言う。
復讐と決め付けたのには特別な理由はない。
普通、天涯孤独な身だからと暗殺者など選ぶことは無いだろう。
何かそうしなければいけない理由があったからだろう。
それは生活のためか、力が欲しいからか。
「そういえば返してないものがあったなって思っただけよ」
音もなく、そばにやってきた女を見やる。
近くで見れば、体格は少女そのものだが、振る舞いには
これまで彼女が遭遇してきた苦労を感じさせた。
表の姿は作っていたのか、本来はあのぐらいの年頃なのか。
年齢不詳な今はそれもわからない。
目には、先ほどまでのような諦めや狂気は無い。
それどころか、良い笑みだ。
「上等だ。俺はファクト、しがない鍛冶職人だ」
「ふーん……まあいいわ。キャニーよ」
ロープを切ったナイフをキャニーに渡し、先を促す。
キャニーは体の調子を確かめるように幾度かひねった後に、
滑らかに建物から外へと歩き出した。
俺も併走する形で、キャニーの後に続く。
月明かりが照らす中、ところどころ建物による闇を潜り抜けながら、
途中の襲撃を警戒して進んでいるとき、キャニーが振り向く。
「ねえ、この前のみたいに隠れてどっかいけないの? ぱぱっと消えてまた出てきたじゃない」
「見てたのか……あれは移動はできないんだよ」
鍛冶に関する遺物はともかく、キャンプに関してはまだ誰にも見せていない。
それに関して言ってくるというのは見ていたのは間違いない。
人気がないからと油断した俺が悪かったのだ。
「ふーん、あ、向こうにはあんたが鍛冶方面の遺物を持ってるとしかいってないから安心して」
「こんなことになっておいて、安心も何も無いさ」
それもそうね、とキャニーが笑い、俺も気にせず走り続ける。
二人、夜の街中を走ると不思議な気分になる。
活気のある場所はとうに過ぎ去り、静かな住宅街を抜け、
まばらになった家々の間を駆けていく。
街の一角にある広場のような場所の手前でキャニーは足を止め、
壁に隠れるようにして先を見やる。
「アレよ」
「明かりはないな。当然か」
キャニーの視線の先にある建物は、いかにも廃屋という感じだった。
荒れ果ててはいるが広い庭、そして伸び放題の草木。
塀もあちこちが朽ちている。
正面からの移動は避け、路地側からもう少し近づこうと踏み出した途端、
足元に違和感。そしてあふれる気配。
どうやら何かの罠を踏んでしまったようだ。
音は特にしなかったが、何かしらの仕掛けだったのだろう。
「……こりゃ、みんなにどやされるな」
「生きてれば、ね」
屋根の上や路地の先から何人もの人影。
全員がいかにもな姿をしている。
そのうちの雰囲気が違う1人が、前に出てきて大げさに武器を向ける。
「おとなしくしてもらおうか」
ありきたりな台詞に、ここで独創的な台詞が来ても逆に困るか、と
思いながら両手を挙げる。
ここで騒いでも相手が増えるだけだし、
すぐに殺すつもりならとっくにそうされているだろう。
自らのステータスに望みを託しておとなしくつかまることにする。
(ぱっと見は廃墟のままだけど、なんか魔法が要所要所にかかってるな)
後ろ手に縛られ、鍛えられた様子の男に抱えられた俺は、
廃屋の中にキャニーとともに連れ込まれた。
散らかってはいるが、埃っぽさの無い空間だった。
すぐに落ちてきそうな傾いた窓枠も、なんとなく感覚に引っかかるものがある。
俺を抱えたままの男が木の板や石床の上を無造作に歩いても足音がしないのも、
いくら訓練されているとはいってもおかしい。
それよりも問題は、捕らえられた段階では俺は遺物に相当するものを
一切持っていなかったことだ。
用意する暇も無かったので仕方が無いのだが、
現時点では俺はただの鍛冶職人でしかない。
俺は何かしらの遺物で色々と作れる、みたいになっているはずだ。
それでも今持っていない、となればどこかに置いている、と考えるはず。
候補としては工房の部屋等になってしまうだろう。
と、押入れか何かか、狭い部屋にキャニーと一緒に放り込まれる。
床に放り出される衝撃にうめきながら、ここまで運んできた男を見る。
暗殺者は暗殺者でも、力づくで押し通すタイプに見える。
「心配するな。必要なものをこっそり持ってくるだけだ」
「それにしちゃ、殺されそうになったんだがな」
俺が拘束されたまま答えると、男は肩をすくめた。
「そんな世の中だ。さて、何事も無く見つかることを祈っときな」
誰に、と言うことも無く、男は扉を閉める。
どこかに言った様子は無く、前に立っているようだった。
「ねぇ、どうするのよ」
「さあてな、この状況じゃ無理だろ」
ささやいてくるキャニーに、あきらめたようにいいながら俺は
武器生成を実行する。
大きな物は必要なく、現実世界で言う果物ナイフに近いような
投擲に主に使うタイプの小さな刃物。
これなら例え周囲がほとんど資源が無い状態でも作成可能だ。
そっとキャニーを見て、手の位置を確認した俺は
キャニーの手の中にも同じ物を武器生成で作り出す。
突然手の平に現れた金属の手触りに一瞬、体を揺らすキャニーだが
理由はともかく、何か俺がしてこうなったことは理解したようで
おとなしく生み出された刃物を握ったのがわかる。
「案外諦めが早いのね」
「何、無駄なことはしないだけさ」
怪しまれないように、適当に会話をする。
小声であればそうそう聞こえないだろうが、
扉の前にいる相手に気がつかれるわけにも行かず、こうするしかない。
後は拘束を解くタイミングを計るだけだ。
できれば何か起きてほしいところだが、さて?
最悪、強行突破しかないかと考えたとき、扉の向こうの気配が動く。
すぐさま先ほどの男が扉を開け、1歩中に入ってきて口を開いた。
「おい、大人しく吐け」
「汚くぶちまければいいのかい?」
相手の言葉には怒気がこもり、表情にはあせりと怒りがある。
どうやら何も見つからなかったようだ。
当たり前のことだが、工房からは普通の道具しか無い。
俺の挑発に男の顔がゆがみ、一撃は覚悟するかなと腹に力を込めたとき、
どこからか静かだった空間に騒音が響く。
何かを吹き飛ばすような、大きな音。
「な、なんだ!?」
想定外の事態に、男が思わず音のしたほうを向く。
(ここだっ!)
俺は迷わず刃物で拘束を断ち切り、体ごとぶつかっていく。
「ぐぇっ!!」
壁にぶつかる形で吹き飛んだ男に向けて攻撃を仕掛けようとしたとき、
同じように拘束を解いたキャニーが刃物をそのまま男の首に投げつけていた。
深々と突き刺さった刃物が男の命を確実に奪うのがわかる。
暗いだけの廊下に、どす黒い液体と、異臭が広がる。
人間が、死んでいる。
「どうしたの?」
「いや、大丈夫だ」
動きを止めた俺にキャニーが様子を伺ってくる。
ここは命が掛け金になっている空間だ、変な倫理観など役に立たない。
俺は背中に手を伸ばし、おもむろにショートソードを取り出す。
「取り上げられたんじゃないの?」
「良い男には秘密が多いものなのさ」
我ながらなんだそれは、という理由を口にし、キャニーの追及を避ける。
ずれた返答は自身の気持ちを切り替える作用はあったらしく、
もやもやしたものが少し薄れたことを自覚しながら周囲を探る。
こうしている間にも、音はあちこちから響いている。
先ほどまで感じなかった人の気配もあちこちにあり、
怒号らしきものも聞こえてくる。
「手入れでも入ったか? それにしては荒っぽいな」
物陰から様子を伺いながら、脱出すべく歩き出す。
と、一際大きな扉が、向こう側から吹き飛ばされる。
魔法の明かりと思われる光に照らされていたのは、ジェームズだった。
背後には知らない冒険者、杖を構えているので魔法使いだろう男を従えている。
「ん? ファクトじゃないか、なんでここに?」
「それは俺の台詞だ。なんでいるんだよ」
手短に聞いたところによれば、以前、偶然にもこの建物に誰かがいるのを
目撃した人間による報告から、不審者のあぶり出しを街の上層部が判断し、
警告と襲撃をかねた依頼があったらしい。
ただのごろつきという可能性もあるわけだが、
好きにさせておくわけにはいかないし、ごろつきだったとしても
簡単な説得に応じるようなやつらではないだろう、と判断されたそうだ。
説得できなくても、こんなところでこうしているとこうなる、と見せ付けれればいい、と。
「道理でこんなに騒がしいわけだ」
ジェームズたち以外にも何組かのパーティーが参加しているようで、
あちこちで音がする。
「まあな。後の二人はお留守番さ」
クレイとコーラルは他の場所で別の依頼をしているらしい。
どんな依頼を、と聞こうとしたとき、気配が生じる。
「夜は静かにしてほしいものなんだがね」
気配と声に振り向けば、建物の2階部分、吹き抜けになっていた場所から若い男の声。
見上げれば声の主のほかに何名もの暗殺者姿の人影がある。
「あんた! やっぱりいたわね!」
キャニーが男に向けて飛び掛らんばかりの勢いで叫ぶ。
「おやおや、戻ってきたというのは本当だったのか、律儀なことだ。
目覚ましには早いというのに」
男は感情を逆なでするように肩をすくめ、こちらを見る。
ぞっとする瞳の冷たさは、男が相応の強さを持っていることを示している。
「このっ!」
なおもキャニーが叫ぼうとしたとき、ジェームズがその肩をつかんでとめる。
「騒いで悪かったな。でもよ、忘れたのか? この時間に起きる約束じゃないか」
ジェームズの皮肉が空間に響き、それを合図にしたかのように
周囲からの殺気が迫ってくる。
「下がって!」
「やれるだけはやるさ!」
俺への一撃をどこで拾ったのか、いつの間にか手にしていた
ダガーらしきもので防ぐキャニー。
俺もただ見ているというわけにもいかないので、乱戦の中に躍り出る。
比較的小柄な1人に攻撃を絞り、右手のショートソードを振るったとき、
その相手はしゃがんだかのように沈み込み、俺の攻撃を下からはじこうとすくい上げてきた。
「おおっと!? 何っ!」
弾き飛ばされないように、しっかりと柄に力を入れたところで甲高い音。
手に持ったショートソードが半ばから折られたのだ。
明かりに照らされた人影の手にあるものは、どこか櫛を思わせる特殊な形。
「ソードブレイカー!?」
脳裏をよぎった旧時代に実在したという、これまたファンタジーではよく見る特殊武器の名前を叫ぶ。
折った勢いのまま、俺に迫る攻撃をまたまたキャニーが防いでくれる。
「ちょっと、勝手に死なないでよね!」
「別にそんなつもりはないんだが」
お礼を言うにいえない中、キャニーの反撃に敵は後方にジャンプし、
一時的なものか、撤退する。
「あ、待ちなさい!」
キャニーは知ってか知らずか、人影を追いかけていく。
「おい!」
ちらりと乱戦の模様を確かめ、ジェームズが大きく武器を振るっているのを確かめ、
俺もキャニーを追いかける。
死角に入ったところで特に調整もせずに再びの武器生成で、手には
室内に適した長さの剣が産まれる。
二人は出てすぐの空間、裏庭のような場所で相対していた。
相手はソードブレイカーに、嫌な照り返しのあるダガーをもう片方の手に持っていた。
恐らくは、毒。
と、武器を構えていたキャニーの目が大きく見開かれる。
「まさかっ! でもそれはっ!」
キャニーの視線の先にはむき出しのままの人影の腕、
そこにはまった大きな宝石のはまったブレスレット。
「知り合いか?」
俺は適当に言うと、キャニーはうなずいた。
当たりか……。
「ええ、私に家族はいないわ。今までは、ね」
会話を隙と見たのか、襲い掛かる相手の攻撃を捌き、
距離をとったキャニーが再び口を開く。
「親は早い時期に死んだわ。後にいるのは妹だけだった。
あいつ、仲間になれば妹は金をやって解放するって言ったのに。
それが、なんで、ここにいるのよ!」
キャニーの叫びに答えたわけではないだろうが、
攻撃がかすっていたのか、人影がかぶっていたフードのようなものが
ハラリと切れ目から取れ、顔が見える。
キャニーと同じ面影のある、より年若い少女。
その瞳はどこかうつろで、正気を感じない。
バンダナのように身につけた額の布には、嫌な輝きの石が1つ。
「あれ、やばいやつか?」
「ええ、どうしても抵抗する人間をどうにかするやつらしいわ」
私はつけなくてすんだけど、とはキャニーの弁。
こちらが二人なのを警戒しているのか、踏み込んでこない相手を見ながら、
俺は嫌な想像を口に出す。
「こういうときに、片割れに言うことを聞かせるため……か?」
「それか、単純に仕留めやすいと思ったんじゃない?」
「なるほどな。で、やるのか?」
俺の言葉に、キャニーが首を横に振る。
「やりたくないけど、やらなきゃ」
悲壮な決意を込めた瞳に、俺はため息1つ。
「俺はハッピーエンドが好きなんだよね」
「はっぴ、って何?」
キャニーに答えず、背中に回した手に手早く武器生成でさらにショートソードをもう1本。
「できるだけ動きを止めるからさ、なんとかあれ、取るように」
俺は鍛冶職人であって、ステータス的にも前衛ではない。
今から行うのは無謀なことだし、合理的ではない。
ここで命を危険にさらず価値があるのか?と問われれば、
第三者的に見れば、無い、に決まっている。
それでも、だからといって。
「何もしないってわけにもいかないだろ!」
相手の動き1つ1つを見逃さないよう、自身のステータスを信じて切りかかる。
俺の動きに少しは動揺してくれたのか、ワンテンポ遅れて動き出した片手が
滑らかに俺の武器に迫り、再び甲高い音。
右手の剣が折られたのだ。
そして左手の攻撃を姿勢を変えることで回避し、
俺の懐に迫る少女。
右手の武器は無い。左手は回避された後。
これで終わり、である。
――通常ならば。
少女の繰り出した攻撃を金属が受け止める。
キャニーはまだ俺の後ろにいる。
少女の武器を受け止めたのは、俺の右手に生み出された新たな剣だった。
器用に体をひねり、ちょうど少女の攻撃が来る位置に生み出した剣が
うまく攻撃を受け止める。
表情には何も出ないが、目の前の状況に不可解さは感じているのか、
動きが止まった相手に俺は右手に掴んだ剣を突き出す。
あっさりとそれを回避する少女。
やはり、強さという点では俺に勝ち目は無いか。
「まだまだ!」
再度間合いを詰め、折ってみろといわんばかりに繰り出した攻撃を
少女は再び折り、俺は再度生み出した剣で追撃する。
普通であれば攻撃方法を変えてくるところだが、少女の動きは同じ。
折って、カウンター、だ。
本来はそれで十分なのだろう。
そんな攻防が何度か続いた後、鈍い音がその場に響く。
「短いとはいえ、折るには苦労しただろ?」
俺は返事が返ってこないことをわかっていながら、そうつぶやく。
鈍い音は少女の持ったソードブレイカーが、その櫛のような刃部分を途中から
あらぬ方向へと曲げられた音だった。
ソードブレイカーは元々、細い武器を破壊するものだ。
もちろん、この世界ではまったく別物という可能性もあったが、
最初に折られた時点で、折られた音以外に、
ソードブレイカーが発したであろう音も耳に届いていたのだ。
「どうやら理性はなくしても、その分の思慮はなくなるようだな」
繰り返し無理な武器破壊を行うことで役に立たなくなったソードブレイカーを投げ捨て、
嫌な光を放つダガーで襲い掛かる少女。
かすっただけでもやばそうなその攻撃を2本の剣でなんとか回避する俺。
仮にくらっても適当なポーションでも飲めばいいかと思いながら、
できるだけ自分にひきつけるように間合いを保つ。
となれば、少女は横からの攻撃に無防備にその体をさらすことになる。
同じ暗殺者として、見事なまでに気配を殺した奇襲が、
効力を発揮し、キャニーの拳が少女の腹に突き刺さる。
カウンター気味に入った一撃はよほどの衝撃だったのか、
少女は土の上に転がり、動こうと体をよじるも、立ち上がれない。
そのまま動かなくなる。
ダガーをつかんだ手からも力が抜け、地面にダガーが音も無く落ちた。
「こんなものっ!」
感情のこもったキャニーの声とともに、少女の額からバンダナがはずされ、
キャニーはその怪しい輝きの宝石に自分のダガーを突き刺し、砕く。
あっさりと砕けた宝石を見やり、俺は1つの解決を感じた。
気を失ったのか、キャニーの膝の上で目を閉じる少女の姿はどこか穏やかだ。
「これでいいのか?」
「ええ、多分」
他に敵がいないか、警戒しながらの俺にキャニーが静かに答える。
いつの間にか、戦闘の音は止み、野太い冒険者の歓声がどこからか響いてきた。
どうやらジェームズ達も無事に戦いを終えたようだ。
俺も剣を無造作に地面に突き刺し、深く息をはく。
「こんなことは本職に任せたいもんだ」
「男なんだからそのぐらいがんばってよね」
一応の解決を見たことで余裕が戻ってきたのか、
キャニーの声は明るい。
「それも、そうか。……そうなのか?」
「ええ、そうよ。借りは返さないといけないしさ」
愛しそうに妹の髪をなでながらつぶやくキャニーの姿に、俺も苦笑し、体をほぐす。
聞こえてくる俺を探すジェームズの声に、
ひとまずの解決を実感した俺は、あちらの結末を確認すべく声を上げる。
廃屋を包む夜の闇に、その声が思ったより大きく響いたのだった。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。