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無双、でも無いような気がしてきた。

一応、描写設定変更。
本編1章
07「ベテラン無双、ただし格下に限る-2」

(静かだな……)

高さは2mと少しぐらい、幅はもう少しありそうな坑道を進むが、
今のところはモンスターには遭遇していない。

砂利を踏んだ小さな音が若干の反響を伴いながら耳に届く。

時折、風が吹き、その冷たさが体を冷やしていく。

このままだと寒さに震えるかもしれない、と思い始めた頃。

耳に届く何かが走る多数の音。

(来たっ!? いや、まだか)

前後を確認し、奇襲に備える。

(落ち着け、俺のLvならゴブリン相手じゃどうやっても死なない)

不安を押し消すように、空中に表示した自らのステータスの数字を確認する。

MDにおいては、前衛を除けばほぼ最高値といえるLv、その高Lvゆえの各種補正は尋常ではないはずだ。

現に、前に遭遇したゴブリンは一撃だった。


―だが、本当に余裕なのだろうか?

日々を過ごし、この世界が現実であり、この世界に自分が今生きているという実感。

隣人の笑顔、味わう食事、土と森、自然の臭い。

全てが、ゲームであった頃の感覚を確実に蝕んでいく。

廃人とも呼ばれた自分への自信、強さ。

その代わりに現れる、死への恐怖。

あっさりと怪我をして自分は死ぬのではないだろうか?

そんな疑問が浮かんでは消える。

目や急所に何かが刺さるだけで危険なのではないだろうか?
ゲームには無いような病気1つでいきなり重篤になるのではないだろうか?

試すわけにも、経験したくも無い疑問が考え始めると止まらなかった。

不安を隠すだけなら、ずっと街に篭っていればよかった。

依頼を受け、何かを作って、街でお金を消費し、街で過ごす。

そうすればきっと確実に生活できた。

でも、それではいけないのだ。

「いたっ! 一匹目っ!」

曲がり角でばったり遭遇した1匹の緑色のゴブリンに、技術も何も無く切りかかる。

『ギッ!』

Lvと、そのステータス任せの一撃は左肩へと食い込み、そのままゴブリンを物言わぬ物体へと変化させる。

ゲームのように消えるわけでもなく、ポリゴンの破片と化すわけでもない。

静かに、現実のモノが視界にとどまる。

荒い息、痛いほどに剣の柄を握っているのがわかる。

「ははっ……そうだよな、ゲームならこんなハラスメントなモンスターの死体なんて存在しないよな」

汚れた剣の刃部分が、鈍い光を反射しながら俺の顔を写す。

明るいフィールドではなく、灯りの限られた坑道、というシチュエーションがその存在をさらに際立たせる。

街の住人やトモ、隊長などに見せていた当たり障りの無い、表向きの顔が今は消えていくのがわかる。

剣を振るい、血を飛ばして構えなおす。

このまま1冒険者として過ごすのか、はたまた魔王でもいて世界を救うのかはわからないが、それでも俺には力がある。

続けて現れた数匹のゴブリン。

全てが俺に敵意とはっきりとわかる態度と視線で襲い掛かってくる。

先頭の一匹の首へ向けて剣を突き出し、一気に押し込むように剣を振るい、切り裂く。

飛び散る鮮血、妙ににおう気がするがなんとか意識を戻す。

1匹目の背後に抜けた時点で顔の辺りを狙ってくる2匹目の攻撃を、体を左にひねって回避し、右にひねり戻す形で、勢いを乗せて1番後ろにいた1匹へと斜めに振り落とし、首と体を分断する。

「ファストブレイク!!」

間髪いれず、染み付いた癖でスキルの発動と共に叫び、位置を入れ替える形になった2匹目へと先制攻撃にも良く使われる剣士系の初級技を繰り出す。

武器を持つ手元に攻撃するようにフェイントとして動いた剣が、すぐさま刺突となって
慣れ親しんだ動きで、確実にゴブリンに吸い込まれる。


訪れる静寂。


都合3匹、息の根を止めることに成功する。

普通に過ごせば先制ぐらいにしか意味のないスキル性能だが、このLv差と能力差なら十分だろう。

動けば水音を立てる剣から垂れ落ちるゴブリンの血。
ライティングの光に照らされる物言わぬゴブリンだったもの達。

「それっぽいものは……無いな。リーダー格が光物で集めてるのか?」

剣先でつつきながら、懐をあさるが時計は出てこない。

隠し持っていることを踏まえ、出来るだけむき出しの部位を狙っているが、早いところ持っている奴を見つけたいところだ。

と、ゴロリとゴブリンの首がバランスを崩して転がり、その瞳が俺を見据える。

現実でも、ゲームでも味わったことの無いなんともいえない感覚。
これはゲームの再現だと思い込むことは簡単だ。でも解決にはならない。

ステータス異常を受けていないことをチェックし、息を整える。

「……いいぜ、上等だ! この世界に呼び込んだのが神様か、はたまた自分の無意識なのかはわかんないけどさ、やらせてもらうぜ!」

恐怖はまだ当然ある。

だが、立ち止まっているわけにも行かない。

この世界で、生きるのだ。

歩みを坑道の先へ先へと進める。






『ギャッ!』

「ええいっ! こいつも違うっ!」

もう何匹目かは数えていないゴブリンを相手に叫び、いけるとわかった体術も交え、戦闘を続ける。

真正面から飛び掛ってきたゴブリンの攻撃を回避ついでにその胴体へとすれ違いざまに蹴りを入れ、待ち構えている群れへと蹴り飛ばす。

緑緑緑!

視界に入るのは普通のゴブリンばかりだ。
しかも、群れ。

幸いに今はアイテムボックスから回復アイテムを出す必要は無い。

試したいこともあったので石ころを拾い、思い切り投げつける!

システムにも、スキルにも無い当たり前の行為。

MDでは特に明言されていない行為にも意外と熟練度がある。

食事の早さなんかもあったりして、笑った記憶があるが。

投擲もその1つだ。


吸い込まれるように1匹の目元に石は命中し、その動きを大きく緩めた。

(ダメージが見えれば楽なんだがなあ)

現状、動きが止まる以外にHPなりを削りきった補償がどこにも無い。

オーバーキルなのか、案外微妙に火力不足なのか、さっぱりである。

群れに飛び込み、装備ごとゴブリンを両断し、次へと襲い掛かっていく。

段々と自分が返り血に染まるのがわかるが、なんとも出来ないことだ。
その後処理に一瞬、嫌な予感が浮かぶがそれも引っ込む。

粗方、群れのゴブリンを片付けた頃に逃げ出そうとする数匹が目に入り、増援をまた呼ばれても大変なので追いかけ、切りかかることにした。

思えば、この時点で一度後退して休息を取るべきだったのだ。

自分の力が通用することに高揚し、ゲーム時代のシステム外スキルである戦闘方法や考え方をおろそかにしていたツケがやってくる。

「うおっ!?」

異音。

少し高い場所だからと、剣を上段気味に振りかぶったせいで、振り下ろす際に坑道の上部分のでっぱりに剣が食い込む。

変な入り方をしたのか、剣が抜けない。

(やばっ!)

やってきた増援の中に色違いを認めてすぐ、集団が襲い掛かってくる。

「っだぁああああっっ!!」

俺は迷わず剣を放し、後ろに駆け出した。

素手ではさすがに取り付かれる恐れがあったからだ。


着かず離れずとは言わなくても、なかなか離せない距離、なんとか
メインとなる通路部分の脇にある細い坑道へと逃げ込み、距離をとる。
すぐに追いついてくるだろうが、この時間で多分いけると思う。

今武器を選んでも、ここでは思うように振り回せない。かといってメインとなる坑道を逃げては1度に相手にする敵が増えるだけだ。

なので、一手しかけることにする。

「これだっ! 盾生成-壁盾-《クリエイトシールド》!!」

屈強な戦士が防衛時に使うような壁盾、高さにして1mを越えるものを、
あえて耐久力や重さを極力下げて背後に生み出す。

結果、そう広くないその坑道はほとんどが盾で埋まる。

ゴブリン達が俺の逃げ込んだ坑道へと入ってきた瞬間、10kg以下と壁盾としては実質無意味なソレに向かって、目一杯蹴りを入れ、真横に蹴り飛ばす。

轟音、そして叫び声。

追いすがるゴブリン達へ向かって壁盾は倒れこみ、その先頭をひるませることに成功する。

確かゲームじゃ蝙蝠の集団なんかにこうやったりした覚えがある。

一度に何匹も気絶させることが出来たのだ。

つぶれるわけでもなく、すぐに抜けれるわけでもない状態に
ゴブリン達が混乱しているのがわかる。

(武器武器、よしっ!)

なんとかアイテムボックスから確か麻痺武器だったはずのダガーを2本取り出し、両手に構えて迎え撃つことにする。

仲間意識からか、全てのゴブリンが再度襲い掛かってくる、ということは無く、潰されそうになっている仲間を助ける組とこちらを襲う組に分かれてくれた。

こちらの思う壺である。

左右のダガーで手数を稼ぎ、着実にその数を減らすことに成功する。

最後の1匹、色違いの赤黒いゴブリンに止めを刺す。

「やっと終わりっっと!」

視界内で動く最後の1匹をしとめ、ようやく落ち着くことに成功する。

「こんなところで倒れたら骨も残らないからな……」

強さはあっても、現実の厄介さ、死んだら終わりかもしれない恐怖の影響、実際の殺気というものがどういったものか、良い経験になったと言えるだろう。


「お、こいつが当たりか」

依頼品であろう、聞いた特長と合致する懐中時計が出てきた。

「依頼はこれで終わりか。さて……この調子でなんか溜め込んでそうだな」

脱出中に遭遇する可能性を考えると、残りのゴブリンも可能な限り倒し、ついでに物品を回収して、白兎亭なり、自警団なりで返してもらえばいいと判断し、冒険を続行することにする。

耳を澄ませば、まだどこかでゴブリンであろう何かが走っている音がする。

やはり、リーダー格のこいつが最後というわけではないようだ。

前準備として、剣が食い込んだ場所に戻り、改めて抜こうとする。

「ふぬっ! ……抜けない。いや、待てよ?」

まさかと思いながらも、剣を握ったままアイテムボックスに戻すイメージを浮かべる。

すると、さっきまでの苦労を馬鹿にするようにあっさりとロングソードは消え去った。

「……まあ、いっか」

さっきの自分に言いたいことはあるが、気を取り直して鉱脈探知マテリアルサーチを発動し、周囲の地形を確認する。

当然、ゲームのようにマップが表示されているわけではないが、反応がまったく無い場所は空洞と同じなので、大体の坑道の配置が浮かんでくるのでマップ代わりになる。

廃鉱山とはいえ、岩部分はそこらのフィールドとは比べ物にならない反応が返って来たのだ。

火山なんかだと空気中にも火の精霊さんが反応してしまうかも知れない。

と、妙に反応が強い場所がある。

これはMD時代の鉱石ポイント並みである。

丁度奥のほうだし、残りのゴブリンもいそうな気がする。

周囲を確認しながら、慎重に奥へと歩みを進めていく。




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