ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
三の三
 りんは棒を両脇に下げてその僧に近づいた。

 その僧は漆塗りの籠手を上膊ふとうでと下膊(肘から手首の部分)に着けていた。りんの棒をその籠手で受けるつもりだ。腰を落とし、両拳を中段に構えてりんに向かった。

 りんが一間(約二メートル)の間を越えた。しかし棒は下げたままだ。
 僧は同じ構えで踏み出した。お互いの顔が半間に迫った。

 僧はりんが仕掛けて来るだろうと思っていたが、来ないのでりんの顔に向けて右拳を繰り出した。空手の中段正拳に近い。拳がりんの顔に当たる寸前、りんは僧の右腕を左手の棒で左に巻いた。

 その瞬間右上に飛び上がり、円を描いてふりあげた右手の棒を僧の左首筋に撃ち込んだ。
「ぐおう!」
 僧は泡を吹いて横に倒れた。
「貴様!」
 阿修羅像の脇に侍していた者共は驚いてりんに掴みかかって来た。阿修羅を運ぶために脇差ししか佩いていない。だが、数を頼んだ彼等の手をりんは右に左にかわし、痛烈な一撃を彼等の頭や手首に与えていった。

 りんが阿修羅の像の前に振り返った時、堂の外から来る炎の明かりがりんの姿を照らし出した。

 痛みに喘ぐ僧達の目に生き身の阿修羅が映った。

 壇上の阿修羅像はその丈、五尺(実寸百五十三センチ)、その前の壇の下に立つ五尺五寸のりんは全く同じ背に見えた。
 像より細面だがその眉の怒り、その射るような眼差しは阿修羅像が生身の者として蘇ったと思われた。その上、りんは寝る前に髪を頭の上で束ねていた。阿修羅を見て真似してみたのだ。誰に見せるつもりもなかったが。

 大立ち回りをした結果、束ねた髪は広がり、丁度、阿修羅の宝髻のようになっていた。

 りんが棒を逆八の字に構える背後に大きな六臂の影が映った。

 西金堂の中は全くの闇である。扉の燃える火が揺れる。りんの白い肌と唇が赤く映え、揺るぎない姿勢と妖艶な姿態が恐怖を呼んだ。

「あ、阿修羅像が・・!」
「阿修羅像が生き返った!」
 痛みを忘れて盗僧達は這い、または尻で後退りをしながら戸の方へ逃げた。

 泡食って、敗れ戸から逃げいでて来る配下を見て明院は驚いた。
「何をして居る!」


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。