プレゼント・フォー・ユー
「お前は機械なのだから、人の心など持ち得ないだろう。愛を理解できぬお前は、誰かに愛を与えることも出来ないのだ。出来るのか?お前に」
「・・・・・OK,マスター」
徐に、機械人形は己の左胸に両腕を突き刺した。
そこには人で言うところの心臓があった。
そして当然、そこには人で言うところの血が、大量に集中していた。
「!?」
金属が拉げる音が鼓膜を引っ掻く。
噴出した特殊燃料が頬を濡らす。
ツンと鼻を突く独特の臭気が男の嗅神経に襲い掛かる。
だが男の脳は、嗅覚よりも視覚に支配されていた。
最新の家事手伝いロボットが、胸から大量のオイルを零している。
そして、己の主要回路と原動機とが一体になったサッカーボール大の鉄塊を、男に差し出している。
「“ハート”ヲ、サシアゲマス。マスター」
ヒトガタが腕を伸ばすと、原動機に繋がる何本ものコードが音を立てて千切れていく。
機械の心臓は機能を徐々に弱らせながら、それでも燃料をめぐらせようと低い音で唸った。
その鼓動の度に、男の膝にオイルが滴り、染みをつくる。
機械の血液は、仄かに温かい。
ちょうど、人肌のように。
言葉を失う男に、“彼”は軋んだ音を立てながら首を傾げた。
「コレガ、ワタシノ“ココロ”デス。マスター。コレガ、ワタシノスベテデス」
―――ワタシノ“アイ”ヲ、ウケトッテイタダケマスカ?
ノイズ交じりの電子音がそれだけ告げると、眼代わりのLEDが光を失った。
そして、全ての機能が停止した。
春の柔らかな日差しが差し込む書斎。
老人の灰色の瞳は目の前の金属塊を映し、そしてゆっくりと輝きを失っていった。