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第七章 無口
41 無口 (10)
 何もする事がない。というか出来ない。軟禁逆戻り生活1日目。早くも私は暇を持て余していた。カーテンの隙間からただ外を眺めているだけだ。ちらりと視線を流せば屋敷の扉の前に二人の兵士の姿が見える。
 ――――――重そうな鎧。銀色の鎧に身を包んだ兵士達はご丁寧にも1時間に一度どちらか片方が屋敷の周りを巡りまた扉の前に戻っては直立不動の姿勢をとっていた。部屋の前を通る際にカーテンが開いていたりすると軽く睨まれる。まぁ、また矢が飛んできても嫌だから閉めているけど。
 しかし襲撃者が捕まるまでずっとこの生活が続くのだろうか。もし、捕まらなかったら………想像してゾッとした。濡れ衣をきせられて、処刑。という可能性も大いにあるだろう。しかも襲撃があってから既に丸1日が経過している。捕まるものならばとっくに捕まっているのではないか。もう追跡の及ばぬ所まで逃げおおせているのでは?どうなるのかな。私。考えれば考えるほど答えは悪い方へと傾いていく。
 それにしても狙われたのはどちらなのだろう?言われてみれば私などよりイサークの方が余程可能性が高いが、私が狙われた可能性も無いわけではない。なのに警備の厳重な城の中から、比較的手薄な2区にあるこの屋敷に移されたというのは………イサークに何かあったらそれこそ一大事だけど、私なら大した問題ではないのだろうな。ああ、何か気が滅入るぞ。どうしてこんな所にいるのだろう。疑いが薄らいでいた時に無理にでも城を出ておけば良かったのではないだろうか。街で生活していたら今頃何をしていたのだろう。

「どこかに行きたいな………」

 ここではないどこかへ。

「どこへ行かれるおつもりですか?」

 もらした呟きに、答える声に驚き振り返った。

「レーヴィさん!?」
「すみません。扉の外から声をかけたのですが、返事がなくて」

 そんなにぼーっとしていたのだろうか。さっぱり気付かなかった。レーヴィは申し訳なさそうに目を伏せる。

「こちらこそすみません。気がつかなくて」
「いえいえ、返事を待つべきだったのです。けど、少し心配だったもので。………体調はいかがですか?」
「大丈夫です。ありがとうございます。レーヴィさんはどうしてここに?」
「お見舞いに………貴方はずっとそうやって一人で窓から外を眺めておられたのですか?」

 レーヴィは眉を寄せる。その悲しそうな表情に戸惑った。

「え、ええ。まあ」
「殿下は?殿下はみえられましたか?」
「いえ?」

 何でイサーク?
 レーヴィは唇をかみ締め俯いた。握り締めた拳には強い力が加わり白くなって小刻みに揺れている。

「ここの方達は酷い。サカキさんのような少女に何が出来るというんですか!殿下も殿下です。貴方の事を想っている風だったのに、会いにもこないなんて」

 あー。そういう事ですか。いや、会いに来られても困るんだけど。その時に何かあったら一巻の終わりだし。しかしレーヴィの優しい心はありがたく受け取っておこう。

「いいんです。私は平気ですから」
「平気なものですか!今だって、どこかに行きたい。とそう仰っていたじゃありませんか!」

 うっ、まぁそうですね。
 悔しげに震える声で吐き出すように言われて私の戸惑いは大きくなっていった。

「逃がして、さしあげましょうか?」

 ――――――――え?

 俯いたままようやく聞き取れるような小さな声で告げられる。聞き間違い?問い返したいが声は喉に張り付いて出てこない。呆然としているとレーヴィは勢いよく顔を上げた。

「僕が、逃がしてあげます。このままここに居ても身の安全は保障されません。例え今回の犯人が見つかって疑いが晴れたとしても、また同じような事が起これば、貴方への扱いは繰り返される」

 眼鏡越しに真摯な青い瞳が私を見据える。あの穏やかなレーヴィがこんな大胆な事を言うとは。この人はきっと優しすぎるんだな。

「僕の故郷に行きましょう。田舎ですが、そこでなら静かに普通の少女としての幸せを掴めるはずです」
「でも、そんな事をしてはレーヴィさんが」
「今すぐ一緒には行けませんが」

 レーヴィは言葉を切って手に顎を乗せ考え込む。どうするつもりなのだろうか。

「そうですね、街に信用出来る友人がいます。サカキさんにはそこに身を潜めていただいて、僕はこの度の襲撃で怖気づいたとでも言って殿下の教師役を辞退します。頃合を見て二人で街をでましょう」
「どうして………」

 レーヴィがそこまで。

「見ていられないのです。大の男が寄ってたかってあなたのような少女を疑って利用しようとして。それに貴方は僕の大切な生徒です。ここで貴方を見捨てては、僕はっ!」

 レーヴィの青い眼には今にも涙が滲みそうで、必死に言い募られて、心の揺れない人間がいるだろうか。
 でも、今私だけ逃げたらエイノはどうなるのだろう。

「もちろん無理にとは言いません」

 イサークは、どう思うだろう。

「けれど、サカキさんが外の世界を望むなら」

 ユハは、どうでもいいや。

「僕は全力で貴方を守ります」

 よし、逃げよう。
 エイノは一人ならなんとかやるだろう。うん、エイノなら出来る頑張れ。イサークもきっといい娘が現れるはずだ。良い王様になれる事を遠くから祈る事にしよう。ユハは、奴はやっぱりどうでもいいや。私がいなくなったところで何も変わらないだろうしな。

「レーヴィさん。私、外に出たい。レーヴィさんと一緒に逃げます!」


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