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第六章 後見人
23 後見人
 イサークはパッタリと訪ねて来なくなった。イサークの使いだと言うものが、毎日菓子や花を届けにくるが本人が顔をだす事はない。しかも、イサークばかりかユハまで来なくなったのだ。来られては面倒だが来ないとちと寂しい。女心は複雑だ。
 しかし、ゆっくりと考える時間が出来たのは良かったのかもしれない。
 立て続けに起こる出来事に流されてばかりだったからな。だから、ユハの思わせぶりな態度に翻弄されたりしたのだ。
 冷静になって考えてみると、あの行為は犯罪スレスレだ。第三者の視点から見て20代後半の男が13歳の少女に対してあんな行動をとったらどう思う?ドン引きだ。日本でやれば確実に人生が終わると思う。しかも本気でないのだから性質が悪いとしか言いようが無い
 結論。ユハからは全力で逃げるべし。
 あの緑の瞳がいけない。あれさえ見なければなんとかなる、と思う。
 イサークは………普通の少年なら良かったのに。歳の離れた友人として付き合っていきたかった。
 でも違う。彼は王となるべく産まれ育てられた人間だ。会いに来なくなったのも自分の役目を終えたと思ったからだろう。私を助ける為に、私がイサークに目を掛けられている。と周囲に知らしめる事は充分に出来た。
 そう判断してこれまでの生活に戻ったのだ。
 少し寂しいがそれが双方にとって最良なのだと受け止めた。
 気になるのはエイノだ。接する機会が少なく不確定要素ばかりだが自己の興味を追究するタイプとみた。
 サリの術は許しがたいが、それによって助けられたのは確かなようだしここは一先ず水に流してやろうじゃないか。ユハの言葉を信じるなら私の事を黒髪の呪術師だとは疑っておらず、尚且つ人体の瞬間移動等に興味がある。ルードヴィーグについても詳しそうだし、お近づきになって損はなさそうだ。
 でも忙しそうなんだよな。先日聞かされた処遇の事も気になって執務室を何度か訪ねたがいつも不在だった。アイラによれば指揮から実務までを幅広くこなしている為多忙さは半端ではないらしい。 完璧主義っぽいからな。

 これからどうすべきなのか悩むが道が見出せない。私に出来る事は限られている。

 悶々としていた私は、今日の担当がライアンとクリフトである事を思い出し、気晴らしに2区をふらつく事にした。ライアンとクリフトだからといって特別な何かがあるというわけではないのだが、当番につく回数が多い為何となく気安い。会話を交わした事もなければ、名前も知らないがある種の信頼関係が出来つつあると感じていた。

 2区へ来ると迷った末に、前回の探索とは反対側、貴族達が住まう屋敷がある方へと足を踏み入れた。
 はー。お金かかってそうだな。私は感嘆のため息をもらした。
 広い庭を備え意匠をこらした贅沢な造りの屋敷がゆったりとした間隔をあけて並び、美しく整備された通りには街路樹が植えられている。超高級別荘地のようだ。実際これは別宅になるらしい。領地を持つ貴族達が数年に一度、領地を離れ王都での職務につく際に使用するのだとトゥーリに教えてもらった。参勤交代みたいなものだろうか。
 人通りは極めて少なく、兵士を2人引き連れた異色の容貌の私は目立つ。怪訝な顔をしたり、中にはあからさまに距離をとるものもいる。ライアンとクリフトも居心地が悪そうだ。
 もう帰ろうかな。まだ来て間もなかったが、どうやら歓迎されぬ場所に足を踏み入れてしまったようだ。
 戻ろうとすると、1人の青年が此方を見つめているのに気が付いた。上質の服に気品ある佇まい。ここに住む貴族のようだ。
 目が合うと、笑みを浮かべて近づいてくる。

「こきげんよう」
「こんにちは」
「君、名前は?」
「………サカキと申します」

 先に名乗るのが礼儀だろう。なんて台詞、一度言ってみたいが現実では言えないものだ。
 青年はクスリと小さく笑いを漏らした。その人を見下した笑みに嫌なものを感じる。

「やはりね。君がイサークを誑かす黒髪の小悪魔か。どんな美女かと会えるのを楽しみにしていたのに興ざめだよ」

 初対面の人間に喧嘩を売られた時ってどうしたらいいんだろうか。初めての経験で分からないな。とりあえず。

「そうですが、それはお気の毒でしたね」

 流す事にした。

「失礼します」
「ちょっと待て」

 興ざめした人間に何故しつこく絡もうとするのか。

「お前、知っているのか?お前に関わったせいでイサークが何と言われているのか」

 相手にする気などなかったのに、憎々しげに言われた言葉に足が動かなくなる。私を庇ったせいでイサークに不利益が生じたとなれば捨て置けない。ただでさえ王の器たるかと苦悩している節があるというのに、この上煩わしい思いを増やしたかと思うと胸が痛んだ。

「なんと、言われているのですか?」

 聞き返すと青年は満足気に唇を吊り上げた。

「神官長の近衛と正体不明の女を取り合っている。そう言われているのだぞ」

 ―――――なんでやねん! 
 ハリセンがあれば青年の頭を思いっきりはたいていたかもしれない。いや、スリッパのほうがいいか。


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