ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第五章 ユハという男
21 ユハという男 (5)
 翌日、イサークと昼食の約束をしている日がやってきた。
 アイラとマリヤッタは朝から走り回り忙しそうだが、私は暇だ。
 まだ2時間はあるな。鳥に餌でもあげるか。
 テーブルのお菓子を一握り持ち部屋の扉を開けると、大きな箱を幾つも抱えたアイラとマリヤッタが立っていた。

「サカキ様、どちらへ行かれるおつもりですか?本日は殿下との昼食会ですよ」
「へ?だってまだ時間じゃないですよね」

 素っ頓狂な声で問えば二人に信じられないといった顔をされる。

「何をおっしゃっているのですか。今から衣装合わせですよ」
「選ぶのに手間取ってしまいました。さ、急ぎましょう」

 は?今から?イサークと庭で昼食をとるだけでしょうが。呆気にとられていると鏡の前に立たされて、次から次へと服を合わされる。
 やれこの色は違うとか、目の色に合わせてとか、少し大人っぽくとか、この帯にはこの靴でしょ。なら髪はアップで。髪飾りは~と好き勝手に弄繰り回され、出来上がった姿に私は絶句した。これは………。
 ゴシックロリータ
 ちょっと違うかもしれないが、それ以外の表現が浮かばない。
 胸元の開いた白いシャツはフリルとレースとリボンで飾り立てられ、スカートは微妙に色の違う黒いオーガンジーのような布地を幾重にも重ね、これでもかという程ボリュームを出したもので、勿論膝丈。胸の下に結んだ帯と靴は嫌味の無い紫色。両サイドの髪を残しリボンと共に纏め上げられた髪には宝石の付いた髪飾りが挿し込まれている。
 この格好で、出歩け………と?

「さぁ、仕上げといきますよ」

 立ち直れず呆然としている内に、薄く化粧を施される。

「どう?」
「いいわね。背伸びをして大人っぽく振舞う少女の危うい色気が出ているわ」
「そうね。普段とのギャップが大事なのよね」

 最早私を無視して品評を始めるアイラとマリヤッタ。
 何故、そんなに気合が入っているんだ。鏡に映る姿を見て、私は盛大にため息を落とした。

「サカキー……………」

 今日も元気いっぱいに声を上げて部屋へやって来たイサークは、しかし私の姿を見るなり呆けたように口をポカンと開けて止まった。

「イサーク?」
「え。や、あの………」

 呼びかけると視線をさまよわせ分かり易く狼狽える。

「その格好」
「何も言わないで下さいよ」

 みなまで言うな。無理があるのは重々承知だ。

「いや、似合ってる」
「……………」

 私を見てポツリと言うとまた視線を外し明後日の方を向く。その顔も首筋も真っ赤で、どうやらお世辞ではなさそうだ。
 反応おかしいだろ。女25歳。お肌の曲がり角に差し掛かり夕方には、ほうれい線も気になる今日この頃。こんなどビラビラのゴスロリが似合ってたまるか!
 謙遜などでは決してなく、日本の街中をこの格好で闊歩すれば10人中8人は何事もなくすれ違った後、後ろ指を指して「ちょっと無理でしょ~」「いい歳して馬鹿じゃないの」と小声で囁きあい。後の2人には完全無視されるレベルだ。
 恐るべきは異世界人ビジョン。

「ただ、ちょっと………」

 イサークは言いよどむと決して此方を見ないまま告げる。

「胸が開きすぎじゃないか?」

 益々赤くなるイサークに不覚にも萌えた。

「誤解の無いように言っておくが、俺は別に……変な目で見たりはしていないからな」

 なんだ。可愛いな。こんなささやかなモノで良ければどうぞ好きなだけ見てくれ。

「あー、何言ってんだ俺は」

 イサークは髪をかき乱し途方に暮れる。その様をもう少し眺めていたかったが、後ろの近衛ズが顔を青くしたり赤くしたりと忙しそうなので卒倒しない内になんとかしようか。

「確かに少し開き過ぎかもしれませんね。アイラさん、ショールを下さい。はい、その薄紫ので。イサーク、行きましょうか」

 アイラが手際よく差し出したショールを羽織りイサークの近くに寄る。
 ………アイラ、その今にもガッツポーズをしそうな顔つき何とかした方がいいよ。


 西の庭園は、小さな白い花が咲き誇り、やさしい香りに包まれた素晴らしい所だった。花々に囲まれたテーブルに着くと、美味しそうな料理が運ばれてくる。厨房からは距離がありそうなのに、熱々の状態で出てくるってすごいな。

「今日はこんな素敵な場を設けて頂いてありがとうございます」
「いや、俺が強引に誘ったようなものだ」
「でも、嬉しいですよ。私なんかの事を気にかけてもらって」

 面倒だとも思ったが、部屋で1人寂しく食事を取るより余程気も晴れる。近衛ズも普段よりは距離を取り、その渋い面持ちも然程苦ではなかった。
 この服だけは耐え難い苦行だけどな。今も、誰が何と言おうが、私は13歳。ゴスロリが超似合う美少女!と自分に言い聞かせて何とか耐えている。
 イサークの口数はいつもより少なかったが悪い沈黙ではない。頬を撫でる風が気持ちいい。穏やかな気持ちで食事は進んだ。

「悪い」

 食後のお茶が運ばれ、メイドさん達が姿を消すと、途端に口調を重々しいものに変えたイサークの唐突な謝罪に驚いた。やるせない彼の表情に胸を衝かれる。

「俺がお前に近づく事で嫌な思いをさせる事もあるかもしれん。だが今のお前の状態ではこうするのが一番いいと思ったんだ」

 無邪気になついてくれているだけだと思っていた。暇つぶしの相手なのだと。だが、彼は思っていたよりずっと思慮深い人間だったようだ。思慮深く、情け深い。
 臆することなく真っ直ぐに見つめられ、そのてらいの無さに憧憬を抱いた。

「俺が守ってみせよう」

 ああ、まただ。無邪気なワンコに見えたかと思えば、気高く勇猛な狼の側面を見せられる。イサークの真摯な瞳に心臓を鷲掴みにされた気がした。
 いったい、どちらが彼の本質なのだろうか。
奇麗に着飾って、あら別人。のお約束展開です。少々ずれてますが。
ちょっとイサークに頑張らせてみました。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。