若干の性的表現があります。苦手な方はご注意ください。
イサークの訪問を受けるようになった事以外にも変わった事がある。行動出来る範囲が増えたのだ。以前は城の自室とその前にあった庭だけだったが、城の一定範囲と、城壁の向こう側、兵士や神官の詰め所や宿舎のある地域にも立ち入りが許可された。
この地域、かなり広大な敷地なのだが、その周囲を更にグルリと第2の城壁ともいえる高い壁が囲っていた。つまり城は2重の壁で守られている事になる。
壁と壁とに挟まれたその場所の事を第2区域、略して2区といい、街まで距離がある事から、簡単な店舗などもあってなかなかに楽しげな所なのだ。
そこを散策するのが目下の楽しみとなっており、イサークが帰った後、昼食までの暇つぶしにと今日も2区へと出かけた。
街に比べたら当然見応えはないが、それでも城の中よりは自由で活気がある。監視の兵士は付いてくるが、立ち入りの許可を得ている場所ならば基本的に自由にさせてくれるし、王子の近衛達と違って感じの良い人達だしな。
今日の監視兵さんは先日飴玉をくれた髭の兵士と、何度か顔を見た事がある20代半ばの真面目そうな人だった。密かに前者をライアン、後者をクリフトと命名している。
店は昨日廻ったので今日は裏手の探索だ。店舗の並ぶ場所を通りぬけると、白一色の服に銀糸の織り込まれた帯を身につけた人が目に付くようになる。あの服は確か、神官服だったかな。
裾を踏んで転びそうな踝丈なのだが、颯爽と歩く彼らに感心してしまう。
同じような丈の服を着たエイノやサウルを見る度に思っていたのだが、用を足す時はどうするのだろうな。帯に挟むのか?裾を帯に挟んだ間の抜けた格好のエイノを想像してほんの少し溜飲が下がる。サリの術の恨みはまだまだ薄らいではいない。
神官達の居住区らしい其処を過ぎると、垣根と簡単な門があり兵士が立っていた。どうやらここからは兵士達の居住区になるようだ。
行き交う人々から女性の姿が消える。飾り気の無い無骨な建物や、大勢の兵士が汗を流す訓練場を眺め歩いた。兵士達は皆一様に屈強な体つきで、平均的日本人男性よりもはるかに大柄だ。
こんな場所を女が……訂正、子供がフラフラしているのが珍しいのか、時折視線を向けられる。彼らにかかれば私など一溜まりもないだろう。1人では余りふらつきたくない所だ。ライアンやクリフトがいるから安心していられるが、それでも足は自然と速くなり、気付けば所々に木々の茂る静かな場所へと出ていた。
へぇ、こんな所もあるんだ。遠くで兵達の声はするが、気になる程でもなし散歩にはもってこいだな。下草に混じって咲く野花を愛でつつ歩を進めると、微かに人の声がした。兵士達の怒声とは違う、甘い響きの混じった声に誘うような女の笑い声が呼応する。
これは、まずいときに通りかかっちゃったな。引き返したいが、後ろのライアンとクリフトが気に掛かる。13歳ってこの声音の意味が分かるものだろうか?当時の自分はどうだった?うーん思い出せん。全く分からない歳じゃないと思うが、察しが良すぎるのも変だろう。気付かない振りをして通り過ぎるべきか。
迷っていると、囁き合う声に濡れた音が混じり始める。
あぁ本格的によろしくない。
自然に振る舞わなくてはと思うのに忍び足になってしまう。後ろの2人の足音もいつの間にか静かなものへと変わっていた。さぞかし困っているだろうな。3人揃ってソロソロと歩いていると、木立の向こうに睦合う男女の姿が見えてしまった。
予想通り、お熱いキスの真っ最中だ。豊かな長い金の髪を背に垂らした女は、タイトなドレスの上にショールを羽織っており、腰の括れから下はその肉感的な体のラインが顕になっている。男の顔は葉の影に隠れ見えないが、服装から兵士なのは間違いないだろう。女の腰に回された男の手が背中を撫で、這い上がる。唇が僅かに離れ女の口から官能的な溜め息が漏れた。女は潤んだ瞳でねだるように男を見つめ胸にそわせた指を怪しく動かす。しかし、なかなか応えようとしない男に痺れを切らしたのか、女は男の頬に手を添えると軽く踵を浮かせた。再び唇と唇が触れ合うかと思われた。
「ごほんっ」
私は後ろから聞こえた、あからさまな牽制の咳払いに体を小さく揺らした。自分が立ち止まって見入ってしまっていた事に気がついて赤面する。簡単なキスシーンならば、しょっちゅうとはいかないが何度か見た事はあるが、生で他人の濃厚な所謂ベロチューを見たのは初めてだったので、つい、ね。彼氏いない暦2年半。半ば乾きかけた私には刺激が強すぎたよ。
おそらくライアンの方だろう、が鳴らしたその音に、濡れ場を繰り広げていた男がおもむろに此方へと向き直る。木陰になっていたその顔が見えた。赤茶の髪に緑の瞳、右頬に走る傷。
――――――おまえか!ユハ。
見ず知らずの他人のキスシーンならいざ知らず、知り合いのそれは生々しいものがある。
ユハはさりげなく女から体を離すと、今しがたまでの情事など無かったかのように涼しげな笑顔を見せた。
「やあ、サカキちゃん。珍しい所で会ったね」
キスシーンを見られた事についてはスルーですか。それにしてもぬけぬけと。ちょっとは照れるなり、うろたえるなり、したらどうなんだ。
「こんにちは。ユハさん。お邪魔しちゃったみたいで、ごめんなさい」
努めて無邪気な声を出す。
「いや、いいんだよ。丁度君と話したいと思っていた所だ。昨日は殿下がいらっしゃっていて会えなかったからね。クリスタ、今日はこれで。会えて嬉しかったよ」
あっさりと別れの挨拶を告げるユハに、女は一瞬拍子抜けした顔をするが、直ぐに艶やかに微笑んだ。
「私もよ。連絡まってるわ」
軽く手を振ると私達が来た方向へと歩き出す。この姉ちゃん、あの兵士達の中をその格好をして1人で来たのか。度胸が据わっているな。
クリスタと呼ばれた女が私の側を通った瞬間、一陣の風が吹き肩に掛かるショールがフワリと舞った。体にフィットしたドレスの広く開いた胸元が瞬間顕になる。
……………ん?その胸元に内心ある事を訝っていると、背後で慌てふためく気配がする。見れば、ライアンとクリフトが顔を赤らめて女性から目いっぱい視線を外していた。おいおい、クリフトはともかくいい年のライアンまで。
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