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第四章 反抗期の
12 反抗期の (3)
 少年に手を引かれ露天が立ち並ぶ一角へと移動する。誰かと手を繋いで歩くなんて、何年ぶりだろうか。導くように前を歩いていた少年が隣に並んだ時、私は先程の疑問を口にした。

「あの~、首に何かあったんですか」
「あー、まぁ。気にするな」

言いづらそうに言葉を濁す少年に「そう言われると余計に気になるわ!」とは突っ込めない。なにせ恩人なのだから。

「お前、家はどこだ?送ってやる」

 話題を変えるように少年に言われ、言葉に詰まった。城って言っていいものだろうか?黙っていると何やら誤解したらしい少年が慌てて言い募る。

「いや、言い辛いならいい。事情もあるだろうしな。だが、さっきの奴の事が気になるんだ。おかしな面をつけていたな………新手の人攫いか。しかし、あんな奇妙な面は初めて見るな」

 困惑顔で思案する少年。知らない人が見たらさぞかし珍妙に映るだろうな。
 お面の男はメッセージを寄こした人物と同一人物だろうか?私はあのお面は私へのメッセージではないだろうかと考えていた。ついていけば何かしら得られたかも知れない。だが、お面の男は賢者ではなかった。華奢な体格も男にしては高めの声も賢者のそれとは全く違う。付いていった先に何があるのか、私を荷物のように扱った挙句、邪魔が入れば放り投げてしまうような男だ。碌な扱いを受けないのは明白ではないか。ならば城で軟禁生活を送っていた方がマシだ。

「また狙われないともかぎらんな。頼れる奴はいるのか?」

 問われてエイノとユハの顔が浮かんだ。私を探しているかな。お面男の仲間だと思われていなければいいが。

「はい。……はぐれてしまいましたが」
「そうか。なら俺も探してやる」
「えっ、でも……」

 間髪いれずに返されて戸惑う。このまま同行して大丈夫だろうか?一見、人を騙す事を知らない真っ直ぐな人間のようだが。親切過ぎる気もする。
 逡巡していると、盛大にお腹が鳴った。お昼を回ってかなり経つうえに歩き回ったおかげで空腹だ。しかも出店から得も言われぬ香ばしい香りが漂ってきているのだ。知らぬ世界に飛ばされて、誘拐されかけてもお腹はすくんだな。あぁ私の体は今日も正常だ。

 「くっ、はははははっ」

 今の音が聞こえたのだろう。少年は声を上げて笑い出す。屈託のない笑い方は幼くて好感がもてるが、ここは聞こえなかったフリをしろよ。じっと睨んでいると、腹を抱えて笑っていた少年が目に涙を溜めつつ言う。

「悪い」
「気にしてませんから」
「怒るなよ。先ずは何か食うか。食いたいものはあるか?」
「いえ、別になんでも……あっ!あの、やっぱり食事はいいです。連れを探さないと」

 お腹はすいているし、食べたいのはやまやまだが重大な事を忘れていたよ。

「お前な、腹が鳴るほど空腹のくせに、何を言っているんだ。時間が惜しいなら、食べ歩けるものを食え。倒れたいのか」

 お節介な少年だ。

「そうではなくて、その、お金を持っていないんです」

 そう、私は全くの一文無しだった。街へ来るにあたって、何かあるだろうとは思っていたが、空腹ではぐれる事になろうとは。ただ飯食らいの居候の身でお金をくれとも言えないしな。自由になるお金が欲しいよ。ああ、働きたい。

「なんだ、そんな事を気にしていたのか。俺が奢るぞ。ほら来いよ」

 正直に薄情すると少年は拍子抜けした声を出した。
 手を掴んだままさっさと歩き出そうとする少年にたたみかける。

「いえ、結構です。返すあてもないし、あなたのような年下の子に奢ってもらうわけにはいきません」

 今が食うや食わずの生命の危機に瀕しているような状態ならご相伴に与るが、エイノとユハに会えさえすれば、食べ物にありつけるし、最悪城まで歩けばよいのだ。年下の少年にたかるのは社会人としての矜持が許さん。

「お前……俺を何歳だと思っているんだ?そう変わらんだろうが」

 気分を害したように言われて、額に手を当てた。そうだね。私は子供に見えるんだったね。すっかり失念していた。

「今のは言葉のあやというかなんというか」
「俺はもう、15だ」

 胸を張って告げる少年を思わず凝視してしまった。15!?この体格で?15歳といえば、まだ思春期真っ盛りの中学生じゃないか。何を食べて育ったら、こんなに発育がよくなるのか。

「お前は?」
「……13歳です」
「13?もう少し上かと思ったが……。だが、なら問題ないだろう。俺が奢るって言っているんだ。素直に奢られておけ」
「……はい」

 納得がいかないが仕方がない。実年齢をバラしてエイノやユハとかち合ったら厄介な事になりかねないしな。

「行くぞ。そういや名前を聞いていなかったな。俺はイサークだ」
「榊です」

 出店で売られているのは大抵が食べ歩けるものだった。煮込んだ肉や野菜をパンに挟んだものや、串にさして焼いた肉、揚げた野菜に調味料を塗したものなどなど、そのどれもが食欲をそそる匂いを競うように発している。
 私はなるべく安価そうなものを探してイサークに買ってもらう。城で出されるものとはまるで違う質素なファーストフードなのに、この上なく美味しく感じるのは、空腹のせいばかりではないだろう。
 お喋りに夢中な少女達を追い抜き、大胆な色使いの衣装を纏った蠱惑的な女性の鳴らす楽器の音色を聞きながら、だみ声で客を呼び入れる腹の出た店主から飲み物を受け取る。大きな荷物を担いだ若者の横をすり抜け、フードを被った血色の悪い男が番をする店を覗き込めば液体の注がれた大小様々な瓶が並んでいた。お菓子を持って駆け回る幼い兄弟をかわし、後からやって来た父親らしき男性が子供達を捕まえてお灸を据える様子を微笑ましい気持ちで眺めた。
 大きく息を吸い込み深呼吸をする。久々に味わう雑多な雰囲気に私は浮かれていた。城の中は壮麗で美しく、典雅で堅苦しい。肩が凝るのだ。一般庶民の私には。
 街並みも人も何もかもが日本とは違うが、今の私の気持ちを一言であらわすならこれだ。
 娑婆だぜ!ヒャッホー!


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