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第4章 第8話 Minefield◇

【アガルタ第二十七管区 第3391日目 第二区画内 第2日目】

【総居住者数 2870名(第二区画内 958名), 総信頼率 99%(第二区画内 100%)】

【アガルタ歴9年106日 午前10時15分】


 私とキララが水中パズル地獄を突破したのも束の間。


【引き続き第二試練に臨みますか?】


 バグじゃなくて試練だったのか。精霊さんに会う為の?

 まずこの情勢でコンテニューはキツすぎる。

 装備や体調、人員を立て直したい。

 神通力無効化されるなら、カスタマイズした武器や道具を持ってこないと。

 大体これネスト住民参加イベントになってねーじゃん私とキララしか参加してないんだから。

 私の真横に浮かんでいるバラエティっぽいメッセージに直接要望を出してみる。


『日を改めて臨みたい場合は?』


【試練の地は】三

    三三【変更となり】

        三三【第一試練からの】

|||

【挑戦】

      三三【となります】


 いらないいらない!

 今度はゴシックフォントになって文字が左右右下左に飛んでった。

 フォント凝らなくていいから。表示普通でいいです、標準にしてお願いだから。

 凝られると逆に見辛いです。とにかくここで中断するとまた液体呼吸地獄のうえ、場所が分からなくなるのか。


『では続行します』

【300秒後に開始です】


 秒数指定とか細いな! 引き続き神通力無効っぽいけど仕方ないか。

 数秒経つと文字は消え、何の変哲もない白壁の部屋に戻った。

 部屋の広さは二十畳程度。

 天井の高さはどうだろう、私の身長の二倍、以上4メートルかなあ。


 あらぬ方向に独りごちていた私をキララは心配そうに見つめ、私の額にぺとっと手をあてた。

 冷たくて気持ちいい。

 あ、でも彼女は全身ずぶ濡れだから、手が悴んでいる。

 早く体乾かさないと風邪ひいちゃうかもな。

 どうしたのかと思ったら、彼女は私の額を軽くぺしぺしと叩いた。

 やめてやめて、おでこ広くなったらどうするの。

 生え際大事だからやめて。


「平熱だな」


 ん? 熱とか出てないですよ。私は目が上に寄りそうになりながら、キララの手を注視する。


「調子が悪そうだと思ってな。アカイに倒れられると私もこの世界の民も困る」


 それは私だって困ります。身体が資本ですからね。


『私は元気ですよ、なんとかは風邪を引かないですからね。キララさんこそ体が冷えてはいけない。早く元の世界に戻りたいですね』


 茶化してやり過ごそうとすると。

 じっ、と逃れがたい碧色の瞳に射抜かれる。

 吸い込まれそうに透き通った青。

 彼女の瞳に宿る力の強さ。

 つい先ほどまで母上母上と頼りなく連呼し、弱さを曝け出していた少女のそれではない。


「誤魔化すなよ。力が使えないのではないか? 神気の放散が絶たれているな」


 むー、鋭い。

 気の流れらしきものまで読めるのか。

 私はボードがないと読めないな。

 巫女一族として凄惨な訓練してきただけある。


『問題ありませんよ。何とかしてみせます』


 キララはやれやれと左右に首を振り両膝をつくと、すらりと直刃の長剣を抜き私に柄を握らせた。

 そういえば彼女は短剣二本と長剣を帯びていて、長剣は背中に背負ってきてた。

 戦う気満々だ。

 私が剣を返そうとすると、


「持っておけ。片刃の剣だ、両刃の剣を好まぬだろうからな」


 これはかたじけない。

 片刃だと峰うちできますからね。

 気のきく子だ、キララって敵にすると怖いけど味方になると構築士にとっては頼もしい存在なんだな。

 これが少年漫画的お約束な、一度戦って負かした敵が味方になったときの抜群の安定感?


「我々はどこに迷い込んでしまったのだろう。この世のものとは思えん場所だが、出口はどこだ。何も知らないのか?」


 あと数分したら、第二試練とやらが開始されますけれどね。平常心、平常心。


『何やら試練が始まるようです。試されているのは、あなたではなく私のようです』

「試練とは何だ、敵襲か? 神通力が使えぬ状態でか?」


 キララは表情を険しくし短剣の柄に手をかけた。

 私も立ち上がり、白衣の裾や髪の毛を雑巾のように絞り上げ水分(PFC)を落とし、僅かばかりでも身体を軽くしておく。

 その場でぴょんと跳躍すると、人間時代の私のジャンプの感覚が蘇る。

 神通力のアシストゼロだねこれ、体が重いよ。


「重そうだな。敵襲だったらどうする」

『何が起こるかはまだ分かりません。敵襲かもしれない』

「アカイ、汝の神体に神通力はまだ残っている。それを私に預けてくれ」


 神通力を巫力に変えて戦うつもりなのか。

 ロイのように? 

 何を言い出すのこの子。寿命縮まってしまうって、自分で分かってるじゃない。


『それはできません。その理由はあなたもよく分かっている筈です』

「そうだろうか。ギメノグレアヌスの力を受けたスオウの者は短命だったが、アカイの力はそうではないのだろう」


 何故なら汝は、邪神ではないからな。

 キララは感傷を込めた、聞こえるか聞こえないかの小声でそう呟いてくれた。

 ありがとう、その気持ちが嬉しい。

 でも私は、”神通力を与えさえしなければキララを長生きさせられる”と言った先輩の言葉を忘れたわけではない。複雑な表情をしていると。


「アカイはギメノグレアヌスを一度滅ぼし、転生させ使役してもいるではないか。ギメノグレアヌスの力とアカイのそれは、本質的に違うものと考えられる」


 そうそう。

 私一度死んだブリリアント先輩をエトワール先輩として部下に迎えていますよね……って、ばれた――!!!


 エトワール先輩がギメノなんちゃらだって、ばばばばばばれてた――!? 

 何でばれた? 

 どう答えればいい? 

 肯定したら今後の先輩の立場悪くなりそうだし、否定してもキララに確信があるならあまり意味がない。疑いは深まるばかり。

 口笛でも吹いて誤魔化すべきか。


『ど、どうしてそう考えたのですか』

「どうしても何も、エトワールの祝福を受けたときに気付いたのさ。紛れもなくギメノグレアヌスの気配がした。エトワールの魂を清め、眷属として従わせている。前世の記憶はないようだから苦情を言えぬのが悔しいが、彼も私と同様、アカイによって救われたのだろう」

『……あのですねキララさん、それは少し誤解というもので』

「違うのか? 私の目を見て違うといえるか?」


 ううっ。そんな澄んだ瞳でガン見されたら無理です。


「ふふ、否定もせぬのだな。とてもそうは見えんが、汝はギメノグレアヌスより格上の神と見受ける。そしてロイはアカイのげきなのだろう? ただひとではあるまい、神力は人には強すぎる」


 まず覡ってなに? すみませんそっちの教養ないんで。

 神職とかそんなの? 

 ロイはロイだよ、”私の”なんとか、って関係ではなくて。

 A.I.としての任務だとか他管区での運命とか。

 この世界のロイは他管区のロイとは違うと信じている。

 同じようにキララもキララだ。

 スオウ一族の呪縛というか、枠にはまって生きてほしくない。

 普通の女の子として、まあ彼女の立場は普通じゃないけど女王としてあたりまえに生きてほしい。


 ”はじまりの民”に民主主義的な思想は少し先進的かもしれないけど、個人の幸せあってこその全体の幸せだ。こんな時代だからこそ誰かに犠牲を押し付けたり、誰か一人に”貧乏くじ”を引かせたくない。現実世界は綺麗ごとでは済まないかもしれないけれど、せめて私が神を務める仮想世界では最大多幸の世界にしたい。


 だってここは死後世界、いわば天国だ。

 理念としては、本来皆が幸せであるべき場所だよ。

 万人の幸福を目指し突き進んだっていいと思うんだ。


「先ほど、汝は私の親になるとまで言ってくれた。アカイは博愛主義者だから、軽い気持ちで言ったものか、はたまた神は全人の父性を担うゆえ、誰にでもかける言葉であるのかもしれない。しかし私は心より汝の慈悲と寛容に感謝し、畏れ多く受け止めた」

『私はロイさんにも同じように言いましたが、誰にでもというのは違います。ゆえにあなたの体を大切にしたいのです。さればこそ、ときとして人の身に害を及ぼす神の力を、軽々しく人に預けることはできません』

「汝に守られるだけの存在になりたくないんだ」 


 一度手放した禁忌の力に、彼女は再び手を出そうとしているのか。しかし――。


『お断りします』


 キララの頼みを一礼とともに断固として却下。

 分かってくれキララ、君とロイとは違うんだ。キララが食い下がろうとしたとき


【開始します】


 ガクン、と床面に振動音が走った。

 やべっ、うだうだ押し問答やってる間にタイムリミットきてた。

 ざあっとノイズ音がして床上にタイルのような格子模様が出現。

 床一面真っ赤だ、ペンキで塗ったような感じじゃない、床下に真っ赤なライトが点灯した雰囲気。


『始まりましたかっ。何か出てくるかもしれません』

「どうなったんだこの床石は。光っているぞ」


 キララが床をコツコツと二度蹴って検めると、私たちを取り囲んでいた赤い格子の一部が続けざまに消灯した。

 依然として点っている赤床を囲い込むように、先ほどは異なる植物の模様が赤いホログラフとなって表面に浮かび上がってる。


 今度はパターン違うな。

 まだ魔方陣やるの? 

 誰か第二区画の人にクロスワードとかナンプレ差し入れしたげてよそんなにパズルゲームやりたいんならさあ。

 さっぱり要領を得ないまま、緊張感ばかりが高まってゆく。

 急場の備えとして先ほどとは違う植物を同じように開花月を1~12までの数字に変換しておいた。


 格子は縦9列x横9列、合計81。

 ナンプレが9x9で81のマスを使うパズルだけど、ナンプレとは違う。

 今、赤く点灯してるマスが24ある。

 残りは消灯しているか、植物模様のホログラフが線画で浮かび上がった。

 でもさっきと違って同じ数字が多いな。

 ぶっちゃけ、1~3までしかなくない?

 急に天井に赤みの光が差したので振り仰げば、巨大な植物模様が赤いホログラフで天井いっぱいに浮かび上がっている。

 この図柄は10を示す数字と変換できる。


「敵は出てこないのか」


 私とキララは首が折れそうな角度で見上げたまま首を捻った。

 試練というから敵に襲撃されるパターンじゃなくパズルでよかったといえばよかったけど……。


『ただの謎解きのようですね』

「私は頭を使うことが苦手だ。何か仕掛けがないか全て調べてみよう。アカイはどうすればいいか考えてくれ」


 面倒なことは私に丸投げ? 

 清々しいまでに、当たって砕けろ精神だねキララ。

 エトワール先輩曰く、彼女の頭脳もロイに匹敵するほど優秀だって聞いたんだけど、頭脳の無駄遣いだよ。


 私が床面を見ながら頭を捻っている間にキララが部屋中を隈なく歩き、床を片っ端から蹴って回った。

 そして彼女が1を示す紋様で取り囲まれた赤床を蹴ったときのことだ。

 天井からビー、ビーっとブザーが爆音で鳴り赤床のライトが消灯。


「うわっ! 何だ!」


 何これ怖い、嫌な予感がする?! 

 天井を見ると植物の柄が変わってた。10から9に減ったよ何が始まるの? 


 ほどなく天井の植物の図柄がぐにゅりと波形に歪み……何か天井から突き出してくる。

 爬虫類っぽい赤褐色の尻尾が壁から出てきた!! 

 これにはキララもたまげたのか生唾を飲んだ。


「見ろ、何か出てくるぞ! 赤い床を踏んだからか!」

『そのようですね。気をつけて!』


 私たちは尻尾を迎え撃つべく各々の剣を握り締めるが、私はまだ鞘を抜いていない。

 土壇場になったら抜くけど、様子を見てからね。

 地響きと共に、巨大赤トカゲが私たちの前に、文字通り降って湧きやがった。

 世界最大のコモドオオトカゲの倍はあるサイズ、でけえ! 全長五メートルぐらい。二十畳ぐらいの部屋に、ちょっと窮屈じゃない? 

 私たちの存在に気づいたか、ぐるりとこちらを振り返った。

 緑の瞳が私たちを完全に捉えて、敵性認識している。

 ……但し4つの瞳だ!


「あ、頭が二つあるぞ!」


 双頭の大トカゲだ、マジで!? 

 いやいや、落ち着け私。別にこの双頭の大トカゲ自体ファンタジーではない。

 現実世界にも体はひとつで双頭のトカゲは存在する。

 突然変異なんだけどね。

 隣の研究室にも双頭のカエル飼ってたし。

 首は二つでも体は一つだから、一頭として相手をすればいい。

 むしろ単頭のトカゲが二頭出てくるよりよほどマシだ。


『落ち着いてキララさん、こわくありませんから刺激しないで』

「ば、化け物めっ!」


 言うだけ無駄ー! 

 キララが叫んで驚いたのか、トカゲさんの逆鱗に触れたのか。

 キシャアアアア、って鼓膜を劈くような轟音で威嚇すると、体躯を低くし四足を踏ん張り、襟巻きのようなトサカを首周りにズバッと立てた。

 トゲが鋭くて刺さりそう! 

 頭二つ分、トサカも二巻き。

 誰がどう見てもお怒りモードだ、私らまだ何もしてないじゃない。

 沸点低いな爬虫類は、トサカ頭なだけあるよ。


 ん? 何かパシパシいってない? 

 えーと、トサカから電気っぽいのがスパークが見えるんですが。

 そのご自慢のトサカ、発電器官だったりする!? トサカ頭とか言ってごめんなさいー!

 雷大トカゲだったのかこいつ! 火吹きトカゲならまだしも……って、サラマンダーは生物学的にあり得ない。

 常識的に考えて火を吹くとか理にかなってないでしょ。

 雷トカゲなら何とか存在しうる、電気ウナギもいるぐらいだし。

 発電器官で敵を麻痺させて捕食する類の爬虫類なんだろうか。

 でも大丈夫、この手の発電動物は触らない限り感電しない。

 だから極力刺激しないように……ってあれ、キララさん何やってんすか?!


 気が付くとキララが短剣を握りしめ、機敏な動作でトカゲの死角に回り込み、身を低くしたまま音もなく走りこんできていた。 

 彼女は助走をつけオオトカゲの背を駆け上がり、一対の短剣でオオトカゲの首裏から断とうと狙い済まして踊りかかる。


『そこを攻撃してはだめです!』


 私は叫んだが、コンマ数秒遅かった。もー後手後手。


「くたばれ化け物が!」


 口汚くトカゲを罵ったキララの短剣が頭部を貫く前に、発電器官で蓄電されていた電気が剣に吸い寄せられもろ感電。

 乾いた破裂音とともに彼女は電気ショックで弾き飛ばされ、白い部屋の対角線側にごろごろと転がって倒れ伏した。

 くう……と苦しげに呻き、体がびくびくと痙攣している。

 不幸中の幸い、意識はまだあるようだ。


 倒れ伏したキララに追い討ちかけようと、トカゲがのっしのっしと転回させ今にも飛び掛かろうとしていたので私はトカゲの太いしっぽをガツンと力強く踏んで、


『待ちなさい! その子に手を出すことは許しません、厳罰を下しますよ!』


 私にしては珍しく大声で怒鳴りつけて警告。

 こっちもせめて大声で威嚇しないと、体の大きさでは向こうに負けてる。

 アガルタ内の遍く動物は、私の言葉を解している。

 それは怪獣と呼ばれる彼らであっても同じ。

 交換条件だ。

 キララに何もしなければ、私も危害を加えない。

 つっても今は神通力もないのでハッタリですけれど。


『その子から離れなさい、私の言葉が分かりま……え?』


 返事の代わりにバシっ、と何か丸くてギラギラと輝くものが私のどてっ腹めがけて飛んできた。

 私は反射的に攻撃を躱すも、避けなければプラズマ球が私に直撃するところだった! 

 ちょおおおい、トカゲがプラズマ飛ばせるなんて聞いてねーぞ! 

 いい度胸だね私に喧嘩売るなんて。

 私の言うことなんて聞いちゃくれない、さっきのプー太郎と同じパターンかよ。


「がるるるる……」


 よくも尻尾踏んだな……ってな副音声が聞こえてくるようだ。

 トカゲくんは素直に聞き分けるどころか、今度は私を敵と認識したのか、私に向かって真正面から突進してきた。私は部屋の隅にダッシュで逃げて急転回、トカゲくんの動きをひきつける。

 幸い、神通力は無効で体の動きが鈍っていても、動体視力は生きていた。


 頭突きをくらわされる寸でのところでトカゲの胴下にしゃーっとスライディングの要領で滑り込むと同時に、前脚の向こう脛(あるのか?)にキララの立派な長剣を鞘に入れたまま強かにぶつける。

 手加減なしでやったから、骨を折るぐらいの威力はあるだろう。

 すると、弁慶の泣き所(?)をやられたトカゲくん。

 哀愁漂う絶叫をあげ両の頭を白壁にゴツンとぶつけ、気絶したようでぐらりとバランスを崩し倒れ落ちた。

 脚の下に入っていた私は巨体に押しつぶされる前にヘッドスライディングでトカゲの脇腹あたりから無事脱出。


 頭の打ち所が悪かったのか、トカゲは平たく伸びて動かない。

 息はあるから殺してはいないが、完全に気絶してるっぽい。

 そうかと思えばやがてグラフィックが薄くなり、その雄大な姿は消滅。

 はっとしてキララに駆け寄ろうとすると、彼女は自力で膝をつき、体裁悪そうにふらふらと立ち上がっていた。


「礼をいわなければな……」

『必要ありません、あなたが無事で何よりです』


 先ほどキララが踏んだ赤い石畳には、トカゲの模様に変わっていた。

 天井には、相変わらず9を示す植物の図柄。

 数が……減ったんだよなこれ。

 10あったものが、9になったってことだよな。

 トカゲ1匹倒したから、9になったのか。

 てことは、この石畳の上に残り9匹、密室にトカゲをはじめとする怪物が落ちてくるトラップがあるってこと?

 やばい、一頭なら何とかなっても9頭も出たら死ねる。

 じゃ、赤い石畳をコツコツ蹴らなければいいわけでしょ? 

 ちょっと痛い目見たけど、赤い石畳を蹴らずに仕掛けを解けばいいわけで……。


『ん?』


 私は目が飛びだしそうになった。

 天井、さっきより低くないか?

 私の身長の二倍以上の高さがあったと思うけど、今は1.5倍ほどしかない気が。えーと


『キララさん。天井、あの高さでしたか?』

「いいやもっと高かったと思うぞ。明らかに低くなっている。あ、今も少し下がったな」

『やはり。時間が経過すると、私たち天井に押しつぶされてしまいますね』

「私もそう思っていたところだ。何とか天井を砕けないか」


『仕掛けを解く方が天井を壊すより早いと思いますし、天井を砕くとまるごと崩れてくると思いますよ』


 早くしないと……私たちの体が二次元になってしまいます!! 

 既に二次元にいるのにこれ以上二次元になってたまるかって。


「アカイ! 新たな模様が出現している」


 さっきのトカゲの格子の隣に、1を示す植物の図柄が増えていた。

 よく見るとトカゲ模様の周囲8マスはこんな状態になってる。

 余談だけど植物の図柄が描いてあるところは、蹴っても何も起こらなかった。


■21

■☆1

22□


 ☆の部分はキララが蹴ってトカゲが出てきた地雷マス。

 □は消灯しているマス、■は地雷が埋まってるかもしれない赤いマスです。

 なーんかこの配置、見たことがあるんだよなあ。

 皆さんも見覚えある人はあるでしょ? 分かる人こっそり教えてくださいよ。

 要は地雷を踏まないようにしろってわけで……ん? 地雷? 地雷を避けて……って。


 マインスイーパ(地雷よけゲーム)だ――――!! 


 何それっていう人はウィンドウズのゲームに必ず入ってるやつだよ。

 絶対あるからスタートボタンから開いてみてね! マック派の面倒は見られません。

 未体験者はご愛用のパソコンでやってみてよ。え、そんな古いの持ってない?

 まあそうか。

 地雷以外のマスをできるだけ短時間で開けていくゲームだよ。

 地雷のヒントは■の周囲にある数字。

 当該マスの周囲8個の中に埋まっている地雷の数が表示されている。

 それでいくと☆の左側に、もう一つ地雷が埋まっているはずだ。

 開けていいのは左上のマスだけ。


 キタ――! 解法分かっちゃった!

 てことは制限時間内にマインスイーパ解いてトカゲの地雷を避けつつ圧死から逃れてステージクリアしろってパズルなの!? 

 いける、これ全然無理ゲーじゃない。

 むしろ私このゲーム超得意だよかかってこいや。


『分かりましたよキララさん、謎解きの解法が!』

「何だと?! 早く解き方を教えてくれ」


 あ、それは無理。

 説明してる時間ない。

 マインスイーパには一時期どっぷりはまったことがある、皆さんも一度ははまったでしょ? なに? フリーセル派だ? 

 けしからんね。

 フリーセルはフリーセルでいいんだけどさ。

 発展性がないじゃない。私は断然マインスイーパ派。

 ナンプレかと思いきや、マインスイーパでマス目が9x9ってことは初心者設定じゃん、旗なしでも全然いけるよ。

 俄然やる気出てきた!

 私は直感を信じながら、地雷の埋まっていないであろうマスをコンコン、と何個か蹴ってみた。

 あるものは消灯し、またあるものは植物の図柄に変わった。

 大体マインスイーパのルール通りだ。 

 キララは踏んでよいものと悪いものの区別がつかないようで困った顔をしてうろたえていた。


「赤いものを踏んでも何も……起こらない。何が違うのだ、違いを教えてくれ」


 キララは若干イライラしてきてる。

 分からないとつまらないよね、その気持ちよく分かる。

 私はそれなりに楽しんでますけど。


『後でじっくり説明しますが、時間がありませんから手分けして踏んでゆきましょう。踏むべき全ての石畳を踏めば、外に出られるのだと思います』

「アカイは賢いな。私は無知だ」


 キララは恥ずかしそうに首を竦めた。

 賢いとか知識とか関係なく、ルール知っていれば解ける類の簡単なゲームだからね。

 とはいえ、論理性に基づいているからロイだったら一つ地雷を踏んでしまった時点でルールを理解するかもしんない。

 守られるだけの存在になりたくないと言っていたのに、何も役に立てることがないと知った彼女が落ち込みまくっていたので。


『ルールを知れば、楽しめる遊びなんですよ』

「楽しめる、か……」


 段々と迫りくる天井に押しつぶされそうになりながら、最後の方は中腰になってマス目を蹴りまくった。


『残りあと一つです、最後のマス目は……』

「こ、これか?」


 お、合ってる。

 私の解を見ているうちにパターンを掴んだんだ、彼女が気づいていないだけで、学習能力は高い。


『よく分かりましたね、正解ですよ』

「よかった」


 彼女ははにかんだような笑顔を向け、私たちは残り9つの地雷を避けつつ、最後は天井からの高さが残り1m以下になって残りの赤いマスを開ききった。

 最後のマスを蹴ると、人一人通れそうなサイズの穴が出現。


「出口だ!」


 私たちが飛び込むようにして間一髪脱出口から滑り出ると、私の視界にあのアナウンスが表示され……景色は色褪せ時間が止まる。


【第二試練 突破しました】


 よかった、クリアだ。


【引き続き第三試練に臨みますか?】


『続行します。続けてください』


 ここまできたら、やるしかない。

 試練とやらが数理パズルである限り、どんな難易度でも私は負けないだろう。

 まだ難易度低いから、この調子でいくと第100試練ぐらいあったりしてね、はは。

 でもやれるだけやってみるよ。

 キララを付き合わせて悪いけれど。


 続行の意思表示をするとフォントは消え、気が付けばキララと共に苔の上に軟着陸。


「おお! 神様が戻られた!」

「ご無事ですか!」


 大勢の歓声が聞こえるので顔をあげると、心配して集まってくれた皆にわらわらと取り囲まれていた。

 ロイたちも集まっている。

 私の班のネスト民の誰かが呼び笛を吹いて、皆を集めてくれていたんだ。

 各班班長は無事だ、ロイもいる。


“何が起こっていたんだ赤井君、どこで油を売っていた”


 エトワール先輩も念話で話しかけてきた。

 あ、そういえば神通力は? 神杖を呼び出すと出てきた。よかった戻ってる。


「きゅーん!」

「きゅきゅきゅーん!」


 きゅんきゅん聞こえるから何事かと思ったら、グローリアくんの大群が私の背をめがけて衝突してきた。

 私が地面に吸い込まれていったときにグローリアくんたち、剥がされてその場に取り残されてたみたい。

 先輩の背中がガラ空きなんだから先輩のところに行けばいいのに。

 私の背からはみ出したグローリアくんは、キララの背に一匹。先輩の背にも一匹。


【只今より第三試練を開始します】


 エトワール先輩と私にだけ見えるフォント。

 今度は全員参加型の試練のようだね、皆で解くパズルってどんなやつだろう。

 レクリエーション的で、パズル好きの私は楽しみでもある。

 多少難易度が上がっていても私と先輩、ロイで考えれば簡単に解けそうだし。


『第三試練だと? 第一、第二はないのか?』

『私たちが必死で突破してきましたよ。ところでエトワールさんはパズル得意です?』


 彼は返事の代わりに、小馬鹿にしたような笑いを向けた。

 何を言ってるんだ当然だろうというそのドヤ顔が素敵です先輩。


『得意そうですね』


 私たちが手ぐすね引いて第三試練を待ち受けていると。


【制限時間 10秒】


 短っ! 10秒で解けってこと?!


『やけに短いな』

『私もそう思います、早押しクイズのようなものですかね』

「赤井様、どうなされたのですか?」


 ロイが私たちの会話に割り込んできた。

 ちょっと待ってね、ロイにはアナウンス見えてないからね。

 ちゃんとルール聞いておかないと問題解けなくなるから待ってね。


【制限事項:人工物は禁止】


【第1問 緑】


”緑だ、赤井君!”

”緑ですね先輩!”


 え……問題それだけ? 問題それだけ!?

 緑を、どうしろって――!?

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