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Heavens Under Construction(EP5)  作者: 高山 理図
Chapter.3 Under clinical trial in virtual space
34/130

第3章 第8話 Afterwards◆★

 日本国民納税者の皆様におかれましては、平素よりアガルタのご利用ありがとうございます。

 二十七管区の現状を順を追ってご報告いたします。

 現在、現実世界時刻では十月十二日水曜日午前十一時。

(経過報告と釈明ここから)


 ***


 仮想死後世界アガルタのシステムについて、軽くおさらいしておくとしよう。

 アガルタとは外部ネットワークと論理的に隔絶されている仮想プライベートネットワーク(VPN)であり、現状では人口増加問題に直面する国々を中心とした世界24カ国(最終的には120カ国が参加予定)の参加する国際機関でもある。


 アガルタ日本サーバ本体はエリアごとに分散されている。


 開設されている第一~第十八管区までは霞ヶ関の厚労省本庁内に、未開設で稼働中の十九~二十九管区は厚労省地下施設にあり、稼働していない管区やバックアップ用のサーバは、災害などを考慮した上で選定された、厚労省管轄の地下データセンターに存在していた。


 厚労省内アガルタサーバへの職員による特権的アクセスは厚労省内の専用量子コンピュータ端末から行われている。構築士はログイン用ブレインインターフェイスによって仮想世界にダイブを行う。

 そして日本アガルタサーバと国外サーバとの遣り取りは通信衛星(日本においては準天頂量子通信衛星“むすび”)を利用した、超域広量子多元通信ネットワークにより運営されている。

 アガルタへのログイン方式は極秘とされているので詳細は省くが、

 これも簡単に触れておく。


 人間の生脳にある記憶をデコードし複写、量子クローニングでデータを再構成したうえサーバ内に投射し、疑似ニューラルネットワーク(疑似脳)を仮想空間で構成。生脳から複写された情報クラスタを生脳と電気的にリンクさせれば、生脳における自我の再形成も疑似脳における自我の投影も、記憶の引き出しも、そして人格との疑似脳上でのプログラム(構築士マニュアルなど)との融合も可能であり、その一方でミクスチャーは疑似脳でのみ行われるため、生脳-疑似脳間のアクセスは極めて非侵襲的である。


挿絵(By みてみん)


 たとえ疑似脳が破壊されても、生脳に損傷は及ばない。

 疑似脳を通じてアガルタへのログインを行った人間は、意識が肉体を乖離するという独特の感覚が惹起される。 


 この疑似脳は神経工学的にはその人の記憶のコピーそのものであり、

 個人、ともいえるものだ。


 生脳と何が違うかと言われると、彼らの記憶が頭蓋骨の代わりにサーバーの番地付けされた領域に格納されているというだけ。ただそれだけにすぎない。アガルタと現実世界を踏み越えるには、余りにか細いボーダーラインが横たわっているのみだ。


 個人情報の保護、及び高い秘匿性、サーバの保全は日本アガルタ運営上の最優先事項である。この点について、アガルタをクラッキングするなどのサイバーテロの困難性について言及しておく。


 アガルタに関わる情報(特にログインの方式)は国家機密でもあり、アガルタ内の居住者情報は個人のプライバシーに関わるため、情報の遣り取りを行う際には各国ごとに異なる量子鍵配送方式が採用されている。日本ではワンタイムパッド(使い捨て鍵)と呼ばれる暗号方式によって盗聴がすみやかに検知される。仮にアガルタ内から情報を盗まれたとて、部外秘の厚労省内専用プロトコルを用いた復号化処理を行わなければ、何人たりとも有意義な情報として取り出し閲覧することができない。


 また、アガルタサーバは強固な攻撃性を持つファイアウォールを実装しており、ブルートフォースアタック(セキュリティホールをつく総当たり攻撃)でのクラックは現代の情報技術においてはまず不可能だと保障されている。


 アガルタの個人認証に付随する防犯体制については、高度に複合型生体認証(DNA一塩基多型パターン認証・静脈パターン認証・深部記憶認証)され身元を保証された厚生労働省職員、すなわち構築士補佐官やプロジェクトマネージャーなど特権ユーザーがサーバに接続し業務を行っている。

 サーバルームの警備・防犯体制は言うまでもなく万全であった。国民の個人情報を預かる情報セキュリティが堅牢堅固でなければ、そもそも日本アガルタは開設されなかったことだろう。


 ただ、技術的クラッキングに対する防御は盤石であったとしても、ソーシャル・エンジニアリング・ハッキング方式、即ちアガルタサーバに接続できる厚労省職員を脅したり、買収したり、そのように人の心の隙に付け入るやり方での不正アクセスの脅威は排除できなかった。


 そこで厚労省職員はアガルタ接続前に、精神アルゴリズムの解析が毎度行われる。

 脳波をスキャンされ、そのアルゴリズムが不安定化していないか常時チェックされていた。これ以上の防犯対策を講じる必要があるだろうか、いやその必要はない。


 厚労省の見解はそうだった。

 

 ……なのに二十七管区がピンポイントにクラッキングされているから困るというもの。

 原因究明と犯人追及はともかく、火事場の火を消すことがトップオーダーである。


 構築士エトワールが現実世界へのSOS発信を行った瞬間、二十七管区はセーフモードでの稼働に切り替えられた。グラフィックレベルがダウンしたため背景が消失し、不具合を修正するまでA.I.の演算が停止される。また、アガルタ二十七管区はただちにウイルス増殖を遅延させ現実世界側からの介入を待つべく現実世界時間と同期され、早送り状態から等倍速再生状態に入った。


【セキュリティオペレーターが不正プログラム侵入を確認】

【対策手順四―五に従って二十七管区再生速を現実時間速に同期させました】


 セキュリティオペレーターとは伊藤プロジェクトマネージャーのことだ。

 不正プログラムの侵入に際して、アガルタの一時停止措置は必ずしも有効ではない。

 構築士らもろともアガルタの時間を停止させたとて、不正プログラムのみが独立に走るおそれがある。よって構築士が仮想世界で行動できるような再生速、それが一倍速再生だ。

 現実世界側から応援が来るまで、仮想空間内の構築士だけで不測の事態に対処しなければならなかった。



 赤井をグランダに残したまま、エトワールがモンジャ集落の上空に参じた頃には、SOSシグナルの発信を受けて二十七管区内にログインし執務していた甲種以下の数名の構築士が続々と集っていた。職種に応じた色とりどりのコスチュームを身にまとい、かつてのブリリアントのように、黒子のような覆面をしている構築士もいる。白いコスチュームの着用が許されているのは赤井とエトワールだけだ。黒系統の衣装が5名……彼ら黒い装束を着るのは乙種だ。ファントム然とした漆黒の仮面をつけている者もいる。緊急時に役に立つのはせいぜい、実戦経験のある乙種までだ。それ以下の構築士たちは支援に回る。

 モンジャ集落のA.I.及び人間患者のアカウント、グラフィックはセーフモードに移行して停止しているが、黒い円盤状のコピーサークルの下に底なしの大穴が出現している。


 喰われてゆく、グラフィック。仮想の空と大地が墨色のサークルに蝕まれてゆく。


 このプログラムはアガルタのプログラムをコピーしながらコピー部分をデリートしてゆく、データ移動タイプとみえた。

 ロイが槍を手に、コピーサークルに挑みかかろうとした体勢のままマネキンのように凍りついている。モンジャの女性や子供たちは逃げ出しているが、若い男たちは果敢にも前線に出ていた。ロイが先頭となって対峙している。彼がしんがりを務め、民を逃がそうとしていたのだと読みとれる。


”ロイ……君の懸念していた通りになってしまった、許してくれ”


 エトワールは、得体のしれない敵にも怯まず民を逃がそうとしていたロイの雄姿に胸をうたれながら、密かに謝罪する。ロイが集落を守るために神雷を放ちエトワールらに報せなければ、誰も気付かなかった束の間の異変だ。


『何をボヤボヤしているんだエトワール!』


 ややもすると彼を謗らんばかりに、構築士たちは苛立ちを露わにする。


『甲種構築士は新任のエトワールだけか!』


『すまんな諸兄がた、赤井君の他には私だけだ』


 少なからず悪びれた口調でエトワールが応じる。アガルタ内部からプログラムを書き換える特権を持つのは、赤井、エトワールら甲種構築士のみであり、両名ともに新任という間の悪さ。赤井に至ってはマニュアルを持たないので有事に際してはものの役にも立たず、エトワールの権限も限られている。

 いかなる場合にも、知識と経験だけがものをいう職場でだ。


『何で特権のある構築士がこの管区には二人しかいないんだ! 上級権限を持つ赤井がマニュアル持ってないというのに……』


 下位の構築士たちの間では、杜撰な危機管理体制に対する不満が滲む。各区画で個別に執務していた彼らは、何名の構築士がどのような役回りでログインしているのかを知らされていなかった。


『ぐだぐだ言っても仕方がないだろう! この管区だけは絶対にリセットさせるわけにはいかん』


 さもなくば、赤井の成し遂げた世界初の仮想下リハビリテーション治療実績がふいとなる。手探り状態で人一倍も二倍も苦労し成果を出した、赤井の業績を世に知らしめたい、彼らの心は一つだった。

 彼を陰ながら補佐する全ての構築士たちの言葉に熱が入る。


『我々の任務はハイロードと二十七管区を守り抜くまで! 露払いは任せろエトワール』

『そうでしたな』


 悪役である乙種構築士三名がインフォメーションボード上に映り込んだグラフィックから、一斉にクリスタル製の刀身を持つ両手剣を実体化して抜刀する。タイミングを合わせ、狙い定めて大剣を振り抜けば、挟みうちで消去コマンドを乗せた真空刃がサークルを*の字に切り刻む。

 攻撃をもろに受けたサークルがくらりと歪み、鮮やかな切り口でショートケーキ状に解離する。効果ありとみるや、彼らは息を合わせ第二撃、第三撃と手を休めない。

 即興の三重奏を奏でる。


『不正プログラム破壊! 吹き飛ばせ!』

『いったか!』


 様々なポジションから、固唾を呑んで見守るそれぞれの立場の構築士たち。しかし黒円のコピーサークルは散り散りになってもすぐに会合し、何度試みても、トプンと円盤状に戻るのである。彼らの懸命の攻撃はわずか数分間、コピーサークルの増殖を足止めするにとどまった。コピーサークルは隔離・破壊コマンドをも無効化し、堰を切ったかのように拡大の一途を辿りはじめた。


 ベテラン構築士勢もこれにはたまらず反射的に跳び下がる。

 下手に触れば、彼らのアバターも無事では済まない。


『駄目だ、特権のない我々のコードでは対象を破壊できない! 急げエトワール!』


 祈り叫ぶ、彼らが暗に希求してやまないのは……


『了解。アイムール(Aymur)、及びヤグルシ(Yagrush)を起動する』


 起動準備を整えたエトワールが表情を引き締めた。

 悪役として荒事をそつなくこなしてきた彼であっても甲種としては新任、緊張が迸る。


 力強く宣告し、インフォメーションボード内より身の丈ほどの二本の白杖を引き抜く。ウガリット神話に登場する神器に由来し、アイムールは撃退を、ヤグルシは追放を意味する攻撃的アンチウイルスである。

 神器と呼ばれるからには神である赤井が起動すべきなのだが、彼と同格の甲種構築士であるエトワールが代行する。逆手に取った二本の杖を滑らせ虚空に光跡を刻みつければ、抽出された不良領域が浮かび上がり明滅を繰り返す。


『攻撃対象領域を指定』


 結界でアンチウイルスプログラムの適用範囲を絞り、エトワールが杖先で実行用の暗号列を結ぶと、白光の半透明グリッドの立方内に捕捉する。


『実行せよ』


 胸元で交えた両の杖を×字に組めば、深黒晦冥にして凶悪たる闇を、エトワールの結界が捩じ切り押しつぶそうとする。彼の立ち上げた光格子は金切り音をあげ、暫し拮抗する。不正プログラムがアンチウイルスによって不安定化し、切り崩されては修復される、インフォメーションボード内で解析された、情報量(qubit)の増減が著しい。


 しかしその修復速度がじりじりと詰められ、アンチウイルスを凌駕したとき、競り勝ったのは不正プログラムであった。大きく内側にひずんでいたエトワールの結界が徐々に押し戻され外側にしなり、臨界に達しプログラムはデータ屑へ、パラパラと分解されて二十七管区ベースグリッド上のデブリとなり散った。


『何てことだ、アンチウイルスでも……相当に悪質なブツだぞ』


【360秒後、特権アカウントがログインします。カウントダウン開始】


 アンチウイルス無効化をうけて危機感を覚えた現実世界側のアカウントが、直接対応するというサインが発せられた。誰が応援に来るとは知らないが、現実世界の人間が直ちに緊急ログインできるわけではない。

 まず生理置換液の入った水槽に全身を浸し、絶妙なバランスで構成されたダイヴ用ラインと生体神経接続し、パーソナルファイルを読み込み、補正し、ブレインデコーディング(脳暗号パターン解析)が開始され疑似脳と連絡、仮想世界に同調させるまで数分間を要する。

 それまでに、二十七管区がもつのか。

 構築士達の間に、沈鬱な空気が淀みつつあったそのとき。


 グリッド上に二重円に似た転送陣が光投影され、円の中央に”焼”という赤文字が浮かび上がる。仮想空間内に天上から巨大な判が押印されたかのようだ。


『おお、あれは!』

【デバッグアカウント・強羅大文字焼▲、信楽焼▲▲▲が二十七管区にログインしました】


 インフォメーションが流れ、左胸に”焼”というロゴの刻まれた黒いツナギの二人組が出現する。


『焼人だ! もう来てくれたのか!』


 通称”焼人やきびと”と呼ばれる彼らは、アガルタ内にシフト制で常駐するバグ駆除デバッグ専門のサポートアカウントであり、ウイルス対策アカウントではない。現実世界側から干渉できない細かなバグをすみやかに発見ならびに駆除し、現実世界側に経過や処理を報告するのが仕事だ。▲が多いほど上級アカウントであるという内規がある。

 が、現実としてウイルスはバグを突いて作成されるケースが大半であり、焼人達は緊急時にコードを改変することも職務とされる。ファーストエイドとして、彼ら焼人が遣わされた。


 強羅ごうら大文字焼▲が男性、信楽焼▲▲▲が女性のアカウントの筈だがどちらがどちらなのかは体格で判断するほかない。何故なら彼らは、黒い目出し帽とゴーグル、ラバーの防毒マスクを装着し素顔が見えないのだ。


『なんとまあ、日本アガルタ初の不祥事だね。不正プログラムの侵入って、一体どこから入ったんだ。して、信楽焼の姐御。火力はいかほど? 焼きすぎると構築士さんらに顰蹙をかう』


 熱で揺らぐノイズを纏わりつかせ、鈍色をした火炎放射器のグラフィックを攻撃対象に向け上下にくゆらせながら、強羅大文字焼が口早に伺いを立てる。


『しかし最大火力を推奨しますよ。強羅大文字焼、生半可な火力では焼き尽くせないかもしれません』

 細身の体で肩撃ち式のロケットランチャーを担ぐ信楽焼は沈着冷静だ。コピーサークルの構成を分析した結果、手加減しようとしていた強羅大文字焼に油断をするなと言い渡す。強羅大文字焼は火炎放射器のノズルを構える手を、ふと止めた。信楽焼が処理に持てあます様子を、彼は初めて目にしたからだ。彼はゴーグルを下ろした。


『最大火力って本気ですか、姐御』


 ちなみにバグを“焼く”というのは当初独立行政法人として発足した日本アガルタ開発者の遊び心から生まれた言葉で、バグ駆除とコード修正をイメージ化した厚労省内のスラングだったりする。


『して、そのこころは?』


 真意を問おうとする強羅大文字焼。


『おい、待て今なんてった!?』


 かたや、最大火力でと聞いたエトワールも信楽焼に問う。そう、焼人の炎が敵性を絞り込めなかったり炎がコピーサークルに弾かれるようなことにでもなれば、モンジャ集落で接続されている全ての人間患者のアカウントにも誤爆する危険性があるのだ。


『待て待て、最大火力だと?! 民を焼き打ちにするつもりか!』


 寡黙なエトワールがいつになく大声で吼えた。

 一見、悪役時代にグランダの城壁も民も遠慮なく焼き払ったことなど棚に上げているかに見えるが、その実、ハイロードの担当する区画以外の区画には生身の人間はいなかったからこその蛮行だった。

 ところがモンジャの集落はハイロードの区画なので生身の人間が入っている。文字通り身を削る苦労の末に、赤井が治療を施した生身の民。彼らもろとも焼き焦がすつもりなのか。 


『二十七管区全体に被害が及ぶのとどちらがいいのです。A.I.をいくら焼いたところで構いますまい。それともここは人間のいるハイロードの区画なのですか? ハイロードがいないようですが』

『ここはハイロードの起点区画だ。話せば長くなる事情があってな』


 それを指摘されると耳の痛いエトワールであった。構築士マニュアルを持たない赤井は伊藤の判断によって特別待遇に処されているが、特権アカウントを持ちながら不見識な赤井自身が二十七管区の弱点であるとも言えなくもない。


『この非常時に担当区画を留守にして。何と無能な神だ。尻尾を巻いて逃げだしたのか』


 強羅大文字焼が蔑んで小首を傾げる。


『……確かにあんたらから見れば無能かもしれない。だが、私からすれば見所がないわけでもなくてね!』


 エトワールが啖呵を切ると、モンジャ集落の手前に頑強な耐火壁を構築する。大小の青いブロック状の防護プログラムがレンガ状に堅牢に積層され、文字通りの耐火壁を構築しそれはモンジャ集落領域の盾となる。


『存分に焼き払え!』

『言われなくとも焼却してやるからそこをどいてな、酸欠で失神するぜ。火炎放射開始!』


 挑発に応じた強羅大文字焼がノズルを上げて最大火力を放射し、コピーサークルの防御シールド表面を広範囲に焦げ付かせ穿孔する。辺り一面、火の海だ。熱輻射がもろに跳ね返ってくる。エトワールが耐火壁の前に物理結界を積み増し、モンジャの民を輻射熱から守る。

 コピーサークルが焼ける頃あいを待っていた信楽焼が


『弾頭の投射を開始します!』


 強羅大文字焼の攻撃に引き続き、信楽焼が続けざまに肩うち式ロケットランチャーから直接照準でミサイルを投射する。高衝撃熱圧力サーモバリック爆弾弾頭は、強羅大文字焼が火炎放射で周囲の酸素を大量消費した後でも爆発・燃焼を引き起こす。命中した瞬間、炸裂音と共に辺りは閃光と煙幕に包まれ、グラフィックが熱に歪み視界は限りなくゼロとなる。

 僅かばかりの期待と焦燥感を懐きつつ、成否を待つ構築士らの表情は一様に険しい。


 対流の止まった大気は煙幕のベールを希釈しない。煙塊となってその場に留まり、その拡散は遅々としている。痺れを切らしたエトワールが大きく息を吸い、アトモスフィアを込め息を吹きかければ一陣の旋風となって黒煙を吹き飛ばす。


 煙の晴れ上がった、その座標にコピーサークルは存在しなかった。

 状況だけ見れば、不正プログラム駆除および焼滅は成功している。


『ものの見事にやってくれたな……! さすがは焼人の炎だ!』

『よくやったぞ! 助かった……!』


 しかし信楽焼はなおもランチャーを肩に担ぎインフォメーションボードを睨みつけたまま、構築士達からの賞賛を諾しない。着弾の手ごたえがなかったのだ。彼女はふっと顔を上げ、何かに気付き真横を見据えた。つられて視線を向けた構築士たちに動揺が走る。


『あ!?』

『み、見ろっ! グリッドが消えてゆく!』


 仮想世界の屋台骨、その仮想基盤を示す直線の赤いグリッドが波を打ち、直線上から剥離をはじめる。


 二十七管区のリセットシーケンスの開始を示していた。


Special Thanks! 情報工学考証、匿名の方。

細やかな考証、ありがとうございました。大変お世話になりました!


赤井 『あれ。モンジャ焼▲▲▲さんは?』

そんなアカウントはアガルタにはいません。


修正「大文字焼」→「強羅大文字焼」

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