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深夜0時のクリスマス
作:三亜野 雪子


「こぉら! 止まれ、大河!」


寒くなったこの頃。
あるイベントに周囲は心なしかそわそわしている、そんな時。
この2人は変わらず……。


「だぁれが止まるか! 捕まえてみろ!」

「言ったなぁ! 覚悟しろ!」


1人の少年は弁当を口に詰め込みながら走り、1人の少女は少年を追いかけていた。


「へっへーん! 俺の足にはなかなか追いつけはしな…………! おまっ、なに持ってんだ!」


気付けば彼女はどこからかひったくった椅子を両手で持ち上げて走っていた。


「私の弁当返せぇ!!」

「お前はその手を離せぇ!!」


2人のやり取りを周囲は苦笑しながら見つめている。今ではこれはこの学校の名物でもある。


「大河! おとなしくしなっ―――――!」

「祐子! 危ない!」


落ちていたゴミに気付かず、彼女は滑った。
椅子が落ちる大きな音が響く。


「なんだ? 大丈夫か?」


騒ぎを聞きつけた先生が顔を出した。


「あ、はい」

「大丈夫でぇす」


廊下に絡み合って倒れた2人は互いに気の抜けた声を出した。
今日もこの学校は平和。





「なぁんであんたらはそうなのよ」


彼女、伊藤祐子の親友である渡瀬真弓はポッキーをポリポリ食べながら聞いた。


「なにが?」


彼女も同じようにポッキーをつまみながら首を傾げる。


「なにがじゃないよ! さっきの弁当窃盗事件」

「事件って………」


変な名前がつけられていることに祐子は呆れた顔をした。


「あんな状況になってときめかないなんて…」


先ほど祐子の弁当を盗んだのは本庄大河。彼女の幼馴染みだ。
部活に精を出す、それなりのモテ男だったりする。


「そんなこと言われても、それがいつもなんだから仕方ないじゃん」

「なんで好きにならないかなぁ?」

「あまぁい! いくら顔よくて幼馴染みだからって誰もが好きになるとは限らん!」

「もったいなぁい。あんた1週間後なんだかわかってるの?」


勢いよく言われて思わず身を引いた。


「……………クリスマス」


そう、今この時期、周囲はそれで浮き足たっているのだ。


どうしてみんな…私と大河をくっつけさせたいのかなぁ。





きーんこーんかーんこーん


昼休みを知らせるチャイムが鳴る。祐子は教科書をロッカーにしまいに廊下に出た。
それを見計らって大河は彼女のバックを探る。


「相変わらず色気のねーカバンだな」

「悪かったわね」


ぎくり、と口を引きつらせる。見れば彼の後ろには腕組みをした祐子が立っていた。


「なにをお探しでしょうか?」

「弁当を………」


祐子は無言で大河の頭を叩いて、自分の鞄を探る。


「はい」

「え、なんで?」


当然のように弁当を彼に渡して、祐子はにっこりと笑う。


「考えてみれば最初から2つ持ってくればあんなに騒ぎをおこさなくていいんだよねー」


自分の分も出して祐子は真弓の所へ向かった。
じっと渡された弁当を見つめて、大河は考える。


ってことは…俺のためだけに用意したんだよな。


大河は満足そうに笑って弁当を開け、その味を味わった。





「あんたさぁ、本庄から弁当取られるようになったのっていつだっけ?」

「へ? あぁ、確か2学期から」


ふーん、と生返事を返して真弓は思案する。
じっと祐子の方を見てくるので思わず彼女はハシを止めた。


「なに?」

「その頃からじゃないっけ? 祐子が自分で弁当作り始めたの」

「あ、そうだね。ちょうど同じ」


瞬間、真弓はにんまりと笑んで顔を近付けてきた。


「それってあやしくなぁい?」

「あやしくない! だいたい、さっきからなんなの?」

「だって、気付いてないんだもん。あんた」


祐子の顔を手で挟んである方向に向けさせる。


「よぉく見なさい」


仕方なく言われた通り大河を見る。しかし、ガツガツと自分が作った弁当を食べているだけ。


「あ、おかず落とした」

「ええい! そんなもんじゃない! あれよあれ」


指差す方にはちらちらと大河を見つめている女子達。モテ男なのだからそういった女子がいてもおかしくはないが、最近更に数が増えているように思えた。


「いいの? このまま本庄を他の女に取られて!」

「いいのって…」


どうもピンとこないんだよなぁ。


「とにかく、これ以上言うならもうおかずあげないよ!」

「えぇっ!」


弁当を持ち上げて真弓から離した祐子は、もう一度大河を見た。弁当に満足そうに頬張っている姿に思わず微笑んだ。





12月24日。





「こんちわー」

「げっ、大河」


幼馴染みのうえ、母親同士が仲がいいため、2人共互いの家を我が家同然に入る。この日も大河は玄関ではなく、リビングに入ってから挨拶をする始末だった。


「げっ、とはなんだ。げっ、とは!」

「いや、思わず本音が………」

「ひでぇ! わざわざお前に会いに来てやったのに」

「じょーだん。あんたがそんなことするわけないじゃない。どうせ、ご飯狙いじゃないの?」


大河は苦笑いして、視線を外した。


「バレたか」

「バレバレ!」


祐子は減らず口を叩きながらもご飯のしたくをしだした。それを密かに微笑しながら大河は見つめた。


「にしてもクリスマスなのに暇そうだなぁ」

「それはそのままそっくりあんたに返すよ」


テーブルの上にご飯を並べながら祐子は言葉を返す。大河は飲み物を取るため冷蔵庫を開けた。


「まぁ、クリスマスとかはっきり言って恋人がいないうちらには関係ないけどね」

「………」

「大河?」


呼ばれて慌てて扉を閉める。ジュースを取って椅子に座った。


「どうしたの?」

「好きなジュースがなかったんだよ」

「しらないわよ」


この調子で2人は幼馴染みのクリスマスイブを過ごした。





そして、事件は起こる。





がちゃ


「………………………え?」


祐子は自分の目を疑った。入れといたはずのあるものが見事になくなっていたからだ。


「うそ…」


諦めながらも他の所も探してやはりないことに動悸がした。


「そんなぁ………。どうしよう………」


力なく呟いて祐子は落ち込んだ。





一方、大河は。


「…………」


これ、クリスマスプレゼントだよな?


祐子の家にあったカップケーキを手に持って眉間にシワを寄せていた。


「誰にやるつもりだったんだろう?」


冷蔵庫の中で見つけた瞬間、とっさに持ってきてしまった大河。罪悪感に見舞われながらも、渡す相手のことを気にかけていた。


「やっぱり返そう。探してるだろうし」


時刻は11時過ぎ。そんなことも気にせずに大河は外に出ていった。





「大河君、さぁ上がって」


歳より若く見える母親に誘われて大河は祐子の部屋に向かう。はっきり言って自分の娘と男を2人っきりにするのはどうかと思いながらも彼女の部屋に入る。


「祐子」

「………」


彼女は大河に背中を向けたまま動かない。


「今…大河と顔合わせたくない」


息を飲む。
盗んだことをバレたのかと大河は焦った。


「悪い! 謝るからさ、だからそんなこと―――」

「え?」


振り返った祐子は涙を流して情けない顔をしていた。あまり泣かない彼女が泣いていることに驚くことよりもどうしようもない悔しさがわき起こった。


「なんだよ………そんなにこれ渡せないのが哀しかったのかよ!」

「な、んで大河が持ってたの?」


なくしたはずのカップケーキを彼が持っていたことに祐子は目を丸くした。


「クリスマスなんて関係ないみたいなこと言って、なんでこんなもん作ってんだよっ! 誰にやるんだよっ!」

「大河……」

「俺は………お前が好きなのに! お前はそうじゃないのかよ!」


隣りの家にも聞こえそうな大声で彼は叫んだ。祐子は次第に顔がほてるのを感じる。


なに? これ?


今まで感じたことのない感情に祐子は戸惑う。
ふと視線に入った自分が作ったカップケーキ。


「………………それね」


呟きながら歩く。彼が持っているケーキを取って、袋を開けた。


「あげるために作ったんだ」


ひとかけら、手に取ったそれ。
ゆっくりと運んだ先は彼の口。



甘い、味が広がる。



「え………」

「メリークリスマス」


にっこりと笑う。初めてもらったクリスマスプレゼントに大河は顔を赤くした。


「う、そ」

「うそ言ってどうすんの! だいたい1人で勘違いして恥ずかしいヤツ」

「な、じゃぁ、なんですぐくれなかったんだよ!」

「みんなと同じ日に渡すなんてまっぴらだから明日渡そうとしてたの! 私は私らしくやりたかったから…」


にらみ合う。

そして、笑い合う。


心地よい時間が流れる。





「「メリークリスマス」」





深夜0時のクリスマス。

2人はそれを味わった。





「こらぁ! 大河」

「うわっ、やべ!」


冬休み明けの普通授業日。
2人は変わらずに…。


「ケーキ返しなさい!」

「もう食っちゃった!」


鬼ごっこする彼らに周りもまたいつものように見守る。変わらない。ただ、そう見える。


「捕まえた!」

「うわっ!」


大河の服を掴んだ瞬間、2人の身体は傾く。冬休み前と同じ、絡み合って倒れている。


「「…………」」


視線が合って、

そらす。


「いいの? 襲うよ?」

「ば、ばか!」


大河の腹に一撃くらわせて、彼女はスタスタと歩いていく。
いきなり振り返ればぼそりと言った。


「誕生日…おめでとう」


また自分のためのケーキを食べたことに彼は苦笑して、1日は過ぎる。





変わらない中で、

変わったものがある。







本当は24か25日に投稿する気だったのに、遅れてしまったヘタレな私。
幼馴染として変わっていない2人ですが、もしかしたら続きを書くかもしれません。













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