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非常識なたまご

「さて、リカさんの試験の結果ですが」


 『すごいたまごアイス』を食べ終わり、みんなで仲良く「美味しかったなー」となごんでいると、ライルさんが言った。


 そうなのだ、ドキドキの結果発表なのだ。


「そうよ、この子の試験!」


 『すごいたまごアイス』が効いてたまご酔いがすっかり治ったミラさんが、足をぐいと開いて立ち、わたしを指さした。

 ミラさーん、人のことを指さしたらいけないんだよ?


「っていうか、なんなのこのたまご! 強いわよ! でもそれ以上に非常識よ! 非常識なのよ! これでランクDとかわたしは絶対に認めないわ!」


 ひいっ、まさかの不合格とは!?

 やっぱり戦い方がエンターテイメント感に欠けたせいなのか?

 ファンタジーなテレビアニメの戦いと比べてわたしの技は地味だったから、嫌な予感がしていたんだよ。

 2ランクアップの壁は厚かったよ。


 ……しょんぼりするたまごだよ……。


「このたまご、ひとりで『地獄の番人』を倒しちゃったのよーっ!!!」


「……え?」


「……ええっ?」


「『地獄の番人』?」


「『地獄の番人』だと? 『地獄の番人』が出たのか?」


「大変だ、急いで町を封鎖しなければ!」


「冒険者を呼び集め……いや待て、今倒したと言わなかったか?」


「聞き間違いだ、単独で倒せる訳がない、『地獄の番人』だぞ!」


「それを単独で倒しちゃったからあたしは非常識だって言ってるのよ! 腰が抜けたわよ! 本物の『地獄の番人』が森に現れて、何の悪夢かと思ったらこのバカたまごが突っ込んで行って、ガンガンガンガンガンガンガンガン体当たりかました挙げ句に頭突きして『地獄の番人』を地獄送りにしちゃったんだから!」


「……」


「……」


「……」


 みんな、なんで黙ってるの?


「……ミラさん、それは、ほんと……」


 ライルさんがかすれた声で言った。


「しゃれや冗談でこんなことを言わないわよ! 『地獄の番人』の五つの頭が石化魔法や麻痺毒や灼熱の炎や、とにかく一発喰らったら即地獄行きの攻撃をしているのに、このたまごは全然気づかないで『ヒャッホー、ミラさん見てるぅ?』なんて言いながら延々と体当たりし続けるのよ! わたしがどんな気持ちで見ていたか、わかる? ライル、わかる? ねえ? ねえっ!!!」


 あれ?

 もしかして、わたしは倒しちゃいけないものを倒しちゃったのかな?

 きらきらかっこいい魔物だから、みんなのお気に入りだったとか……なにかの守り神的なものだったとかなの?


「あの、なんか、スイマセンデシタ」


 気の弱いたまごだからね、とりあえず謝ってみたよ。


「高く売れそうだから調子に乗ってヤっちまいました、ホントにすいません」


「……リカさん、『地獄の番人』を持ち帰りましたか?」


 ライルお兄ちゃんが、めっちゃ優しい声で言ってるよ! 

 余計に怖いよ!


「持ってる、よ」


「そんなに怯えなくていいですよ。引き取り所で見せてもらっていいですか」


 怖くないよー、って言われる時ほど怖いことが起きるって知ってるよ!


 わたしはライルさんの後に続き、その後をギルドにいた人たちがぞろぞろついてきた。






 わたしがエビルリザンを引き取り所の奥の広場に出すと、みんなは無言になった。

 こうしてみると、結構大きいね。

 小型のダンプくらいあるよ。


「……確かに、『地獄の番人』こと、エビルリザンですね」


 ライルさんが言った。


「うおおお、本物の『地獄の番人』だぜ、初めて見たわ」


「だが、なんであんなにぐったりとしているんだ?」


「砕けてやがる……全身の骨という骨が、砕けているんだ!」


「なんていう恐ろしいヤり方だ……人間技じゃねえ……」


「俺、こんな死に方だけはしたくねえよっ!」


 冒険者の皆さん方の呟きを聞き、わたしはアイドルを目指す者として大失敗をしてしまったことに気づいた。

 わたしは、『恐ろしくてやってはならない倒し方』を、またしてもしてしまったらしいィィィッ! やべえェェェェッ!


「リカさんがこれを単独で倒したことは、間違いないんですね」


「わたしの名にかけて、間違いないわ」


 ミラさんが答える。


「では、リカさん」


「はいッ」


 ちょっと声が裏返ったよ!


「ランクアップ試験は合格とします。ただし、」


 合格? まじ? やったあ! だがただし付き、なに? なにか問題が?


「リカさんのランクはCにします。そして、早急に常識を身につけなさい。目の前で、リカさんが『地獄の番人』に向かうところを見たミラさんがどんなに恐怖を感じたかがわかるまで、しっかり勉強をしてください。その後のランクアップは、常識を身につけるまではさせません!」


 え?

 いきなり3ランクアップなの?

 そしてなぜか怒られている?


「ランクCの冒険者はかなりの強さの魔物を倒す実力者です。そして、自分の強さに責任を持った行動をしなければならなくなります。ベテラン冒険者なら既に身についているはずなのですが、リカさんの場合は経験がないのに強さが先行してしまい、不安があるのです。わかりますか? あなたは強さの垂れ流し状態なのですよ」


 お兄ちゃん、その言い方はなんか酷いよ。

 垂れ流しのたまごなんて、臭そうだよ。


 だが、なぜか皆さん頷いている。


 わたしは臭いたまごじゃないよ!


「とりあえず、『地獄の番人』について説明をしておきますので、ランクアップの手続きをしてからギルドの図書館に行きましょう」


 ライルお兄ちゃんが早速冒険者教育をしてくれるらしい。

 ライルさん、真面目そうだからな、宿題とか出しそうだな、やだな。


 しかし、その前にやっておかねばならないことがある。


「待って! お金!」


「はい?」


「エビルリザンの代金をちょうだい! ねえ、これ、高いんでしょ? 高いと言って! こんなにキラキラだよ、いい素材だよ、皮には傷ひとつつけてない上等の品だよ。ほらほら、いくら出してくれるかなー」


 エビルリザンの競りが開始された!

 しかし、引き取り所のおっさんの言葉で競りは即終了となった。


「うちにはそんな大金ねーよ! 王都に行って売ってきやがれ!」





 わたしはエビルリザンをたまごボックスにしまうと、ライルさんとギルドに戻った。

 ランクアップ試験の間に狩った大量の魔物は引き取り所のおっさんに預け、手続きをしている間に計算をしてもらうことにした。


 ギルドの冒険者たちはエビルリザンのぐたぐた死体を見てから妙に静かになっていたが、わたしがホーンラビットとワイルドターキーとワイルドブルを出して「これでわたしのランクアップ祝いをするよ、お肉食べ放題だよ!」って言ったら顔を輝かせていた。


 この世界では胃袋を掴めばたいていのことはスルーしてくれそうなので助かった。

 これでわたしは気のいい太っ腹たまごとして認めてもらえるはずだ、決して残虐たまごなどという評判にはならないはず。

 悪口言うやつにはお肉はやらないよ!


「それでは、これで手続きは終わりです。リカさん、ランクアップおめでとうございます」


 ライルさんがわたしにカードを渡した。見ると、ランクがCに変わっている。これでわたしも一人前の冒険者である。

 Cの字の後に星がついているので、次にランクアップするための魔物討伐の基準が満たされているということなのだろう。

 これってすごくない?


「ありがとうございます。そしてお兄ちゃん、もっとおめでたそうな顔で言ってください」


「これからのことを考えると、笑顔を作ることができないのでご勘弁を」


「大丈夫、わたしたちの未来はバラ色だよ」


「バラのような深紅の血飛沫に彩られた未来ですね」


「あっはっは、さすがイケメンは言うことが違うね!」


 いいねえ、わたしたちは本当の兄妹のような仲良しさんだね。


 そして、わたしたちは図書館へと場所を移す。

 セブさんがいたので、たまごアームを振って挨拶する。


「これを読んでください」


 ライルさんが、魔物の本を出してきたので読む。




『エビルリザン 別名『地獄の番人』 緊急警報発令レベル』


 いきなり物騒なことが書いてある。


『希少な魔物だが、好戦的で危険度が高いので発見したらすぐに緊急警報を発令し、場合によっては王都に連絡することも考える。五つの首がそれぞれ強い魔法を放ち、体力もあるのでランクB以上のメンバーによるパーティー、可能ならばランクA冒険者のいるパーティーで討伐するのが望ましい』


 ……ランクAって書いてあるよ。

 どうやらスーパーヒーローを呼ぶレベルらしいよ。


「読めましたか」


「はい」


「理解できましたか」


「はい」


「なにがわかりましたか」


「大変ヤバい魔物だということがわかりました。ランクFのたまごがうっかりひとりで狩ってはいけないということと、肝っ玉姉さんのミラさんが腰を抜かしても仕方がないことをわたしがやってしまったことがわかりました」


「そうですね。常識って大切ですね」


「はい」


「しっかり勉強をして、先輩冒険者の言うことには耳を傾けていく姿勢を身につけましょうね」


「はい」


「他になにかありますか?」


「明日ミスリルタートルを狩りに行くので、魔物の本を見せてください」


「……リカさん、どついてもいいですか?」


 やめてよお兄ちゃん!

 いたいけな妹をいじめないで!


「だってライルさんは、ランクアップしたら狩りに行ってもいいって言ったじゃないですか! しかも、当初の予定よりももうひとつ上のランクになったのですよ。実力は充分ではありませんか。とっととミスリルをゲットしないと、黄昏たそがれきったドワーフのサンダルクのおっちゃんが、世をはかなんでしまうかもしれませんよ! さあ、可愛い妹には旅をさせろなのです、ミスリルタートルの情報をわたしにください」


「明日」


「はい?」


「明日、僕と手合わせをしてみましょうか」


 ライルお兄ちゃんが、にっこり笑って言った。


「僕はミスリルソードを持っていますからね、リカさんがミスリルタートルと戦えるかどうか、見てみましょうね」


「……えっと、ありがとう、ございます?」


 ライルさんを倒せるなら、ミスリルタートル狩りを許可してくれるってことだね。


「ちなみに、ライルさんはどのくらいの強さなのですか?」


 ミスリルソードって、かなり強力な武器だよね。


「ランクはBですが」


 マジかよ!?

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