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プリンセス・プリンセス 作者:心太
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第ジュウニ夜

一部〜空の見えない街〜
「ふむ……及第点以下といったところか」

鼻歌を歌い小さな杖を軽快に振って、割れた地面や欠けた岩山などを修復しながら弐爺にじいは足元へと視線を向けた。
そこには二人の少女ーーインフィとフレシが倒れ込んでいた。肩で大きく息をしており、顔色も目に見えて悪い。

「ま、まさか見えざる武器を破ったらその武器に付与ふよ魔術を掛けてくるなんて……」
「視界が全部火に覆われた時はさすがに死ぬって思ったよ〜」
「すまんかったの、昔の癖で損害を与えられた際の反撃機能も付けてしまったのだ。よく切り抜けた、さすがワシのインフィ!!」

誤魔化すように笑う弐爺に、二人は冷ややかな視線を送る。
イシルディンが剥がれて姿を現した自動人形ゴーレムの武器は、なんて事はない巨大なだけの石剣だった。
しかして反撃機能により付与魔術を発動され、石剣は火を纏う剣となった。そして空中を自然落下していたインフィを躊躇とまどうことなく、ひと突き。
この時インフィが「〝風!〟、〝風っ!〟〝ぼ暴風ぅぅぅっ〟!!」と重複魔術を発動させていなければ、かなり本気で危なかったであろう。
重複魔術を使ったせいでインフィは魔力欠乏症を引き起こし、フレシも言わずもがな以下同様である。
自力で動けなくなった二人を、飛行魔術で自分の足元まで引き寄せ、弐爺は「うぅむ」と髭を撫でた。

「しかしワシのミスがあったのも事実であるし、最後まで立ち向かう気概は認めないといけないな。それに粉末状態の月下美人ア・クイーンオブ・ザ・ナイトも分かったのだから、素材に対する知識も多少はあるのだろうしーーよし、こうしよう。お嬢さんはインフィと共に修行して、この自動人形ゴーレムを瞬殺できるようになるのだ。そしたらお願いを聞いてやるぞ、うむ、我ながら良い落とし所だ」

ポンと手を打ってほがらかに笑う弐爺を見て、二人は同時に思った。
ーーあ、これ最初から決めてたな、と。

「……こほん。お嬢さんのお願いは聞けなくなってしまったが、とりあえず言うだけ言ってみるか?」
「では僭越せんえつながら。お嬢様のお願いというのはマブダチのインフィさんと仲良くーー」
「久しぶりに口開いたと思ったらリリアナ!! というか私が言いたい事と微妙に違うし他人に言われたら物凄く恥ずかしいからそれ以上はやめなさい!!」
「フ、フーちゃん……」
「そっちもそっちでキラキラした目で見ないの!!?」

最早、上流階級然とした喋り方をしなくなったフレシである。
けれどこの砕けた口調のほうが自然体で、むしろ楽しそうに聞こえるのは気のせいでは無いのかもしれない。

「ーーおいジジイ。つまりその子は〝認めた〟という事でいいんじゃな?」
「うおビックリした……いつの間に汚部屋おべやから出てきたんだジイさん」
「うるさいわい!! で、そういう事なんじゃな?」
「ーーあぁ、まだ仮免のようなものだが一応ワシは〝認めた〟事になるかの」

知らない間に近くまで来ていた壱爺いちじいは、弐爺との間だけで通じる確認のような事を言っている。
それは何だか、ひどく悲しそうであり、それでいて嬉しそうでーーけれど最後の表情は、明らかに怒っていた。

(あ、何かヤバい)

フレシが身の危険を感じた時、壱爺のごつごつした手に頭を掴まれ、あれよあれよという間に肩に担がれていた。

「そうか〜、それなら安心して叱れるというもんじゃ。儂の素材を無断で、しかもあんな使い方をするなど言語道断じゃからな。インフィの友達だからと猫を被って損したわい」

目つきが先ほどと違い、視線だけで人を殺せそうな雰囲気の壱爺。
そのあまりの豹変っぷりにごくりと喉を鳴らし、だが魔力欠乏症のため悲鳴も上げられないまま、フレシは絶望の表情で運ばれていく。
途中助けを求めるようにインフィを見たが、群青色の瞳を悲しみに染めながら「がんばって」と口を動かしただけ。絶望感が倍増であった。

「お嬢さんは魔力欠乏症に掛かっているから、マンドレイク系の回復薬を飲ませるのだぞーーあとは、好きに叱りつけるんだな。嫌われ役は任せた」
「ふん、すぐに拳で語り合おうとする貴様よりずいぶんマシじゃわい。そこのメイドもこっちに来い! 主人あるじの不始末は連帯責任じゃ!!」

小声で「なぜ私も……」と不満げに漏らしたリリアナだったが、壱爺のひと睨みでそそくさと同じ方向へと向かう。
その後、巨大な自動人形ゴーレムの近くにある家から、老小人族の怒声が響いてきたのは言うまでもないーー

▲▲▲▲▲

小人族の鉱夫といえば、どうしても汚いや臭い等のイメージがあるが、ここ空の見えない場所は多種族が暮らす街。
毎日汗だくになっても水浴びだけという小人族を嫌う者もいるため、街の所々には湯屋が設置されていた。
格安で、水汲みや湯炊きをしないで楽にお風呂に入れるとあり、住人の殆どが湯屋を利用し一日の疲れを取っている。
そんな中の一つ、未婚女性専用の湯屋でインフィは、生まれたままの姿で露天風呂を満喫しているのであった。

「ふぃ〜、生き返る〜〜」
「……あなたって、たまに年寄りくさいわよね」

三、四人用の個室露天風呂を借り、インフィは緩んだ顔をしながら湯船で手足を伸ばし、フレシはリリアナに身体を洗ってもらい自身は頭皮のマッサージを敢行中だ。
よほどあの時抜けたのが気になるのだろう。ちなみにフレシは動けるようになってから、お返しにとインフィの髪の毛を抜いている。

「けど結局、あれは何だったのかしら? 最初から対応を決めてたなら自動人形ゴーレムとの戦闘なんて意味なかったでしょうに」

修行をすると言った後の弐爺にじいは素早かった。上級の転移魔術を惜しみなく使用し、街長まちおさを連れて来たと思ったら半ば強引にフレシの同居を認めさせ、次いで街長の屋敷に置いてきた馬車を転移。
更には街長に注文していた着替えをタンスごと、枕はベッドごと、極め付けは「息災であれ」というメッセージカード付きの籠一杯のリィンの蜜綿みつわたを持ってきたのである。
メッセージカードの文字が何やら父親のものと酷似していたが、そこはスルーしたほうがいい気がしたのでフレシは黙っていた。
リィンの蜜綿は純白の絹糸を丸めたような見た目をしており、しかも一つ一つ対物理障壁で保護されていて、明らかに最高級品である。
思わず喉を鳴らす少女二人(と後ろに控えたメイド一人)に壱爺と弐爺は苦笑して、「冷やしておくから湯屋に行ってきなさい」と言われたのが先ほどだ。
お風呂後のリィンの蜜綿に想いを馳せながらも、自動人形ゴーレムとの戦闘に納得のいかないフレシ。
そんなフレシに、赤茶色の岩肌しかない上空を仰ぎながらインフィは自分自身に言い聞かせるように呟いた。

神姫プリンセスはーーいつか来る〝約束の日〟まで生き残る強さが必要なんだって。だから弐爺はフーちゃんの実力が知りたかったんじゃないかな」
「約束の日? そんなの、私は聞いた事ないけど……う〜ん」

フレシが考え込むようにしていると「洗い終わりました」とリリアナの声が上がり、続いてインフィから楽しげな声を掛けられる。

「それよりフーちゃん、一緒にお風呂入ろうよ〜」
「え、えぇそうね。小妖精族はあまり湯船に入る習慣はないけど、たまにはいいかしら」

考えても分からない事は後で弐爺に聞いてみればいいと思考を切り替え、フレシは湯船へと向かう。
腰まである髪の毛はタオルを使って頭に巻き、色白のインフィよりもなお白い肌を僅かに上気させながらゆっくり湯の中に浸かっていく。
その所作の全てが洗練されており、気品と歳に似合わぬ色気を醸し出していた。

「なんか、フーちゃんってエロい」
「って、いきなりすぎて反応に困るわ。まぁ褒め言葉として受け取ってあげる、ちんちくりんのインフィ?」

わざとらしく手を口元に当てて笑うフレシに、インフィは両手の隙間から水鉄砲を飛ばした。
見事顔面ど真ん中に当たった水鉄砲、するとフレシの口から「ふふふ……」と恐ろしげな笑い声が漏れ出す。

「よーし、ちょっとそこに座りなさいインーー」
「うわ、お肌がスベスベだ! 羨ましいなぁ〜」
「あ、こらやめ、どこ触ってんの! ちょ、そこはーーって揉むな馬鹿ぁぁぁ!!」

湯船できゃいきゃい騒ぐ少女達を尻目に、一人用湯船でリリアナはお銚子ちょうしを傾け、月見酒ならぬ岩見酒を楽しんでいた。
小人族の街の地酒を楽しみ、段々余裕のなくなっていく主人の声を聞きながら、リリアナの艶めかしい吐息は湯気と一緒に上空へと消えていったーー

▲▲▲▲▲
〜誰得用語解説〜

「リィンの蜜綿みつわた
※……桃っぽい果物とだけ考えておりました。見た目は次話で描写いたします。

書くネタが無い場合の後書きの活用方法、考えねばなりませんね。
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