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神様に愛された子供

作者:田中円
神様に愛された子供

ある所に、一人の子供がおりました。
彼はお父さんお母さんと幸せに暮らしていましたが、
ふと世界がどれだけ広いのか、
また生きる意味が知りたくなって、
二人に内緒で、旅に出ました。

初め子供は元気に旅をしていましたが、しばらく旅をすると、なんだか辛い気持ちになって、道の真ん中にしゃがんでしくしく泣いておりました。

「何を泣いているの?」

道行く人がそれに気がついて、心配そうに声をかけますので、子供は答えて言いました。

「私はやりたいことがあって、旅に出たのですが、お父さん、お母さんに何も言わずに出てきた事を後悔しています。
今頃家で私を思って泣いているでしょう。
私はどうしたらよいでしょうか。」

すると、その道行く人は子供の小さな手を引いて、粗末な小屋に連れて行きました。

「それならこの中でたずねてごらん。」

そこには、光り輝く人がいて、にっこり笑っています。
彼は子供をぎゅっと抱きしめて言います。

「大丈夫。君が本当にやりたいことをするのが、お父さんもお母さんも一番嬉しいんだよ。
それをやり遂げてから、ちゃんと謝れば、絶対に許してくれるよ。」

と、彼は言いました。
子供はそれを聞くと、自分の罪が許された気持ちになって、元気になって言いました。

「本当にありがとう。あなたは一体誰ですか。」

すると彼は、

「私は神様だよ。」

と言います。そして続けて、

「私を信じてくれるなら、私はいつもあなたのそばにいて、あなたを愛し、君を導き、君が罪を犯したなら、それを許すよ。」

と言うので、子供は

「それは本当にありがたいことだ。私はあなたを信じます。生きる限り。」

と言いました。

また子供は旅を続けます。

お腹が空いて木の実や若葉、動物を殺してその肉を食べる時、その罪の重さに痛む胸をぎゅっと押さえて、目を閉じます。
そんな時子供には、自分に寄り添う、神様の息づかいが感じられて、なんだか許されたような気持ちになるのでした。



やがて子供は岩と砂だらけの荒野に辿り着きました。
昼にはじりじりと照り付ける暑い太陽に焼かれ、夜には息が真っ白になるほど冷え込むその厳しい荒野で、子供はとうとう水も食料も底を尽き、大地に倒れこんでしまいました。

(ごめんなさい、お父さん、お母さん。僕、やりたいこと、出来なかった。知りたいこと、見つけられなかった。)

子供が目を閉じようとしたその時です。
偶然そこを通りかかった人達が子供を助け、彼を自分達の町へと連れて行きました。
そうして子供に水と食べ物を与え、柔らかな寝床でゆっくりと休ませます。

元気になると子供は、自分を助けてくれた人達に聞きました。

「あなた達はどうして、こんな場所で暮らすことが出来るのですか。」

すると彼らは言いました。

「神様が教えてくれたのだ。荒野でみんなで力を合わせて生きる方法を。」

子供は思います。

(前に信じた神様は、いつも私の罪を許してくれる。今度の神様は生き方を教えてくれる、だって?)

子供は、自分もその神様を信じるから、私にも生きる方法を教えて欲しい、と彼らに頼みましたので、彼らは喜んで子供を仲間に加え、その方法を彼に教えました。

(ああ、神様って凄いや。これで私はもう世界のどこでだって生きていける。)

立派な体つきになった子供は思います。

けれど子供はまだ、生きる意味を知りません。
ですから子供は仲間達に別れを告げると、また旅に出ました。



しばらく旅を続けると、一人の人を囲んで、多くの人々がその人の話に耳を傾ける場面に、子供は出くわしました。

「何をしているのですか。」

と子供が聞くと、人々は口々に言います。

「彼はこの世の全ての事を教えてくれる神様なのだよ。」

子供はそれを聞いて、嬉しさで飛び上がりました。

(今度の神様は、私に生きる意味を教えてくれるに違いない。)

そこで子供は人々に混じって、その神様の教えを学びました。

けれど勉強は苦手です。それにその教えはとても難しくて、居眠りをしていると、何もかもを知っている神様は子供を揺り起こして言いました。

「悪い事をしないで、善い事だけをし続けなさい。そうしたらあなたはいつか必ず、生きる意味を知ることが出来るよ。」

すると子供は笑顔になって、

「わかりました。信じます!」

と言って、ありがとうとお辞儀をすると、そこを後にし、また旅に出ました。



けれど、今度は行けども行けども、誰にも出会いません。

海を越え、山を越え、谷川に辿り着くと、彼は木陰の石に腰掛けます。

「誰もいない、とても寂しいな。」

けれどその時、足元から声がしました。

「いるよ。」

子供が驚いて立ち上がると、その声は自分が座っていた岩から聞こえてくるのでした。

「あなたが話してるの?」
「うん。僕は岩の神様だよ。」

すると、あちらこちらから声がします。

「私は川の神だ。」

それは流れる川の神が話しているのでした。

「僕は君に踏んづけられている土の神様さ。」

子供が足をばたつかせると、耳元をそよ風がくすぐります。

「私はそよ風の神様よ。」

子供はなんだか嬉しく楽しい気持ちになって、踊りだしますと、森や川や山や海、虫や獣や魚や、生きとし生けるもの、この世のものでないものまでも全てのものが、彼と踊り、歌い、笑い合います。

青空が大きな口を開いて子供に言います。

「全てのものはみな神様なんだよ。」

そうして太陽の神様がにっこり笑って言いました。

「あなたが私達を大切にしてくれる限り、私達はあなたを助ける。」

子供は言いました。

「うん、私は、神様達を大切にするよ。」



しばらく行くと都会の町がありました。
子供は巨大なビルや、凄いスピードで走る車、様々な色で点滅する機械をワクワクしながら見て、それらの神々と楽しくおしゃべりをしていると、スーツ姿の男に話しかけられました。

「田舎から来たのかい? 凄いだろう。この町は何もかも最新の機械で作られ、営まれてる。全部神様じゃなくて、人間が作ったんだぜ。」

子供はその言葉に驚いて言いました。

「神様はどこにだっているよ。機械の中にだって。」

機械の神様はうなずいて、赤や黄色に点滅し、ガーピー音を立てますが、男にはわかりません。男は言います。

「確かにいるのかも知れないね。だけど、それは証明できるかい?
俺達は神様に頼むのではなくて、自分達の目で見て、耳で聞いて、触れられる、確かなものだけを積み上げて、機械を作った。そしてこの町はこんなに便利になった。
だから俺は、神様じゃなくて、人間を信じる。」

子供はそれを聞くと無邪気に

「じゃあ私も人間を信じる!」

と言いました。



するとそこへ、罪を許す神様を信じる人が、神様を信じる人のいないその都会に、その神様の教えを広めに来たのに、彼らは偶然出くわして、子供は親しげに挨拶します。

と、今度はまたその逆の道から、生き方を教えてくれる神様を信じる荒野の人が、仲間である子供を心配して、彼に会いに来ましたので、子供は喜んで彼にハグをしました。

すると驚いたことに、今度はその間の南の道から、何でも知っている神様を慕う人が、都会人にもその教えを伝えようと歩いてくるではありませんか。

彼らはその十字路で、子供を囲んで鉢合わせです。

子供は全員が勢ぞろいしたことにとても喜んで、一人一人彼らの紹介をした後に言いました。

「私は罪を許してくれる神様に愛されることで、笑顔で旅が出来たし、
荒野の神様のお陰で生き方を知り、こんなに遠くまで来れた。
何でも教えてくれる神様を信じたから、なんだかとても生きる意味の答えに近づけているそんな気がする。
石ころにも草木にも空や太陽、機械にだって神様はいて、大切にする限り、彼らは私を助けてくれるし、この都会の町では、人の凄さを教えられた。
みんなの言う事を、そのまま信じて本当に良かった。心からありがとう。」

子供がそう言うと、人々の顔は見る見る真っ赤になり、自然の神々達は大声で騒ぎ始めます。

神々を信じる人々は眼を血走らせて言います。

「お前が信じる神様は誰だ!」

子供はおびえて言います。

「みんなだよ、みんな信じてる。みんな大好きだよ!」

すると彼らは、子供の手足を掴み引っ張り合って言います。

「私の信じる神様だけが一番素晴らしい。お前は他の神を忘れて、私の神様だけを信じなさい!」

子供は恐ろしくて泣きながら、都会の男に助けを求めます。すると男は、

「神様なんて信じるからだ。お前が神様を信じないって言うなら、助けてやるぜ。お前は、人を信じるんだろ?」

そう言って、彼も子供の手足を引っ張ります。

子供は泣き叫びながら、自然の神々に助けを求めます。
すると自然の神々は騒ぎ立てます。

「お前は神を信じない人間を、信じるといった。どうせお前もその男と同じように、私達が見えなくなるのだろう。」

と言ってただ知らんぷりで騒ぎ立てます。

子供は体もちぎれそうでしたが、何より心がバラバラにちぎれてしまいそうでした。

子供は言いました。

「みんなが私を助けてくれた。素晴らしい神様だから、信じる価値があるからって、あなた達が言うから、だから私は全部信じた。信じて、本当に役に立って心から嬉しかったのに、どうしてこんなに私を痛い目に合わせるの。あなた達は、みんな全員、嘘吐きだ!」

その言葉を聞いて、生きる方法を教えてくれた神様を信じる人が、顔を歪めて泣く子供を悲しんで、手を放します。

すると、次々と全員が手を放しました。

彼らは自分達が間違っていたと、子供にごめんなさいと言いました。
自然の神々も、神を信じない人も、口々にごめんなさいと言います。

子供はその場にペタリと座り込んで、みんなを呼んで、彼らを一度にぎゅっと抱きしめました。

そして彼らはみんな、それぞれにぎこちないながらも、互いの神様の素晴らしい部分、人間の力を共有し合い、自然の神々をも敬って暮らすと子供に約束します。

それぞれの信じる神々も、彼らの後ろで、微笑んでいます。

子供は、

「みんな、仲良しが一番!」

と言うと、また歩き始めました。



どこへ行くのかって?

生きる意味を見つけたので、おうちに帰るのですよ。

終わり

2011/07/29 田中円

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