表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

神様に愛された子供

作者: 田中円

神様に愛された子供


ある所に、一人の子供がおりました。

彼はお父さんお母さんと幸せに暮らしていましたが、

ふと世界がどれだけ広いのか、

また生きる意味が知りたくなって、

二人に内緒で、旅に出ました。


初め子供は元気に旅をしていましたが、しばらく旅をすると、なんだか辛い気持ちになって、道の真ん中にしゃがんでしくしく泣いておりました。


「何を泣いているの?」


道行く人がそれに気がついて、心配そうに声をかけますので、子供は答えて言いました。


「私はやりたいことがあって、旅に出たのですが、お父さん、お母さんに何も言わずに出てきた事を後悔しています。

今頃家で私を思って泣いているでしょう。

私はどうしたらよいでしょうか。」


すると、その道行く人は子供の小さな手を引いて、粗末な小屋に連れて行きました。


「それならこの中でたずねてごらん。」


そこには、光り輝く人がいて、にっこり笑っています。

彼は子供をぎゅっと抱きしめて言います。


「大丈夫。君が本当にやりたいことをするのが、お父さんもお母さんも一番嬉しいんだよ。

それをやり遂げてから、ちゃんと謝れば、絶対に許してくれるよ。」


と、彼は言いました。

子供はそれを聞くと、自分の罪が許された気持ちになって、元気になって言いました。


「本当にありがとう。あなたは一体誰ですか。」


すると彼は、


「私は神様だよ。」


と言います。そして続けて、


「私を信じてくれるなら、私はいつもあなたのそばにいて、あなたを愛し、君を導き、君が罪を犯したなら、それを許すよ。」


と言うので、子供は


「それは本当にありがたいことだ。私はあなたを信じます。生きる限り。」


と言いました。


また子供は旅を続けます。


お腹が空いて木の実や若葉、動物を殺してその肉を食べる時、その罪の重さに痛む胸をぎゅっと押さえて、目を閉じます。

そんな時子供には、自分に寄り添う、神様の息づかいが感じられて、なんだか許されたような気持ちになるのでした。



やがて子供は岩と砂だらけの荒野に辿り着きました。

昼にはじりじりと照り付ける暑い太陽に焼かれ、夜には息が真っ白になるほど冷え込むその厳しい荒野で、子供はとうとう水も食料も底を尽き、大地に倒れこんでしまいました。


(ごめんなさい、お父さん、お母さん。僕、やりたいこと、出来なかった。知りたいこと、見つけられなかった。)


子供が目を閉じようとしたその時です。

偶然そこを通りかかった人達が子供を助け、彼を自分達の町へと連れて行きました。

そうして子供に水と食べ物を与え、柔らかな寝床でゆっくりと休ませます。


元気になると子供は、自分を助けてくれた人達に聞きました。


「あなた達はどうして、こんな場所で暮らすことが出来るのですか。」


すると彼らは言いました。


「神様が教えてくれたのだ。荒野でみんなで力を合わせて生きる方法を。」


子供は思います。


(前に信じた神様は、いつも私の罪を許してくれる。今度の神様は生き方を教えてくれる、だって?)


子供は、自分もその神様を信じるから、私にも生きる方法を教えて欲しい、と彼らに頼みましたので、彼らは喜んで子供を仲間に加え、その方法を彼に教えました。


(ああ、神様って凄いや。これで私はもう世界のどこでだって生きていける。)


立派な体つきになった子供は思います。


けれど子供はまだ、生きる意味を知りません。

ですから子供は仲間達に別れを告げると、また旅に出ました。



しばらく旅を続けると、一人の人を囲んで、多くの人々がその人の話に耳を傾ける場面に、子供は出くわしました。


「何をしているのですか。」


と子供が聞くと、人々は口々に言います。


「彼はこの世の全ての事を教えてくれる神様なのだよ。」


子供はそれを聞いて、嬉しさで飛び上がりました。


(今度の神様は、私に生きる意味を教えてくれるに違いない。)


そこで子供は人々に混じって、その神様の教えを学びました。


けれど勉強は苦手です。それにその教えはとても難しくて、居眠りをしていると、何もかもを知っている神様は子供を揺り起こして言いました。


「悪い事をしないで、善い事だけをし続けなさい。そうしたらあなたはいつか必ず、生きる意味を知ることが出来るよ。」


すると子供は笑顔になって、


「わかりました。信じます!」


と言って、ありがとうとお辞儀をすると、そこを後にし、また旅に出ました。



けれど、今度は行けども行けども、誰にも出会いません。


海を越え、山を越え、谷川に辿り着くと、彼は木陰の石に腰掛けます。


「誰もいない、とても寂しいな。」


けれどその時、足元から声がしました。


「いるよ。」


子供が驚いて立ち上がると、その声は自分が座っていた岩から聞こえてくるのでした。


「あなたが話してるの?」

「うん。僕は岩の神様だよ。」


すると、あちらこちらから声がします。


「私は川の神だ。」


それは流れる川の神が話しているのでした。


「僕は君に踏んづけられている土の神様さ。」


子供が足をばたつかせると、耳元をそよ風がくすぐります。


「私はそよ風の神様よ。」


子供はなんだか嬉しく楽しい気持ちになって、踊りだしますと、森や川や山や海、虫や獣や魚や、生きとし生けるもの、この世のものでないものまでも全てのものが、彼と踊り、歌い、笑い合います。


青空が大きな口を開いて子供に言います。


「全てのものはみな神様なんだよ。」


そうして太陽の神様がにっこり笑って言いました。


「あなたが私達を大切にしてくれる限り、私達はあなたを助ける。」


子供は言いました。


「うん、私は、神様達を大切にするよ。」



しばらく行くと都会の町がありました。

子供は巨大なビルや、凄いスピードで走る車、様々な色で点滅する機械をワクワクしながら見て、それらの神々と楽しくおしゃべりをしていると、スーツ姿の男に話しかけられました。


「田舎から来たのかい? 凄いだろう。この町は何もかも最新の機械で作られ、営まれてる。全部神様じゃなくて、人間が作ったんだぜ。」


子供はその言葉に驚いて言いました。


「神様はどこにだっているよ。機械の中にだって。」


機械の神様はうなずいて、赤や黄色に点滅し、ガーピー音を立てますが、男にはわかりません。男は言います。


「確かにいるのかも知れないね。だけど、それは証明できるかい?

俺達は神様に頼むのではなくて、自分達の目で見て、耳で聞いて、触れられる、確かなものだけを積み上げて、機械を作った。そしてこの町はこんなに便利になった。

だから俺は、神様じゃなくて、人間を信じる。」


子供はそれを聞くと無邪気に


「じゃあ私も人間を信じる!」


と言いました。



するとそこへ、罪を許す神様を信じる人が、神様を信じる人のいないその都会に、その神様の教えを広めに来たのに、彼らは偶然出くわして、子供は親しげに挨拶します。


と、今度はまたその逆の道から、生き方を教えてくれる神様を信じる荒野の人が、仲間である子供を心配して、彼に会いに来ましたので、子供は喜んで彼にハグをしました。


すると驚いたことに、今度はその間の南の道から、何でも知っている神様を慕う人が、都会人にもその教えを伝えようと歩いてくるではありませんか。


彼らはその十字路で、子供を囲んで鉢合わせです。


子供は全員が勢ぞろいしたことにとても喜んで、一人一人彼らの紹介をした後に言いました。


「私は罪を許してくれる神様に愛されることで、笑顔で旅が出来たし、

荒野の神様のお陰で生き方を知り、こんなに遠くまで来れた。

何でも教えてくれる神様を信じたから、なんだかとても生きる意味の答えに近づけているそんな気がする。

石ころにも草木にも空や太陽、機械にだって神様はいて、大切にする限り、彼らは私を助けてくれるし、この都会の町では、人の凄さを教えられた。

みんなの言う事を、そのまま信じて本当に良かった。心からありがとう。」


子供がそう言うと、人々の顔は見る見る真っ赤になり、自然の神々達は大声で騒ぎ始めます。


神々を信じる人々は眼を血走らせて言います。


「お前が信じる神様は誰だ!」


子供はおびえて言います。


「みんなだよ、みんな信じてる。みんな大好きだよ!」


すると彼らは、子供の手足を掴み引っ張り合って言います。


「私の信じる神様だけが一番素晴らしい。お前は他の神を忘れて、私の神様だけを信じなさい!」


子供は恐ろしくて泣きながら、都会の男に助けを求めます。すると男は、


「神様なんて信じるからだ。お前が神様を信じないって言うなら、助けてやるぜ。お前は、人を信じるんだろ?」


そう言って、彼も子供の手足を引っ張ります。


子供は泣き叫びながら、自然の神々に助けを求めます。

すると自然の神々は騒ぎ立てます。


「お前は神を信じない人間を、信じるといった。どうせお前もその男と同じように、私達が見えなくなるのだろう。」


と言ってただ知らんぷりで騒ぎ立てます。


子供は体もちぎれそうでしたが、何より心がバラバラにちぎれてしまいそうでした。


子供は言いました。


「みんなが私を助けてくれた。素晴らしい神様だから、信じる価値があるからって、あなた達が言うから、だから私は全部信じた。信じて、本当に役に立って心から嬉しかったのに、どうしてこんなに私を痛い目に合わせるの。あなた達は、みんな全員、嘘吐きだ!」


その言葉を聞いて、生きる方法を教えてくれた神様を信じる人が、顔を歪めて泣く子供を悲しんで、手を放します。


すると、次々と全員が手を放しました。


彼らは自分達が間違っていたと、子供にごめんなさいと言いました。

自然の神々も、神を信じない人も、口々にごめんなさいと言います。


子供はその場にペタリと座り込んで、みんなを呼んで、彼らを一度にぎゅっと抱きしめました。


そして彼らはみんな、それぞれにぎこちないながらも、互いの神様の素晴らしい部分、人間の力を共有し合い、自然の神々をも敬って暮らすと子供に約束します。


それぞれの信じる神々も、彼らの後ろで、微笑んでいます。


子供は、


「みんな、仲良しが一番!」


と言うと、また歩き始めました。



どこへ行くのかって?


生きる意味を見つけたので、おうちに帰るのですよ。


終わり


2011/07/29 田中円


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ