ぱられるらいふPDFで表示縦書き表示RDF


ぱられるらいふ
作:椚


 そこは彼女の彼女による彼女のための世界であった。
 彼女の姓は結城、名は千歳。彼女こそ、その世界の、いわゆる神と呼ばれる存在となっていたのだ。
 結城千歳はこれといった特徴のない、ただの一般家庭に産声を上げて生きてきた。
 彼女は模範的なくらいごく普通の、少しわがままでちょっと飽きっぽい、どこにでもいる少女であった。
 ………………
 ………
 …

 人生が変わったのはほんの一ヶ月前。私はわかっちゃったんだ。私がこの世界を創造した、神様の一人なんだってことに!すごいでしょ。私がみんなのことを創ったのよ。言ってる意味わかんないかしら。だから、あなたも、あなたも、あなたもよ。みーんな、私の子供みたいなものなんだから。な、なによ。なんでそんな目で私を見るの? なんでそんなこと言うのよ? 私は間違ってない。間違ってないってば!
 どうしてみんな信じてくれないのかしら。おとーさんとおかーさんは信じてくれるでしょ? あなたたちが産んだのよ。私っていう神様を! 誇っていいんだからね。え? いやよ! なんで病院なんか!! 引っ張らないでよ馬鹿! いたっ、いたいよ。私は神様なのよ。だからそんな、そんな扱いしないでよぉ!
 何やってんだろ、私。私は神様なのに、なんでこんな部屋にいるんだろう? 私は神様なのに、なんでこんなことしてるんだろう? 私は神様なのに神様なのに神様なのに! いけないのは誰? 私をこんな目に合わせたのは誰なのよ。……おとーさん? そうだ、おとーさんとおかーさんだ。あの人たちがいけないんだ。私を神様だって認めないから! そうよ。あの人たちがいけないんだ!
 なにするのよ! 放せ! はなせ!! あの人たちがいけないんだから! 私じゃなくて、あの人たちを捕まえるべきよ!なんで私を捕まえるのよ? ちょっとやめてよ。やめてってば! あんたたち、何やってるかわかってんの? 私は神様よ。絶対、ぜったい、神様なんだからぁぁああああ!!

 私は間違ってなんか───リセット

 人生が変わったのはほんの一ヶ月前。ぶらぶらと人工の灯りに包まれた街を徘徊していた千歳が、たまたま占い屋を見つけて占ってもらった時だ。
「ぉお〜!! あなたは間違いなく生き神だ! ありがたやありがたや」
 独特な雰囲気の中、ガラス球を睨みつけながら占っていた、いかにも怪しげな老婆が目を見開きそう叫ぶと、彼女に対し手を合わせ、懸命に拝むのだった。
 意味はよく分からなかったが、面白い結果だったので、千歳は試しに街の占い屋を片っ端から見て回った。どこへ行っても結果は同じ、彼女は神だと言われ続けた。
 さすがに飽きてしまった彼女はそのまま帰宅し、疲れた体を癒すためにさっさとベッドに潜りこんだ。そして、いつもと変わらぬ夜を安らかに過ごすのだった。
 異変は次の日に起こった。
 朝起きると、両親は千歳に向かってニコニコと愛想笑いを浮かべながら、彼女に恭しく接してきた。
 彼女はその態度に強い違和感を覚えた。いつもならば、遅く起きる彼女に文句の一つでもぶつけて来るというのに、今日はそんな気配がどこにもない。
 学校に向かう途中でも、道行く人々に「神様だ。神様だ」と注目され、学校でもなぜか特別扱いになっていた。
 千歳は最初の内はこんな変な状況に戸惑っていたが、なんでも自分の好きに出来るため、すぐに楽しむことに決めた。
 帰る頃には政府がいつの間にやら用意した巨大な豪邸に案内され、そこで贅沢を極めたのだった。
 神の存在は瞬く間に世界中にも知れ渡り、世界各国が神様のご機嫌取りに勤しんだ。不思議なことに、誰も彼もが彼女を神様だと信じて疑わなかった。
 みんな期待していたのだろう。今まで明確な神様なんていなかったのだから。
 みんな期待しているのだろう。きっと神様は自分達に良いことをしてくれるのだと。
 今や世界は千歳を中心に動いている。彼女は別段、政治に興味を持っているわけではないようだが、それでも、そんな彼女の言によって、戦争も、協定も、何もかもが行われている。すでに彼女の気まぐれで滅んだ国は両の手では足りなくなっていた。
 それでも誰も彼女に文句は言わない。言えるはずがない。彼女こそ、誰もが認めた彼らの世界の神様なのだから。いつか彼らを導いてくれるはずの神様なのだから。
 やがてその時は訪れた。全世界放送をすると千歳から言があったのだ。彼女が全世界に向けて行動するのはこれが初めてのことだった。
 ──ようやく神様が我々を良き方向へと導いてくれる。
 誰もがそう思った。
 誰もが期待を胸に、画面に映る神様を見つめた。
 緊張を抑えて彼女を見守り、発せられるであろう素晴らしき言葉に心を躍らせながらも静かに待った。
「あー、みんな聞いてるかしら?」
 光を放つ画面を見守る者たちから熱狂的な歓声が上がった。中には感極まって涙した者までいたという。
 そんな中でも放送は続く。
「……えっとね。私飽きちゃったの。ゴメンネ。神様もうやめるわ。てゆーか、私が神様なわけないじゃない。何勘違いしちゃってんの? まぁ楽しかったからいいんだけどさ。じゃあ、あとはみんなの好きにやっちゃってちょーだい。んじゃね〜」
 笑顔で手を振る千歳が数秒映ってから、ブツリと非情な音を立てて放送が途切れた。
 全世界の民が画面の前に呆然と、固まった。言葉など出るわけがなかった。

 我々はいったいどうすれば───リセット

 人生が変わったのはほんの一ヶ月前。私はなぜだかわかんないけど、神通力ってやつをもらったみたい。私にはこの力を正しいことに使わなきゃいけないっていう、なんていうか使命感みたいなのが湧いていた。
 この力は望めば本当になんでもできた。病院に行っては何人もの難病に苦しんでる人をいとも簡単に治すことができたし、犯罪だっていくつ解決できたかわかんなくなってた。
 いつしか、神様だ、聖女様だとみんなから呼ばれるようになっていた。そんなこと意識したことはなかったんだけど。でも、役に立ててるっていう実感はあった。それが嬉しくて、快感だった。
 そして今、私は爆音と悲鳴が怒号のように響き渡る戦場にいる。地雷原を渡り歩いては、消えてしまいそうな命を敵味方関係なく助けてる。そう、敵味方なんて関係ない。だって私は神様なんだから。
 だからなのか、この醜い戦争はいつまで経っても終わらなかった。我々には神様がついていると、どちらの国も士気を落とさない。なんせ兵隊は全然減らないし、私も戦場にいるし。
そりゃ私は戦争を終わらせたいんだけど、戦争が終わらないからって痛い思いをしている人たちを助けないわけにはいかないでしょ。
 そんな内に小さかった戦争は、どんどん戦地を拡大していって、気が付いたら世界規模の大戦へと発展していた。それでも消耗するのは限りある物資だけで、人はあまりにも減らなかった。そのせいでみんながいつも食糧不足で飢えている。そんな状況でも誰も餓死なんてしなかった。……私のおかげで。
 私の力では食物は作れなかった。なんでか、それだけはできなかった。でも、私はそれでもいいかなと思ってた。だって私はお腹空かないし。誰も飢えじゃ死なせなかったし。
 でも、その時はあっさりと訪れてしまった。何千を超える人がお粗末な武装をして、私の所に押し寄せてきたのだ。みんなの武器はナイフとか包丁とか、もう武器になるのはそういったものしか残っていなかった。
 私を見つめるみんなの顔は暗く、瞳に光りなんてなくて、ただ憎しみと、恨みと、殺気だけで動いているようだった。
 私は神様で、みんなの願いを叶えてあげたかったから、抵抗なんてしないでおとなしくしてあげた。だけど、いっくら刺されても死ねなかった。これが生き地獄ってやつかなってなんとなく思ってたんだけど、みんなはもっとつらかったってのが、震えながら私を刺しては、わけのわからないことを叫ぶみんなの様子で痛いほど理解できた。
 だから。
 ──苦しい。もういやだって
 だから。
 ──そう願う人がどんどん増えて
 だから、私は誰かが落としたナイフを拾って、ぎゅっと握りしめたんだ。これが私の役目だって決意するために。自分で終わりにするのが怖い、かわいそうな人たちのために。
 みんなを終わらせてあげるために、ザクザクドスドス。
 みんなの生の証を浴びながら、ザクザクドスドス。
 だんだん悲鳴や叫びが少なくなって。とうとうそれは完全になくなって。辺りが冷たい静寂に包まれる。
 ああ、次で最後だ。次でこの地獄は終わるんだ。
 みんなに埋もれながらそう思って、最後にめった刺しにしてやったんだけど、そいつは終わらなかった。

 だって、神様だから───リセット

 人生が変わったのはほんの一ヶ月前───リセット
 人生が変わったのは───リセット
 人生が───リセット
 リセットリセットリセットリセットリセット………

 適合体ユウキチトセノ再実験失敗。適格者デハナイ可能性ガ浮上。ダガ他ノ適合体ノ出現ハ未ダ確認デキズ。ヨッテ更ニ実験ヲ重ネル。次ハ適合体ユウキチトセノ『力アル者』トシテノ意識ヲ少シ緩和スルコトニ確定。実験ヲ再開スル。
 ……世界ガ平和デアリマスヨウニ。


目を通していただきありがとうございます!
初投稿です。
人称の変化を楽しんでいただければ幸いです。
では、また機会がありましたら。






ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
ネット小説ランキング>ぱられるらいふに投票
HPつくりました。ぜひ遊びにきてみてください。くぬくぬしよっ!







ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




◆BACK
小説家になろう