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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あなたが私の世界

作者: リック

 学校の帰り道、気がついたら四次元空間みたいな場所で、綺麗な女性から質問されていた。


「あなたが、小野崎(おのざき) 詩歌(しいか)さん?」


 普通なら知らない人には迂闊に応えたりしないけど、何せ場所が場所だったから素直に「そうですけど、あの、ここはどこですか?」 と話す。その女性は表情を変えないまま答えてくれた。


「異世界と異世界を繋ぐトンネル……という表現が一番近いかしら」

「異世界?」

「そう。私は私の世界を助けてくれる人を探していた。それがあなた。あなたに助けてもらいたくて私はあなたをここまで連れてきた」

「神様みたいなこと言うんですね」

「力はとても弱いけれど、一応はその端くれです」


 混乱すると逆に冷静になる。そうかそうか。私にもついに漫画みたいなことが起きたか。

 ……えー? 私のどこにそんな素質があるの? 私普通だよね? 勉強も運動も平均だし。(あかね)お母さんとかお父さん、お姉ちゃんにはそれで心配されるくらい。これがクラス一勉強ができるあの子とか、運動が出来る男子とかだったら分かるけど、何で私?


「ごめんなさい。私には最初から完璧超人を呼べるほどの力はありません。あなたを呼ぶのは魔王退治のためですが、それも私の分身。ある人間により一度は死んだ私の無念。光と影のようなもの。その一時的な封印を頼みたいのです」

「え? ……え?」

「私の加護を無くした世界は滅ぶはずだった。けれど、人間の強い祈りと特別な供物が私を蘇らせた。恨みつらみの部分を分けて……。私は今、世界を均衡を保つ努力をしていますが、魔王はその反対。だから世界に災厄をもたらす。けれど私の分身である以上、同じ世界の存在であればみな手出し出来ない。だからあなたを呼んだ。心配しなくても、異世界人というだけで価値はあります」


 壮大な事情があるのは分かったけれど、余計自分じゃ力になれないんじゃないかと思える。世界どうこうを任されるって、学校の日直だってプレッシャーな私、胃が死んじゃう!


「あの、やっぱり別な人に」


 と言いかけて急に怖くなった。ここは明らかな異空間。断っても無事帰してくれるんだろうか? 女神をふと見つめる。彼女は最初から最後まで無表情だった。


「あ、その、やっぱり引き受けます……」

「ありがとう。そう言ってくれると信じてました。戦闘なら大丈夫。部下をつけます。これを受け取って」


 女神様はマイペースな人? だった。こちらの気持ちをどう思ってるのか知らないまま、私は綺麗なビー玉を渡される。ビー玉と言ったけれど、それに似ているというだけで、それはこの世のものではないなと一目で思えるような輝きを放っていた。……綺麗だなあ。ん? でもこれが部下?


「いってらっしゃい……地獄へ」


 細かい質問する時間も与えられないまま、怖いことを言いながら女神は私を異世界へ送った。


 一瞬の浮遊感のあと、見知らぬ土地にいた。遠くに人家が見えるが、辺りは乾いた土地だった。これって魔王の影響なのかな? しばらく非日常に頭が回らなくてぼんやりしたあと、ようやくビー玉のことを思い出す。玉は全部で五個。何故か日本語の文字が刻まれていた。『一』 『二』 『三』 『六』 『八』

 ???? 全部で五個なのにこの数字は一体……。悩んだすえに、順番に従って一の玉を手に取り祈る。部下さん? いるなら出てきてほしいなー、なんて。

 その願いはあっさり叶えられた。一の玉が弾けるように光ったあと、帯剣した美少女がすぐ前に立っていた。


「初めまして。イチカといいます。弟ともどもよろしくお願いします」


 これがラノベだったらメインヒロインとの出会いになるのかなとぼんやり思った。それくらいファンタジーな対面だった。それにしても、『一』の玉で『イチ』カって。まあお約束ってやつなのかな? それよりも異世界で初めて興奮した。うわあ! 可愛い女の子が! 戦う女の子だ! やだすごい!


「うん初めまして! こちらこそよろしくね! 私は詩歌、これから頑張ろうね!」


 興奮してテンション高い挨拶になったとは思ったけど、イチカちゃんの反応は予想からだいぶ外れていた。すごく、ドン引きしてるように見えます……。あれ?


「えっと、私、何か異世界に合わないこととかしたかな?」

「い、いえ。でも、詩歌様のような反応をされた方は初めてです」


 それが合わないって言うんじゃないかな。もしかして上に立つものとして軽すぎるとか? 自覚なさすぎ? あわわ、しょっぱなから第一印象が最悪とか。少しの間沈黙が支配したが、突然の殺気でそれは破られた。


「!? 詩歌様、危ない!」


 イチカちゃんがタックルするようにして私をその場から強制的に移動させる。同時に破裂音。さっきまで私がいた場所に穴が空いていた。ぽかーんとする私に呆れたように話しかける声。


「イチカ……あなたまだあの女神の奴隷なんかやってるの? いい加減見限っちゃいなよ。そんな義理ないでしょ」

「シヨ! またあなたなの。いい加減にして! 私は世界を見捨てない!」


 声の主はシヨというらしい。黒いローブに身を包み、杖を持ったいかにも魔法使いっぽい少女。イチカと知り合いっぽい? でもいきなり攻撃するってことは敵だよね? 魔王の手先なんだろうか? 状況を整理する私に、シヨは突然こちらを睨みながら言う。


「でも勇者役がいなくなったら同じことだよねー? 挨拶が遅れたけど初めまして勇者さん。実際にはそれを気取るしか能が無いハイエナさん。私の名前で気づいたかなあ? 私、元は女神の部下の四番目だったんだよー。勇者という勇者にバカにされたから辞めてやったけど。確かに私達は人間じゃないけど、性奴隷でもないんだよ! どいつもこいつも私達を人間扱いしない最低のクズだ! 女だろうがここで死ね!」


 何を言われているのか一瞬分からなかった。分かったのはイチカが死んだあとだった。杖を振り上げたシヨの前に立ちふさがり、その攻撃をまともにくらうイチカ。胴体に穴が空いてるけど、ビー玉から生まれるくらいだから規格外なのか、その状態でシヨにしがみつく。シヨは「離して! 私達は同じ世界の人間でしょう!」 と暴れている。


「い、イチカちゃん……?」

「詩歌様、離れてください。自爆します」


 え、さっき会ったばかりで、え?


「詩歌様、ごめんなさい。油断してました。私……人間扱いされたの、初めてだったから……嬉しくて、つい……ありがとう」


 何が何だか分からないまま、ただただ生存本能でイチカちゃんから距離を取る。「見捨てるのか人でなし!」 とシヨの叫ぶ声がしばらく耳に残った。


 言葉通り彼女はシヨを道連れに爆発して、辺りには何も無くなった。遠くの人家から人が様子を見に来るのが見えたが、皆目を背けて玄関の戸を静かに閉めていた。


 異世界到着数分。私は異世界の友達を見殺しにしました。






 気がついたら泣きながら二番目の玉に祈っていた。誰か出てきて。誰か。誰か。こんな世界に一人にしないで!


 期待を裏切らずに出てきてくれたが、その容姿は期待を裏切った。イチカによく似た容姿だった。


「初めまして。ニイといいます。……姉はまだ呼んでいないのですか?」


 知らぬ存ぜぬで済ませられたらどれだけ楽か。私は頭を下げて謝りながら、たった今起こったことを説明した。


「そうですか。でも、兵器も別に不死ではありませんから。けど姉は勇者をお守りする役目を全うしましたね。誇らしいです。僕も姉に負けないように頑張りますので、どうかよろしくお願いします」


 ああ、ここ異世界なんだなあと奇妙に納得した。価値観が違いすぎて。どうやったら命をそんな粗末に出来るの。人間じゃない? あんなこと言って死んでいったイチカちゃんを人間じゃないなんて思えない!


「ニイくん……お願いだから命を大事にして! 死のうなんて思わないで!」

「? それは役目を疎かにしろということでしょうか? 難しいけれど、勇者様の命令なら頑張ります。それより今は早く移動したほうがいいかもしれません。他の仲間に気づかれる前に……。!」


 敵倒したからしばらくは大丈夫、なんて世界ではなかった。シヨのことがあったばかりなのに、もう次の追っ手が来たようだ。空気がピリピリと震える。同時にテレポートで来た新たな刺客が現われる。


「シヨの気配が消えたな。同時にイチカも消えてるけど。何、あいつ死んだの?」

「……ゴダイ!」

「ようニイ。お前、まだ女神に仕えるの? あれしんどくね? ブラックなんてもんじゃねーよ。死体まで働かされるんだからな。お前も辞めてこっち来いよ。世界は滅びるかもしれないけど、もう異世界人に振り回される心配ないんだぜ。欲求不満の女の相手までさせられて反吐が出る。そいつとはもうしたのか?」


 ……部下って何なんだろう。歴代の勇者って何してたんだろう。魔王って一度倒したら終わりじゃないの? あ、でもゲームだって新作とか出るし、女神も一時的な封印とか言ってたし、自分も力弱いとか言ってたし……。この世界、何。


「それも仕事のうちだ。僕に不満はない」

「あーそうか。前の勇者が言ってた根っからの社畜野朗だもんなお前。話しても分からないならいいか。死んどけ」


 ゴダイと呼ばれた男が黒い剣を引き抜いて襲ってくる。私を庇うようにニイくんは白い剣を抜いて応戦する。私は……ただただ邪魔にならないところに移動していた。その様子を見てゴダイは愉快そうに笑った。


「戦闘で何が一番邪魔かって、足手まといの味方だよなあ! お前の分も頭にいれて戦わないといけないんだからな、ニイは。今回は自分から逃げる卑怯者で楽だよなあ、ニイ!」


 心臓に鋭い痛みが走る。イチカの時もニイの時も、私、逃げてる……。それでみすみすイチカを。そう思って足を止める。それを見逃すゴダイではなかった。


「バーカ! 簡単に挑発に乗りやがって!」


 ゴダイは剣先を私に向ける――と見せかけて、私に気をとられて態勢が崩れたニイくんの利き手――剣を持っていた右腕をすっぱり切り落とした。簡単に腕って切れるんだな……それとも女神とか魔王の剣だからなのかな……と少し現実逃避をした。よかれと思って止まったのにな……。


 腕を押さえてうずくまるニイに背を向け、ゴダイはこちらに近寄ってくる。逃げる――べきかもしれないけど、もう何が正しいのか分からなくなってきた。案外ここで死ぬのが正解なのかもしれない。


「勇者、もしかしたらお前は歴代に無関係かもしれないけど……勇者って立場だけで、俺には殺してやる理由には充分だ!」


 ゴダイはそう言って剣を振り上げた――姿勢で止まった。胸のところを、白い剣が貫いている。背後でニイが、片手で剣を投げたのだ。


「ガ、ハッ……」

「詩歌様は殺させない。消えろ」


 元ビー玉の人間は死ぬとこうなるのか、光になって跡形もなく消えていった。放心状態の私に、ニイは怪我人とは思えないほどしっかりした足取りでこちらに来る。


「怖い思いをさせて申し訳ありません。お怪我はありませんか?」

「わ、私は大丈夫。でも、ニイくんの腕が……」

「ああこれですか。……ふっ」


 ニイくんが気合を入れると、肉が盛り上がってどんどん再生されていく。呆然とする私にニイくんは説明してくれた。


「脳を破壊されるか修復がおいつかない致命傷以外なら大丈夫です。だから心配しないでください」


 どこまでも、忠実な部下のように振る舞ってくれる。その姿が、異世界で育った私には悲しかった。こらえきれずに涙を流すと、彼は不思議そうな顔をする。


「どうして泣くのですか? どこか痛いのですか? やっぱり怪我を……」

「違う。違う。ニイくんが泣かないから」


 その意味が分からないニイは、どう答えていいか解らず「次はもっと頑張りますから、泣かないで下さい」 と言ってますます詩歌を泣かせた。


 しかし次々刺客が現われる状況で泣いてもいられない。二人は慌てて場所を移動して、この際玉を全部解放することにした。『三』 と書かれた玉を手にしながら、詩歌は鬱々としていた。このままじゃあニイくんも死なせてしまいそうだから戦力を増やすつもりだけど、可哀相な子を増やすのには違いないと思っていた。苦渋の決断で玉を解放する。出てきたのは……。



「はぁ~~い! あなたの可愛い奴隷、ミミちゃんですよー! ご主人様、お仕えするにゃん☆」


 脱力した。あれ、一つだけ種類が違うとかあったかな……。イチカとニイがいかにも戦士というシンプルな服装なのに対し、ミミは二つのお団子頭が猫耳みたいで服はフリル付きローブ。玩具みたいな杖を携えた……萌えアニメみたいな少女だった。あれ、私間違えた? 不安に思っていると、ミミちゃんのほうから話しかけてくる。


「あなたが勇者様ですかぁ? お名前は?」

「あ、はい。詩歌です」

「かーわいい♪ ご主人様、ミミ、お役に立ちますよ? 私ほど世界を思ってる人はいないと自負しております!」

「……うん。頑張ろう」


 頑張る、しかないよね。実質人を殺しちゃった私でも。頑張れば、少なくともこれ以上の犠牲は出ないんだよね? 解ってるけど、やっぱりやめていいなんて言ってくれる人はいないか。ううん。そんなの卑怯だ。私は頑張らなきゃ。イチカちゃんのぶんまで。


「はーい☆ あ、ニイじゃん。おひさー。前々回ぶり?」


 そのキャラはどうやら勇者限定らしかった。私の横にいたニイくんにはごく普通に対応している。そしてニイくんも普通に対応している。


「そうだな」

「元気してる? まあ、勇者の部下は病気なんかしないけど」

「まあまあかな」

「……あんたノリ悪いね相変わらず。まあいいけど。あ、イチカはいないの?」


 びくっと私の身体が震える。私が何か言うより先にニイくんが答えた。


「死んだ。ちゃんと、部下の役目を果たして」

「あら素敵♪ やっぱり部下たるもの主を守って死ぬことこそ本望よね! 落ち込まないのよニイ。後世では英雄になってるわ!」


 この世界の価値観には、時々ついていけないと思う。私は二人を放って無言で次の『六』 を解放した。今度はどういう人なんだろう……?

 そして出てきたのは、冷たい眼差しをこちらに向ける男の人だった。


「どうも。ロクだ。言っとくけど、俺に妙な期待はするなよ」

「それって?」

「イチカやニイ、ミミにはついていけない。だからと言ってシヨ達みたいに魔王につく気もないがな」

「どうして?」

「魔王は当然だが、女神は……くそっ、こんな世界……」


 あ、何か色々知ってるっぽい。それにむしろいい意味で人間っぽい。聞こうとすると、ミミちゃんから止められる。


「ちょっとロク、ご主人様に変なこと吹き込まないで! ごめんなさい。ロクは半人前なんです。こいつの言う事は気にしなくていいですから!」


 ミミちゃんの居ないところで聞こうと思う。歴代の勇者とか人を人とも思わない使い方してる女神とか、この部下という事になっている人達の素性とか。ここ、一体なんなの……? 不安を覚えつつも『八』 の玉を解放しようとする。するとミミちゃんに止められる。


「え、ハチを呼ぶんですか? あいつ、私好きじゃないんですよね。不真面目で。私達だけで何とかなると思いますよ? それにご主人様も不快になるかもしれません。色々デリケートな子なもので……」


 でもミミちゃんの苦手な子って私の感性に近い子なのかも……。私は反対するミミを押し切って解放した。やがて現われたのは、不機嫌な顔を全く隠そうとしないけど、見たこともないくらい綺麗な少女だった。黒髪のストレートがよく似合う、むしろ迫力染みてる子だった。


「……私はハチ。何か文句あるの?」


 美人の一睨みは迫力だった。しかし負けずに食いつく。


「私は詩歌。一緒に戦ってほしい。えっと、出来る? あの、無理矢理呼び出したみたいなものだから、もしつらいなら」

「……」


 睨むだけだったのが、口元を引きつらせてあからさまに拒否する表情を見せるハチちゃん。……ハッちゃん。あ、これはミミちゃんが心配するはずだわ。案の定フレンドリー? 忠誠心? 溢れるミミちゃんがハッちゃんに憤る。


「ちょっとハチ。あんたご主人様に逆らう気?」

「……別にそんなこと言ってないでしょ」

「じゃあその態度は何よ、それが目上の人に向ける態度なの」

「いちいちうるさいわね。不快な人間に不快な対応して何が悪いのよ。私は勇者とか嫌いなの。偉そうにするなら一人で世界救ってろって感じ」

「いい加減にしなさいよこの性悪!」


 二人は話しているうちにエスカレートしていく。仲悪いのはよく解りました。ちらりとニイくんやロクくんに目を向けると、ニイくんは困り顔。ロクくんは明後日のほうを見て知らん顔。わ、私がリーダーなんだから、私が止めるべき、だよね。こんなところで空中分解なんてダメだよね、イチカちゃんのためにも。


「二人とも、喧嘩はやめて。敵に気づかれちゃう」


 ミミはぐっとした顔でこらえ、ハチはしれっと長い髪をかきあげて押し黙る。一応止められたけど、火種は残ってるよねこれ。どうしよう。



 胃薬ほしい……胃薬ほしい……。そう念じながらとにかく魔王を早く倒すために情報を集めることにした。早く帰りたい。人を殺しておいてと言われても。

 魔王は一年に一回復活するらしい。早っ! それを異世界人の力で一時的に退治というか封印する。それで少しの間でも世界に平和が訪れる。現在地は北のはずれの城に巣食っているらしい。追っ手を交わしてそこへ急ぐ。


 でも、何で世界はこんなことになったんだろう。私はまず女神様について聞き出そうとするが、ミミちゃんははぐらかすし、ニイくんは本気で何も知らないもよう。それである夜ロクくんに聞き出すと、彼は最初は渋っていたが、ぽつりぽつりと話してくれた。


「……召喚自体は昔からあった。この世界ではどうにも出来ないことがあったら特別に頼るらしい。けれど、それで呼んだのが最悪な女だった。欲に駆られた人間から封じられた女神を助けるために、あくどい手段を使いまくってたそうだ。一番酷いのはある男を誑かしたことだろうな。女神を助けて用が終われば逃げ帰ったそうだが、まあ、騙されたほうは納得しないよな。その男は逃げられた腹いせに女神を殺した。力まで奪って女を追いかけたそうだが、あとは知らない」


 昼ドラみたいな話だなー……と気が遠くなった。女神様については、事が事だから今さら原因を何とかは無理かなこれ。 あれ、でもその時死んだってことは。


「どうやって生き返ったの? 祈りやら供物やらがどうとかって言ってたけど……」


 そこへ色気のある声が登場して会話に割り込んでくる。ハッちゃんだ。


「面白そうな話してるじゃない。じゃあ供物って何だと思う?」


 突然現われたのに驚きながらも、真面目に答える。


「えーと、収穫物の一番いいのとか? 偉い人のサインとか」


 その答えにロクくんは呆れた顔をして、ハッちゃんは爆笑した。違うの??


「あんた、空気読めないってよく言われない? 供物って人身御供よ。生贄! 人柱! どこの世界だって人間が神様に捧げられる最上のものって言ったら命じゃない? 昔の人は命を代償に女神様を生き返らせたの。で、その人柱っていうのが私達」


 最初に会った女神様を思い出す。あんな綺麗な人に、そんな血なまぐさい話が……。


「驚いてる? 平和な世界の人なら面白がってくれると思ったのに。まあ、そんなわけだから、神様にお仕えするために死んだから、こうやって死体にまた魂を入れて、人間兵器やってるの。普通の感覚なら嫌よねえこんな……化け物生活。イチカやニイ、ミミは異常だわ」

「どうしてそこまでして」


 聞かずには居られない。


「生き返る寸前にね、八つ当たりで死んだ女神の恨みつらみが大きすぎて、魔王なんてものが産まれた。女神が御しきれない存在なんだから当然、誰にもどうにも出来ない。しょうがないから異世界の人間を呼ぶ。けど能力高い人間呼べるほどの力もない。だから人柱を生き返らせて手伝わせる。あ、お手伝いは下の世話までしますよ? クソ真面目なイチカやミミ、ニイならね。歴代勇者は凄かったですよー。何せ異世界で勇者とか祭り上げられて美男美女にお世話されるでしょう? 調子乗るなってほうが無理ですよねー。ネクロフィリアどもが」


 シヨやゴダイがどうして敵側にいたのか、理解できた。そういうことだったのか。女神様はどうしてこんなシステム。でもこれ以上どうしようもないのかな……。悶々としていたら、まだ何か話そうとしていたハッちゃんをロクが止める。


「喋りすぎだ。ミミにばれたらうるさいぞ」

「……まあ、そうね。じゃあ今日はこれで。私達は見回りに行ってきますね」


 入れ替わりに、ニイくんとミミちゃんが戻ってくる。勇者が一人にならないように、常に二人傍にいるようにしているのだ。残りは辺りの監視。 


「ご主人様ー。ミミ、ちょっと料理作ってきますね! 見た感じ魔力も敵の気配も感じられませんから。いっぱい食べて、お役目頑張りましょうね!」

「う、うん」


 そしてニイくんと二人になったけれど、彼とは……正直気まずい。イチカちゃんのことで。本当に何も思ってないのかな。無理してるわけじゃないのかな。


「……? 顔を曇らせて、何かあったのですか? 悩みでも?」

「いや私のことじゃなくて。ニイくんこそ、何か不安とか悩みとか無いの?」

「……例えば?」

「いや私に聞かれても」

「考えたことないんです。気がついたらこういう生活でしたし。強いて言うなら、詩歌様の期待にこたえられてるかどうかが気になります」

「そ、そう。でも、生き方を決められるって怖くない?」

「そうでしょうか? むしろ何も決められていないほうが、自分で決めないと行けないから大変だろうなと思います。ゴールが分からない中を歩くような。僕達はゴールが見えてますから」


 ずっとそういう生活かあ。もう、それがおかしいって言うほうがおかしいのかな。異世界人が現地人に色々言うほうがマナー違反かな。私ってまだ空気読めない人間?


「でも」

「?」

「普通の人間なら、身体が傷ついてなくても苦しい時があるのですね」

「ストレスね。うんそうだよ」

「身体だけ守れればいいと思っていました。けど、何故でしょう。詩歌様を見ていると、その心まで守りたいと考えてしまいます。本当にお悩みはないのですか?」


 ……!?  っと危ない。色恋沙汰に縁がないから勘違いするところだった。ニイくんは真面目なんだよね。


「悩み、というか。みんなのことが心配で。ねえ。魔王を封印できたら、私女神様にこの役目から解放するように頼もうと思うの」

「どうしてですか?」

「どうしてと言われても」

「あなたは最初から僕達に優しい。僕達を人間みたいに扱う。不思議です。最近あなたを見ていると、妙な動悸に襲われます。これはあなたが他と違う考えの持ち主だからでしょうか?」


 そうですか。今度は私が動悸に襲われる番です。でも、それだけ他が酷かったんだと思うと浮かれてもいられない。何となく、彼らの名前からして同郷の人っぽいし。よく似た異世界なのかもだけど。


 何となく恥ずかしい空気の中で、突然聞こえた怒声。この声……ミミちゃんとハッちゃん? まさか敵!?


「魔力の気配は無いが……まさか二人の喧嘩なのか?」


 ニイくんが疲れたようにぼやく。うん。異性には止めるの難しいよね。同性でも大変だけど。とにかく慌てて二人の元へ行く。そこには、ハッちゃんに馬乗りになったミミちゃんが平手で何度も叩くというちょっと過激な光景があった。と、とりあえず原因……。


「バカハチ! ベラベラ喋るなって言ったでしょ! ただでさえ苦労してる女神様に余計苦労させることになるのに! 私達のことはいいのよ、詩歌様にいらないことを言わないで!」


 私!?


「何で? 私そんなに悪い? 私はこの世界なんて好きじゃない。世界が死んでも、私だけは生き残りたい。誰かを犠牲にして存在する世界なんて滅びればいい。私は普通の人間なの、世界なんてどうでもいいの! 裏切るもの怖いからしょうがなくここにいるのよ! あんた後ろから撃つじゃない!」


 頭ではいけないと分かっていても、ハッちゃんを責めることは私には出来ない。しかし役目に忠実なミミは違う。


「……サイッテー。クズ女。ご主人様、聞きました? この女の汚い本性。自分だけが良ければ、他はどうでもいいんですって。好きにすれば。私は私の生まれた世界を守るから。絶対守る。そして守られた世界で、私より後に産まれた人達が幸せなら、それが私の生まれた意味」


 ミミのその言葉に、ハチは嘲笑して否定する。


「……かっこつけちゃって。だっさー……。そのキャラだって、そうやって勇者様から見下されても仕方ないって割り切るための保険でしょ? そんなまぬけな真似までして兵器として生きるなんて、頭おかしいんじゃない」


 ミミが今までパーだったのを、グーで殴りつける。人が人を殴る姿を初めて見ました。ニイくん、まさかの同士討ちに私以上にどうしていいのか分からないでいる模様。騒ぎをききつけて見回りをしていたロクくんも来たけど、「女って男より戦闘意欲あるよな……」 と遠い目をしている。私が止めなくちゃ私が止めなくちゃ。しかしミミにとっては一番許せないポイントだったのか、何度も何度もハチを殴る。


「ハチ、あんたって……役目も果たそうとしない、足を引っ張る。裏切ることも出来ない。……存在がうざいのよ! 陰気なのは顔だけにしなさいよ!」

「二人とも、やめて、やめてったら! 今敵が来たらどうするの!」


 どちらもヒートアップしてるのか、私の言葉を聞こうとしない。まあ、お飾りリーダーだけどさ!


「ついに容姿まであげつらうわけ? それなら言ってあげるけど、イチカやシヨ、ナナを入れてもあんたメンバーで一番ブスのくせに、そのキャラキモいんだよ!」

「自分がちょっと美人だからって……!その顔、性格と同じにしてやるから!」

「やれば? そんなことしたってあんたの顔は変わらないのに笑えるわ。大体、あんた自分が本当に詩歌のためになってると思ってるの?」

「どういう意味?」

「気を張って異世界で無理に無理を重ねてる人間に勇者だ頑張ろうだ、あんたずっと後ろから撃つようなことばっかり言ってたじゃない。一度も詩歌の気持ちなんて考えたことないくせに。私、あんたのその無神経で押し付けがましいとこが殺したいほど大嫌いよ!」


 次の瞬間、ミミはハチのこめかみに一撃。動かなくなったミミを顔を中心に殴る。詩歌はプロの犯行だと思いながら、決死の思いでミミにしがみついて止める。


「離してください! まだこいつの顔面工事が終わってません!!」

「もうお願いだから……これ以上犠牲無しで魔王封印させてよ……」


 亡きイチカの顔を立てる形で、喧嘩は止まった。ニイとロクにミミを離してもらい、詩歌はハチの顔が再生するまで、傍で話を聞くことにした。庇ってくれたの、嬉しかったから。


 ハチは顔を手で覆いながらずっと泣いていた。


「嫌い……こんな世界大嫌い……。人柱だって、寝てるところを絞殺されただけなのに」

「……」

「勇者も嫌い。女神も嫌い。あいつらも嫌い。私自身も嫌い。どうして生まれたの……?」

「……」

「生きて居たくないよう。でも死ぬのが怖いよう。戦いたくないよ。痛いよ。でもどうして私は普通の人と違って逃げられないの……」


 詩歌は語る。


「あのさ、私、この戦いが終わったら、女神様にあなた達の解放を願ってみる」

「……あの非力女神がそんなことするかしらね」

「でも、頼んでみる」

「勇者っていつも口だけね」

「うん。自分じゃ戦わないし。本当に口だけだね。せめてその口で慰められないかなって思ったけど、ごめん。言ってることおかしいね……」

「……ばーか。ねえ。もう顔の再生終わったから、ニイ達のとこ……!」


 突然つきとばされた。一瞬怒られたのかと思ったけど違う。黒い剣が、ハチの身体を貫いていた。その剣の持ち主は女性だった。もしかして、ナナ?


「あっれー? そいつ庇うの? ハチ。あんたいつかはこっち来たいって言ってたよね? ってか今日来るんだと思ってた。自分達の殺気で私の気配まで解らないくらいだし」

「な、な」

「あ、ちょっと黙って。あと剣抜かせて。そいつ始末しなくちゃ。ごめんね。刺しちゃって。これも魔王様の世界のためだから。すぐ再生するからいいでしょ?」


 ミミを宥めるためにニイくんもロクくんもいない。今度こそ死ぬ? と思っていたが、ハチが剣を自分の身体から抜かそうとしない。抜けない剣にナナは動揺する。


「ちょっとハチ、何してんの……」

「行かせない」

「は? 何でよ」

「私、ずっと自分だけの世界がほしかった。自分に優しい世界が。こんな悪夢みたいな世界でそんな夢をずっと見ていた。けどもういい。詩歌が、そんな夢を見せてくれたから。詩歌が、私の世界だったから」

「ちょっと何を……やめて! 何で私が死なないといけないの!!」


 小規模ながら威力の高い爆発が起きる。同時に、二人は消えていた。光を見て慌てて駆けつけてきたニイ達は、爆発痕の上にたたずむ詩歌を見て察した。


「絶対、終わらせるから……」


 その夜、中々寝付けなかった詩歌だが、一度寝ると死んでいるのかと思うほどに寝ていた。よほど疲れていたのだろう。その姿の無事を見ながら、ニイ達は話し合っていた。


「ロク、ミミ。もし、解放されたどうする?」


 ニイの言葉に、ロクは驚いた。一番変化に無関心だったと思っていたが。そしてミミがその話に乗ったのも意外だった。


「そうねえ。私はいっそ女神になりたいわ。出来ないかなあ。絶対やる気ある人を取り立てる世界にするのに。不真面目でも最後に良い事したからチャラなんて絶対許さないわよ。手段を問わなくても頑張る人最高じゃない」


 ああそういう……。でも出来るんだろうか? いや、人間が力を奪って逃げたということもあったし、出来るのかもな。それにしても解放されたら、か。役目に不真面目だった自分の未来が思い描けない、そうロクは思って星を見ていた。




 手勢が減ったことが幸いしたのか、魔王の棲む廃城には簡単に辿り着けた。広間を一人で占領する魔王は黒いタコのような生き物で、ずっと訳の分からないことを呟いていた。


「異世界人……神官の少女……裏切り者……アハハはハハはハハハハはハハハハはハハハハははあはハハは!!!!!」


 触れるだけで封印が出来るらしいが、それが困難だった。触ろうとするとタコの足で吹き飛ばされる。ニイが地面に押し付けられ、ミミが壁に叩きつけられ、残ったロクは、わざと足に拘束されることで動きを封じた。


「ロクくん!?」

「終わらせろよ、絶対に……。あとお前といるの、本当は少しだけ、楽しかった……」


 封印するためにロクを拘束する足に触り、頭に浮かんだ呪文を唱える。唱えている最中、果実が潰れるような音がしていた気がする。


 最後に魔王は「また裏切り者か」 と言っていた。完全に狂っているとはいえ、逆恨みは愉快じゃない。

 そして、魔王が消えると同時に、女神が現われた。最初と違って、ずいぶんとニコニコ顔だった。しかしそれに構っている余裕はない。


「女神様、あの、あの、部下の子達を解放してください! もし私が死ぬことでそれが出来るならそれでもいいです!」


 それなりに覚悟を決めて言ったが、女神は解っているのかいないのか、子供の冗談みたいにあしらわれる。


「構いませんよ。それに、どの道あなたで終わりです」

「え?」

「それにこの先は使い道がありませんから。ミミ……彼女は私になりたいみたいですね、いいでしょう。ニイは……持って帰ります? あなたに好意があるようですし」

「出来るんですか? あと二人とも怪我してますけど」

「もちろん出来ます。あなたのお陰で魔力も一部戻りましたからね。……それじゃあ、戻しますよ」


 フィナーレというには、あっさりすぎる終わり方だった。けれど全てが現実だったと戻ってすぐに分かった。見慣れた街の雑踏の中に、ニイがいた。


「ここは……あなたの世界?」

「ニイくん!」


 思わず抱き着いた。日常に戻れたこと。彼だけでも救えたこと。この保障された世界で。


「ニイくん、私のうちに来なよ。大丈夫。うち、お父さんとお姉ちゃんが外国人なの。そういうのに寛容だから」

「そうですね。他に行く当てもないので…………外国人?」

「うんそう。でも今時普通だよね? 国際結婚。サイヴィスお父さんとジーンお姉ちゃんは外国で色々苦労したみたいだから、きっと相談に乗ってくれるよ」

「……そうですか。それは、期待できますね……」

「うん! あ、そうだ。先に行って説得してくるね! 家の前で待ってて! お父さんはいいけど、お母さんて昔から心配性だから」


 自宅まで案内され、詩歌が家の中に入ったのを確認して、ニイは唇を噛みしめながら呟いた。


「女神よ、何故このようなことをなさいます……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 後味が悪くていいですね [一言] もしかして、女神の手下はある召喚少女の手紙のモブなのでしょうか?
[一言] 最後のセリフの訳がわからない
2015/04/11 05:34 退会済み
管理
[一言] 最後のニイの台詞がよくわからないのですけど、女神に何か意図があったんですか? 他の短編と繋がっているのでしょうか。
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